Business Challenge story

既存IT資産を活用して新しい金融サービスを迅速に立ち上げる

口座の残高照会や入出金明細照会をはじめ、振り込みや振替などのリアルタイムな口座間の資金移動、電子マネーへのチャージなど、PCやスマートフォンを利用した新しい銀行取引へのニーズが高まっています。このような利用形態の変化をIT業界で使われているクラウドになぞらえた、いつでも、どこからでも、さまざまなデバイスにより金融サービスを利用できるいわゆる「クラウド・バンキング化」をいかに迅速に推進していくかは、三菱東京UFJ銀行にとって大きなチャレンジでした。 

また三菱東京UFJ銀行では、再利用可能で有用なIT資産を数多く保有していました。そのためハードウェアやソフトウェアのサポート期間の終了などのたびに、個別サーバー上にシステム基盤を再構築することは避け、既存のIT資産を他のプロジェクトでも有効活用したいと考えていました。最近では、IaaSやPaaSを導入する機会も増えましたが、この場合にも既存の業務システムや情報を長期にわたって有効活用することが不可欠でした。

そのほか技術戦略として、早くからEA(エンタープライズ・アーキテクチャー)の導入に取り組んでおり、全体最適によるシステムのライフサイクル全体にわたるTCO(総保有コスト)の削減やシステムの長期利用を目指すとともに、常に最新技術を取り入れながら経営戦略に貢献するIT活用を推進していました。このような「クラウド・バンキング化」、「既存資産価値の最大化」、「EAに適合したIT活用」の3つの背景から三菱東京UFJ銀行では、SOA基盤を構築することを決定しました。

システム部 基盤第一グループ 上席調査役である鞠子源康氏は、「SOAは既存銀行取引をサービス化し、組み合わせて利用することで、開発の生産性や柔軟性を向上させる“作らない(新規プログラムを作らない)”システム開発の仕組みです。これによって捻出された投資余力(コストや人的リソースなど)を、主力事業に新たな資源として少しでも多く投入することで付加価値を高められると考えています」と話します。また、SOAPやWSDL、ESB、BPELなどの技術や関連製品が成熟したこともSOA基盤構築を加速させています。

Transformation

MQベース、高スループット、金融機関での採用実績でWebSphere Message Brokerを採用

三菱東京UFJ銀行では、2009年12月からSOA基盤の構築に本格着手し、2010年12月にSOA基盤を利用した最初の適用業務を一部店舗で先行して稼働を開始。2011年2月から全店での利用拡大を開始しています。鞠子氏は、「SOA基盤の構築において、低コスト、短期間での構築は言うまでもありませんが、一番重要視したのは安定稼働でした。特に既存システムに影響を与えないことが最も重要なポイントでした」と話します。

今回、三菱東京UFJ銀行が構築したSOA基盤は、プラットフォームとしてIBMメインフレームである「IBM System z」を採用し、IBM論理区画(Logical PARtitioning:LPAR)で区切られた区画にオペレーティング・システム(OS)として「SUSE Linux Enterprise Server(以下、SLES)」を搭載。その堅牢なプラットフォームの上にIBMのエンタープライズ連携基盤であるWMBを採用したESB環境を構築しています。

基本的なコンセプトは、チャネル層、ビジネ・スフロントサービス層、連携基盤サービス連携層、バックエンドサービス層、データウェアハウス(DWH)層の5層構造と、勘定系、市場系、海外系のドメイン構造は不変とし、ドメイン内の既存取引はMQをベースとしたおのおのの既存HUBを介して連携。新規のシステム連携はESBに接続してサービス公開されていれば、どのドメインに所属しているかを意識することなくサービスを呼び出せる仕組みになっています。

三菱UFJインフォメーションテクノロジー株式会社 基盤第一部 篠崎直人氏は、「SOA基盤の中核となるESB環境は、2台のSystem zのアクティブ・アクティブ構成で運用しています。このESBは、z/OS上の既存システムやLinux上およびその他のシステム上のサービスを連携できる柔軟性と堅牢性を兼ね備えるほか、トランザクション量の大幅な増加に伴うスケールアップ(Linux内での使用能力の増強)、スケールアウト(稼働Linuxの追加など)の双方の拡張性も実現しています」と話します。

WMBを採用した理由について、システム部 基盤第一グループ 調査役の伊藤雅浩氏は、「WMBがMQをベースとした製品であることや国内外の金融機関での実績が多いことなどが採用の理由です。高いスループットが求められるESBでは、WMBが適合すると判断しました」と話します。

