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SolarNetOne: すべての人のための、太陽電池によるネットワーキング

Linux とオープン技術により、あらゆる場所でインターネットを利用可能にする

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工業化が進んだ国に住んでいる人であれば、おそらくコンピューターを所有しており、インターネットに低価格で接続できることでしょう。あるいは個人で所有していなくても、地域の図書館や学校、街のコーヒー・ショップなどに行けば、たいていはインターネットに接続されたコンピューターを利用できることと思います。実際、Internet World Stats によると、第一世界の人々の 75 パーセント以上はコンピューターとインターネットを日常的に利用することができます。米国、オーストラリア、日本、西欧に住む人々は至る所でネットワークに接続できるほどにまで便利になっています。

それとはまったく対照的に、世界の全人口のうち、インターネットにアクセスできる人は 25 パーセントにもなりません。世界の多くの地域では、コンピューターは十分普及しておらず、またネットワークへの接続はさらに困難です。実際、こうした第三世界の一部の国々では、ネットワークに接続することがほとんどできません。例えば、ルワンダの国民のうちインターネットに接続できる人の割合は 1 パーセントしかおらず、アフリカ全体の中でもインターネットに接続できる人の割合は 5 パーセント以下です。

しかも多くの国々では電力網がその場しのぎの脆弱なものであり、日常的に起こる果てしなく長い停電の際にはコンピューターも衛星回線も利用することができません。もっと悪いことに、自然災害や内政の非常事態の際には、広範囲にわたってインフラに障害が起こります。皮肉なことに、救援作業員や地域住民との間での情報伝達や協力のために必要な設備こそインフラなのです。米国や世界の有力な国々からリサイクルされたコンピューターがコンテナに満載されて到着しても、電気がなければほとんど役に立ちません。

残念ながら、現代におけるその他多くの事柄やテクノロジーと同様、世界の国々は次第に「コンピューターを持つ者」と「コンピューターを持たざる者」という 2 つのグループに分断されつつあります。ムーアの法則には残念な帰結があり、技術革新によってデジタル・デバイドが広がるのです。

ギャップに関心を持つ

しかし幸いなことに、多くの人々がこうした分断の拡大を認識し、そのギャップを埋めるために行動を起こしています。例えば OLPC (One Laptop Per Child) は、「世界で最も貧しい子供達に教育機会を提供するために、頑丈で安価、低消費電力、そしてネットワークに接続されたラップトップ・コンピューターに、コンピューター間の連携を楽しみながら自己の能力を高めるための学習ができるように作られたコンテンツとソフトウェアをインストールし、すべての子供達に提供する」ことを目的としています。また Geekcorps は「発展途上国の経済成長を促進するために、高度なスキルを持つ技術ボランティアを派遣し、革新的で安価な情報通信技術の使用方法をコミュニティーに教育することで、国が発展して行く上での諸問題を解決する」ことを目標に活動しています。国連は毎年 5月17日の世界電気通信及び情報社会の日に、コンピューターの使用に関する不平等への関心を喚起しています。

SolarNetOne も、そうした分断を解消するための新しい構想です。SolarNetOne では、比較的少額の投資で、太陽の当たる場所であればどんな場所にも、太陽エネルギーを利用できるように装備された電源、コンピューター、WiFi、そして衛星回線機能を備えたインターネット・ホットスポットのターンキー・ソリューションを設置することができます。このプロジェクトの発案者であり中心的なエンジニアでもある Scott Johnson 氏は次のように語っています。

「SolarNetOne は電力インフラが整備されていない場所で使用するために設計されています。SolarNetOne は電力網の信頼性が低い場所や電力網を使用できない場所に最適です。」

Johnson 氏によれば、インターネットのパイオニアであり Google のチーフ・インターネット・エバンジェリストでもある Vint Cerf 博士と会話をした後で SolarNetOne を思いついたとのことです。Cerf 博士は Johnson 氏の提案に賛同してシステムの研究開発に個人的に資金を提供し、また Johnson 氏は SELF (Solar Electric Light Fund) の Bob Freling 氏と NSRC (Network Startup Resource Center) の Steve Huter 氏と協力して、太陽電池を利用したネットワークのプロトタイプを作成しました。SELF は持続可能なエネルギー・ソリューションの設計とそれを実現するための活動を行っており、ウォーター・ポンプと点滴灌漑、診療所、学校、家庭、街灯、マイクロ・エンタープライズ、そしてワイヤレス・インターネットなどのための電力を持続可能なエネルギーで提供しようとしています。また NSRC は、インターネットのインフラの建設、拡張、保守の面で国々や地域を支援します。Johnson 氏のインタビューについては、「参考文献」セクションから developerWorks のポッドキャストを聴いてください。

