VIPA の考慮事項

インターネット・プロトコル (IP) は、コネクションレス・プロトコルです。IP パケットは発信元から、ルーターのネットワークを経由して宛先にルーティングされます。このようなネットワーク内では、すべての物理アダプター・デバイスは、クライアントおよびサーバー・ホストも含め、ネットワーク内で固有な IP アドレスにより識別されます。IP について重要な点は、中間ルーター・ノードまたはアダプターで障害が起こっても、ネットワークに代替パスがあるかぎり、パケットが送信元から宛先に移動することを妨げられないことです。

TCP は、それぞれ該当する IP アドレスとポート番号により識別される、2 つのエンドポイントの間で 接続をセットアップします。中間ノード内のアダプターの障害と異なり、エンドポイントのアダプターの 1 つ (またはそこに導くリンク) が障害を起こすと、そのアダプターを使用するすべての接続は失敗し、再確立しなければなりません。障害が 1 つのクライアント・ワークステーション・ホスト上で発生した場合、比較的少数のクライアント接続が途切れ、通常 1 人の人だけが迷惑します。しかし、サーバーのアダプター障害は、数百または数千の接続が切れる可能性があることを意味します。大規模な容量を持つ S/390® または System z® サーバーでは、その数は数万にもなる場合があります。

TCP/IP for z/OS® の仮想 IP アドレス (VIPA) がこの状態を緩和します。VIPA は物理アダプターについて、通常の IP アドレスと同じ方法で構成しますが、特定の装置と関連付けられていない点が異なります。付加されたルーターには、z/OS 上の TCP は別のルーターのように 見えるだけです。TCP がその VIPA の 1 つに向けられたパケットを受け取ると、スタックのインバウンド IP 機能は、パケットの IP アドレスがスタックのホーム・リスト内にあること、およびパケットをスタックに渡すことを知らせます。スタックは、(シスプレックス内の他の TCP スタックからの XCF も含めて) 複数のアダプターまたはパスを持つと想定した場合、特定の物理アダプターが失敗しても、付加されたルーティング・ネットワークは代替経路を使用して、VIPA をターゲットにしたパケットをスタックにルーティングするだけです。

これにより、ハードウェアおよび関連する伝送メディアが、大量の接続数に対して Single Point of Failure (1 部分の障害が全体障害に結び付くこと) となることは避けられますが、それでも、単一スタックまたは MVS™ イメージの障害により、サーバーの接続は失われます。VIPA は手作業で別のスタックに構成できますが、これにはオペレーターまたはプログラムされた自動化が必要です。

動的 VIPA テークオーバーは、人間の介入またはプログラムされた自動化なしに動的 VIPA を移動させ、できるだけ早くサーバーへの新しい接続を同じ IP アドレスで可能にします。これは、ダウン時間を大幅に減らします。動的 VIPA テークオーバーを使用すれば、1 つ以上の TCP/IP スタックを特定の動的 VIPA 用のバックアップにするように 構成することができます (VIPABACKUP ステートメント)。動的 VIPA がアクティブ状態のスタックまたは MVS イメージが終了した場合、バックアップ・スタックの 1 つが自動的にその動的 VIPA をアクティブにします。存在していた接続は終了しますが、引き継いだスタック上で早期に再確立することができます。

注:
  1. VIPA は、z/OS TCP/IP スタックに関連付けられているのであって、特定の物理ネットワーク接続に 関連付けられているのではないため、シスプレックス内のどのイメージ上のスタックにも移動でき、アドレスが インストール・システムのネットワーク構成に適合する限り、シスプレックス内に ない z/OS TCP/IP スタックにさえ移動できます。
  2. インテリジェント・ブリッジまたはスイッチと共に VIPA を使用する場合は、Port fast mode (Cisco) が使用可能であることを確認してください。これは、VIPA が、 VIPA (動的または静的) の動的移動がある場合のシナリオにおいて到達できない 時間を、かなり節約します。詳しくは、ブリッジまたはスイッチ (交換機) の マニュアルを参照してください。

SIOCSVIPA または SIOCSVIPA6 ioctl コマンドを使用して、または動的 VIPA アドレスに明示的に BIND することにより、特定の動的 VIPA アドレスをアプリケーションと関連付けることもできます。動的 VIPA アドレスが VIPARANGE profile ステートメントの範囲内である場合、この動的 VIPA アドレスは動的に作成されます。このタイプの構成では、動的 VIPA がシスプレックス内のアプリケーションの アドレスになることができます。

シスプレックス・ディストリビューターを使用して、動的 VIPA を宛先とした接続要求を、シスプレックス内の他のスタックに配布できます。 VIPADISTRIBUTE プロファイル・ステートメントを使用して、特定の DVIPA 用の接続を分散できる最大 32 個までのスタックと、64 個までのポートを指定できます。これには、DVIPA が定義されているスタックも含まれます。

配分側スタック (VIPADISTRIBUTE ステートメントがコーディングされたスタック) は、WLM または WLM とサービス品質 (QoS) パフォーマンス情報の組み合わせを使用して、新しい接続要求をどこに渡すかを決めます。配分側スタック/MVS イメージが失敗した場合、ターゲット・スタックに渡された接続は、動的 VIPA アドレスを別のスタックにバックアップさせることで保存できます。

同様に、スタックは別のスタックから動的 VIPA アドレスを即時に取り戻すことができます。 元のスタックがキーワード MOVEABLE IMMEDIATE (デフォルト) を使用した VIPADEFINE で指定されたアドレスを使用した場合、 動的 VIPA は、2 番目のスタックが所有権を要求するとただちに移動されます。 2 番目のスタックは、既存の接続のためのパケットを 該当のスタックに転送する責任を持つと想定されます。MOVEABLE WHENIDLE を指定すると、現行スタック上のすべての既存の接続がクローズされるまで、所有権は渡されません。

VIPA についての詳細は、仮想 IP アドレッシングを参照してください。