日本IBMでは、社員が自らの持つ専門的な知識やスキルを生かして社会に貢献する「プロボノ 」の活動を行っています。2013年11月28日、同年6~10月に行われた第5期の活動の最終報告会を実施しました。

※プロボノ:ラテン語で「公共善のために」を意味するpro bono publicoの略称。各分野の専門家が、職業上持っている知識・スキルや経験などの専門性を活かして行うボランティア活動全般、またはそれに参加する専門家自身。

社員の提案から始まった、日本IBMのプロボノ

日本IBM(以下、IBM)のプロボノが始まったのは2010年のこと。個人でプロボノを体験した若手コンサルタントと、IBMの社会貢献プログラムである「 IBMコーポレート・サービス・コー(CSC) 」に参加した社員らが、自分たちのスキルと経験を業務だけでなく社会のために還元するとともに、社内の人材育成にも役立てられるのではないかと考え、社会貢献部門に活動を提案したことに端を発します。

支援の対象となるのは、主に教育分野や青少年育成をテーマに活動を行うNPOや一般社団法人など。一団体あたり社員4~5名でチームを組み、月に2回、各2時間程度のミーティングや作業を4カ月間行い、各団体の課題解決を支援します。2010年の第1期から今回の第5期まで、1期につき3~5団体を支援、延べ89名の社員が参加しています。

今回の報告会では、今期の対象となった4団体が、IBMの担当社員とともに活動内容を報告しました。
以下、その概要をご紹介します。

特定非営利活動法人 ジェン(JEN)

ファンドレイジング強化に向けて ―支援者管理データベースの刷新計画を推進

JENは、紛争や自然災害を原因とする被災者の自立支援を続ける団体で、2013年末現在、アフガニスタン、ヨルダン(シリア難民支援)、ハイチやスーダンなど世界7カ国で活動、国内では東日本大震災の被災者支援を行っています。

質の高い支援活動実施のためには資金が必要であり、資金提供者との関係構築・維持は団体にとって重要な課題です。JENは、これまでデータベースを自前で作成し支援者情報を管理してきましたが、支援者数の増加に伴い、データベースの刷新が課題となっていました。しかし、関係者間での視点の違いから、その方向性を定められずにいました。そこで、「ファンドレイジング強化に向けた支援者管理」が今回のプロボノのテーマとなりました。

解決に向けたIBMのアプローチは、各ステークホルダーの要求を“すべて言語化”し、“一律金額に換算”した上で、今後の計画を策定するもの。JENのデータベースとして何が必要で、その要件を満たすためには何を行えばよいのか。要件抽出から開発見積もり、計画策定へと進める作業を支援しました。また、プロジェクト・メンバー全員の理解を共通なものにするため、CRMやPDCAの基本概念に関する講習会も実施しました。

JENとIBMチームの共同作業の結果、現在開発見積もりの段階まで進んでおり、結果をとりまとめた上で計画策定が今後実施される計画です。

木山啓子事務局長は「成果はもちろん、IBMの皆さんの働き方、プロボノのやり方から学ぶことが多く、刺激をたくさん受けました。言葉だけではなく態度で教える、リーダーとはこういうことなのだと実感しました」と話しました。

報告会の様子:特定非営利活動法人 ジェン(JEN)1
報告会の様子:特定非営利活動法人 ジェン(JEN)2

一般社団法人 チャンス・フォー・チルドレン(CFC)

子供や若者に対する寄付は“投資” ―SROIの算出でデータ的裏付けを

CFCは、主に経済的な理由によって学校以外での教育を十分に受けることができない子どもたちに対し、学校外教育サービスで利用できるバウチャー(クーポン券)の提供やアドバイザーの派遣などを通して支援を行っています。

子どもたちの教育費の格差是正に取り組んでいる同団体の活動で重要な位置づけになるのが企業や個人からの寄付金(教育費)の調達です。一方、寄付を行う側にとっては、その使い道や成果が見えにくいといった不安があり、寄付の阻害要因になっています。そのため、CFCでは寄付の“見える化”、すなわち団体の活動が社会に生み出している価値を客観的に定量化して支援者への説明責任を果たすとともに、支援の品質向上を図っていくことが課題となっていました。そこで今回取り組んだのが「Social Return on Investment(SROI:社会的投資利益率)の算出」です。

IBMチームは、SROI Networkが公表している定義を参考にしつつ、SROIの算出方法を検討。「ステークホルダーの明確化」「ステークホルダーに与えた変化の定義」「その変化の有無・量の評価」「測定した価値の貨幣価値換算」というステップで、2011~2012年のCFCの東北被災地支援事業を検証した結果、今後10年間で投資額の2.93倍の効果が見込めると算出されました。

発表では、IBM側からSROIの算出方法の詳細を説明するとともに、実践で明らかになった課題と解決に向けたアイデアを紹介。CFCの代表 今井 悠介 氏は、「子どもや若者に対する寄付は施しではなく、投資。SROIの算出はまさにそれを具現化する方法だと思います」と話しました。

報告会の様子:一般社団法人 チャンス・フォー・チルドレン(CFC)1
報告会の様子:一般社団法人 チャンス・フォー・チルドレン(CFC)2

特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール

保護者が、子どもが、何を求めて何を得られるか ―事業活動を定量化

放課後NPOアフタースクール(以下、アフタースクール)は、内面的ドロップアウトなど子どもたちに起こっている社会問題と、「小1の壁、小4の壁」といった大人側の課題解決を目指し、主に放課後の小学校を利用して「アフタースクール」を開校することで、「安心・安全な居場所」、「本物・多様な体験」を提供しています。

