Business Challenge story

動車メーカーに課せられたEV市場拡大のためのミッション

Hondaはハイブリッド車を開発し普及させると共に、究極の環境技術として燃料電池電気自動車の研究・開発を行ってきました。また、同時にハイブリッド技術をさらに進化させたPHEV(プラグインハイブリッド車)や、燃料電池電気自動車の技術をフィードバックした新しいEVなどの電動車両の開発も進めています。

ただし、EVの普及にはいくつか越えなければならない技術上の課題があります。その一つが、バッテリー性能の経年変化です。

「車に搭載されるバッテリーは、長期にわたってお客様に安心して利用してもらえるようにすることが私たち自動車メーカーの使命です」と、Hondaグループの技術開発を担う、本田技術研究所 四輪R&Dセンターの第5技術開発室 第3ブロック 主任研究員の渋谷 篤志氏は話します。

「ハイブリッド車に搭載されたバッテリーの現時点における容量推移は、使用時間の累計からほぼ正確に割り出すことができますが、EVの場合は少し事情が複雑です。なぜなら、バッテリーの経年変化に与えうるファクター(要因)はハイブリッド車に比べて多岐にわたるからです」(渋谷氏)。

なお、ハイブリッド車に搭載されるバッテリーも使用履歴によって性能は変化しますが、バッテリーの充電・放電は自動的に電子制御されます。そのため、ユーザーの意思で充電の種類や電圧、頻度を選択できるEVと異なり、利用状況は想定範囲内に収まりやすく、またメーカーにおける保守実績も豊富であることから、バッテリー性能に影響を及ぼすファクターもほぼ正確に把握できています。

「とはいえ、限りある化石由来のエネルギー・資源の使用や温室効果ガス排出の抑制に貢献できるEVの普及が期待されます。ただ、本格的に普及するには、利用時のバッテリー性能の低下に対する懸念、新車・中古車市場の醸成につながる中古車査定時のバッテリー性能評価指標の明確化など、多角的に考えなければなりません。そこで、優れたEV用バッテリーシステム開発に向け、性能変化に影響を及ぼすキーファクターを見極めようと、さまざまな実測データを集め、分析することにしました。ただし、我々はデータ分析システム構築のプロではありません。そこで、豊富なノウハウとグローバルネットワークを持つ日本IBMに協力を求めました」と、同研究所の第5技術開発室 第3ブロック 主任研究員の武政 幸一郎氏は振り返ります。

Transformation

車両およびバッテリーに関するビッグデータを効率的に管理・分析

Hondaの「バッテリー・トレーサビリティー・システム」は、バッテリーの生産からリサイクル、廃棄まで一品ずつ追跡し、そのライフサイクル全体を管理できるシステムです。それと同時に、生産管理データのみならず、ユーザーのプライバシーに配慮した上で、実車に搭載されたバッテリーシステムから得られるデータを収集、日本にあるデータセンターへの伝送、蓄積したデータの分析を行う、将来的な拡張利用を視野に入れた標準的なデータ分析基盤としての側面があります。

車両とバッテリーは紐づけられており、米国および日本で走行する実車およびバッテリーのデータは搭載された車載通信ユニットから定期的に発信され、基地局で受信されます。さらにネットワークを介して日本国内にあるデータセンターに日米のデータが集約される仕組みとなっています。これはHondaの「インターナビ」という双方向通信型カーナビに使用するデータ通信のスキームをベースに、日本および米国のHondaと日本IBMが連携して開発を進めました。

分析においては、バッテリー性能に影響を与える(または与えうる)ファクターを抽出・可視化する、拡張性に優れたレポートシステム基盤が要求されました。そこで採用されたのが、IBMのソフトウェアであるIBM Cognos BIとIBM SPSS Modelerでした。

「時々刻々と集まるデータは膨大です。日本と米国の車両およびバッテリーに関する広範なデータが分・秒刻みで集まるので、そのデータ量はもはや“表計算ソフトで分析する”という次元ではありません。一方で、Hondaも各種の専用分析ツールを自社開発してきましたが、今回のバッテリー・トレーサビリティー・システムでは、将来的な拡張性を考慮し、開発用のプログラム言語はJava、データ連携にはWebサービスと、オープンかつ標準的な仕組みで基盤を設計しました。標準化したデータの管理・分析基盤上に、日本IBMの高性能な分析ツールを適宜組み合わせたのです」と武政氏は説明します。

