「行政、非営利組織、民間の3つの組織体(トライセクター)が協働することで、よりスピード感を持って震災復興を推進できるのではないか―。」IBMは社会貢献活動として、社会課題の解決に取り組む非営利団体・組織(以下、NPO)に対してIBMのテクノロジーや社員のスキルを提供していますが、今回は岩手県釜石市で行われている3つの復興プロジェクトに「 プロジェクトマネジメント・ワークショップ 」を実施。プロジェクト・マネジャー(以下、PM)職の社員4名が参加して、釜石市と地元事業者、および「釜石リージョナルコーディネーター(以下、釜援隊)」らが関わる復興推進の取り組みを2015年10月から半年間サポートし、プロジェクトマネジメントスキルの移転を目指しました。

実効性の高い活動を目指して新たな方法を模索

釜援隊は、復興支援員制度を活用して生まれた組織で、市民・NPO・企業・自治体の枠を越えて地域内外の関係者と協働し、復興および社会課題を解決する事業を推進しています。一方、IBMは東北復興支援活動の一環として、現地で活動するNPOなどを対象に「プロジェクトマネジメント・ワークショップ」を提供してきました。その経験を活かしつつ、より一層の成果を上げるための方法を模索していたところ、2015年度にワークショップを提供した一般社団法人RCF(以下、RCF)が釜援隊に関わっていたご縁もあり、今回の取り組みにつながりました。

RCFの山口里美氏は、現地のニーズを次のように説明します。
「釜援隊は活動開始以来3年が経ち、住民主体の復興プロジェクトを進めるためのスキルやノウハウを地域に根付かせていくことが課題となっています。復興支援員が多様な価値観を持つ人々をいかに巻き込み、まとめていくか。地域の人たちと“思い”は共有できても、どうすれば成功に導けるのか、足踏みしているところがありました。そこで、IBMのプロジェクトマネジメントのノウハウを活かすことができないかと考えたのです」

IBMは今回、新たな試みを行いました。当ワークショップは従来、1日の研修でしたが、PM職の社員による半年間の定期的なメンタリング(対話・助言)を加えました。継続的にサポートすることで、プロジェクト管理のスキルを定着させ、復興を側面から加速させることを目指しました。また中間報告、成果報告の場を設けることで参加者個人にとどまらず、他チームとともに気づきや学びを共有できる仕組みとしました。さらに、これまではNPOなど単体の組織を対象としてきましたが、今回は行政や地域事業者など、セクターを越えた関係者に実施しました。

半年間のメンタリングを通じてプロジェクトを伴走支援

今回の取り組みでは、まずプロジェクトマネジメントの基礎を学ぶワークショップを2日間にかけて行いました。その後、各プロジェクトにIBMのPMがメンターとして1人ずつ付き、1カ月に1~2回、電話やビデオ会議などで助言をしつつ、伴走支援を行いました。さらに他のプロジェクトの経過も共有し、より深い理解を得られるよう、2016年1月23日に中間報告会を、3月26日に最終成果報告会を実施しました。

半年間のメンタリングを通じてプロジェクトを伴走支援
半年間のメンタリングを通じてプロジェクトを伴走支援
半年間のメンタリングを通じてプロジェクトを伴走支援
半年間のメンタリングを通じてプロジェクトを伴走支援
半年間のメンタリングを通じてプロジェクトを伴走支援
半年間のメンタリングを通じてプロジェクトを伴走支援

以下、成果報告の内容を簡単にご紹介します。

■震災5年 交流事業 『釜石のこれまでと、これから。』
概要:東日本大震災から5年という節目に際し、釜石市のこれまでの取り組みを振り返り、次の5年の復興に向け市内外の団体とのキズナをさらに強くすることを目指す交流事業
実施主体:釜石シティプロモーション推進委員会
事務局:釜石市総務企画部総合政策課まち・ひと・しごと創生室

主な成果:

チームリーダーとPMの感想:
知識と実践がつながることが本当のスキルでありノウハウだと実感した

  • 石井重成氏と阿部仁美の写真 具体的なノウハウの中で、ステークホルダーのマッピングと対応、リスクから課題へ、課題からWBS(Work Breakdown Structure)へ、WBSから解決へという一連のサイクルを回していくことが学びとなりました。特に、ワークショップに加えて、1カ月1、2回程度メンタリングを受けられた点が非常に良かったです。知っていることと実際にできることでは差異があります。それを一番気付かされたのが電話会議によるメンタリングのタイミングでした。教えていただいた知識と現場での実践がつながることが、本当のスキルでありノウハウなのだと実感しました。このプログラムには本当に感謝しています。こうした機会が我々の中に閉じずに、地域や復興支援という文脈の中で広がっていくにはどうしたらいいのかを考えたいと思います。
    釜石市/まち・ひと・しごと創生室 室長 石井重成氏(写真左)

今回伴走させていただいたことで、いわばプロジェクトマネジメントの“種”をお渡ししたと思っています。それが釜石で育ち、いずれは株分けされて広く有効活用されていくことを期待します。我々はIT業界のPMですが、対象が復興やまちづくりであってもプロジェクトマネジメントの考え方やフレームワークが汎用的に適用できるスキルであり、ツールであることを、改めて実感することができました。また、チームの皆さんの気づきやコメントに逆に気づかされることもあり、それが相乗効果に発展して、さらなるお互いの理解につながったと思います。高い達成感と充実感を共有できたこと、そして大切な今後の「つながり」としても認識し合えたことが今後の財産になったのではないかと思います。私自身もこの機会に出会えたことにとても感謝しています。
日本IBM 金融システム品質本部 部長 阿部仁美(写真右)