最初の SolarNetOne キットは、2007年にナイジェリア北部の Katsina State University に設置されました。それ以来、このプロジェクトはサービスの改善と商業化を行っており、さらにいくつかのシステムをフィールドに設置してきました

開梱、結線、そして稼働

SolarNetOne キットは、それぞれが自己発電を行う通信ネットワークです。エネルギーは、キットが設置される場所の緯度とその地域の支配的な気象条件に合わせて配置された太陽電池アレイから供給されます。発電された電力は大型のバッテリー・アレイに蓄えられ、またサーキット・ブレーカーと電子回路により、過負荷などの不安定要因から装置を保護します。

基本キットには、中央のサーバーに LAN で接続されたシン・クライアントとして実装された、5 つの「シート (seat)」が含まれています。このネットワーク装置には、広範囲をカバーする無指向性の WiFi アクセス・ポイントと SIP (Session Initiation Protocol) 機器も含まれています。また各キットにはシステムの組み立てに必要なすべてのケーブルとワイヤーも含まれているため、設置のために追加として必要なものはほとんどありません。

図 1 に、SolarNetOne キットのアーキテクチャーを示します。破線は電源系統を、実線はネットワーク接続を示しています。

図 1. SolarNetOne システムの構成
SolarNetOne システムの構成
SolarNetOne システムの構成

SolarNetOne システムの構成要素の大部分は市販品であり、容易に置き換えが可能です。例えば、サーバーは MSI PR210-SEED2 ノートブックであり、2 GB の RAM、オペレーティング・システム用の 8 GB の半導体ディスク、書き込み機能付き DVD ドライブ、120 GB の外部ハードディスクを備えています。2 台のファンで強制空冷される成型品の外部ヒート・シンクによってサーバーの動作温度は大幅に低下し、赤道付近の地域でも確実に安定動作します。

イーサネット・ハブは Linksys SR224G です。各端末はディスクレスの Sumotech ST166 であり、128 MB の RAM と 15 インチの VGA LCD を備えています。端末とモニターの電源は混成型の 12VDC Power over Ethernet スイッチから既存のイーサネット配線を利用して供給されるため、余分な電源配線が必要ありません。端末は PXE (Preboot eXecution Environment) でブートし、NFS (Network File System) を使ってファイルをマウントし、X ウィンドウ・システムと XDMCP (X Display Manager Control Protocol) を使ってサーバーにリモート・ログインします。

ディスクレスのシン・クライアントには多くのメリットがあります。障害を起こす可能性のあるハードウェアが少なく、端末が消費する電力はわずかです。使用中に各端末が消費する電力は 4.5 ワットであり、LCD がさらに 8 ワットを消費します。(通常のコンピューターは使用中に 350 ワットを消費します。) すべてを合計すると、5 シートの SolarNetOne を実現するために太陽電池パネルが供給すべき電力は 1 時間当たり 600 ワットにすぎず、これでクライアント端末を毎日 8 時間動作させ、サーバーを連続動作させることができます。

このキットのコストは 15,000 米ドルです。保守にはあまり費用はかかりません。最適な動作を維持するためには太陽電池パネルをきれいに保つ必要があります。バッテリーのメンテナンスをするには、スタッフが毎月、セルに蒸留水を追加する必要があります。適切に保守を行えば SolarNetOne システムは 20 年以上の寿命があるはずですが、バッテリーはおそらく 10 年間使用したら交換する必要があります。

搭載されているオープンソース

SolarNetOne は完全にオープンソース技術をベースにしています。シン・クライアントには LTSP (Linux® Terminal Server Project) が搭載されています。シン・クライアントとサーバーは共に Ubuntu Linux オペレーティング・システム (バージョン 8.04) を実行し、Apache、Exim、BIND、OpenSSH によって、それぞれ Web、E メール、DNS、リモート・アクセスを提供しています。またワイヤレス・アクセス・ポイントのためのソフトウェアを Madwifi が提供しています。システムのソフトウェアは Debian 独自の Aptitude ユーティリティーによって容易に最新に保たれます。

