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ブロックチェーンの基礎: 分散型レジャー入門

ブロックチェーンという革新的テクノロジーとこのテクノロジーの導入方法を知る

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ブロックチェーン・テクノロジーが企業や大学などの組織による取引業務の方法をどのように一変させるようになるのか、その行く末について盛んに予測が行われています。ブロックチェーン・ネットワークの仕組み、ブロックチェーン・ネットワークを利用する方法、そして IBM がこのテクノロジーの進歩に貢献している取り組みについて見ていきましょう。順序として、まず始めに背景から説明します。

分散型レジャーとは何か

分散型レジャーとは、一種のデータベースのようなもので、ネットワークのメンバーの間で共有され、複製されて同期されます。分散型レジャーには、ネットワーク内で行われた、参加者間での資産やデータの交換などといったトランザクションが記録されます。

ネットワークの参加者は、レジャー内のレコードの更新を制御し、コンセンサスにより更新に合意します。金融機関や手形交換所などのサード・パーティーのメディエーターが中心となって関与することはありません。

分散型レジャー内のすべてのレコードにはタイムスタンプと固有の暗号学的署名が付けられるため、レジャーはネットワーク内のすべてのトランザクションを監査できる履歴となります。分散型レジャー・テクノロジーの実装例としては、オープンソースの Hyperledger Fabric ブロックチェーンが挙げられます。

ビジネス・レジャーの役割

固い結び付きで統合された現在の世界では、国、地理、管轄の境界を超えて広がるビジネス・ネットワークを舞台に経済活動が繰り広げられています。一般に、さまざまなビジネス・ネットワークが集結する市場では、参加者 (生産者、消費者、サプライヤー、パートナー、マーケット・メーカー/イネーブラーなど、あらゆる利害関係者) が価値のあるオブジェクト (「資産」) に対してそれぞれに権利、特権、資格を持ち、管理し、行使しています。

資産は有形の物理的なもの (自動車、家、果物など) である場合も、無形の仮想的なもの (証書、特許、株券など) である場合もあります。これらの資産の所有権と移転が、ビジネス・ネットワーク内で価値をもたらす「トランザクション」です。

トランザクションには通常さまざまな関係者が関わってきます。例えば、買い手、売り手、中間業者 (銀行、監査人、公証人など) です。これらの関係者間での取引の合意 (コンセンサス) と契約 (コントラクト) は、「レジャー」に記録されます。企業はそのさまざまな事業における参加者間の資産の所有権と資産移転を記録するために、通常は複数のレジャーを使用しています。これらのレジャーが、企業の経済活動および利益を記録するための基幹システム (SOR) となります。

典型的なレジャーには、以下のような内容が記録されます。

現在のビジネス・レジャーに伴う問題

現在使われているビジネス・レジャーには多くの点で不備があります。具体的には、非効率的、コストがかかる、透明性がない、そして不正に利用されたり誤用されたりしやすいという問題があるからです。これらの問題の原因は、集中化された、信頼に基づく、サード・パーティー・システム (金融機関や手形交換所の他、既存の制度化された取り決めのメディエーター) に依存していることにあります。

このような集中化された信頼に基づくレジャー・システムは、取引決済のボトルネックやスローダウンを招きます。このようなシステムにおける透明性の欠如に加え、汚職や不正に対する脆弱性は、争議の原因となりがちです。争議を解決して、場合によってはトランザクションを白紙に戻したり、トランザクションに対する保険を提供したりするには、コストがかかります。これらのリスクと不確実性が、ビジネス・チャンスを逃すという結果を招くのです。

さらに、ネットワーク参加者それぞれの独自のシステムで管理されるビジネス・レジャーの同期がとれていないと、当座の誤ったデータに基づいて、誤ったビジネス上の意思決定が行われる可能性もあります (そのような事態を避けられたとしても、レジャーのコピー間の差異を解決するまでは、十分な情報に基づいて意思決定を行うことができません)。

ブロックチェーンとは具体的には何か?

