プラスチック廃棄物の持続可能な市場づくりに貢献
廃棄プラスチックを無くす国際アライアンスは、持続可能性に関する意思決定のためのプラットフォームを構築しました
圧縮された色付きペットボトルの廃棄物

Plastics Europeによると、2020年に世界では約3億8,000万トンのプラスチックが生産されました。 これは、地球上の男性、女性、子ども1人当たり100ポンド近い量に相当します。 プラスチックがどれほど日常生活に浸透し、世界経済のあらゆる分野に不可欠なものであるかは、統計を見るまでもありません。

人々が運転する車、キッチンの電化製品、そして世界とつながるために使用するデバイスの中に使われています。 おそらく、プラスチックの最も顕著な影響、そして世界中で最大の使用カテゴリーは、包装材です。 プラスチックには、軽さ、耐久性、多用途性など、多くの有益な特性があるため、世界中で包装商品の事実上の選択肢となっています。

しかし、経済的・機能的な利点がある一方で、プラスチックを使用した包装材が継続的に増えることによって、特にペットボトルや袋のような「使い捨て」パッケージの廃棄量が膨大に増えています。 簡単に言えば、プラスチック廃棄物には封じ込めの問題があります。 毎年、何百万トンものプラスチックがリサイクル施設を迂回して環境中に流出し、埋め立て地や世界中の海洋に流れ着き、そこで何十年も残留する可能性があるのです。

プラスチックごみ問題の深刻さを認識した各国政府や、非政府組織(NGO)、企業が、軽減のために多様で革新的な計画を提案しています。 2019年、プラスチックの製造、使用、販売、加工、回収、リサイクルを行う企業など、プラスチック・バリューチェーンの主要なプレーヤーからなる多様なグループが協力し、廃棄プラスチックを無くす国際アライアンスを結成しました。 このアライアンスには65以上の団体が加盟しており、その世界的なメンバーは、環境へのプラスチックの流入を止め、すでに起きている被害を軽減することを目的としたプロジェクトに10億米ドル以上を拠出しています。

数百万の投資

 

5年間で、サステナビリティー投資のROIが数百万ドル増加する見込みです

厳格なプロセス

 

厳格なガバナンス・プロセスによって投資リスクが軽減しました

インフラストラクチャーとイノベーションに投資することで、プラスチックのバリューチェーンの利害関係者は、世界中の地域の取り組みを促進する役割を果たすことができます。 PRISMは、データ・ギャップを埋める支援をすることで、このビジョンを実現に一歩近づけるのです。 Jacob Duer氏 プレジデント兼最高経営責任者 廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス
プラスチック漏出の代償

2020年の夏の初め、アライアンスのプロジェクト担当VPとして採用されたNicholas Kolesch氏は、組織の本拠地であるシンガポールに到着したばかりでした。 この晴れた週末、Nicholas氏は有名なマングローブ林を見に、家族を海岸線に連れて行きました。 清潔さと秩序が等しく有名な都市国家でも、プラスチック廃棄物がマングローブにしがみついていました。マングローブの根は節があるため、Nicholas氏の言葉を借りれば、プラスチックにとって「完璧な罠」でした。 「これほど美しい場所が、文字通りプラスチック廃棄物で窒息しているのを見るのは悲しいことでした」と同氏は言います。 「それが海から来ていることはわかっていましたし、都市廃棄物システムのない場所から来ていることもわかっていました」

Nicholas氏はこの短い逸話の中で、プラスチック・バリューチェーン(原材料の採取からプラスチックの消費、廃棄に至るエコシステム)におけるさまざまな「漏れ」が、いかにプラスチック廃棄物を世界的な問題にしているかを効果的に捉えています。 彼が見たそのプラスチックは、世界中のほとんどの海洋廃棄物と同様に、数十キロ、数百キロ、あるいは数千キロ離れた大きな川からやって来た可能性が高く、そこは、プラスチック廃棄物処理施設が不足しているか、地域の処理量に追いつかない「ホット・スポット」都市でしょう。

目標を定めた行動には、信頼できるデータが必要

問題の範囲を認識することはよい出発点ですが、それを解決するための行動とはどのようなものでしょうか。その多くは、投資に帰着します。少し例をあげれば、リサイクル施設などの物理的インフラ、革新的な技術、清掃活動、教育プログラムなどへの投資です。共同で組織化された行動をとることを目指す、世界中のプラスチック業界のさまざまな関係者にとって、データは取り組みの指針となる重要なものです。 彼らは、世界中のプラスチック・バリューチェーンのどこで最大の漏出が発生しているのか、またその理由は何かなど、全体像に関する疑問に直面しています。

しかし、プロジェクトの実現可能性を検証したり、例えば施設の理想的な規模、範囲、場所などを決定したりするために、地域レベルでの詳細を検討する必要もあります。 これらの分析に必要な種類の情報は、既存のプラスチック廃棄物の量や、ごみ処理施設から地域の態度や行動パターンにまで至り、見つけるのは難しく、幅広い合意を形成することはさらに困難です。 Nicholas氏とアライアンスの同僚は、この状況を「データ・ギャップ」と呼んでいます。

