Business Challenge story

入力されるデータから機体の重量・重心位置の現在値と目標値を割り出す新LCS

羽田・成田の首都圏空港容量の拡大、およびオープンスカイ政策の進展により、国際線ビジネスにおける航空会社間の競争が激化。貨物収入の増加や、燃費そして輸送効率の向上はビジネスの強化と切り離せなくなっています。

そうした中、「より多くのお客様や貨物を安全に定刻通りに目的地にお届けするという使命を果たすため、私たちANAのスタッフは日々最善のオペレーションに注力しています」と述べるのは、ANAのオペレーション統括本部 オペレーションサポート部長 中里豊氏です。

搭乗するお客様や搭載する燃料、貨物の量や配置の仕方により、航空機のフライトにおけるパフォーマンスは変わってきます。

「機種ごとにエンジンの推力は決まっています。機体の全重量が重くなればなるほど、離陸に必要な距離は長くなります。約2500mと比較的短い羽田空港国際線の滑走路では特に機体の重量面が制約となります。そこでお客様の搭乗位置や貨物の配置などにより、機体の重心をやや後方寄りにすることで、離陸時に機首を引き起こしやすくし、滑走距離を短くする工夫が求められます」と中里氏は説明します。

重心の位置は、搭乗するお客様の数、積載する貨物の配置や燃料の量などで前後させられますが、航空会社の規定で主翼下の限られた範囲内に収めることが決められています。その範囲内において、フライトのパフォーマンスを高める最適な重心位置と現在の重心位置との乖離(かいり)を算出するシステムがLCSです。

LCSが提示する最適な重心位置に近づけるように、お客様の搭乗位置や貨物、燃料の搭載を行えば、安全性を確保した上で離陸に要する距離を短くし、より高い輸送効率を実現できます。

出発前になると、お客様や貨物、燃料などに関するデータを把握する各担当部署からデータを入手し、LCSに入力していきます。LCSはそれらを基礎データとして、ターゲットとすべき最適な重心位置と実際の重心位置との乖離を再計算・表示します。

ただ、長年同社が利用してきたLCSは、ホストコンピューターの一機能として実装され、ユーザー・インターフェースは文字ベースのアスキー画面でした。LCSを操作するオペレーターは、入力するデータを他のシステムの画面上から読み取って手書きでメモし、それをLCSに手入力することも珍しくありませんでした。データの入力に手間取れば、その分、最適な重量・重心位置の算出に時間を要します。

同社がLCSの更改に踏み切った大きな理由は、この手作業による入力を自動化させること、さらに最適な重心位置がグラフィカルに表示する画面を現場のオペレーターに提供すること、そして航空機のお客様の搭乗位置、搭載物の重量予測や配分、割り付け方法シミュレーションなどに対して、さらなる自動化を進めることで最適なロードコントロールの支援を実現することにありました。

Transformation

機種共通の機能をコンポーネント化して開発期間を短縮。ユーザー・インターフェースも刷新

今回の開発にあたって日本IBMでは、重量・重心の計算のような品質と精度が求められるコアとなるロジックの設計は日本国内で行い、ユーザー・インターフェースやロジックの開発作業は主にIBM China GDCを活用する分業体制により、開発生産性を高めました。

国内チームは、オープン化にあたって顧客の要望を入念にヒアリングすることからスタート。単に、デホストにともなうソースコードの再コーディングにとどまらず、従来からのLCSの基本機能を踏襲しつつも、ユーザー・インターフェースに関する新たな現場の要望や経営サイドのニーズを把握しました。

特に、経営面の要望として、これまで新機種ごとに開発していたLCSの開発期間およびコストの圧縮を求められました。そこで、オブジェクト指向の設計開発手法を採用し、機種別に開発していたLCSの計算ロジックを抽象化。マスターとなるコンポーネントを雛型とし、それを派生させる形で新機種への素早い対応を実現しました。新しい制約が追加されない限り、マスターとなるロジックのパラメータを変えるだけで新機種に対応したシステムを非常に短いサイクルでリリース可能にしたのです。

