Business Challenge story

保険金・給付金支払いに関する査定のさらなる信頼性向上と迅速化を目指す

日本で最も古い歴史を持つ生命保険会社である明治安田生命は、総資産や収入保険料において現在も生命保険業界のトップ3に入る規模を誇っています。2011年4月からは、合併10周年に向けた3カ年計画として「明治安田新発展プログラム」を推進し、「コンプライアンスの徹底を含めたCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)経営の推進」と「お客さま満足度向上の徹底追求」の2点を基本に、市場構造変化への的確な対応を図ることで、将来にわたる安定的成長の実現を目指しています。

同社にとって最も重要な業務の1つとなるのが、保険金支払査定業務です。

同社保険金部の部長を務める中川敦夫氏は、このように話します。

「生命保険会社において、保険金や給付金のお支払いは基幹業務となります。契約者様からのご請求内容に対応して正確、迅速にお支払いするのは当然のこと、請求項目以外にも保険金や給付金の対象となる可能性がある事由があれば、そのすべてを洗い出してご案内を差し上げ、漏れがないようお支払いしなければなりません。この命題に向けて当社では、全国の営業拠点での請求受付から支払査定、請求案内点検まで重層的な体制を築いて万全を期してきました」。

さらに、お客さま満足度向上の観点から同社が更なる向上を追求しているのが、請求から支払いまでの期間の短縮化です。

中川氏は「保険金や給付金の対象となる傷病や手術を特定し、個々の契約に則って査定を行い、支払いや請求案内を行う一連の業務は、これまで大部分が人的資源によって行われてきました。したがって、正確性を追求するほどチェックに時間が費やされるという、いわば二律背反に直面してしまいます。そこで当社は、正確性、迅速性、網羅性という3つの課題をITシステムによって解決すべく、検討を開始しました」と説明します。

この保険金・給付金支払事務の高度化・自動化の取り組みでは、契約者様からいただいた診断書をシステムで読み解いて傷病名や手術名を抽出し、保険金・給付金の試算や請求案内を行う際の一次判断を標準化・自動化することを目指しました。一方、可視査定や可視点検といった複雑な判断が要求される業務に人的資源を重点配分し、業務全体としての効率化・迅速化を図るとともに、査定の信頼性向上を両立させ、支払いの自動化までを目標にしました。

Transformation

診断書の文脈から重要なキーワードを抽出

しかし、そうしたビジョンの実現は決して容易なことではありません。「診断書の内容は、医療機関や医師によって異なり、多様な表現で記載されているため、単純にテキストから単語を切り出し、医療辞書データベースと照合するといった方法では解析できないのです」と話すのは、同社 保険金部 支払サービス開発グループのグループマネジャーを務める渡邉智氏です。

「がん」を例にとっても、「ガン」「癌」「悪性腫瘍」「悪性新生物」「CA」などさまざまな表現が用いられています。さらに、それが身体のどの部位を指しているのかを前後の文章から読み解かないことには、どのような治療や手術が行われたかを特定することができません。また、日付についても入院期間などのように、年月日が明記されているものもあれば、「2 週目」や「半年後」といった診断書によくある日付表現で記載されている場合もあります。診断書の経過欄に関するテキスト情報の分析も同様に複雑で、「階段から落ちた」「交通事故に遭った」といった記載があれば、災害性の判断を行う必要があります。

つまり、診断書に書かれた全体的な文脈から重要なキーワードやフレーズを抽出し、各用語間の相関関係を分析できなければ、正確な査定・支払いができません。そこで同社が採用したのが、IBMのICAです。ICAは、非構造化データであるテキスト情報の収集、分類、分析までを一貫して行う、ビッグデータ対応のマイニングツールです。ソーシャル・メディアやブログなどのインターネット上の意見、コンタクトセンターに寄せられた問い合わせなどの大量のテキスト情報を分析し、製品開発やマーケティング施策に役立てるといった業務で多くの成果を上げてきました。

同社は、診断書のテキスト情報から傷病名や手術名などを抽出する「医的名称自動変換」や、保険金・給付金の支払い対象となる可能性がある事由を洗い出す「請求案内自動点検」といったプロセスにICAを適用、ワークフローシステムと密接に連関した先進的な新支払査定支援システムの構築にあたりました。

ICAを選定する決め手となったのが、IBMが持つ保険業務に関するIT化の知見とノウハウ、これまでの実績です。

「当社とIBMの取引の歴史は古く、メインフレーム時代から続く基幹業務システムやワークフローシステムの構築を通じて、私たちの業務を深く熟知してくれています。また、医的名称の解読の困難性についても十分に理解されていることがわかりました。数社のベンダーから寄せられた提案を比較検討した結果、診断書の解析から査定サポート、保険金・給付金の支払いまでを自動化していく革新的なシステムを目指す私たちにとって、IBMは最良のパートナーであるという結論に至りました」と渡邉氏は話します。

