7月19日、第4期となるIBM BlueHubインキュベーション・プログラム 第2回説明会を開催しました。
「変革者によるパネルディスカッション」には、freee 横路氏、トレタ 吉田氏が登壇。
Draper Nexus Ventures 倉林氏の進行のもと、起業時の困難や苦労について、またそれぞれの経験から参加者に向けてのアドバイスを語って頂きました。

【スピーカー】
freee株式会社 CTO/共同創業者 横路 隆
株式会社トレタ 取締役COO兼CFO 吉田 健吾
Draper Nexus Ventures Managing Director 倉林 陽


倉林氏:freeeさんは、クラウド型の会計ソフト、トレタさんは、飲食店向けの予約/顧客管理に特化したクラウド型サービスに取り組まれていますが、現在に至るまでに大変なチャレンジがたくさんあったと思います。そこをどの様に乗り越えてこられたのか教えて頂けますか?

ITリテラシーの低い顧客に対して

横路氏:

会計分野って最初にIT化がされたような分野だったのですが、クラウド化が本当に進んでいなくて、旧態依然のUXで我慢している人が凄く多い分野でした。また、大企業の方々はERP(Enterprise Resources Planningの略)で凄く楽をしているのに、多くの中小企業の方々はそういう世界があることも知りませんでした。

テクノロジーでここの格差を埋めていくというのは、凄く重要な事だと思っています。またバックオフィスを支える業務というのは、基本的に人、モノ、金というビジネスリソースの管理、見える化が重要です。しかし、それに凄くコストが掛かっています。

それに対し、日本のインターネットバンキングの普及率は依然として低いという事情はありつつも、クレジットカードなどのツールもありますので、ビジネス上のお金の情報はオンライン上に集まりつつあります。これらを自動的に取ってきて処理を自動化・最適化することで、何か新しい価値が出来るのではないか、凄く効率化出来るのではないかという仮説をたて、最初のプロトタイプを作り始めました。

しかし、既存のプレーヤーもたくさんいる中、なぜ今それ使わないといけないのかという声もたくさんありました。その様な中でしたので、自信を持ってリリースできるプロダクトの完成に時間をかけてしまいました。

一番の困難は、2012年の7月に創業したのですが、1回目(2013年3月)の確定申告にプロダクトのリリースが間に合わなかったことですね。

倉林氏:

そうすると次の確定申告までユーザーも待たないといけないという事ですよね?

横路氏:

そうですね。先行者利益というのは凄く大きいので、そこでユーザーを獲得できなかった事を非常に悔やんでいます。
確定申告が、3月14日くらいだったと思うのですが、プロダクトのリリースが3月19日でしたので。

倉林氏:

少し間に合わなかったのですね。今でこそクラウド会計が広がってきた感じですが、お客さんのリテラシー不足というか、当初ユーザーを教育しないといけないというところで苦労されたのではないですか?

横路氏:

まさにその通りです。我々の狙う日本の中小企業において、事業主の平均年齢は65歳前後なのですね。そこに対してどうやって攻めていくかと考えた時に、やっぱり若い世代とか、あとはキャッシュを使わないビジネスをされている方に採用されやすいというのがあります。

士業の方とか、フリーランスでエンジニアをやっているような方、あとは会社設立をこれからする様な方には特に価値を感じてもらいやすいという事で、その様な方たちをメインにオンラインマーケティングで獲得して行くというのが最初の戦略でした。

倉林氏:

ありがとうございます。吉田さんはいかがでしょうか?

