ビジネス上の課題
Siemens社のHR部門は、地理的に分散した379,000人の従業員の学習と開発をより適切にサポートしたいと考えていました。これには、新しい革新的なテクノロジーを採用して組み込む必要がありました。
概要と経緯
Siemens社とIBMは、AIベースのHR仮想エージェント、CARLを共同で作成しました。CARLは、IBM® Cloud®上で稼働し、IBM Watson® DiscoveryとIBM Watson Assistantのテクノロジーを利用しています。
成果
従業員の満足度と体験を向上させる
HR関連の質問に簡単にアクセスでき、適切な回答が得られますHRスタッフの時間とリソースを節約する
従業員のサポート要求数が低減簡素化されたHR対応の実装を提供
ITサポートが不要にビジネス上の課題の詳細
デジタル時代におけるHRサポートのための新しいオプション
Siemens社は、1847年に設立され、その最初の発明である電気ポインター電信は、電気通信の近代化の先駆けとなりました。同社は世界の技術リーダーへと進化し、イノベーションへのコミットメントを中核的価値に据える同社の姿勢は、その成功の基盤であり続けています。
デジタル・トランスフォーメーション・イニシアチブの一環として、Siemens社は自動化とAIを多くのプロセスに統合し、お客様とパートナーに優れたサービスを提供しています。同社の企業人事のリーダーは、こうしたテクノロジーを社内でも採用して使用することで、世界各国379,000人の従業員をより適切にサポートすることを切望していました。HRチームは、場所、デバイス、時間帯に関係なく、デジタル・テクノロジーを使用して従業員にインタラクティブな体験と、質問に対するより迅速で正確な回答を提供するソリューションを思い描いていました。
Siemens AGのHRシステム担当マネージャー、Sabine Rinser-Willuhn氏は次のように語ります。「ドイツではいくつかのHR ITアプリケーションへのリンクを提供するソリューションを導入していましたが、それを交換する必要がありました。私たちはこれが理想的なHRを達成するための新しい働き方を模索する絶好の機会であることに気付き、IBMに連絡を取りました」
IBMチームとSiemens HRとIT部門のメンバー数名が、ドイツのハンブルグで開催された3日間のIBM Enterprise Design Thinking™ワークショップで集まりました。このワークショップにおいて、Siemens HRのイントラネットのランディング・ページを構築するための計画が立てられました。これは、従業員にとって最初のHR情報のソースです。ランディング・ページには、場所やデバイスに関係なく、すべての従業員が24時間アクセスできるコグニティブHR仮想エージェントが含まれます。Siemens社がプロジェクトにゴーサインを出した後、IBMとSiemens社のスペシャリストは開発チームを結成し、HRインタラクティブ仮想エージェントであるCARLを共同で作成し、継続的に進化させました。
“ IBMとSiemens社のチームは、両チームとも多くのトピックを1つのチャットボットに適合させることが非常に難しいということを認識していました。 ”
— Sabine Rinser-Willuhn氏, マネージャー、HRシステム, Siemens AG社
概要と経緯の詳細
CARL:HRの言語を話す仮想エージェント
IBMとSiemens社の代表者は、アジャイルとデザイン思考の方法論に関連する創造性と迅速なイテレーションを促進するために定期的に会合しました。参加したSiemens社の従業員にとってこうしたアプローチは初めてのことでしたが、彼らは程なく業務の進め方を学んで受け入れ、グループ・メンバーはすぐに強いチームの絆を形成しました。「開発チームのミーティングでは、誰がSiemensで誰がIBMか、誰がIT担当者で誰がHR担当者か、といった区別はできませんでした」と、IBM Services®のアソシエイト・パートナーであるJoerg Brueckner氏は述べています。「CARLをこれほど迅速に作成するには、アジャイルなデザイン思考フレームワークを一貫して使用することに加えて、強力なチーム精神が不可欠だったと思います」
開発チームは最初に、後にCARLのホームとなるものを構築しました。これは、Siemens社とIBMの間のITランドスケープを接続する新しいSiemens HRのランディング・ページです。次にチームは、Siemens HRの要件を満たす機能と属性を備えたCARLを設計するという複雑なタスクに集中しました。CARLは最終的にSiemens社のすべての拠点でHR関連のすべての質問に対する単一の窓口として機能することを目標としていたため、そのアーキテクチャーには前例のない拡張性と適応性が必要でした。しかしチームが共同開発を開始してからわずか3か月後に、CARLはSiemens社のドイツとオーストリアの拠点で120,000人の従業員に公開されました。