 

「プラスチックのバリューチェーンに関連するデータ・ソースは世界中に文字通り何千もあり、その数は新しい研究が発表されるたびに増え続けています」とNicholas氏は説明します。 「しかし、プラスチック廃棄物の定義方法や消費量の測定方法など、データ・セットやデータ収集方法全体で一貫性が欠如しています。 これは、プラスチックの漏出を軽減するためにリサイクル工場をどこに建設するかといった大規模な投資決定が、さまざまな基準で選択的に入手可能な情報に基づいて行われていることを意味します」

これは些細な問題ではありません。 すべての投資と同様、グリーン・インフラへの投資にはリスクとリターンの両方が伴います。 プロジェクトに資金を投入する前に、利害関係者には完全で信頼できる情報が必要です。 完全とは、意思決定を行うのに十分なデータがあることを意味します。 信頼できるとは、データの出所、および関連する想定や注意事項が明確で追跡可能であることを意味します。 どちらかが欠けていると意思決定が滞り、行動への直接的な障壁となります。

プロトタイプへの近道

広範囲にわたる世界的なプラスチック・コミュニティーの中で、アライアンスはその役割を行動のまとめ役と定義しています。 そのような立場で、組織はメンバーを招集し、共同の意思決定を行います。 そして同様に重要なことは、協力をより効率的かつ実りあるものにするためのツールを提供することです。 2020年後半、アライアンスはデータ・ギャップを埋めるために行動を起こすことを決めました。

それは突然決まったわけではありません。それまでの数カ月間、アライアンスのリーダーと主要メンバーは、データをまとめる一種のハブ、つまりグローバル情報プラットフォームの構築についての構想を何度も議論しました。 データ品質と一貫性を確保するために、彼らは、システムに取り込まれるデータ・ソースを厳密に制御するフィルタリング・システムを思い描きました。 そして、利害関係者にとってのデータの価値を高めるために、分析機能を組み込むことになります。

 

上層部の会議の過程で、アライアンスの主要創設メンバーであるDow Chemical社の最高経営責任者(CEO)は、IBMの当時のCEO、Ginni Romettyにこの問題を提起しました。 まもなく、Nicholas氏と他のアライアンスのリーダーは、IBM® Garageのブレーンストーミング・セッションに参加しました。 IBM Garageは、人、プロセス、テクノロジーを結びつける、トランスフォーメーションのためのフレームワークです。シンガポールを拠点とするチームを率いたのは、持続可能性問題に重点を置くIBMコンサルティング・パートナーのPraveen Hariharanです。「このプロジェクトに参加したとき、チームを集め、実用的なプロトタイプ、つまり実際に触って感じることができるものを、数週間で完成させることができると伝えました」とPraveenは言います。「彼らは早いスタートを望んでいたので、私たちはIBM Garage方法論に従い、それをMVP(最小実行可能製品)にしました」

Praveenが説明するように、IBMとアライアンスは、アイデアの段階から構築、規模拡大まで、反復的なアプローチをとりました。 「IBM Garage方法論を活用することで、5つの地域にまたがる完全なリモートワークの環境でも、人間中心で成果第一のアプローチで、オープンでシームレスな一連のやり方を、まとめることができました」と彼は言います。 「デザイン思考、アジャイル開発、DevOpsのツールとテクニックを適用することで、新しい作業方法を活用して作業全体を行いました」

ギャップを埋めるPRISM

その取り組みの結果は、Plastic Recovery Insight and Steering Model(PRISM)として知られています。 IBMコンサルティングと共創されたPRISMは、関係者が集まり、協力し、革新するための安全な場所というアライアンスのビジョンを完全に実現しています。 このプラットフォームの中核機能は、世界中のあらゆる場所でプロジェクトの機会を分析し、優先順位を付けるために必要なデータとツールを関係者に提供することです。 その目的のために、PRISMではユーザーに情報を視覚的に提供します。プラスチックの漏出やごみ処理能力などの重要なデータを、詳細な地理レベルでヒート・マップの形式で表示するのです。

ビジュアル・マッピングは、特定の地域、国、都市の状況に関する高レベルのパラメーターを評価するためのフレームワークを意思決定者に提供するため、価値があります。 しかし、行動を起こすためのビジネス・ケースを作成するには、詳細で高品質なデータを掘り下げることが必須です。 アライアンスのアドバイザーで、PRISMプロジェクトを主導していたSabine Strnad氏が、IBMコンサルティングの開発したビルトインのガバナンス・プロセスをPRISMソリューションの最も重要な側面と見なしているのは、そのためです。

 

「ある報告書が発表されたとき、プラスチック廃棄物に関する標準的な報告方法がないということは、どのような種類のプラスチックが含まれているか、どのような調査が行われたか、何世帯を対象に調査が行われたかなど、細かな点でばらつきがあるということです」とSabine氏は言います。 「これらの違いを体系的に考慮しないと、データの信頼性が損なわれます」