一方、SOA基盤構築にSystem zおよびSLESが採用された理由を、システム部 基盤第一グループ 上席調査役の中嶋邦明氏は、次のように語ります。「System zは、高い信頼性や拡張性、勘定系システムでの実績などを評価しました。また、リソースを100%使用しても稼働し続ける点は統合効率に直接効いています。SLESに関しては、System zとの相性やオープン性を評価しています」。

Benefits

再利用率が延べ18%に、経営課題にも迅速に対応

WMBを利用したESB環境を構築した効果を鞠子氏は、次のように語ります。「カード発行の審査業務では、当初は事務センターに委託し8~9回の照会オペレーションが必要だったのですが、SOA基盤でサービスを連携し、BPELのワークフローを適用することで、営業店の店頭で1回のオペレーションですべての照会ができるようになり、これにより、審査スピードのアップと事務センター要員削減といった業務効率が大幅に向上しました」。

また2011年秋に、第6次全銀システムの対応の中で、大口預金の振り込みデータを全銀システムから日銀決済するシステムと振り込みデータをまとめて管理するシステムへの連携をSOA基盤で実現。さらに事務改革として、営業店やセンター事務の効率化を目的としたシステム構築プロジェクトでもSOA基盤を活用しています。

システム部 基盤第一グループ 調査役 田上哲也氏は、「リリース当初は3システム・9サービスの公開からスタートしましたが、その後の2年半でシステム数23、サービス数150以上にまで利用が拡大しました(2012年7月現在)。この中には、WMBの有用な機能であるメディエーションを活用することで、手組みでは複雑な処理をGUIで迅速に構築し、他から利用できるように初めて公開可能となったサービスもあります。急速にサービス数が増加するとともに、既存サービスの再利用も着実に進んでおり、現時点でおおよそ2割のサービスが再利用されています。接続性と再利用性の向上は、生産性向上につながるため、更なる取り組みを進めたいと考えています」と話します。

一方、伊藤氏は、「当初は、マルチプラットフォームのサービスを連携するので、もう少し苦労するかと思ったのですが、予想以上に容易に連携できました。現在は、開発生産性を向上するための取り組みを関係部署と推進しています。これにより、再利用率のさらなる向上が期待できます」と話します。

経営面での効果をシステム部 基盤第一グループ 次長の佐藤由一氏は、次のように語ります。「もしSOA基盤がなければ、経営層が求めるスピードで新しいサービスを支えるシステムを構築することは困難であったでしょう。経営課題に応える方策として、SOA基盤を構築して本当によかったと思っています」。

 

将来の展望

インテリジェントESBの実現に向け、IBMのサポートに期待

現在では、SOA基盤を国内勘定系ドメインにおけるシステム連携に利用していますが、今後は市場系や海外系のドメインにおけるシステム連携にも活用していく計画です。またSOA基盤を拡張していく取り組みの一環として人材育成にも注力しており、SOA環境を支える技術者の育成を推進しています。ドイツにあるIBMのボブリンゲン研究所のSUSE Linux on System zのバックエンド・サポート部隊にも技術者を派遣しています。

その派遣メンバーであったシステム部基盤第一グループ 調査役の秋山聖太氏は、「今回、IBMの研究所で自分に足りないことが何かが見えてきました。例えば、Novell Certified Linux Engineer(CLE)を取得して派遣に備えましたが、認定試験の実技とは違う、より実践的な使い方を学ぶ必要があると感じました。また今後は、研究所で学んできた知識や経験を、開発に携わる人たちに継承していくことも重要だと考えています」と話します。

また現在、サービスレベルの最も高いSystem zでESB環境を構築していますが、それほど高いサービスレベルを要求しないシステム連携の場合でも同じESB環境を利用しています。そこで、より安価なプラットフォーム上に構築したESB環境に自動的に振り分ける「インテリジェントESB」を検討しています。鞠子氏は、「サービスのSLAが変わった際に公開先ESBの変更も容易に実施できるような基盤を実現していきたいと思っています」と話します。

さらに佐藤氏は、「再利用できるもの、できないものがあるのですが、最初にサービス化する負荷は分散業務を作成するのとそれほど変わりません。今後、再利用できるサービスが増えていくことで、さらに大きな効果が期待できます。SOA基盤は一気に作って終わりというものではなく、少しずつ機能を拡張、強化していくものです。そのためにもIBMのサポートには、今後も大いに期待しています」と話します。

 

お客様情報

総合金融グループとしての強みを生かし、国内767店舗、海外74店舗(2012年3月末現在)により、リテール、法人、国際、受託財産(資産運用・管理)の4つの事業を展開。顧客や社会から支持される「世界屈指の総合金融グループ」を目指しています。

 

テクノロジープラットフォーム

ハードウェア

  • IBM zEnterprise 196

ソフトウェア

Solution Category

  • Systems Hardware