Business Challenge story

船舶のライフサイクルコストを削減し、海事産業の発展へ貢献する

船舶は海上という過酷な環境で使用するため、船内搭載機器の状態把握や保守管理を適切に行うことが、航海中のさまざまなトラブルを防ぐために必要です。そのため、船内機器のセンサーデータを活用して状態診断や故障の未然防止を図ったり、それらを機器の保守管理履歴と組み合わせて、船舶の安全な運航や船舶のライフサイクルコストを削減したりする取り組みが注目されています。

そうした中で、船舶の保守管理をサポートするさまざまなシステムが構築され、船主や船舶管理会社に向けて提供されてきました。しかし、それはあくまでも企業ごとに閉じた取り組みでしかありません。

そこに変革を起こしたいと考えたのが、船舶の登録・検査・承認を担っている第三者機関の日本海事協会です。同会のテクニカルサービス部長を務める永留隆司氏は、このように話します。

「船舶の状態監視や保守管理に関する共通基盤となるシステムやデータをクラウド上に集約し、船主や船舶管理会社のほか、造船会社、船舶機器メーカー、メンテナンス会社、そして私たちのような第三者機関まで、あらゆる関係者が共同利用できるようにすれば、海事産業はもっと活性化するに違いありません」。

世界に目を向けると、たとえば欧州の企業では、機関室を丸ごと一括管理するシステムも実用化されています。こうしたシステムに席巻された場合、日本に多く存在する舶用機器メーカーは差別化の要素となる付加価値提供が困難となり、単なる機材のサプライヤーとなって低収益化による業界衰退の危機に陥る恐れがあります。

「世界トップレベルの技術力とノウハウを有する日本の海事産業の競争力をさらに高め、業界全体の発展を支えていくためにも、新たな取り組みが求められているのです」と永留氏は強く訴えます。

このような経緯から日本海事協会は2012年4月、すでに700隻以上の船舶に搭載実績を持つ「船舶情報管理システム(ADMAX)」で先行していたIHIMU、機関室の機器の状態診断で高いノウハウを持つDU、船舶の有害物質情報管理のクラウド化などのプロジェクトに取り組んだ日本IBMと共同研究を開始。日本の海事業界の次代を担う船舶保守管理システムの構築と、そのサービス化を見据えた構想が動き始めました。

Transformation

IBM Maximoを活用し、船舶管理者の業務効率を向上

共同研究を開始した日本海事協会、IHIMU、DU、日本IBMがまず実施したのが、船内に配置されたさまざまな計器やセンサーから収集したビッグデータを分析し、船舶の異常を早期発見するシステムの検証です。

船舶保守管理システムの全体構想のとりまとめをリードし、共同研究の実施にあたって中心的な役割を担ったIHIMUの理事でありライフサイクル事業部の副事業部長を務める佐々木高幸氏は、次のように話します。

「現在でも航行中の船舶の状態監視は行われていますが、ほとんどの場合、経験を持った乗組員の判断に大きく依存しているのが実情です。そこで私たちは今回、船舶のさまざまな計器やセンサーから集めたデータを船内で活用するだけでなく、衛星経由で陸上のセンターに送って集中的に分析し、的確な指示を出せる仕組みの実現を目指しました。これが、次代を担う船舶保守管理システムに向けたブレークスルーになると考えたのです」。

研究過程では、センサーデータや保守履歴といった実際のデータをサンプルに、IBM東京基礎研究所が開発したデータ解析技術を用いて異常事象の発生状況や機器の状態の変化を解析。その有用性を確認しました。

「このデータ解析技術は、多様な計器やセンサーのデータを総合的に分析し、経験則からは予測できない微妙な振る舞いも検知します。熟練の専門家でも見落としていた異常事象を検知したケースもあり、解析精度の高さに驚きました」と永留氏は振り返ります。

こうした成果を踏まえ、日本海事協会はこの異常検知機能を組み合わせた船舶保守管理システムを構築し、IBMのクラウド・サービス上に展開することを正式決定しました。

「ADMAXの開発・運用を通じて培ってきたノウハウをベースに、フレームワークとして『IBM Maximo』を活用し、陸上で監視にあたる船舶管理者の業務効率向上を支援するというのが、システム開発の基本方針です」と佐々木氏は説明します。

ちなみに、IBM Maximoとは、資産台帳の登録、保全計画、作業管理、調達管理、在庫管理など、保全管理に必要な基本機能を一元的にサポートする統合資産管理ソリューションです。全世界で多数の導入実績を重ねてきた業界のベスト・プラクティスが盛り込まれており、システム構築やその後の運用の省力化にも貢献します。

また、船上ではセンサーで収集しきれない各所の実績データを日常の点検・保守作業を通じて入力するのですが、衛星回線は常につながっているわけではなく、オフラインでも作業できる仕組みが必須となります。

この目的に沿ったモバイル・アプリケーションの開発・実行基盤として、Webの標準技術であるHTML5ベースの開発に対応した「IBM Worklight」を採用。設備保全のためにカスタマイズされた「EAM Mobileソリューション」を活用し、モバイル端末への展開を視野に入れた船上アプリケーションを共同開発します。