CARLを作成するにあたり、開発チームはデザイン思考の実践に沿ってユーザー体験を優先しました。最初はドイツのSiemens社の従業員から最も頻繁に問い合わせのあった5つのトピックに対応するように、チャットボットをプログラムしました。この5つのトピックには、病気休暇、休暇、旅行計画、共有マッチング、継続的な教育とトレーニングが含まれます。しかし他のSiemens社のサイトに拡大していくにつれユーザー、言語、トピックが増大すると考えられていたことから、CARLのアーキテクチャーは簡単に拡張してそれに対応できるよう開発当初から設計されています。
CARLのチャット機能はIBM Cloud上で実行され、Watson Assistantと Watson Discoveryがコアのコンポーネントとして使用されます。このチャットボットの最もユニークな機能の1つは、コンテンツ管理システムとして機能する組み込み型の管理パネルです。このパネルにより、Siemens HRのスタッフはITサポートを必要とせずに、さまざまなトピックを迅速に実装できます。またこの機能により、Siemens社のすべての拠点で、従業員の固有のニーズに基づいてCARLのバージョンをすばやく構成してカスタマイズできます。
“ CARLのようなHRチャットボットはかつてなかったと思います。また、IBMが提供するアジャイルでデザイン思考のアプローチがなければ存在しなかったでしょう。 ”
— Sabine Rinser-Willuhn氏, マネージャー、HRシステム, Siemens AG社
成果の詳細
従業員のHR体験の変革
CARLは、Siemens社の創業者であるWerner von Siemensの息子にちなんで命名されたもので、現在では20カ国の280,000人のSiemens社従業員にHR関連のサポートを提供しています。CARLは現在、ドイツ語、英語、フランス語、スペイン語、ポルトガル語に対応し、200以上のトピックに精通しており、月に約100万件の標準的な従業員の問い合わせに対応しています。CARLはインタラクティブなチャットをするだけでなく、ランディング・ページでトレンド・トピックを紹介するなどして、Siemens社の従業員が関連性のある正確なコンテンツにアクセスできるように日々サポートしています。また、AIシステムは使えば使うほど賢くなるため、CARLはより複雑な質問に答える方法を毎日学んでいます。
現在では、CARLは同社の従業員とHR部門の負担軽減に不可欠な存在です。同社の従業員は、関連するHR関連情報をより迅速かつ簡単に見つけることができます。これにより、従業員の満足度が向上するだけでなく、HRスタッフが従業員のサポートの要請への対応に費やす時間も短縮されます。またCARLがユーザー中心の姿勢のまま進化できるようにするために、従業員はイノベーション・ハブにアクセスして改善案を提供できます。HRスタッフも重要なフィードバックを提供して、チャットボットの対応をさらに改良することもできます。
一方、CARL開発チームは現在44回目のスプリントにあり、現在進行形のロードマップを使用してチャットボットの革新とその機能の向上を続けています。チームは現在、CARLが従業員への提案を改善し、チャット機能を増やし、教師あり学習のコンポーネントを構築できるように取り組んでいます。
CARLはユーザーと対話をするごとに改善を続けているため、その未来は明るいものです。「CARLはドイツ中でよく知られています。その「悪名」は世界にも広がっています」と Rinser-Willuhn 氏は言います。 「CARLは、すでにSiemensのIT/HRとイノベーションに関する2つの社内賞と、ドイツで社外の賞(Preis der Deutschen Personalwirtschaft/「ドイツ人材の王子」) も1つ受賞しています。そして、アジャイル技術とAI技術を統合するSiemens社内の最初の企業部門として、他のSiemensの同僚たちは私たちの成功を手本とすることを望んでいます」
“ IBMは私たちの信頼できるパートナーです。デザイン思考とアジャイル原則の使用について会社から学んだことは、Siemens HRが共同作業の方法を進化させるのに役立っています。 ”
— Sabine Rinser-Willuhn氏, HRシステム部門マネージャー, Siemens AG社

Siemens AG社
Siemens社(IBM外部へのリンク)は、ドイツのミュンヘンに本社を置く多国籍コングロマリットであり、ほぼすべての国にプレゼンスを持つ、ヨーロッパ最大の工業・製造企業です。電化、自動化、デジタル化の分野に注力する世界的な大企業であるSiemens社は、エネルギー効率が高く、リソースを節約する技術における世界最大のメーカーの1つです。2018年度、Siemens社は総額約910億ドルの収益を上げました。同社は世界中で約37万9,000人の従業員を雇用しています。
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この事例で扱っている IBM のソリューションの詳細については、IBM 担当員または IBM ビジネス・バートナーにお問い合わせください。