さらに、ユーザー・インターフェース(UI)には、Webブラウザに各種データの多様な分析結果やレポートを表示する仕組みを構築。現時点でのバッテリーや車両の状態などを把握。そして、各車両およびバッテリーの特性や過去の走行データを加味した統計処理を行えるようにしました。

特に、SPSSを用いることで、推定を行うモデル式の妥当性を検討する統計的なモデル解析を実施できるよう、日本IBMでは構築をサポートしました。

Benefits

複数の車両を比較してバッテリーに影響するファクターを可視化

Hondaは、「フィットEV」のプロトタイプ車を用いた実証実験を、2010年に日本(埼玉県・熊本県)と米国(カリフォルニア州トーランス)で開始。この実証実験を通して、将来的なパーソナル・モビリティーのあり方やCO2削減効果を検証すると同時に、四輪R&Dセンターを中心に構築したバッテリー性能変化の推定モデルの確からしさを検証することができました。

「レポートシステム画面では、米国および日本で走行するフィットEVから収集されたデータをリアルタイムで閲覧できます」と渋谷氏は説明します。

レポートシステム画面には、充電や走行、停車といった走行モードや各種車両データとともに、その時点におけるバッテリーの容量や温度、電流値などがグラフ化され、表示されます。また、データベースを最適にチューニングすることにより、利用開始からの継続的なデータの変化を時系列で表示する分析レポートも、Cognosのビューアで素早く表示することができます。

このようにして複数の車両を比較することによって、バッテリーの容量や出力低下に影響するファクターの可視化が容易になりました。

「ビッグデータを分析することで新たな“気づき”が得られることは大きなメリットです。しかし、気づきに何カ月もかかっているようでは、とても技術開発には間に合いません。素早く、なおかついくつもの気づきを得て、トライ・アンド・エラーでアイデアを試す。そのPDCAサイクルが回ってこそ、初めてビッグデータに価値がある、と言えると思います」と武政氏は話します。

 

将来の展望

収集される基礎データに基づく新たなイノベーションにも期待

Hondaでは、今後もバッテリーシステム開発、そして将来的なサービス開発に向けてデータ分析を続けていく予定です。また構造化データだけでなく、保守サービス部門の担当者からのディーラーへの問い合わせなどのテキスト情報など、分析対象の範囲を構造化データ以外にも広げ、テキスト・マイニングなどの分析技術を駆使し、さらに分析精度を高めていく計画です。

武政氏は「これからの展望ですが」と前置きした上で、「リアルタイムにバッテリーの状態を把握できることを活用し、バッテリー交換のタイミングを見計らった保守サービス部門での部品調達や、バッテリーの異常がドライバーに通知される前に先手を打った予防保守サービスなどの新しいビジネスの可能性が生まれるかもしれません」と将来の展望について話します。

また渋谷氏は「今後もEV車が普及していけば、電力の蓄電需要は必然的に高まります。プラグイン車を家庭などでの蓄電池代わりにして余剰電力を有効利用したり、発電所にかかる負荷を平準化する調整機能を持たせたりなど、社会全体で電力のデマンド・コントロールをしていく観点からも、バッテリー・トレーサビリティー・システムのデータは重要な基礎データとなるはずです」と話します。

自動車メーカーには、EV車に搭載されたバッテリーを二次利用、社会全体でエネルギー流通を最適化するスマートグリッドへの展開などについても取り組まなければならない責務があります。

車も社会を構成する一員。グローバルに広がるお客様をはじめ、さまざまな業種業界と協力し合いながら、『自由な移動の喜び』と『豊かで持続可能な社会』を実現するHonda環境ビジョンを目指す同社を、日本IBMはグローバルなネットワーク、そしてデータ管理・分析のプラットフォームやツール、ノウハウの提供などでバックアップします。

 

お客様情報

世界各地で高い評価を得るHondaブランド。同社では現在、これまで培ってきたモーター駆動や高電圧バッテリーに関する技術やノウハウを、究極の環境技術である燃料電池電気自動車やハイブリッドカーの開発に応用している。環境性能に優れた製品を、より身近に、より多くのお客様に提供していくことで、地球規模でのCO2排出量削減に取り組み、2015年までに、HSHS(Honda Smart Home System)の開発において車と暮らしのCO2排出量を2000年比で50%低減する技術の商品化を目指している。

 

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