Benefits

船舶の長期にわたるライフサイクルで事業とデータの継続性を担保

2012年7月に共同研究を終えた日本海事協会は、同年10月にシステム構築に着手し、2013年6月のサービス提供開始に向けて開発作業を本格化させています。

そうした中で、日本海事協会がIBM MaximoをはじめとするIBMの一連のソリューションに期待を寄せているのが、「高品質なサービスの実現」「高い拡張性の確保」「ランニング・コストの削減」の3つのポイントです。

品質については、IBM Maximoがサポートするテーラリング手法により、開発初期フェーズから実機での機能検証を行います。ユーザーに実際に動く画面を見せながら、ユーザーの意見を反映していくプロトタイピングにより、要求認識のギャップを早い段階から解消して極小化することでサービス品質を高めるのです。 

拡張性については、IBM Maximoが標準機能として備えている外部システム連携機能を活用します。また、20カ国語を超える多言語対応により、システムのグローバル展開も柔軟にサポートします。

ランニング・コストの削減は、豊富な導入実績の中でIBM Maximoが最も高く評価されてきたポイントの1つであり、サービス開始後の保守作業を大幅に削減し、システムのROI(投資収益率)を高めます。

「船舶のライフサイクルは通常25〜30年におよび、ITシステムの耐久年数を大幅に超えています。また、船舶に関するデータは、造船会社から船主、船舶管理会社へと多くの事業者に引き継がれながら運用されていきます。こうした長期間にわたる事業やデータの継続性をどうやって担保するのか。特に公的な検査機関である日本海事協会にとっては、その説明責任まで強く求められます。そうした観点からITに関しての高い技術はもちろん、ビジネス・アドバイザーとしてトータルなサポートを提供してくれる信頼できるパートナーとして選定したのがIBMであり、業界全体から幅広い支持を得られるシステム基盤として、IBM Maximoをはじめとする一連のソリューションに大きな期待を寄せています」と永留氏は総括します。

 

将来の展望

船舶メンテナンス技術における日本発のグローバル業界標準へ

船舶保守管理システムのサービス提供開始に向けた準備を進める一方で、日本海事協会はシステムのさらなる高度化を追求しています。そうした中での主要テーマの1つが、センサーデータ解析による異常検知機能の向上です。

センサーデータ解析を行い、ディーゼル機関など機関室の機器の状態診断を行うシステムとして、DUが開発運営している統合型支援システム「Lifecycle Administrator」(LC-A)がありますが、今後LC-Aを活用してタンカー・コンテナ船・バルクキャリアーを対象に実船に異常検知システムを搭載した検証を開始し、海象の影響、船の個体差などについても確認していく計画です。

従来、センサーデータ解析を行い、異常検知するためには、専門家が1隻ごとに分析モデルを構築し、そのモデルに基づき、データ解析を行うのが一般的でありLC-Aもこの方法を採用してきましたが、今回の異常検知機能は、専門家と同等の解析結果が得られるため、適用範囲が大幅に拡大することが予想されます。これにより、船舶の安全な運航とメンテナンスコスト低減の両立を目指します。

「私たちが最大の狙いとするのは、船舶が故障する前に先手を打って修理を行う予知保全(予防保守)の実現です。さまざまなトラブルによって船舶が予定外に運航停止してしまうことによる甚大なリスクやコストのロスを防ぐとともに、機器の状態に基づいたメンテナンス期間の延伸や無駄の少ない部品交換が可能となり、長い目で見たライフサイクルコストの削減につながっていくのです」と佐々木氏は話します。

また、実際に船舶の検査にあたる立場から、日本海事協会テクニカルサービス部の技師である中山宗宜氏は、このように話します。

「船舶保守管理システムを使って、事前に損傷傾向などを把握して重点項目を設定しておくことで、今まで以上にメリハリを効かせた検査が可能となります。船主にとっては、検査期間の短縮やコスト削減につながるなど、双方でより信頼性の高いエビデンスを共有し、メリットを享受しあえるようになることを期待しています」。

そして永留氏は、「海運は世界中で大量の物流を担っている重要なインフラであり、今回のプロジェクトが成功すれば、船舶メンテナンス技術における日本発の業界標準としてグローバルに広がっていく可能性もあります」と、将来に向けた意欲を高めています。

 

お客様情報

日本海事協会は、海上における人命と財産の安全確保および海洋環境の汚染防止を使命として、船舶の安全を確保するために独自に技術規則を制定し、建造中および就航後の船舶がこれらの規則に適合していることを証明するための検査を実施の上、船級の登録を行っています。また、船舶の登録国が国際条約に基づいて行う検査の代行、材料、機器等の承認業務、ISOに基づく品質および環境マネジメントシステムの審査登録、各種技術コンサルタント、その他海事業界に貢献するための各種研究開発など幅広い活動を行っています。

 

パートナー情報

1853年に創設された石川島造船所以来、150年以上にわたって、世界の造船技術をリードしてきました。「船舶海洋分野における技術を通じて社会の発展に貢献する」という経営理念を掲げ、商船事業、艦艇造修事業、エンジニアリング事業、ライフサイクル事業の4つの事業を柱として、お客様のニーズに対応できる技術力に基づいた“特色ある開発型ものづくり会社”を目指しています。

 

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