ブロックチェーンは、不正開封の跡がすぐにわかる共有デジタル・レジャーで、パブリックまたはプライベートなピアツーピア・ネットワーク内のトランザクションを記録します。ネットワーク内のすべてのメンバー・ノードに分散されるこのレジャーには、ネットワーク内のピア間で発生した資産交換の履歴がブロック内に永遠に記録されます。このようなブロックが、トランザクションの発生順に暗号化されたハッシュ値でリンクされてチェーンのようにつなげられていくという仕組みです。

ブロックチェーンという名前の由来は、確認されて有効として認められたトランザクション・ブロックが、最初のものから最新のものに至るまで、すべてがリンクされてチェーン状になることにあります。したがって、ブロックチェーンは真実を語る唯一の根拠としての役割を果たすとともに、ブロックチェーン・ネットワーク内のメンバーは、それぞれに関連するトランザクションしか表示できないようになっています。

ブロックチェーン・ネットワークの仕組み

トランザクションを仲介する金融機関などのサード・パーティーに依存するのではなく、ブロックチェーン・ネットワーク内のメンバー・ノードはコンセンサス・プロトコルを使用してレジャーの内容について合意し、暗号学的ハッシュとデジタル署名を使用してトランザクションの整合性を確実にします。

コンセンサスにより、共有レジャーが完全なコピーであることを確実にすると同時に、不正なトランザクションのリスクを軽減します。それは、この状況で不正を働くとしたら、多数の場所で同時に改ざんしなければならないからです。SHA256 計算アルゴリズムなどの暗号学的ハッシュを使用すると、トランザクション入力にごくわずかな変更が加えられただけでも、その入力から算出されるハッシュ値が変わってきます。これはつまり、トランザクション入力が不正に操作された可能性を示唆します。デジタル署名は、トランザクションが (秘密鍵で署名した) 送信者から発信されたものであり、偽物から送信されたものではないことを確実にします。

非集中型ピアツーピア・ブロックチェーン・ネットワークでは、単一の参加者や参加者グループが基礎となるインフラストラクチャーを制御したり、システム全体を弱体化させたりすることはありません。ネットワーク参加者はすべて平等であり、同じプロトコルに従います。ネットワーク参加者は、個人、国家公務員、組織、あるいはこれらすべてのタイプの参加者の組み合わせであることもあります。

根本的に、このシステムは、選択されたコンセンサス・モデルに従って、すべてのノードがその有効性を合意したトランザクションを、発生順に記録します。したがって、トランザクションはネットワーク内のすべてのメンバーによって合意された、撤回不可能なものとなります。

ブロックチェーンがもたらすビジネス上のメリット

レガシー・ビジネス・ネットワーク内では、すべての参加者がそれぞれ独自のレジャーを維持するため、レジャー間で重複や差異が生じがちです。それが原因で、争議になったり、決済に時間がかかったり、付随するオーバーヘッド・コストを仲介する機関が必要になったりします。一方、ブロックチェーンをベースとした共有レジャーを利用すれば、企業は時間とコストを節約できると同時に、リスクを軽減できるようになります。いったんコンセンサスにより有効と認められてレジャーに記録されたトランザクションを変更することはできないからです。

ブロックチェーンのコンセンサス・メカニズムは、統合された一貫性のあるデータ・セットによって、エラーの削減、ほぼリアルタイムの参照データというメリットをもたらします。また、参加者はそれぞれに所有する資産の説明を柔軟に変更することもできます。

共有レジャーに保管されている情報の送信元を所有する参加メンバーは 1 つとしてないので、ブロックチェーン・テクノロジーは、参加メンバー間でのトランザクション情報のフローにおける信頼性と完全性を強化します。

しかも、ブロックチェーン・テクノロジーの不変性メカニズムは透明性を向上させるため、監査および法規制の順守に伴うコストも削減されます。その上、ブロックチェーン・テクノロジーを使用してビジネス・ネットワーク上で行われるスマート・コントラクトは自動化された最終的なものであることから、企業はタイムリーな契約締結による業務執行の迅速化、コスト削減、そしてリスク軽減の恩恵を受けることになります。そしてこれらすべての恩恵により、企業が顧客とやりとりするための新しい収益源を創出することが可能になります。