Linux が選ばれた理由はいくつかあります。第 1 に、Linux は無料で入手することができます。これは、SolarNetOne キット全体のコストが小型車よりも安いことを考えれば理想的です。Linux によって各システムの初期コストを低く抑えることができ、サイトのスケーリングをする場合にもシートごとに追加のソフトウェア・ライセンス費用は発生しません。1 台の SolarNetOne サーバーで最大 50 台のシン・クライアントをサポートすることができるため、たとえハードウェアを追加したり改善したりしたとしても、大幅にコストを節約することができます。

Linux が選ばれた、もう 1 つの理由は、Linux 用に利用可能なアドオン・ソフトウェアも Linux と同様に無料であるためです。上で説明したすべてのデーモンは無料で入手して利用することができ、またデータベース、コンパイラー、科学ライブラリーなどの追加機能も無料で入手することができます。従って、いったん設置すれば、各 SolarNetOne キットを拡張してさまざまな分野や特別な領域向けに活用することができます。例えば Katsina State University に設置された SolarNetOne は、キャンパス全体に計算処理と無線アクセスを提供しています。この端末ラボがアイドル状態になることはほとんどありません。

Johnson 氏の経験では、比較的小規模なシステムでも大量のソフトウェアを実行できるため、Linux は理想的です。彼が見る限り、「このようなプロジェクトで使用するには、Windows® は完全に重たすぎます。」しかし、Linux とコマンドライン・シェルを利用すれば、帯域幅の狭い回線を介してのリモート・システム管理もまったく問題ない、と Johnson 氏は言っています。

さらにまた、GPL や Apache License、その他同様の知的財産によって自由にソフトウェアを使用できる権利が付与されるため、アプリケーションのソース・コードに苦労することなくアクセスすることができます。改変が可能なだけではなく、バリエーションを作成することが推奨されているのです。SolarNetOne では、SolarNetOne のクライアントとサーバーのハードウェア用に Ubuntu Linux をカスタマイズしています。このようにある用途に特化することは、独占所有権のあるオペレーティング・システムでは通常は不可能であるか、あるいは資金的に実現不可能です。

また Linux は、ほとんどのウィルスやマルウェアの影響を受けることがありません。このような攻撃に対する耐性のおかげで、アップタイムは長くなり、可用性は高くなります。これは SolarNetOne の基本的な特性の 1 つです。

これまでの成功

これまでに 5 つの SolarNetOne システムが設置済みもしくは設置に向けた作業中です。また早い段階での成功と、一部のメディアによる肯定的な報道のおかげで、このシステムに対する関心が非常に高まっています。Johnson 氏はいくつかのグループとの間で、10 シート以上の設置に向けて本格的な交渉を行っています。

ナイジェリアに設置された最初の SolarNetOne は連続稼働中であり、E メールやワード・プロセッサー、インターネット・サーフィンに使われています。最初のころに起きた税関でのちょっとした問題のおかげでシステムの電源用ハードウェアが数ヶ月間ドイツに取り残されてしまいましたが、それを除けばシステムには大きな問題は何も起きていません。SolarNetOne は、その地域で最も安定していて信頼性の高いシステムだと広く認識されています。

実際には、こうしたシステムの展開を妨げる最大の要因が汚職であることが多いものです。いかがわしい税関職員や政府職員などが問題を起こすことがよくあります。Johnson 氏の報告では、より多くの「発展途上国のマーケット・シェア」を追求し、独占しようとする団体の活動のおかげで、少なくとも 1 件の設置計画が中止に追い込まれたとのことです。

また Johnson 氏は最近、営業担当を 1 人雇い、フィールドでの問い合わせに対応したり、システム導入の可能性を入念に調査したりできるようにしました。このプロジェクトは今や SolarNetOne システムを営利販売すると同時に、購入を支援する SELF や Internet Society などの非政府組織や非営利団体との協力も継続しています。Johnson 氏は、SolarNetOne は相変わらず他に類を見ないシステムであり、非常に価値があると語っています。「私が知る限り、広範囲をカバーする WiFi アクセス・ポイントとインターネット・サービス・プロバイダー機能 (HTTP、SMTP、DNS その他) が統合された、クライアントとサーバーによるマルチユーザー・システムを提供するプロジェクトは他にありません。SolarNetOne の規模に匹敵する他のプロジェクトはないのです。」