Benefits

請求受付から決裁までの期間を即日に短縮、直接自動支払を推進

新支払査定支援システムは2010年8月に構築を開始し、2011年7月にサービスインしました。そして、既存の担当者による可視査定と並行稼働させる形で1年間にわたる入念な検証と調整を行い、2012年度より自動支払い機能として利用開始、同年12月に本格稼働しました。

結果、請求受付から決裁までのリードタイムは短縮され、早いものは当日中に、平均でも2日以内で終えることが可能となりました。「コールセンターにも、『迅速に給付金を受け取ることができて、とても助かりました』といった契約者様の声が寄せられています」と中川氏は顔をほころばせます。

同社は1カ月あたり平均3万件強の請求を受け付けており、先に述べたように、従来はそのすべての診断書を担当者が読み取り、傷病名や手術名などの一次判断を行っていました。しかし、担当者による判断には、個人間の「バラツキ」や同じ担当者でも判断に迷う個人内の「ゆれ」が生じるリスクが存在します。これを平準化して支払もれにつながるミスを排除するため、2重、3重のチェック体制をとる必要があり、処理が遅延する一因となっていました。こうした作業の非効率性を解消することで、大幅な迅速化が実現したのです。

システム構築期間1年間、並行稼働による検証期間1年間の延べ2年間をかけ、同社は大量の診断書をICAによって分析。医療辞書に登録した医療名称同義語は約80万語、請求案内キーワードは約3,500語に及びます。さらに、同社はこれらの名称やキーワードを契約や約款とひもづけて適切な査定を行う“ルール”を約4万件にわたって整備し、「医的名称自動変換」や「請求案内自動点検」のプロセスに蓄積してきました。

「現在、このルールに基づいて客観的かつ正確な判断が行われているため、ほとんどの請求案件について人手を介することなくシステム判定が可能となりました。既知のルールではシステム判定しきれず、上位者が精査しなければならない疑義案件は、3%程度に減少しています」と渡邉氏は話します。

さらに、こうしたワークフローやプロセスの改善は、顧客満足度の向上のみならず、人材資源の最適配置による有効活用、1人あたりの生産性向上といった企業経営の観点からも、大きな成果をもたらしています。

 

将来の展望

保険金部門のエンドユーザーがメンテナンスを行うためのサポート体制を整備

同社における支払査定の高度化・自動化への取り組みは、新システム稼働によって軌道に乗りましたが、「このプロジェクトにゴールはなく、さらなる改善に向けた継続的な取り組みが必要です」と中川氏は話します。

「医療は日々進歩しており、今までとは違った傷病の区分が生まれたり、新しい手術や治療方法が次々に確立されたりしています。こうした変化をシステムに反映していかなければなりません。既知のルールでは扱えなかった案件の査定プロセスや結果を、事例として一つひとつ積み重ね、新たなルールとして登録していく必要があります」。

そこで忘れてはならない重要なポイントが、「これらのルールを決してブラックボックス化してはならない」ということです。

自動化を指向する中では、往々にしてそれまで担当者が行ってきた査定プロセスがシステムロジックとして隠されていきます。しかし、生命保険業務のコアである保険金や給付金の支払いでそれは許されません。コンプライアンスの観点からも、査定や点検、決裁にあたる担当者の間で常に判断のプロセスが可視化され、ガバナンスが担保されていなければならないのです。

「その観点からも、今後は運用ルールに関するドキュメントの充実など、保険金部門ユーザーがメンテナンスを行うためのサポート体制のさらなる整備が大きなテーマになっていきます」と渡邉氏は話します。

「現状のシステムで既知のルールをメンテナンスしたり、新たなルールを登録するためには、少なからずITシステムに関する知識やスキルが必要です。今回はシステム構築とルールの登録を同時に行ったため問題が顕在化することはなかったのですが、本来は保険金部門のユーザーに分かりやすい形でルールが可視化されるだけでなく、自分たちで容易にメンテナンスできるより良いツールが提供されることが理想です。有益な基盤として発展していくためには、さらなるレベルアップが必要と考えています」。(渡邉氏) そうした中で、パートナーであるIBMに対する期待もますます高まっています。

「IBMには絶大な信頼を持っており、テキストマイニングにとどまらず、グローバルで培ってきたシステム運用の経験やノウハウ、アナリティクスに関する知見などを私たちに提供していただけたらと思います」と中川氏は話します。

明治安田生命とIBMの緊密なパートナーシップのもと、新支払査定支援システムはさらなる進化を続けていきます。

 

参考情報

 

お客様情報

2004年1月に明治生命保険と安田生命保険が合併して発足。わが国の生命保険事業のパイオニアとして相互扶助の精神を貫くとともに、お客さまを大切にする会社に徹し、生命保険を中心にクオリティーの高い総合保障サービスを提供している。2011年度決算において売上高にあたる保険料等収入は5兆1,840億円。2012年には介護付有料老人ホームを運営する株式会社サンビナス立川の過半数の株式を取得し、介護施設運営事業にも進出した。

 

テクノロジープラットフォーム

ハードウェア

  • IBM System x3650 M3

ソフトウェア

サービス

Solution Category

  • IBM Hybrid Cloud