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IBM 100年の軌跡
 

エキシマ・レーザー手術

 

後に何百万もの人々に影響を与えた現代医学のある重大な発見は、1981年11月26日の感謝祭のディナーに出された七面鳥の食べ残しから始まりました。

ニューヨーク州ヨークタウンにあるIBM トーマス・J・ワトソン研究所の3名の研究者、サミュエル・ブラム(Samuel Blum)、ランガスワミー・スリニヴァサン(Rangaswamy Srinivasan)、ジェームズJ.ウィン(James J. Wynne)は、IBMのレーザー物理学/化学グループが最近獲得したエキシマ・レーザーの新しい使用法について考察していました。ブラムは材料科学の専門家であり、光化学者のスリニヴァサンは21件の米国特許の所有者でした。物理学者のウィンは、IBMのグループ・マネージャーを務めていました。

エキシマ・レーザーでは、塩素、フッ素などの反応性ガスとアルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガスを混合したガスが使用されます。電気的に励起すると、混合ガスは紫外線光の強力なパルスを発し、ポリマーなどの照射材に非常に正確かつ微細な変化を起こすことができます。

「エキシマ・レーザーがポリマー材料をきれいにエッチングできるのであれば、ヒトや動物の組織で試せばどうなるのかとわれわれは考えました」とウィンは振り返り、次のように語りました。「どのような組織を使用すべきかさんざん話し合った末、1981年の感謝祭の翌日にスリニヴァサンが感謝祭の七面鳥の食べ残しを研究所に持ち込んできました。彼は193nmのエキシマ・レーザーを使用して、骨や軟骨、肉などのすべての組織サンプルでパターンのエッチングを行いました。それは、新しい形態の手術法の発見の瞬間でした。エキシマ・レーザーの紫外線光を使用することで、周囲の組織に損傷を与えることなく、非常にきれいに切り取ることができたのです。」

生物を燃焼させる代わりに、各レーザー・パルスは、組織表面の非常に薄い膜の分子結合を崩壊させ、効果的に分解しました。その際、下層組織または隣接組織への付帯的な損傷は見られませんでした。医療技術分野への効果を印象強く示すために、IBMチームは、レーザーでエッチングされた1本の人間の髪の毛の電子顕微鏡の拡大写真を制作しました。この画像は全世界に公開されました。

スリニヴァサン、ブラム、ウィンは、脳外科手術、歯科、整形外科、および皮膚科でこの「クリーンな切除」を使用可能にする方法について多くの予備的な討議を重ねました。

当時、眼科外科医は、近視の矯正に用いる手術で「刃物」または外科用メスの使用に代わるものを探していました。外科用メスの精度はあまり高くなく、角膜を永続的に弱めて、長い回復期間を必要とする場合がありました。

1983年の夏、ニューヨーク市のコロンビア・プレスビテリアン・メディカル・センターに所属していた眼科医のステファン・トロッケル(Stephen Trokel)は、IBMの取り組みを知るとただちにワトソン研究所を訪問し、スリニヴァサンと研究者のブーディル・ブラレン(Bodil Braren)と共同で実験を行いました。トロッケル、スリニヴァサン、ブラレンは論文を執筆し、近視や遠視などの屈折異常を矯正するためにレーザーを使用して角膜(眼球表面の透明な皮膜)の形状を変更するという考えを紹介しました。1983年12月、3人の論文は眼科学の主要な定期刊行物に発表され、エキシマ・レーザーを利用した屈折矯正手術の開発に向けた研究計画が世界中で開始されました。その後、数年間にわたって実験と臨床試験が繰り返されました。1995年、米国の食品医薬品局(FDA)は、エキシマ・レーザーを利用した、最初の商業ベースの屈折矯正手術システムを承認しました。IBMチームの最初の実験からおよそ14年が過ぎていました。

2011年現在、レーシック(LASIK:laser-assisted in-situ keratomileusis)手術は世界中で行われている最も人気のある視力矯正手術です。その理由として治癒期間が短いこと、痛みを最小限に抑えられることが挙げられます。レーシック手術では、角膜の形状を永続的に変更し、視力の改善と近視や遠視、乱視の軽減(解消も含む)を図ります。全世界で数百万の人々がレーシック手術を受けており、患者の90%以上は0.5~1.0の視力を達成し、眼鏡やコンタクト・レンズをまったくまたはほとんど必要とせずに日常生活を送っています。レーシック手術に加えられた最新の改良により、1.5の視力を達成した患者もたくさんおり、2.0の「超人的な」視力さえ可能になっています。これは、眼鏡やコンタクト・レンズでは実現できないレベルです。