Ranjan Sharma氏の乗るタクシーが、猛スピードでインドのベンガルールの空港を後にする。車中のRanjan Sharma氏の心もまた、タクシーのように猛スピードで動き出していた。Ranjan Sharma氏がCIO兼サプライチェーン責任者を務めるBestseller India社は、インド国内で最も急成長しているファッション小売業者である。トップ・ブランドである同社の売上高は減速してしまったのか、その謎を解き明かそうとRanjan Sharma氏は躍起になっていた。

2019年の夏の時点で、Bestseller India社の業績は全体として好印象でした。11年前の創立以来、同社は年平均50%以上の成長を達成してきました。対象顧客はインド全体の1500以上の店舗で、Jack & Jones、Only、Selected、Vero Modaなどの人気のファッション・ブランドから仕入れて販売していました。

しかしその後、急成長しているユース・マーケット向けにデザインされたBestseller India社のトップ・ブランドである「Only」が向かい風に直面することになりました。「突然売上が落ちたとしか言いようがなく、その理由を何も見い出せませんでした」とSharma氏は話しています。「私たちは困惑し、なぜ売り上げが下降しているのか、その理由を見つけ出す必要がありました」

Sharma氏と彼のチームは、その答えを得るべくムンバイからインドのITの首都と言われるベンガルールに飛び立ちました。「私たちはパートナーを探していました。新しいテクノロジーを導入できるだけでなく、ファッション・スペースのこともよく理解しているパートナーです」とSharma氏は語ります。

テクノロジーはともかく、インドのファッション業界を理解するのは一筋縄ではいきません。 人口約14億人のインドには、何百もの方言、宗教、民族グループがあります。消費者の好みは町によって著しく異なります。この規模でマイクロ・セグメント化された市場を把握することは、経験豊富な製品プランナーやファッション・マーチャンダイザーにとってさえも困難です。

Bestseller India社は、「ファスト・ファッション」のリーダーでデンマークに拠点を置く世界的な小売業者であるBestseller社の子会社です。「ファスト・ファッション」は、ランウェイで見るような流行の衣類をハンガーラックにかけられるように身近な衣類として、数日または数週間という短いサイクルでトレンドを動かすダイナミックなビジネス・モデルです。ファスト・ファッションでは、新しいデザインがヒットすれば急激に大量に売れます。しかし、新しいデザインが消費者の目に止まらないと、在庫は縮小され、一部はごみの山で終わってしまいます。実際に、世界のファッション業界全体では衣料品の20%が最終的に売れずに終わっています。

またアパレル製造業界は、原材料、水、エネルギーの主要消費者でもあるのです。例えば、1枚のコットンTシャツを生産するのに、最大で4リットルの水が必要です。消費者の需要をデザインと生産に密接に合わせることで利益をあげながらも、ファッション業界は環境面での持続可能性にも対応しなければなりません。

ところで過去を振り返ると、ほとんどのファッション小売業者は、過去の経験と「直感」的な衝動を頼りにして、製造するデザイン、生産する量、商品を展開する地域を決める傾向があります。しかし、Bestseller India社の売上トップ・ブランドですら業績予想を下回るという厳しい結果を受け、その根本的な理由を分析する中で、このような直感的戦略でインド市場の多様性とダイナミズムに対応するには限界があることが明らかになりました。

Sharma氏はベンガルールで別の会議に参加したときに、デザイナーやバイヤーがファッション・トレンドをより正しく予測し、適切な時期に適切な製品を提供するためには、テクノロジーにおける競争上の優位性が必要だということが分かりました。そして氏は最終的にIBM Research Laboratoryのエキスパートに相談を依頼し、「IBMは、AIを使用したデータから洞察を得ることで、私たちのこの問題を解決するサポートができるのではないか」という考えに至りました。

インドのファッション業界で、AIを活用した

最初の

ファッション・プランニングとトレンド予測のツール

AIソリューションは、現在さらに

3件の

ブランドへ拡大中

イノベーションのワープとウェフト

IBMはITエクスペリエンスと小売業界への鋭い洞察を提供してくれると確信したため、Sharma氏とBestseller India社のチームは、すぐにサポートを依頼する範囲を拡大しました。Sharma氏は、Onlyブランドの売上の件に加え、AIを活用した意思決定の競争上の優位性を利用することによって、ビジネス・プロセスを変革する機会になると確信しました。