ブロックチェーンが有効な使用事例

ブロックチェーンに適切な使用事例であるかどうかを判断するには、以下の質問に答えてください。

  1. ビジネス・ネットワークが関与しますか?
  2. コンセンサスによってトランザクションの有効性を確定しますか?
  3. 監査証跡または来歴が必要ですか?
  4. トランザクションのレコードを変更不可能にするか、改ざん防止対策を講じる必要がありますか?
  5. 紛争解決を確定的なものにする必要がありますか?

最初の質問とそれ以外の 1 つ以上の質問に「はい」と答えた場合、その使用事例はブロックチェーンから恩恵を得られるはずです。ネットワークが関与する使用事例には常にブロックチェーンが適切なソリューションになりますが、ネットワークと言っても、その形はさまざまです。サプライ・チェーンのように複数の組織にまたがるネットワークもあれば、組織内のネットワークという場合もあります。組織内のネットワークの場合、ブロックチェーン・ネットワークを使用して、例えば部門間で参照データを共有したり、監査またはコンプライアンス・ネットワークを作成したりすることが考えられます。また、ネットワークは個人の間で存在する場合もあります。その場合、例えばデータ、デジタル資産、契約書などはブロックチェーンに保管する必要があるでしょう。

このリンク先のページで、金融サービス、政府、輸送、保険などの業界において、さまざまな組織が新しいビジネス・モデルをサポートするためにブロックチェーンを採用している事例を見てください。

Hyperledger とは何か

Hyperledger は、業界の別を問わずにコラボレーションによってブロックチェーン・テクノロジーを進化させることを目的とした、オープンソースの取り組みです。金融、バンキング、モノのインターネット、サプライ・チェーン、製造、テクノロジーなどの各界のリーダーが参加する、この世界規模のコラボレーションは、The Linux Foundation によってホストされています。130 を超えるメンバーと現在進行中の 8 つのプロジェクトが連携して、標準化されたオープンでエンタープライズ・グレードの分散型レジャー・フレームワークとコード・ベースに取り組んでいます。

Hyperledger Fabric はブロックチェーン・フレームワークの実装であり、The Linux Foundation によってホストされているオープンソース Hyperledger プロジェクトのうちの 1 つです。モジュール式アーキテクチャーを採用している Hyperledger Fabric では、コンセンサスやメンバーシップ・サービスなどのコンポーネントをプラグ・アンド・プレイ方式で使用できるようになっていると同時に、ビジネス向けブロックチェーン・ソリューションの機密性、回復力、柔軟性、スケーラビリティーが確保されます。

The Linux Foundation によってホストされている Hyperledger プロジェクトには、Hyperledger Composer もあります。Hyperledger Composer は、ブロックチェーン・ネットワークのプロトタイプ化、定義、テストと、そのブロックチェーン・ネットワークとやりとりするアプリケーションの作成を迅速に行うために利用できる無料のオープンソースのツールセットです。

ブロックチェーン・テクノロジーに対する IBM の見解

IBM では、ブロックチェーンはビジネス・ネットワークの形を一変させる可能性を持つ、まさに革新的テクノロジーであると確信しています。また、他のテクノロジー企業や業界との連携で、オープンな形でこのイノベーションを起こす必要があるということも確信しています。そのために、IBM では継続的に Hyperledger Projectにコードを貢献し続けます。

