Business Challenge story

一般的な「標準医療」から患者一人一人に最適な治療を行う「個別化医療」へ

黒崎氏と泉氏がデータマイニングの活用で目指しているのは「個別化医療(テーラーメード医療)」です。一般的に行われている「標準医療」では、文字通り、現時点で最も推奨される標準的な治療法、あるいは、科学的根拠(エビデンス)に基づく一定の治療効果が立証された「最良の治療」を行うというものです。ただ、標準医療では、個々の患者の状態の違いや病状の違いはあまり考慮されません。つまり、患者・病気の状態によっては、必ずしも「最良の治療」とはならない懸念があります。

一方、黒崎氏と泉氏が取り組む「個別化医療」では、患者の状態(年齢、性別、体質・人種、家庭環境、遺伝子など)、および「病気の状態」(原因、進み具合、治療の必要性、合併疾患、検査データなど)を考慮した上で、患者一人一人に最適な治療(治療方法の選択、薬剤の選択、薬剤の量や治療期間)を施すものです。したがって、個別化医療は、標準医療を超える治癒率を達成し、また薬剤投与に伴う副作用を減らし、患者の負担を軽くするといったことが期待できます。

Transformation

患者のデータからがんになる確率を予測し、最適な治療内容を決定

この個別化治療において、データマイニングは大きな役割を果たすことが黒崎氏と泉氏の取り組みで実証されてきています。既に、「C型肝炎」の治療においては、患者の属性データや病気の検査データなどの情報を IBM SPSS Modelerを使ってデータマイニングを行うことにより、以下のような事項を定量的・確率的に予測し、患者一人一人に対して最適な治療内容を決定することが可能となっています。

  1. 肝炎が将来、がんになる確率はどの程度か・・・今すぐの治療が必要か、それとも治療効果の高い新薬が登場するまで治療を待つか
  2. 治療で完治する確率はどのくらいか・・・治療する意義があるか
  3. 治療薬の選択・・・どの薬をどのくらいの量投与し、どの程度の治療期間をかけるかべきか

泉氏によれば、肝炎の場合、とりわけ、「がんになる確率」の予測が重要です。肝臓は俗に「沈黙の臓器」と呼ばれるように、病気になっても自覚症状がほとんど現れてきません。そして、明確な症状が現れた時にはすでに末期であることが多く、その時点で治療を始めたのでは、完治が困難です。したがって、検査等で発見された早期の段階で肝炎の治療を始めたほうが良いのです。 ところが、自覚症状がないだけに、患者が治療に踏み切る決心がつかないことがあるといいます。治療開始時の1週間ほどの入院や、治療薬投与のために約1年かかる通院治療が必要であるため、ビジネス・パーソンなら「仕事の支障になる」と躊躇してしまう人がいるそうです。

Benefits

具体的な数値で示すことで患者が治療内容を理解

データマイニングによって開発した「C型慢性肝炎からの発がん予測モデル」に患者一人一人の検査データを適用すれば、例えば「男性48歳のあなたの場合、5年以内にがんになる確率は19%です」といったように、患者に具体的な数値で示すことができます。患者に対する説得力が増すのです。こうした具体的な数値を示すことによって、患者本人も十分に納得して、治療に踏み切ることが可能になるといいます。

また、データマイニングの結果からは、例えば「血糖値の高さ(これは、肥満が原因になることが多い)」が、肝臓がんになる確率を高めていることがわかっています。したがって、がんになる確率を下げるため、普段から肥満にならないような食生活や、一定の運動等を奨励して血糖値を下げるように指導することもできるといいます。

同様に、黒崎氏と泉氏は、ウィルスを駆除できる「治療効果」についても、データマイニングによって予測モデルを開発、治療に活用しています。予測モデルを見ると、全体での駆除率は50%程度であったとしても、患者・病気の状態によっては、駆除率が70% *1 を超えることもあるそうです。逆に、予測モデルに当てはめた結果、現在の治療薬では十分な治療効果が望めない場合もあります。こうした患者の場合、数年以内に利用可能になることがわかっている強力な新薬が出るまで、経過を見ながら待つという判断も可能になりました。このように駆除率の数値を示せることは、患者に対する治療内容の説明をわかりやすくし、また「インフォームド・コンセント」を促進することに役立っています。

さらに、利用する薬の量や治療期間についても、データマイングによって、どの程度の量が最低限必要かという指標を示せるようになったといいます。治療の経過を見ながら、ウィルスが消えるスピードが早ければ、それに併せて薬量を減らすこともできます。そうすれば、患者の負担となる副作用も軽減し、かつ医療費の削減にもつながります。

黒崎氏と泉氏がデータマイニングの威力として認めているのは、通常の分析では見逃してしまうようなデータが浮かび上がってくる点です。例えば、「AFP」は、肝臓がんを調べるための血液検査の数値です。AFPは、「腫瘍マーカー」と呼ばれ、がんができるとこの数値が高くなります。ところが、この数値が、肝炎ウィルスを駆除するための治療の効果と関係があることがわかったのです。つまり、がん治療のための検査数値が、肝炎ウィルス駆除率の予測に使えるということです。黒崎氏によれば、AFPの数値が、肝炎ウィルスの駆除率に関係があるとは、当初考えもしなかったといいます。このように、データマイニングでなければわからなかった要因が発見できることに驚いていると黒崎氏は語ります。

 

将来の展望

地方の病院や診療所でも使えるモデルの開発

黒崎氏と泉氏らがデータマイニングを活用して開発した各種の予測モデルは、地方の病院の臨床データともよく合致し、再現性が高いだけでなく、汎用性が高いことも立証済みです。また、遺伝子解析を取り入れたモデルも開発しており、その予測精度は9割に達するといいます。ただし、遺伝子解析のような高度な検査は、一部の大病院しか行えません。このため、黒崎氏と泉氏は、地方の病院や診療所でも行える、一般的な検査データを用いた予測モデルを開発し、また、分析結果を小冊子にして全国の医療施設に配布して、データマイニングを活用したC型肝炎治療の普及に力を入れています。今後は、他の病気への展開も視野に入れているとのことです。

 

お客様情報

武蔵野赤十字病院は地域社会の医療に貢献すると共に、職員の幸福を目指します。

 

テクノロジープラットフォーム

ソフトウェア

1 出典:厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服緊急対策研究事業「データマイニング手法を用いた効果的なC型肝炎治療法に関する研究」H20年、H21年度 総括研究報告書:泉並木 武蔵野赤十字病院・副院長 分担研究報告書:武蔵野赤十字病院・消化器科部長 黒崎雅之

 

製品・サービス・技術 情報

当事例で使用されている主な製品・サービスは下記の通りです.

ソリューション

SPSS Modeler, HC: Analytics and Reporting

Solution Category

  • IBM Hybrid Cloud
    • HC: Analytics and Reporting
    • SPSS Modeler