IBMコンサルティングとの最初のIBM® Cognitive Enterpriseイノベーション・プロジェクトで、Bestseller India社は非常に野心的な目標を設定しました。AI機能を備えた全く新しいオーダーメイドのプラットフォームを開発することで、シーズン前のデザイン、生産計画、トレンド予測をサポートし、AIテクノロジーで従業員を強化し、プロセスをモダナイズする計画を立てたのです。「これは私たちにとって、大きな変化でした。プラニング・チームが、直感を頼りにした情報から、AIによって提供される情報を取り入れる良い機会になり、長年の願いがかないました」と、Bestseller India社のビジネス・ソリューション責任者のSameer Ambalkar氏は言います。

Bestseller社のテクノロジーを表示するノートPC

同社と従業員に対するこのような大きな変化をサポートするために、Bestseller India社は革新的なプラクティスや新しい作業方法を導入できるエキスパートとのコラボレーションに熱心に取り組みました。そのため同社は、従業員、プロセス、テクノロジーを統合しビジネスと企業文化を変革するための確かな実績を持つ開発フレームワークであるIBM Garageの採用を決定しました。IBM GarageのEnterprise Design Thinking™ Workshopの期間中、IBMとBestseller India社のエキスパートは共創のためのロードマップを作成し、まずはユーザーがテクノロジーと対話する方法についての調査から取り掛かりました。

「私たちのコラボレーションは、デザイナー、マーチャンダイザー、バイヤー、ブランド責任者、ITエキスパートなど、実際にこのツールを使用するチームの声を聞く作業から始まりました」と、Bestseller India社のビジネス変革マネージャーのZian Lakdawalla氏は話します。「デザイナーとバイヤーのために作り出されたペルソナがあり、こうしたすべてのアイデアがプロジェクトを発展へと導きました」

IBM Watson®のAIツールが、新しいオファリングに最適の製品を予測し、各店舗に適した製品の組み合わせを決定し、サプライチャーンの効率性を向上するサポートのために使用されました。「IBM Garageは、実用的で素晴らしいモデルです」と、Sharma氏は話しています。「様々なテクノロジーやドメインからより優れたソリューションを獲得して、現在のリソースを最大限に活用します」

このプロジェクトの焦点は、主要なビジネス・プロセス向けにインテリジェントなワークフローを作成し、AIを搭載したツールを使用してリアルタイムのデータと洞察にアクセスすることで、従業員がよりスマートに働き、時間を効率的に使えるようにすることでした。「IBMはデザイン・プロセスにテクノロジーを導入する必要があると提案してきたのですが、それは衝撃的な『アハ』体験でした」と、Bestseller IndiaのOnly ブランドのProduct ManagerであるMukta Srivastava氏は言います。「今ではデザイナーはファイルやデータを管理する代わりに、より価値の高い仕事に時間を割くことができるようになります」

インド経済の巨大な規模と個々の市場の多様性は、開発チームにとってはかなりの難題でしたが、IBM Garageのフレームワークにとっては対処可能な案件でした。「地域によって異なる需要があり、このことを理解することが私たちにとって重要な鍵でした」とLakdawalla氏は言います。「私たちは、このツールが優れたセル・スルー率の予測や、投資を最大化するために追跡すべきトレンドの見きわめに、どれほど効果的であるのかを確かめたいと思いました」

ソフトウェア開発のサポートに、Bestseller India社はIBM Cloud® Kubernetes Serviceを選択しました。これは可用性と柔軟性を最大限に高めるというBestseller India社の条件にあったマネージドPlatform as a Service(PaaS)のオファリングです。

数カ月の反復作業を経て、Bestseller India社とIBM Garageのチームは、このプラットフォームを対象とした61のユニークな概念をブレーンストーミングしました。これはFabric.aiと呼ばれ、インドのファッション業界初のAIを活用としたツールとなりました。

成功のパターン

最初のバージョンのFabric.aiには、7つの中核となるAIモジュールの包括的なセットが、デザイナー、バイヤー、およびマーチャンダイザー向けの6つの特定のツールとともに含まれています。ユーザーが先シーズンのデータにアクセスする場合も、今後使用するために更新されたデータにアクセスする場合も、Fabric.aiは製品がどの程度良い成果をあげるかについて即座にコグニティブ分析を実行できます。

ユーザー・エクスペリエンスは、使いやすいビジュアル・フォーマットで販売情報と製品情報を表示するインターフェースによってさらに強化されました。オリジナルの設計概要では、Fabric.aiは当初はOnlyのアパレル部門だけに焦点を当てて設計されていましたが、同プラットフォームには将来的にJack & Jones、Vero Moda、その他のブランドも取り扱うことができる拡張性がありました。

「このプラットフォームは、ファッションを理解するという観点で、よく考え抜かれた堅固なものです。このプラットフォームに関わるすべてのユーザーが、より予測可能かつ簡単なフォーマットでデータを取り組むことができます」とAmbalkar氏は話しています。「このモデルは、このプラットフォームにおいて非常に重要で、IBMはその実現をサポートしてくれました」

