IBM Industrial Forum 京都 2017 コグニティブがものづくり企業にもたらすイノベーション ロゴ画像

顧客のニーズの多様化に伴い製品・サービスの競争力の源泉は「モノづくり」以上に「コトづくり」に比重が高まっている。個客を分析し、個客に価値ある体験を提供するために、AIを活用したビジネスモデルの検討が増加している。AIなどのコグニティブソリューションを、「コトづくり」に活かそうと製品開発を進めているお客様のメッセージを通じて、これからのイノベーションのプロセス改革についても同時に考えてみたい。

1. コグニティブ・ソリューションが実現する世界

日本IBM 常務執行役員 コグニティブ・ソリューション担当 松永達也

コグニティブ・ソリューションで人間はよりクリエイティブに
なり生産性を上げ新しい価値を生み出すことができる

IBM Watsonを活用したコグニティブ・ソリューションは人間とコンピューターの関係を変えつつある。それは一般に言われているようなAIが人間から仕事を奪うものではない。日本IBMの常務執行役員コグニティブ・ソリューション担当の松永達也は「技術革新が起きるたびに、人間はよりクリエティブになり、より生産性を上げて、たくさんのデータから新しい価値を生み出してきました」と語る。

講演の模様 写真
松永 達也 写真

IBMでは、AIを“Augumented Intelligence=人間の知性や能力を拡張するもの”と定義している。実際にIBM Watsonの適用事例には人間の能力を拡張するAIとして活用されているものが多い。

例えば東大医科学研究所では、がんの研究にWatsonが活用されている。「Watsonは医療分野で活用されるところからスタートしています。東大医科学研究所では、Watson Genomic Analyticsを活用して実際のがんの治療を支援しています」と松永は解説する。Watsonを活用してこれまでの治療方法を変えることで、66歳の女性患者の容態が回復した。膨大なデータからWatsonによって可能性を絞り込み、最終的には人間が判断した結果だ。人間の能力をIBM Watsonが拡張した好例である。

また東京・日本橋の室町エリアでは、外国人観光客や車椅子利用者、あるいは視覚障害者が移動する際の誘導・案内をWatsonが支援するというプロジェクトが進行中だ。スマートフォンのアプリケーションが彼らの活動をアシストするものだが、裏側にはWatsonの音声認識技術と画像認識技術が使われている。

製造業においてもAIの現場活用は進んでいる

製造業でもWatsonが人間の能力拡張を支援する事例は多い。コグニティブ技術によって“自ら考える工場”は、従業員を支援して信頼性や品質を向上させる。今の製造業の課題である熟練工のノウハウをWatsonの技術によって継承することができる。

「IoTから出てくるセンサーデータである構造化データと熟練工が持っているノウハウである非構造化データを、Watsonを使って組み合わせることは製造業にとって大きなインパクトをもたらします。IoTのソリューションとIBM Watsonを組み合わせ、コグニティブ技術を導入したソリューションによってそれを提供していきます」と松永氏。

モノを作ることから生活に必要不可欠な“価値”を提供することへと変革を図っている製造業にとって、コグニティブ技術が果たす役割は大きい。ここでは、コグニティブ技術を活用して、新たな価値の創出に取り組まれているお客様事例を紹介する。

松永 達也 写真

2.製品開発事例:本田技術研究所 様

目に見えない感性を定量化して顧客の期待を超えた開発に挑む

アイデアさえあればすぐに形にできる
IBM Cloudはエンジニアの“砂場”

コグニティブ技術を使って主観的で定量化しにくい“感性”を製品企画に利用しようと挑戦している企業がある。本田技術研究所だ。同社の四輪R&Dセンター 感性価値企画室 主任研究員の小川努氏は、「私たちはお客様の価値観の変化、多様化を捉えたい、その為に活動しています。自社だけでなく、外部の仲間として連携して何か新しい価値が生み出せないかを試してみることができる場“砂場”の中で議論し行動&検証しながら、お客様を深く見つめなおしているのです。」と語る。

講演の模様 写真
小川 努 氏 写真

本田技術研究所でお客様の安全走行を支える取り組みの1つに先進安全運転システム「Honda SENSING」がある。普段、人間は五感を使ってセンシングしている。この能力を機械のセンシング機能で支援するものだ。“Safety for Everyone”というスローガンのものと事故のない社会を目指す同社を象徴する取り組みである。
「Honda SENSINGでは、車がセンシングした情報を活用して、曲がる・止まるという運転の支援を行い、うっかり・ぼんやりにより事故を未然に防いでくれます。つまり車の知能化を図る技術なのです。」と小川氏。自動車に搭載したレーダーやカメラによってデータを収集し、精度の高い検知能力によって衝突回避を支援したり、車線を逸脱しそうになった時に車線の中に戻してくれる、人間をアシストする技術である。

