従来、IP アドレスは物理リンクの各エンドポイント (あるいは共用メディア LAN への各アクセス・ポイント) に関連付けられてきました。この場合 IP アドレスは、可視のネットワーク (インターネットあるいは閉じたイントラネットもこれにあてはまります) 全体 で固有のものです。IP ホストの大部分はネットワークの 1 つのエンドポイントに接続されていますが、ネットワークに接続する複数のリンクを持つホストもあります (特に大規模サーバー・ホスト)。複数の接続点を持つ TCP/IP ホストは、リンクごとに 1 つずつ複数の IP アドレスも持ちます。
IP ルーティング・ネットワーク内で、中間リンクあるいはアダプターに障害が発生すると、そのルーティング・ネットワークを通る代替パスがない限り、ユーザー・サービスを行うことができなくなります。ルーターは、障害がエンド・アプリケーションあるいは IP ホストからは 見えないように、中間リンクの障害を迂回して IP トラフィックをルーティングすることが できます。しかし、IP パケットは最終的な宛先 IP アドレスに基づいてルーティングされる ので、宛先 IP アドレスに関連付けられているアダプターまたはリンクに障害が発生した 場合は、IP ルーティング・ネットワークがスタックおよびアプリケーションに代替パスを提供する方法は ありません。したがって、エンドポイント (送信元または宛先) の IP アダプターとリンクは、 単一の障害点となります。クライアント・ホストの場合は、サービスを打ち切られることになるのは単一ユーザーであるため、クライアント・ホスト障害は受け入れ可能である場合もあります。しかし、サーバー IP リンクの場合は、1 つで何百あるいは何千というクライアントにサービスを提供しているため、このサーバー・リンク障害によりそのサービスのすべてが提供できなくなることになります。
仮想 IP アドレス (VIPA) は、特定の物理ネットワーク接続機構に関連付けることなく、スタックに関連付けられて いる IP アドレスを提供することによって、アダプターを単一障害点として除去します。仮想装置はソフトウェア内にのみ存在するので、常にアクティブであり、物理的な障害を起こすことは決してありません。VIPA には、それに関連付けられている物理的なネットワーク接続機構はありません。 また、TCP/IP スタックは、VIPA インターフェース (VIRTUAL リンク) 用のインターフェース・カウンターを 維持管理しません。
ルーティング・ネットワークには、VIPA は、z/OS® に間接的に付加され たホスト・アドレスのように見えます。VIPA 宛先を持つパケットがスタックに到着すると、IP レイヤーはそのアドレスを認識し、それをスタック内のプロトコル・レイヤーに渡します。
物理インターフェースの障害は、TCP/IP アドレス・スペースや z/OS 全体の障害、または計画停止にまで拡大する 可能性があります。VIPA は、ただバックアップ・スタックに移動し、VIPA への経路を更新する必要がある だけです。すると、クライアントは容易にバックアップ・スタックに接続することができます。このプロセスは VIPA テークオーバー と呼ばれています。
VIPA テークオーバーは、動的仮想 IP アドレス (DVIPA)、および分散動的仮想 IP アドレス (分散 DVIPA) の追加に 伴って、改良されました。DVIPA 機能は、システム・プログラマーがシステム障害について計画し、オペレーターの介入や外部の自動化を必要とせずにテークオーバーを行うための、バックアップ・システムを提供できるようにすることにより、VIPA テークオーバーを改善しました。分散 DVIPA 機能は、単一の DVIPA 用の接続を、構成ステートメント (配布リスト) にリストされた複数のスタック上のアプリケーションがサービスできるようにします。これにより、アプリケーションまたはスタックの障害の影響範囲が制限され、またワークロードのバランスもより改善するという効果が得られます。
装置 (例えば、チャネル接続ルーター) またはアダプター (例えば、OSA-Express アダプター) に障害が起きたとき、宛先への代替パスを提供する別の装置またはリンクがある場合は、以下のことが可能です。
バックアップとなる代替スタックがインストールされている場合、VIPA を使用することにより、障害を起こしたスタックの VIPA アドレスを バックアップ・スタックがアクティブにすることができます。
障害の起こった 1 次スタック上の接続は中断しますが、同じ IP アドレスを宛先として使用して、バックアップ上で接続を再び確立することができます。さらに、一時的に再割り当てされた VIPA アドレスは、障害の原因を取り除いた後で、1 次スタックに復元することができます。
DVIPA を複数のスタックに分散させる場合、1 つだけのスタックの障害は、そのスタックに接続されたクライアントのサブセットだけに影響を与えます。配分側スタックが障害を起こすと、バックアップが分散の制御を行い、既存のすべての接続を維持します。
複数スタックがサービス提供しようとしている単一の DVIPA では、接続要求および関連するワークロードは、ワークロード・マネージャー (WLM) およびサービス・レベル・アグリーメント・ポリシー (例えば、QoS) に従って、または構成されたアクティブ接続配分目標に従って、複数の z/OS イメージ間で分散させることができます。