IBM の観点からは、業界対応のブロックチェーン・テクノロジーには以下の特性が備わっています。

  • アクセス権限を適用した共有レジャー。追加専用の基幹システム (SOR) であり、真実を語る唯一の根拠です。このレジャーは、ビジネス・ネットワークに参加するすべてのメンバーが見ることができます。
  • ビジネス・ネットワークに参加するすべてのメンバーが同意した コンセンサス・プロトコル。このネットワークで検証されたトランザクションだけでレジャーが更新されることを保証します。
  • 暗号化。改ざんを防止し、セキュリティー、認証、およびトランザクションの完全性を保証します。
  • スマート・コントラクト。ネットワークで行われるビジネスの参加者契約条項をカプセル化するスマート・コントラクトは、ブロックチェーンの検証ノード上に保管され、トランザクションによってトリガーされます。

以上の特性に加え、エンタープライズ・ブロックチェーン・テクノロジーは業界の主要な要件、つまりパフォーマンスやアイデンティティーの検証、プライベートかつ機密のトランザクションなどを満たす必要があります。Hyperledger Fabric はこれらの要件を満たすように設計されているだけでなく、企業各社がそのネットワークに最適なアルゴリズムを選択できるように、プラガブル・コンセンサス・モデルを使用して作られています。

導入方法

IBM は、企業向けに作成されるセキュアなオープンソース・ブロックチェーン・ソリューションにおいて、リーダーとしての役割を果たしています。The Linux Foundation の Hyperledger プロジェクトが始まった当初からのメンバーである IBM は、公然と統制されたブロックチェーンの開発のサポートに専心しています。IBM はこれまで、金融サービス、サプライ・チェーン、IoT、リスク管理、デジタル著作権管理、医療の分野をまたがって 400 社を超えるクライアントと協力し、IBM クラウドを介して提供されるブロックチェーン・アプリケーションを実装してきました。

IBM は柔軟なプラットフォームとセキュアなインフラストラクチャーを提供することによって、クライアントがブロックチェーン・ネットワークを設計、デプロイ、管理できるよう支援しています。IBM ブロックチェーン・ソリューションの詳細と、今すぐビジネスでブロックチェーンを利用し始める方法を調べてください。

まとめ

ブロックチェーン・テクノロジーは、根本的に新しい業務取引の手段を意味します。これらのテクノロジーは、物理的・仮想的であるか、有形・無形であるかを問わずに資産を登録して交換するための、堅牢でスマートな次世代のアプリケーションを先導します。暗号化によるセキュリティーの主要概念、分散コンセンサス、共有のパブリック・レジャー (およびその適切に管理されてアクセス権限が適用された可視性) により、ブロックチェーン・テクノロジーは私たちが経済、社会、政治、科学関連の活動を組織する方法に多大な変化をもたらす可能性があります。
 

次のステップ

この分散型レジャー入門の締めくくりとして、ブロックチェーン探究の旅を続けるための 4 つの素晴らしい方法を紹介します。

  • developerWorks の Blockchain ニュースレターで最新情報を入手します。ニュースレターを購読してください。
  • このリンク先の developerWorks Blockchain Developer Center にアクセスしてください。ここには、ビジネス向けブロックチェーン・ソリューションを開発してデプロイするための無料のツールとチュートリアルが揃っているだけでなく、コードとコミュニティー・サポートも入手できます。
  • 開発者向け Blockchain essentials コースで、資産移転の一部始終を学んでください。自分のペースで進められる無料のコースを修了したら、クイズに答え、バッジを獲得して、ビジネス・ネットワークに役立つブロックチェーン・アプリケーションの計画を開始してください。
  • ブロックチェーン・ネットワークをデプロイして、実際にコーディングを開始したいとしたら、「IBM ブロックチェーンの基礎: 開発者向けクイック・スタート・ガイド」の手順に従えばよいだけです。ブロックチェーンをお楽しみください!

謝辞

この記事の内容のレビューと建設的なアドバイスで貢献してくれた Nitin Gaur、Joshua Horton、Nikhil Gupta に感謝します。さらに、Scott Sloan および Sujatha Perepa、他の IBM Technical Sales Leadership Council (TSLC) チームのメンバーが IBM Blockchain チームとして結束してくれたことに感謝します。

 


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Zone=Cloud computing
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ArticleTitle=ブロックチェーンの基礎: 分散型レジャー入門
publish-date=02012018