「車の中には速度やエンジン回転数、ブレーキの状態など多くの車両信号データが流れています。これを読み取ることで、どのような運転操作をしたのか、その時に車両がどんな状態だったのかが把握できます」と小川氏は現在進められているデータ活用の事例を挙げる。そこでは産業用IoTやM2Mソリューションを提供するアプトポッドとの共同開発も進められている。

「安全運転研修を行なっているSTEC鈴鹿サーキット交通教育センターの教習用の車のデータがクラウドに上がり、教官も教習者も見ることができるシステムです。例えば、ブレーキのトレーニングでどんな踏み方をしたのかを見える化しています。目的は運動行動と技量を定量化することです」(小川氏)。

小川氏は「この定量化には2つの意味があります。1つが教習者自身が自分の運転を理解すること。そしてもう1つは私たちが多様な運転者を理解するということ」と語る。感性を定量化して顧客である運転者を理解することが、顧客の期待を超える自動車の開発を後押しする。

安全性・運転技量診断Architecture on IBM Cloud 日常の運転行動を安全性および運転技量の観点で評価するアプリケーション 概要図縮小

IBM Bluehubでの出会いと連携、新しい挑戦への敷居が下がった

顧客を理解するために同社が期待しているのがIoTであり、Watsonであり、システムを構築する基盤となるIBM Cloudの活用である。前述の交通教育センターのシステムには、IBM CloudとIBM SPSSを用いたデータ解析の知見が活かされている。

「データ分析をどうやるかの検討の際に1つの手助けになっているのがIBM Cloudです。やりたい環境を作るのに苦労していたところが、アイデアさえあればすぐに形にできる。開発の敷居が非常に低くなります。IBM Cloudは、アイデアを育てるエンジニアの“砂場”のようなものです」と小川氏はそのメリットを語る。

同社ではIBM Cloudを活用し、スマートフォンを使った「安全性・運転技量診断」を自社開発した。
「運転者の走行データを元に安全性や運転技量を定量的に把握できるアプリケーションで、安全と技量の観点からあるロジックで採点していきます。使い続けてもらうためには面白いと思ってもらえる見せ方も重要ですが、得られたデータからどんなロジックで判断すれば、運転の巧拙がわかるかという観点で行っています」(小川氏)。

京都フォーラム会場 写真

※京都フォーラム会場の様子

さらに同社が取り組もうとしているのが感情と運転行動の関係を解明するプロジェクトだ。ハードウェアのスタートアップ企業であるハタプロが手がけるWatsonを活用したパーソナルガイドロボット「ZUKKU(ズック)」を使う。ちなみにハタプロとの出会いは、IBMが運営するBlueHubだった。BlueHubは大手企業とスタートアップの協業やインキュベーションを支援するプログラムである。

この共同プロジェクトでは、位置情報機能やインターネット接続機能を持つZUKKUをデバイスとして活用し、SIM通信によってデータをBulemixにアップし、APIを介してアプリケーションとデータのやりとりをする。「こういう環境が揃っているBlueHubは、仲間として連携して何か新しい価値が生み出せないかを試してみることができる場なのです」と小川氏は話す。ハタプロとの共同プロジェクトの成果はこれからだが今後の展開が楽しみである。

IBM Industrial Forum 京都 2017における本田技術研究所様の講演資料はこちらでご覧いただけます。

3. 製品開発事例:リコー 様

「賢い黒板が会議を変える!」コグニティブでインタラクティブ・ホワイトボードはさらに進化する

Cognitive Workplaceで会議の効率を質を劇的に向上

コグニティブ技術を使って、会議の効率化と質の向上を目指しているのがリコーだ。同社の理事 ビジネスソリューションズ事業本部 VC事業センター 所長 百武 彰吾 氏は、「会議の質の向上のところが特に大事ですね。回数を減らすだけでは意味がない。今、お客様のビジネス環境では
1.会議の場での正確な情報共有
2.会議内容の記録・蓄積・可視化
3.議論内容の再活用」
を自動化したいという要望がすごくあるわけです。」と語る。