PRISMプロセスの下で提案されているガバナンス構造は、ガバナンス評議会で構成されます。その評議会の役割は、PRISMの戦略的方向性を推進し、PRISMにどのようなデータを入れるか、どのような新しい機能や能力をPRISMに組み込むかを定義することです。 評議会内には、データ品質基準、ポリシーと方法論、およびテクノロジーに焦点を当てたさまざまなワーキング・グループがあります。

さらに、データ・セットをPRISMに取り入れる前に、対象分野の専門家からなるレビュー・グループがデータ・セットを調査して、基準を理解し、データにデータ品質スコアを割り当てます。 国連の持続可能な開発目標に取り組み、「グリーンウォッシュ」されたデータの侵入を警戒しているコミュニティーにとって、信頼は非常に重要であり、その信頼を築くために、この厳格なプロセスが役立ちます。

文字通りのデータ・ギャップがある場合、つまり投資決定を行うために必要なデータ要素が存在しない場合はどうなるでしょうか。これはよくある問題で、データポイントの欠落率は60%から90%以上と推定されています。PRISMの答えは、経済学と人口統計に関連する拡張データ・ソースとともに、機械学習アルゴリズムを適用してギャップを埋めることです。

 

PRISMは、 IBM® Watson Studioの機械学習アルゴリズムを使用して都市と地域の原型を作成し、それを使用して特定の場所でのプラスチック漏出量を推定します。 このアルゴリズムに含まれる重要な要素には、海岸への近さ、観光客の人数、流出係数、1人当たりのGDP、人口密度、プラスチック廃棄物管理に関する政策などがあります。

ニューラル・ネットワークに基づくアルゴリズムを使用して、アライアンスはインドやインドネシアなどの発展途上国にある多くの都市のプラスチック漏出情報をモデル化することができました。 クラウドネイティブ・ソリューションであるPRISMは、IBM® Cloud上で動作し、フロントエンドのポータルはIBM Cloud FoundryとKubernetesクラスタ上で動作します。 PRISMがIBM Cloud上で動作しているという事実は、データ量とユーザー数の増加に応じて拡張できることを意味します。

循環型経済の構築

アライアンスのプレジデント兼CEO(最高経営責任者)であるJacob Duer氏にとって、PRISMプロジェクトは、プラスチックの「循環経済」に必要なインフラを構築するというアライアンスの幅広い使命に適合します。 「2019年以来、私たちは世界各地でさまざまな実施段階にあるプロジェクトのパイプラインを構築してきました」とJacob氏は言います。「プロジェクトごとに、イノベーションとインフラストラクチャーへの投資によって、私たちはプラスチック循環に近づいているのです」

プロジェクトSTOPは、拡張性があり自立的なモデルに従った地域的な解決策が、プラスチック廃棄物の拡散という世界的な問題への対処にどのように役立つかを実証していると、Jacob氏は指摘しています。 「回収とごみ処理に投資することで、プラスチック廃棄物が環境に漏出するリスクを減らすと同時に、材料をリサイクルできるようにして、製造・使用・廃棄という直線的なモデルから循環型モデルへの移行を支援しています」とJacob氏は言います。「PRISMは、データ・ギャップを埋める支援をすることで、このビジョンを実現に一歩近づけるのです」

廃棄プラスチックを無くす国際アライアンスのロゴ
廃棄プラスチックを無くす国際アライアンスについて

シンガポールを拠点とする廃棄プラスチックを無くす国際アライアンス(Alliance to End Plastic Waste)は、業界が設立し、資金を提供する非政府・非営利団体であり、その目標は、特に海洋のプラスチック廃棄物による環境汚染を削減・回避する解決策を推進することです。 設立メンバーには、BASF、Chevron Phillips Chemical、Dow Chemical、 ExxonMobil、三菱ケミカルホールディングス、Proctor & Gamble、Shellが含まれます。 同アライアンスは、プラスチック汚染を削減し、リサイクルの取り組みを強化するために、2024年までに15億ドルを投資する計画を発表しました。 2020年9月の時点で、同グループは東南アジア、アフリカ、インドのプロジェクトに4億ドルを費やしたと報告しています。

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脚注

© Copyright IBM Corporation 2022. IBM Corporation, IBM Consulting, New Orchard Road, Armonk, NY 10504

2022年6月、米国で作成

IBM、IBMロゴ、ibm.com、IBM Cloud、IBM Garage、およびIBM WatsonはInternational Business Machines Corp.の商標であり、世界中の多くの管轄区域で登録されています。その他の製品名およびサービス名は、IBMまたは他社の商標である可能性があります。IBM の商標の最新リストは、Web の www.ibm.com/jp-ja/legal/copytradeで入手できます。

本書は最初の発行日時点における最新情報を記載しており、IBMにより予告なしに変更される場合があります。IBMが事業を展開している国であっても、特定の製品を利用できない場合があります。

記載されている性能データとお客様事例は、例として示す目的でのみ提供されています。実際の結果は特定の構成や稼働条件によって異なります。本資料の情報は「現状のまま」で提供されるものとし、明示または暗示を問わず、商品性、特定目的への適合性、および非侵害の保証または条件を含むいかなる保証もしないものとします。IBM製品は、IBM所定の契約書の条項に基づき保証されます。