Business Challenge story

グループ事業ビジョン「Value Up 小田急」を支える統合的な情報活用基盤が必須

東京都および神奈川県に鉄道網を有する小田急電鉄は、100社を超えるグループ会社とともに、運輸・流通・不動産・サービスなどの幅広い事業を手がけています。その価値を最大化すべく推進しているのが、「Value Up 小田急」と呼ぶグループ事業ビジョンです。

お客様が移動しやすい最適な手段を提供する「ドアツードア」。お客様の日常生活に期待以上の商品・サービスおよび店舗環境を実現する「ライフスタイル」。上質な住まいやオフィスを提供するとともに、住生活を生涯にわたりフルサポートする「リビングスペース」。この3つの事業ドメインを中心とした小田急グループ各社の協働により、「沿線」の価値をさらに高め、お客様から選んでいただける「エリア」として、確固たる地位を築いていくことを目指しています。

同社が、このグループ事業ビジョンを策定した背景には、将来に対する一つの危機感があります。小田急グループのシンクタンク(本社付属機関)として2010年に新設された、小田急総合研究所の主任研究員である毛利昭敏氏は、このように話します。

「わが国で深刻な社会問題となっている少子高齢化は、当社にとっても無縁ではありません。小田急沿線の人口は2020年代にピークを迎え、その後は減少基調に転じると予測されています。このままではグループの収益も頭打ちになってしまうことから、持続的な成長を可能とする体制づくりが必須となっているのです」。

こうした状況の中で同社が課題としたのが、勘や過去の成功体験のみに頼ったマーケティング施策から脱却し、客観的なデータに基づいた的確な状況判断や迅速なアクションを促していく、論理的な意思決定支援の早期実現です。

「従来、各事業部門やグループ会社は、それぞれ個別にデータを収集し、独自のやり方でマーケティングに応用していたのですが、そうした情報活用の体制のもとでは無駄な作業やコストが多く発生します。また、同じデータを必要とした場合でも、それぞれ前提条件の異なる集め方をしてしまうと、目標とすべきゴールまでズレが生じ、お互いに意思疎通もできなくなってしまう恐れがあります。そこで求めたのが、グループ全体でのデータ統合と共有化です。いわゆるデータの一元性、一貫性(Single version of the truth)に基づいて意思決定を行い、同じベクトルに沿って各事業部門やグループ各社が協働していくことが可能な、情報活用基盤を整えることが急務と考えました」と毛利氏は話します。

Transformation

今後の試行錯誤に対応できるBI/BA基盤の汎用性を重視

2010年12月、同社は「OISIS」と呼ばれる統合戦略情報システムの構想に着手しました。 鉄道利用データ、店舗売上データ、カード売上データ、決算データなどの情報のほか、各事業部門やグループ会社が個別に収集していた国勢調査、人口動態調査、各種経済指標、消費動向、商圏分析などの調査統計データの情報を戦略統合データベースに統合。それらのデータを複合的に組み合わせることで、新たなビジネスチャンスの発見や効果的なマーケティング施策の実現に結びつけていくことを目指すものです。

「これまでは沿線のお客様の潜在的な需要があったとしても、気づかないままチャンスを逃し、競合路線の商業施設にお客様が流れていた可能性がありました。第一歩としては、各エリアにおける小田急グループのビジネスの現状をしっかり検証することが重要であり、OISISはその基盤となるものです」と毛利氏は説明します。 小田急総合研究所の意向を受け、小田急電鉄本社も即座に動きを起こしました。同社 経営政策本部IT推進部の課長を務める中村之一氏は、このように話します。 「OISISのコンセプトは、グループとしての総合力の強化を目指す経営方針と完全に合致しており、非常に重要なシステムであることから、IT推進部としても構築を全面的にバックアップしていくことになりました」。

さらに、小田急総合研究所の主任研究員である山崎泰謙氏が、次のように言葉を続けます。 「これまでの当社のITシステムは、業務の効率化・省力化、情報共有を目的としたものが多く、OISISのような戦略型の意思決定支援システムへの取り組みは、初めてのチャレンジとなります。その意味からもOISISには、企業変革を促す基盤として期待が寄せられます」。 そして、同システムの核となるデータ統合・共有化のエンジン、BI/BAのプラットフォームとして採用されたのが「IBM Cognos 10」です。

「当社では2010年のLotusソフトウェアのメジャーバージョンアップ検討からIBMと付き合いが始まり、SEに相談を持ちかけたところ、提案があったのがIBM Cognos 10でした。もちろん、決定に至るまでにはいくつかの他社ツールと比較検討を行ったのですが、やはりIBMの提案が当社にとって最善と判断しました」と中村氏は話します。 決め手となったポイントは、クエリーおよびレポーティング、非定型分析、統計分析、スコアカード、ダッシュボード、リアルタイム・モニタリング、コラボレーションによる意思決定、プランニングおよび予算策定などの幅広いアナリティクス機能をカバーした、IBM Cognos 10ならではの“フラット”な特性と使い勝手の良さです。