確かに、インパクトを与えられる機会は数多くあります。SolarNetOne を導入するのに最も適した地域を見つけるためには、世界の国々の GDP (Gross Domestic Products: 国内総生産) を調べ、そのリストの一番下の方を見ればよいのです。Johnson 氏は、「アフリカ、南アメリカ、太平洋の島々などはいずれも SolarNetOne を導入するには素晴らしい地域です。私達は、安定した電力の供給やインターネットへのテレコミュニケーション手段がない地域に住む、地球上の数十億人を結びつけたいのです。」とも付け加えています。

今後は

E メールでの質問に対し、Cerf 博士は次のように答えています。「SolarNetOne や類似のプロジェクトによって、世界の人口の 77 パーセントの、まだインターネットにアクセスできない人々がインターネットにアクセスできるように前進させることができます。」

まだ多くの課題が残っている、と Johnson 氏は言っています。彼は、システム全体としての消費電力をより一層削減したいと思っています。それは同じワット数でより多くの計算能力を実現する方法によるか、あるいは現在の計算能力を少ない電力でまかなう方法によるかもしれません。例えば 1 つの選択肢として、消費電力の少ない AMOLED (Active-Matrix, Organic Light-Emitting Diode: アクティブ・マトリックス有機 EL) を端末の表示に使う方法があります。また彼は、コンポーネントを単純化し、より小型の筐体の中により多くの機能を組み込みたいと考えています。

彼はさらに、もっと良くするために「低消費電力で持続可能なコンピューティングを最大限推し進め、電力効率の高いコンピューティングのための標準を作りたいと思っています。(世界は) あと 2 世代のうちにクリーンな電力を採用する必要があり、このプロジェクトはグリーン・コンピューティングへの転換を先頭に立って率いることができます。大部分のコンピューターは膨大な電力を浪費しており、その中でも PC ベースのネットワーク・アーキテクチャーが最も電力を浪費しているのです。」

Johnson 氏には大きな願望があり、このプロジェクトのゴールは極めて高いところにあります。「もちろん、私が年を取ったら、私達太陽系の他の天体で SolarNetOne やその子孫が使われているところをぜひ見たいと思っています。」

そうすれば、インターネット・アクセスは宇宙全体に広がります。

皆さんがボランティアとして SolarNetOne に協力したり、専門知識を提供したりしたい場合、あるいはこのプロジェクトに寄付したい場合には、下記の「参考文献」に挙げたホームページから SolarNetOne のチームに連絡してください。


ダウンロード可能なリソース


関連トピック

  • SolarNetOne の進行状況を知り、また皆さんの時間や専門知識を寄付する方法について読んでください。
  • この Scott Johnson 氏のインタビューのポッドキャストでは、SolarNetOne の発案者である Johnson 氏が、地球環境により優しくする構想とインターネットへリモート・アクセスする構想について、また SolarNetOne プロジェクトを立ち上げるきっかけとなったインターネットのパイオニア Vint Cerf 博士との対話について、さらには SolarNetOne プロジェクトでオープンソースが果たす重要な役割について語っています。
  • OLPC (One Laptop Per Child) の活動について読んでください。
  • OLPC (One Laptop Per Child) プロジェクトの概要、そして OLPC に向けた開発を始めるための詳細を学ぶために、下記の記事を読んでください。
  • Geekcorps について、また Geekcorps に貢献する方法やボランティアの方法について学んでください。
  • SolarNetOne が設置された最初の場所、ナイジェリアの Katsina State University の写真を見てください。
  • SELF (Solar Electric Light Fund) について学んでください。SELF は「発展途上国の村落における健康、教育、経済的幸福を改善するための持続可能エネルギー・ソリューションを設計し、実現する」ことを目標にしています。
  • NSRC (Network Startup Resource Center) は、「アジア/太平洋、アフリカ、ラテン・アメリカ、カリブ海諸国、中東、そして新興独立国すべてにおける、さまざまなプロジェクトにネットワーク技術を展開する」ための組織です。
  • Linux Terminal Server Project プロジェクトの目標と特徴について読んでください。

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ArticleTitle=SolarNetOne: すべての人のための、太陽電池によるネットワーキング
publish-date=06302009