百武 彰吾 氏 写真
京都フォーラム会場 写真

こうした要望に対し、現在米国IBMと共同で、インタラクティブホワイトボードとIBM Watson IoT Platformとを連携したCognitive Workplaceを開発している。
現在のインタラクティブホワイトボードは簡単に書いたり映した内容を共有できるコラボレーションツールで、離れた拠点間でも同じ場所で打ち合わせをしているかのように、仕事を進めることができる製品だ。
このインタラクティブホワイトボードとIBM Watson IoT Platformの連携により、ホワイトボードはインプットされた音声、書き文字、表示画面などを理解、推論、学習し、会議への参加者や関連部門のメンバーに、一層スマートなコミュニケーションを支援し、アイデア、意見などビジネスに有益な知見を会議の中でリアルタイムに提供することで、より進化した会議を実現することができる。

具体的には、まず IBM Watsonは自然言語処理を使い 海外の拠点との会議の際には、討議の内容をホワイトボードに現地言語の字幕を表示したり、自動翻訳する機能を加えた。これにより、異なる言語の国同士の会議でも、会議の理解を一層促進づることが可能になった。

また、討議の音声をホワイトボードが認識し議事録を作成することができる。これにより、決定事項にいたるまでのプロセスをより一層ドキュメントで共有することで社内合意形成を一層スムーズに進めることができる。

さらに、ホワイトボードが過去の類似の議論の議事録を会議の場に提示する。これにより、過去の議論も参照することができ、無駄な繰り返し議論を少なくすることができる。

こうした新しい機能は、IBM Watsonの持つ、言語・画像をはじめとした大量の非構造化データから、会議の内容の理解、学習、推論を行い、会議に参加する人間に意思決定をサポートするテクノロジー・プラットフォームがそのままインタラクティブ・ホワイトボードに活かしている結果です。

このAIの機能を備えたインタラクティブ・ホワイトボードにより、論点のずれや議論のループを防止し、会議の短縮化が図れ、正しい共通意識を形成。情報伝達正確性を向上する。

Cognitive Workplaceは企業活動のコミュニケーションスピードを飛躍的に向上する製品として、メディアにも紹介された。先進テクノロジーがこれまでの製品のイメージを打破し、あたかも別次元の製品としてうまれかわろうとしている。

講演の模様 写真

4. 新しいコトづくりは、IBM Watson IoT Platformから生まれる

海外のビジネスモデル変革事例

ゼネラル・モーターズのIBM Watson活用発表

コグニティブで大きく変わってくると見られている代表的な業種、それが自動車業界である。どんな変化が起きてくるのか。日本IBMの江崎智行は「まず車を中心とした変化。コグニティブカーです。自動運転を念頭に車はどんどん賢くなってきます。次に消費者の変化。ドライバーを中心とした“つながる車”というサービス。この領域のビジネスモデルは無限大に考えられる」と指摘する。

その一例としてIBM Watsonを使って新しいモビリティ・ライフを開拓しようとしているのが、米国最大の自動車メーカー、ゼネラルモーターズだ。同社は2016年10月にIBMとともに業界初のコグニティブ・モビリティ・プラットフォームの共創を発表している。これが「Onstar Go」とよばれるテレマティックスサービスだ。

江崎 智行 写真
永井 修 写真

今回、ゼネラルモーターズは、IBM Watsonによってパーソナルアシスタントとしての機能を付加すると発表した。例えば、昨日コーヒーを買ったドライブインが近づくと、注文するかどうかを聞いてきて、同意すれば注文と決済まで自動的に行うといった仕組みだ。Onstarが持っているサービス基盤に、コグニティブなナビゲート機能が加わった。

「IBMが車の中と外とのハブとなり、新しいコグニティブ・モビリティ・プラットフォームへの挑戦が始まっています。たくさんの連携先が加われば、それだけビジネスチャンスが広がります。」と江崎は熱く語る。

OnstarとWatsonとの取り組みに関する詳しい情報はこちら

今なぜコグニティブが注目されているのか。その理由を「1つは音声・画像・動画といった非構造化データが爆発的に増えていること」と日本IBM Watson IoT TechnicalSales & Solutionsの永井修は指摘する。「こうした増大する非構造化データを、製品の価値に変えるには、IBM Watsonを使ったアプローチが必要です。さらにさまざまなデータを集めて有効活用するインフラとしてIoT のPlatformも必要です」と永井氏は、製造業における新しいモノづくりのインフラストラクチャーの重要性を強調する。

IBMではこのニーズに応えるために、IBM Watson IoT Platformを提供している。こうしたIoTプラットフォームの機能が、さまざまなデータやAPIを有効に活用できるクラウド基盤であるIBM Cloud上で提供されている。

新しいビジネスを作るには時間を無駄にはできない。すでにあるこうしたソリューションを活用して、まず一歩を踏み出すことが日本の製造業に求められているのではないだろうか。

記事の中で紹介されていたIBMの取り組みに関する情報はこちらもご参照ください。

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