アフタースクールは通算3期目のプロボノ参加にあたり、活動を全国に広めていく中で活動内容への共感や理解が得られるように、事業価値を定量化したいと考えていました。そこで今期は、社会への啓蒙や営業活動に利用することを想定し、アフタースクール事業の効果測定を取り組みテーマに設定しました。

アプローチは、まず前提条件を整理した上で構想を策定し、「調査設計・開発」「調査実施」「集計・分析」を実施するもの。調査は社会の現状リサーチに始まり、アフタースクールの拠点校のアンケート調査、さらにウェブを利用したモニター調査を実施。保護者の意識や子育てインフラに対する期待などを明らかにするとともに、アフタースクールの活動がどのように貢献できるかを分析していきました。また、これらの調査結果を利用して、最終的にひとつのプレゼンテーション資料を完成させました。

アフタースクールの押塚岳大氏は、「保護者のニーズや活動の成果が定量化されたことで大きな力を得た」と話します。報告の最後にはこれまでの活動風景をつづった映像が流され、「3年間にわたり、一生忘れられないくらいのものをいただきました。今後の活動で今回のプロボノにお返しをしたい」と結びました。

報告会の様子:特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール1
報告会の様子:特定非営利活動法人 放課後NPOアフタースクール2

特定非営利活動法人Teach for Japan(TFJ)

将来を見据えた持続的な運営のために ―漠然と抱いていたビジョン・ミッションを明文化

すべての子どもたちに質の高い教育が受けられるように活動しているTFJは、次世代の日本社会を担う若者を教師として選抜・育成し、学校現場での課題解決を推進する「Next Teacher Program」と、大学生・大学院生を活用して低所得世帯や低学力層の子どもたちに学習支援を行う「Learning For All(以下、LFA)」という2つの事業を行っています。

今回プロボノの対象となったのはLFAの事業。LFAは2013年に組織体制を一新し、事業責任者として新たに李 炯植 氏が着任。李氏は、事業のさらなる発展のためには、事業基盤の整備が必要であると強く認識していました。LFAは学生や若手社会人主体の活動であり、現場には強い“想い”がある一方、ビジョンやミッションなど事業の骨子が明文化されておらず、また、事業基盤を整備する上での知識やスキルが不足していました。そのためプロボノでは、事業の目的や目指すゴール、事業評価のKPI(指標、目標値、期間)などを定義し直し、将来に向けた事業方針・実行計画の策定や体制づくりがテーマとなりました。

IBMチームは、課題解決の進め方を定義し、主要な論点を明確化すると共に、持続的に団体を発展させていくために必要となる知識を提供。これまでLFAのメンバーが漠然と抱いていた想いや課題を整理し、最終的にLFAメンバー自身の手で「事業方針書」「14年度事業計画書」「課題管理表」を作成すべく、毎回3時間を越える討議を約4カ月の間に19回実施しました。

李 氏は「自分たちが何をしていきたいかがこの4カ月で非常に明確になりました。プロフェッショナルとしての仕事の仕方、人への接し方、ミーティングひとつにしても勉強になることばかりでした」と手応えを語りました。

報告会の様子:特定非営利活動法人Teach for Japan(TFJ)1
報告会の様子:特定非営利活動法人Teach for Japan(TFJ)2

IBMのプロボノ活動の特徴は、受け手側の課題に寄り添い、支援できるターゲットを絞り込んで成果を出していくこと。4カ月1サイクルという比較的長い期間、同じ目標に向けて取り組んできたNPOとIBMのプロボノ・チームの両者の表情には達成感があふれていました。

社会の声

  • 今井 悠介 氏の顔写真

    課題解決のスタートラインに共に立ち、サポートしてくれるIBMのプロボノ

    Chance for Children 代表理事
    今井 悠介 氏

我々の事業にとって寄付を集めることは不可欠であり、SROIの算出ができないかとずっと考えていました。しかし、我々だけではとても実現できることではなく、IBMのお力を借りることになりました。着手する前は、SROIの数値が本当に出せるのかもわからない状態でしたので、具体的な数字が得られたことを嬉しく思っています。現状ではSROIを数値化している団体がほとんどない中、今回の成果は団体の今後の活動にとって大きな後押しになると確信しています。

企業の社会貢献活動は、企業側の視点でできる活動を支援するものが多いと思うのですが、IBMのプロボノでは、私たちの課題解決のスタート・ラインに共に立ち、サポートしてくれました。担当してくださった社員の方々は優秀な方ばかりで、仕事の仕方やチームのマネジメントなど教わることがたくさんありました。本当にプロフェッショナルなご支援をいただき、ありがとうございました。

社員の声

  • 森 治仁の顔写真

    ビジネスとは別のやりがいと貴重な経験が得られる場

    日本IBM GBS戦略コンサルタント
    森 治仁

私は教育分野に興味があったことから、プロボノに携わるようになりました。放課後NPOアフタースクール様のチームに2011年7月から3期連続で参加し。ミーティングだけでも100時間以上を共にしたことになります。プロボノでの活動は、お客様の課題解決をご支援するコンサルティング・サービスと本質的には同じです。ただし、日頃の業務では自らのプロジェクト・ワークがクライアント全体に対してどのような価値をご提供できたのか、実感することが難しい側面があります。一方、プロボノではNPO団体様の素早い意思決定とPDCAサイクルによって、ご支援した成果が直ちに目に見える形で確かめられるところにやりがいを感じます。加えて、皆様の志が高く、その思いを形にするために膝を突き合わせて協業することは、自分にとっても貴重な経験になります。少しでも自分のスキルが役立つのであれば、今後もこうした活動にかかわっていきたいと思っています。