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マリコパ郡高等裁判所書記官
多くの組織が1日にサービスに関して受け取る問い合わせの数は、何千件にものぼります。それだけでもかなりの負担ですが、世界的なパンデミックでこの負担はさらに重くなり、基本的なコールセンターでの基本的リクエストの処理はますます困難になっています。米アリゾナ州マリコパ郡高等裁判所書記官も、まさにこうした状況に直面していました。
アリゾナ州フェニックスにある書記官事務局では、マリコパ郡の司法制度、法曹界、一般市民向けに記録管理と金融サービスを提供しています。27の市町村にまたがる、人口約460万人の同郡の住民は、緊急の依頼、結婚許可申請、裁判所記録へのアクセス、パスポート更新申請といったさまざまなサービスを求めて事務局に連絡してきます。マリコパ郡にとって、職員がこれらサービスへのアクセスを公平かつ適時に住民に提供でき、役所に職員が常駐しなくてもこうした要求が滞らないことは、不可欠な要素です。
ただ、職員はこれほど多数の要求を処理するために、複雑な日常業務を棚上げして、電話の応答、画一的な問い合わせへの対応、担当部署への電話の転送にほとんどの時間を費やしていました。処理時間の増大に伴い、利用者と職員の不満も高まっていきました。そこで事務局では、新たなテクノロジーを導入して利用者サービスを一元化し、利便性を向上する目標を立て、書記官事務局でイノベーション・AI担当主任を務めるAaron Judy氏が事務局のモダナイゼーションを指揮することになりました。
Judy氏は、前職であるエンタープライズ・テクノロジー局(OET)の在籍時に、チャットボットを基盤とするインテリジェンス・システムの開発について検討し始めました。間もなく、チャットボットの研究にはまり、趣味としてedX(公開オンライン・コース・プロバイダー)でビルド・コースを受講し始めました。やがて、ChatOpsを導入して、趣味を仕事に活かそうと決断しました。
「私が所属していたチームは各地に分散している他のメンバーと、リモート会議や非同期コミュニケーションを通じてつながっていました。コミュニケーションにはSlackを使っており、ChatOpsに活躍の場を与えるチャンスでした」とJudy氏は説明します。「手始めに、Slackチャットボットを使い始めました。ある時点で同僚からエンタープライズ向けにできないかと尋ねられましたが、私が手掛けた小規模のチャットボットでは、必要な規模まで拡張できないと悟りました」
Judy氏は部署を異動し、高等裁判所書記官のイノベーション・AI担当主任という新しい役職に就きました。同時に、書記官事務局向けにサービス・エージェントの構築を継続するよう依頼され、まず、対話からアクションを自動化する方法を探り始めました。当時、事務局が対応する通話件数は月間3万3,000件に達していました。そこで着信数の減少と利用者満足度の向上を目標に掲げました。
Judy氏は次のように説明します。「利用者が話す内容を理解し、重要な特徴を抽出して、対応が図れる自然言語を使ったツールが必要でした。そのため作成したのが、警告を受けたら、Slackのメッセージだけで、データセンター間で着信を移動できるチャット・エージェントでした。ツールの実力を目の当たりにして、誰もが『利用者サービスの向上に活用できないか。利用者がサービス・デスクから自力でサービスを使用可能にできないだろうか』と考えるようになりました」
Judy氏は、書記官事務局にはインテリジェントな対話ベースのセルフサービス型ソリューションで、既存インフラストラクチャー内に組み込み、複数のコミュニケーション・チャネルで利用者と職員をサポートするものが必要だと気づきました。すると、IBM対話型ソリューションの構築に関するIBM eDXコースのことを思い出しました。サービス・デスク用チャットボットによく似ています。
「設計パラメーターの1つに、ソリューションは作成者より息の長いものでなければならないというものがあります。そのためには、進化するソリューションを作成する必要がありました。一般人に製品を渡して、『どうぞ、こちらがインテリジェント・エージェントです。保守と学習はお任せします』と言うわけにはいきませんから」とJudy氏は振り返ります。「もうダメだとあきらめかけた時に、IBM watsonx Assistantを見つけました。IBMテクノロジーを使えば、技術にあまり関心のない人にもこのツールを簡単に移行できることがわかりました。専門家でなくても、運用し続けることができるのです。
書記官事務局は、IBM watsonx Assistantと、クラウドベースのコンタクト・センター用ソフトウェアTwilio Flexを併用して、オムニチャネル型コンタクト・センター用統合ソリューションを構築し、3カ月足らずで本番稼働にこぎ着けました。チームが「Cleo」と名付けたこのAIソリューションは、人間のエージェントと連携して働き、マリコパ郡住民をより効果的にサポートしています。Cleoは電話、ウェブ・チャット、テキスト、ソーシャル・メディア・チャネル、Eメールなどのオムニチャネル型コミュニケーションを通じて自然言語を使用するほか、AlexaやGoogleなどの音声技術と組み合わせることもできます。