「OISISを運営する小田急総合研究所そのものが新しい組織であり、各事業部門やグループ会社に向けて、今後どんなサービスやコンテンツを提供していくべきなのか、試行錯誤が続くことが予想されます。そうした中で、ツール独自の設計思想や機能によって方向性が偏ったり、制約を受けたりするのは避けたいことでした。すなわち、将来に対してフリーハンドで臨みたいと考えている当社にとって、最も汎用性が高いツールであると感じたのがIBM Cognos 10だったのです」と中村氏は語ります。

Benefits

新たな経営計画策定における論理的な根拠として活用が進む

同社がIBM Cognos 10の導入を正式に決定したのは、2011年6月のことです。その後、半年に満たない短期間でシステム構築を終え、同年11月にOISISは本番稼働を開始。すでにいくつかの実務において、導入効果があらわれ始めています。

「経営企画部門が新たな経営計画を策定するにあたり、その“根拠”としてOISISが活用されています。例えば、小田急沿線の人口が将来どのように推移していくのか、主要な沿線エリアの商業施設における小田急グループの現状のシェアはどの程度なのかなどを“見える化”することが可能となりました。グループ全体で統一されたデータソースをもとに、客観的な判断が下せるようになったたことは、これまでになかった大きな前進です」。

さらに、「現状が“見える化”されたことで、その先にある事実を読み解くために何をなすべきか。今後のBI/BAの進むべき方向性も明らかになってきました」と語るのは、小田急総合研究所の主任研究員である東成彦氏です。

「鉄道利用データや店舗売上データといった定量的なデータだけでは、お客様の意識や行動特性まで把握することはできません。そこで小田急総合研究所では、沿線のお客様を主体とした1万人規模のアンケートを実施し、デモグラフィックス・データ(年齢層、家族構成、ライフスタイル、興味の対象などの属性)を調査・蓄積しています。これらの定性データと、OISISに蓄積された定量データを複合的に組み合わせることで、より深く掘り下げたマーケティング分析が可能になるのではないかと考えています」と山崎氏は続けます。

OISISから得られた1つの分析結果が、違った視点からの分析を促すという形で連鎖していき、対象となるデータの種類や量を拡大させていく。新たな“気づき”に誘発される形で、同社のデータ活用が発展しつつあります。

 

将来の展望

ビジネス現場での本格活用に向け全社・グループ展開を推進

現状において、OISISが利用できるのは小田急電鉄内の限られた部門のみで、それ以外の部門やグループ会社のユーザーがデータを参照するためには、研究員にレポートを依頼するか、小田急総合研究所を訪れて公開端末を借りる必要があります。

この利用環境を「できるだけ早く、グループ会社にも拡大していきたい」というのが、今後に向けた同社の計画です。

もっとも、そのためには解決しなければならない多くの課題が残っています。

「OISISの統合データベースには、重要情報が数多く含まれています。したがって、OISISの利用環境をネットワーク経由でグループ会社に展開するにあたっては、アクセス権限を設定し、厳重なセキュリティーを確保しておく必要があります。また、ユーザーが目的に沿った形で、効果的かつ容易にデータを活用できるようコンテンツを整備する必要があり、IBM Cognos 10が備えている自由度の高いクエリー機能やOLAP(多次元分析)機能、レポーティング機能、ダッシュボード機 能などを、どういったシーンで活用できるかを検討中です」と山崎氏は話します。

一方で、重要となるのがBI/BAに対するユーザーのリテラシーの向上です。

「より多くのユーザーにOISISを活用していただくためには、啓発活動や教育にも積極的に取り組んでいく必要があり、準備を進めているところです」と東氏は話します。

「小田急沿線エリアの価値向上を実現する新たなサービスやビジネスの創出の鍵を握っているのは、経営企画部門のみならず各事業部門やグループ会社の社員に他なりません。統合・共有化された多様かつ膨大なデータの中から、彼らがいかに有益な知見や洞察を見出し、次の一手につなげていくことができるか。常にユーザーの視点に立って、ビジネス現場の活動をバックアップしていくことがOISISの役割と考えています」と毛利氏は語り、本格的な全社・グループ展開に向けた取り組みを加速させています。

 

お客様情報

1948年設立。小田急電鉄の路線は、新宿を起点に、箱根の玄関口、小田原までを結ぶ「小田原線」、湘南エリアに至る「江ノ島線」、多摩ニュータウンに至る「多摩線」の3路線、計120.5㎞(全70駅)からなる。3路線の通勤・通学、観光客など利用者は1日約194万人。小田急電鉄以外の鉄道、バスなどの運輸業、不動産、流通、ホテル・リゾートなどの各事業を運営するグループ企業は102社(2012年8月1日現在)で、「お客様の『かけがえのない時間(とき)』と『ゆたかなくらし』の実現に貢献します」というグループ経営理念の下、「Value UP小田急」という事業ビジョンを掲げ、グループ総体での価値創造に取り組んでいる。

 

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ソフトウェア

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  • IBM Hybrid Cloud
    • Cognos Business Intelligence