「日本のメンバーには、どのようなコンセプトで開発するか、といった最初のアイデア出しからサポートして頂きました。実際に空港に足を運んで頂き、現場の求める要件の洗い出しを行いました。なお、GDCのある中国・大連は、当社の海外事業所もある場所で土地勘があり、現地スタッフの人柄もよく知っています。その上で、開発にあたって齟齬(そご)がないように私たちもユーザーとしてGDCで直接スタッフに要望を伝えたりしました。国内外を問わず、設計段階に重点を置き日本IBM側のプロジェクトチームとコミュニケーションを円滑にできたことが、開発期間を短縮できた理由だと考えています」と中里氏は語っています。お客様を交えて要求仕様を精査することで、重複した処理や実装も回避され、効率の良い設計と開発が進められました。

Benefits

データ入力を自動化し、算出までの時間を短縮。現場のオペレーションを効率化し、輸送効率を向上

オープン化されたLCSは、お客様や貨物、燃料に関するデータを入力・蓄積する他のシステムと、開発したインターフェースを介して、システム間での自動的なデータ連携を実現しています。担当者の手作業によるデータ入力が不要となりました。

新LCSは、自動入力される、刻一刻と変化するデータをもとに現在の機体における重量・重心位置を算出。それと同時に目標とする重量・重心位置との乖離を瞬時に出します。

オペレーターはそれを見ながら、現在値と目標値の乖離が小さくなるようにお客様の搭乗位置や貨物の積み込みなどの指示を出します。両者の値が合致すると、画面には目標達成を示すマークが現れます。加えて新LCSでは、航空機の搭載物の重量予測や配分、割り付け方法シミュレーションなどに対して、さらなる自動化を進めました。これが安全性をクリアした上で、輸送効率を高めることに貢献しています。

さまざまな入力データ、複数の制約条件のもとで最適解を導き出す複雑な計算ですが、日本IBMの開発チームは、計算ロジックを整理・共用化するなど工夫を重ねました。またソースコード自体をシンプルに見通し良く刷新したことで、処理を高速化し、結果はタイムラグなく表示されるようになっています。

さらに、ユーザー・インターフェースはWeb画面に統合され、Ajax技術を組み合わせることでより計算結果の表示や閲覧が直感的になりました。ターゲットとする重心位置への合致を示すマークをはじめ、グラフィカルな画面に結果を一目で分かるように表示することで、出発前の限られた時間内に従来にも増して担当者が的確な判断を下せるため、オペレーションの安全性の向上と効率化が図られました。

なお、新LCSは、従来のシステムと異なり、機種ごとに一からプログラム開発する手間がかかりません。特に、ボーイング787のような従来と大きく変わる機体でも柔軟に対応できます。ANAが就航する羽田-フランクフルト路線を可能にした一つのカギが、このLCSにありました。

 

将来の展望

日本IBMが培ったグローバルな知見に基づく、短期間での安定したシステム開発に期待

航空機の性質より、規定の範囲内で重心が後方にあるほど、燃費が良くなることが知られています。

「今後もより燃料消費を抑えつつ、さらに搭乗されるお客様の数、また積み込める貨物の量を増やしたいと考えています。そこで今回刷新したLCSが武器になるだろうと考えています。これまでは重心や重量と、輸送効率や燃費の関係を定量的に把握することが難しかったのですが、新LCSではそれが可能になりました。新LCSを導入した国際線では今年4~7月の間に、約4,000万円のコスト削減につながっています」と中里氏は述べます。

「日本IBMはグローバルなビジネスを展開しています。また、航空業界に限らず、多くの業種業界での豊富なノウハウや経験を培っています。その知見を今回、ANAでは活用することができました。今後は、上流工程での戦略策定~プランニング、ソリューションの調査と提案、低コストで安定的なシステム調達などに関したグローバルな視点での支援に期待を寄せています」(中里氏)

 

お客様情報

2012年1月、羽田空港国際線旅客ターミナルからは初となる、ドイツ・フランクフルト空港までのノンストップ便が飛び立った。就航したボーイング787型機は、全日本空輸株式会社がその開発から携わった環境性能や経済性に優れる最新鋭の機種。航空会社としては世界最多の66機を発注し、更なるネットワークの拡充に活用していく。

 

テクノロジープラットフォーム

サービス

Solution Category

  • IBM Hybrid Cloud
    • T&T: Operations Planning and Optimization