書記官事務局は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るう頃には、以前収集したインサイトを使用して、住民にどのサービスをリモートで提供し、ウェブサイトでどの活動を扱うかを判断できるようになっていました。
「実際にサービスを立ち上げたのは、事務局がロックダウンされるタイミングと重なりました。自宅待機が指示され、ロックダウンは現実となっていました」とJudy氏は切り出します。「そこで私は呼びかけました。『勇気を出して、始めてみよう。少なくとも、全員が外出できない間、より重要なツールとなるだろう』と。そして実行に移したのです」
Judy氏率いるチームは、バーチャル・アシスタント「Cleo」の高度な性能のおかげで、リアルタイムに変更を加え、素早く方向転換することができます。Cleoには151のインテントと3,500のノードに加え、「その中間にある無数のエンティティ」(Judy氏)が搭載されています。エンティティは裁判所で勤務する職員から有機的に収集されたものです。
Judy氏は次のようにこの過程を語ります。「最初のステップとして利用者に伝えることができる内容を記録したQ&AワークシートのPDF版を裁判所の職員全員に配りました。職員は裁判所制度の構成員であるため、法的助言を与えているという誤解を招く発言も、偏見を与える発言も避けなければなりません。単なるよくある質問ツールも望みませんでした。Cleoは接続するとサービスを提供するツールであり、利用者から施設への道順を尋ねられたら、どこから来るのかを理解し、待ち時間が短い場所を提案します」
良い結果は自ずと明確になります。IBM watsonx Assistantのこれまでの実績に目を向けると、2023年だけでも1万5,569件の対話を処理し、完結率は95.78%に達します。これによりエージェントの通話時間は100時間節減したことになります。Cleoは利用者からのほとんどの問い合わせに回答できるため、エージェントは他の仕事に取り組むことができ、電話に出るためにタスクを一時停止する必要もありません。
Judy氏は次のように指摘します。「何より重要なのは、情報を拡散、伝達できるという点です。特に新しいポリシーでは、以前は選択できなかったメールでもリクエストを受け付けることができるようになっています。利用者は、具体的ニーズに合わせてリアルタイムにすぐ回答が得られるようにもなっています」
Judy氏はさらに説明を続けます。「行き止まりがなく、体験が連続することも設計パラメーターの1つでした。利用者がヘルプを得るために代表番号にかけ直さなければならない仕組みであれば、当然ながら出だしから利用者は不満を抱きます。watsonx AssistantとCleoが利用者の問い合わせに回答する潜在能力には誰もが魅了されました」
利用者と対話を始めたものの、万が一サポートできない場合には、Cleoは通話をサービス・センターに転送し、人間のエージェントが電話を取り、対話を続けられるようにします。Cleoに対話履歴が保存され、エージェントにスムーズに引き継げるようになっているため、利用者は説明を繰り返す必要はありません。
Judy氏率いるチームは将来の大まかな展望として、IBMとの関係を継続し、利用者層の拡大、チャネル戦略の強化、Cleo操作の洗練に取り組む予定です。また、書記官事務局ではIBMとの提携を人事分野に拡げて、IBM watsonx Assistantを当該分野に特化したインスタンスを組み入れることを望んでいます。
Judy氏は次のように締めくくります。「Cleoの導入に伴い、電話では不可能な住民の問い合わせに対応するために、多数の新しいチャネルが利用可能になりました。電話での問い合わせではテキストでは処理できない独自のやり取りがあることがわかっています。そのため、こうした利用者に影響を及ぼすのでなく、より多くの人が司法にアクセスできる方策を講じました。現在、音声チャネルから問い合わせに対応できるように、Cleoの音声体験の向上に取り組んでいます。今後も引き続き、多数の改良に取り組んでいきます」
アリゾナ州マリコパ郡にある高等裁判所書記官(ibm.com外部へのリンク)は、裁判所関連の記録管理と金融サービスを先進的かつ効率的に提供することに重点を置いています。司法制度、法曹界、一般市民が、正確な裁判所記録とサービスに公平かつ適時にアクセスできるようにすることが業務の中心となっています。
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2023年9月に米国で作成。
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