■「暮らしのすべてがキャリアになる。」 Local Plus In Kamaishi
概要:釜石市の事業者と共に、地域おこしに興味がある方や地域で自分のスキルを生かして働きたい方を対象に、釜石市で活動しながら地域おこしの「今」と、釜石での「暮らし」を体験し、今後の「キャリア作り」を考える7週間のローカルステイプログラム
実施主体:一般社団法人HUB三陸・株式会社パソナ東北創生、(協力)釜援隊

主な成果:

  • 中村博充氏と大木孝の顔写真 チームリーダーとPMの感想:

    具体的にチームを組みプロジェクトを回していく方法を学べた

    今回のプログラムでは、思いや志を形にするだけでなく、具体的にどのようにチームを組みプロジェクトを回していくかについて、考え方ややり方を教えていただけたのが、すごくありがたかったです。コミュニケーション計画も、そもそもどういう人がいて、どのステークホルダーにどういう頻度でコミュニケーションをとるかを整理するといった考え方は初めて知りました。教えていただいたことで知識を得ましたが、できるようになるまでには壁があります。日々活用し、実践していきたいと思っています。
    釜石リージョナルコーディネーター、一般社団法人HUB三陸 代表 中村博充氏(写真左)

このチームはまずはリーダーを決めるところから始まりましたが、中村さんがPMを担当されると一歩踏み込んでくださったので、その時点でプロジェクトの半分くらいは成功するものと確信しました。プロジェクトは、短期・長期プログラムとも目標を見事に達成され、ファンの方も増えたと聞き、とても嬉しいです。チームの皆さんの成長を拝見できたことに手応えを感じましたし、私自身もこのプロジェクトにアドバイザーとして参加したことで成長させていただきました。
日本IBM 保険システム開発.第六アプリケーション開発 大木孝(写真右)

■釜石東部地区にぎわい創出 Oh!マチ Music Festa 2016 チーム
概要:東日本大震災で壊滅的被害を受けた釜石市の「中心地市街地の再生」をメッセージとして伝えるために、新旧の商店が一丸となって催す、音楽による賑わいイベント
実施主体:Oh!マチ Music Festa実行委員会、(協力)釜援隊・一般社団法人RCF

主な成果:

チームリーダーとPMの感想:
プロジェクト憲章をまとめて大切にしたことで、チームが同じ方向を向けるようになった

  • 齊藤裕基氏と鴨田幸紀の写真 当初はプロジェクトマネジメントの手法を適用してどんな効果が出るのかピンときませんでしたが、実際に自分たちがやっていることを落とし込んでみて、その意義が見えてきました。プロジェクト憲章というチームの基軸となるものが明文化され、共有されるようになったことで、皆がぶれずに同じ方向を向けるようになりました。昨年は集まるたびに理念や考え方を確認し、3回くらい進んだらまた戻るといったことを繰り返し、無駄な時間が多かったと思います。プロジェクト全体を見える化することは非常に大事だと感じました。未解決の課題に取り組み、本番に向けてチーム一丸となって進めていきたいと思います。
    株式会社ウェルファー 代表取締役 齊藤裕基氏(写真左)

このプロジェクトの皆さんは地元の方が中心のため、プロジェクトマネジメントという言葉や手法に3チームの中で最も遠いところにいらしたと思いますが、こういった手法があることを新鮮に捉えていただきました。是非、今回の取り組みを文書にして、来年、再来年のプロジェクトや、各メンバー自身の経営に活かしていただけたらと思います。個人的には、地域でのものごとの進め方や考え方を知ることで、自分が当たり前だと考えていたことが実は当たり前ではないという気づきもあり、非常に勉強になりました。
日本IBM 金融デリバリー.保険・第四ソリューションデリバリー 鴨田幸紀(写真右)

気づきや学びを共有。釜石市の将来に向けた力に

中間報告ならびに成果報告会では、各チームが直面した課題や解決策について活発な質疑応答が交わされました。共通する悩みも多く、例えば「作業グループを分けることでタスクは進めやすくなった反面、リーダーが増えて全体での情報共有が難しくなった」、あるいは「PMを最終決定者としたために、仕事が集中して滞ってしまった」といった改善点が出されました。それに対してIBM社員は、「グループリーダー制をとる場合、リーダーに『役割と責任(roles and responsibilities)』を明確に渡すことが重要だ」とアドバイスしました。各リーダーに役割と責任を渡し、まわりと連携しながら動くようにコミュニケーションをとり、PMは全体の調整役に徹すること。それを手助けするツールがプロジェクトマネジメントだと説明しました。

釜石市はオープンシティ戦略を掲げ、多様な役割を担う市民(活動人口)と、釜石の産業やまちづくりに関わりを持つ市外の人々(つながり人口)が補完し合い、まちを維持・発展させていくことを目指しています。釜石市総務企画部総合政策課課長で、釜援隊協議会事務局長を務める佐々木勝氏は成果報告会の結びとして、次のように話しました。
「釜援隊には釜石市および市民に『変化』を与えてくれることを期待しています。それが、未来に向かって市が永続できるかどうかの分かれ目になると思います。今回のプログラムは、その変化を起こすためのスキル、技術を学ぶ場だったと理解しています。復興はまだまだこれからであり、住まいの再生に加え、産業の再生が一層大事になってきます。今回のような支援が我々の力になることは間違いありません。総合戦略に記した『つながり人口』とはまさにこうしたことであり、機会を設けてくださったIBMとRCFの皆様に感謝を申し上げますとともに、今後も市とのパートナーシップを結び、関わっていただけたら幸いです」

質疑応答の写真
質疑応答の写真
質疑応答の写真

*成果報告会は2016年3月26日に開催されました。当記事に記載されたに肩書きや固有名詞等は取材時点のものであり、閲覧される時点では、変更されている可能性があることをご了承ください。

第3回ヤング天城会議