農場にいるインド人農民

このツールを使用するデザイナーは、先シーズンの製品と新製品を比較して視覚的な類似性を発見できる能力を評価しました。「Fabric.aiは両者に関連する情報を図入りで提供してくれるので検討がしやすく、デザイナーにとってはスプレッドシートを見るよりもずっと使いやすくなっています」と、Srivastava氏は言います。「顧客の要望にもっと寄り添った製品を容易に提供できるようになるだけでなく、ボタンをクリックするだけで過去のパフォーマンス情報が見られるようにもなります」

またFabric.aiは、小売店舗レベルでの特定の商品の販売実績も詳しく表示できます。「Store Viewのオプションを使用すれば、各店舗に適した品ぞろえが理解できるので、バイヤーとマーチャンダイザーのチームに貢献してくれます」と、Lakdawalla氏は話しています。「このツールのメリットは、どの製品が次のシーズンに成功するかを予測しやすくなるだけではありません。このツールでサプライチェーンに焦点を当てることで、現在の製品を売り切ることを優先し、在庫の山を確実に回避できるのです」

新型コロナウイルス感染症パンデミックのために多くの店舗が閉鎖され、小売業界の大きなセグメントが保留状態となる中、Fabric.aiを導入した同社は、通常のビジネスの状況が再開したときに、最初に優位に立てるようになります。「優れた製品バリエーションの展開を強化するために、私たちはどこかの段階でAIテクノロジーの使用を開始する必要がありました」とSrivastava氏は言います。「IBMと提携することで、私たちは実りあるジャーニーを経験しました。今後の私たちの製品展開や顧客体験向上に、大きな成果を生み出すことでしょう」

未来のファブリック

2019年に、Bestseller社は持続可能なファッションの発展を実現するために設計された長期的な企業イニシアチブである「Fashion FWD」を立ち上げました。この戦略は、サステナビリティーが継続的なビジネスの成功の前提条件であるという信念に基づいています。

サステナビリティーは設計段階から開始され、デジタル設計プロセスによりクリエイティブ・プロセスの開始時点から無駄を最小化することが可能です。デザイナー向けに最適化されたFabric.aiにより、Bestseller India社はバリュー・チェーンの最前線でより持続可能な素材を選択するための情報を提供するデジタル・プラットフォームを活用しています。

またFabric.aiは、製品プランナーにも環境フットプリントに配慮した衣類の生産に関するデータ駆動型の視点を提供しています。

Bestseller India社のFabric.aiの開発は、「素材生産から店舗まで」のサステナビリティーに関連するインドにおける他の重要な「Fashion FWD」サプライチェーン・イニシアチブが起こった時期と一致しています。2020年8月、Bestseller社は、化学殺虫剤や肥料を使わずに栽培する有機綿1,500トンを生産するために、インドの2000の有機綿栽培農家との契約書に調印しました。これは300万枚のTシャツを生産するのに十分な数です。

世界中の多くの国と同様に、インドは新型コロナウイルス感染症の病気やパンデミックで厳しいダメージを受け、パンデミックはBestseller India社が顧客にサービスを提供していた小売業マーケットプレイスを大混乱に招きました。しかしIBMのクラウド・ベースのGarageメソッドは、開発とのコラボレーションをバーチャルでサポートしていたので、Bestseller India社の多くの従業員はパンデミック期間中にリモートで作業を行っているときでも、Fabric.aiで開発を継続していました。

「私たちは、チームが必要とするサポートを提供し続けています」とLakdawalla氏は言います。「それは時代の進歩と共に増大してくでしょう。このプロセスを前進させるには、最大のゲーム・チェンジャーになることだと感じています」

「現在の状況を考えると、これは単なるニーズではなく、マスト・アイテムです」と、Sharma氏は語ります。「店舗と倉庫は変わりつつあります。現在と未来の問題を解決してビジネスを再構築できる、そのような新しいビジネス・モデルをどのようにして作ることができるのでしょうか。これは、引き続きIBMと連携して取り組んでいく問題です」

Bestseller社のロゴ

Bestseller India社について

ムンバイに拠点を置くBestseller India社(ibm.com外部へのリンク)は、250の同社専用アウトレットを運営し、また、1500 以上の外部店舗を通じて同社が取り扱うブランドを販売しています。インドに3,500 人以上の従業員がおり、デンマークを拠点とする親会社Bestseller社の一部です。1975年に創設された民間企業のBestseller社は、世界中の70の市場で2,800ののチェーン店と1万 2000以上の海外マルチブランド店を運営しています。

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2020年12月

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