吉田氏:

トレタの一番困難だったことは、今現在もそうですが飲食店さんのITリテラシーというか、そういうものを使うという発想がそもそもないところですね。

飲食店の中のイノベーションというのは本当に3,40年程なくて、遡ると1970年代POSレジが出てきた時まで遡ります。POSレジによりファミレスなどのチェーン展開が可能になったのですが、それ以降は飲食店の現場の中に何もイノベーションが起きていなくて、IT化もされていませんでした。

そのため、ITを使うという事が飲食店さんの頭の中にはなく、便利なツールを探して我々のサービスにたどり着くという事はほぼ0に近かったです。テレアポをし、飛び込み営業をしていかなくちゃいけないというのが苦労したことですね。

また現在もありますが、経営者の方はある程度合理的に判断される為、これを使う事でリターンが得られると考えられます。しかし、現場の方の多くは、自分の仕事が楽になるのか、新しいことを覚えなくちゃいけないのかという事を気にされるので、オーナーや店長がやろうと言っても現場の強い抵抗にあってなかなか導入が進まないという事例も多くあります。

そこで、現場の抵抗を取り除くために、説明会を開いたりだとか、どの様に進めれば導入がスムーズにいくのかというのを磨いてきた感じですね。


ユーザーファーストではなくイシューファースト

倉林氏:

ご存知の方も多いと思いますが、この2社は凄くプロダクトが洗練されているというか、エンジニアリングとかデザインその辺りが大変優れていると感じます。その辺りについて、こういうメンバーがいて、こういう思想でやっているのでプロダクトが良いというところを教えて頂けますか?

横路氏:

まず、こだわりはエンジニアがプロダクトを作るということです。プロダクトマネージャーを置いたのは、3、40人規模になってからなのですが、それまでも現場のエンジニアが中心となって課題を整理し、技術書を読む感覚で仕様をつくり、簿記とか人事労務の本を読んで確かめていました。

また品質が命ですので、例えば給与計算とかのテストケースを書くときは、労務のプロの先生にスプレッドシートにテストケースを書いて頂き、プロダクトをリリースする際には必ずそのテストが回り、自動チェックをするといった工夫をしていました。我々がユーザーの価値を自分事としてとらえられる、そういう環境を整えるというのは凄く重視しましたし、その様なエンジニアを集めてきました。

倉林氏:

吉田さんはいかがですか?

吉田氏:

サービスの発祥としては、元々創業者の中村が飲食店の中にいた人間だったので自分の欲しいものを作ったというのが出発点です。彼が紙の予約台帳で管理している時に、ダブルブッキングが発生するなど苦い経験をしたということで、1人目のユーザーは自分という事で作ったのですね。

サービスがローンチしてから2年ぐらいまでは、中村がプロダクトオーナーだったのですが、途中でデザイナーにプロダクトオーナーをスイッチしました。それでも品質を保てているのは、どれだけ現場を見に行けるかを重要視し、ユーザーファーストではなくてイシューファーストという事が浸透しているからです。

ユーザーファーストが悪いという訳ではなくて、我々の場合、飲食店のスタッフの方々の課題と、お店の課題が必ずしも一致しない事があります。そこで、課題を確かめに行くことが大事だと思っていて、デザイナーやエンジニアにも現場にヒヤリングや観察に行ってもらいます。

トレタ導入前で紙の予約台帳を使っているお店に対しては、どういうオペレーションをしているのかなど見させてもらい、課題をちゃんと分解しにいきます。その様な文化が創業の中村から今のメンバーに受け継がれているというところが、強みとなっていると思います。


泥臭くフィードバックを得る

倉林氏:

ありがとうございます。プロダクトを出してお客さんの使用状況を確認し、そのフィードバックをプロダクトに落とし込む文化作りの様なところで、組織作りなど気をつけていらっしゃることございますか?

横路氏:

社内のフィードバックとお客さんのフィードバックを大切にするというのはもちろんですが、プロダクトサイドでは、出した機能をいかに可視化し、オペレーションに繋げるかというのを開発文化にしみ込ませています。

データドリブンってカッコいいものに思えるのですが、結構泥臭い事もやっています。例えばフィードバックは、エンジニアとカスタマーサポートで自分達の作った機能を自分で受けながら答えるとか、社長自らNPS(Net Promoter Scoreの略)の低かったお客様に電話し、ヒヤリングを行うなどです。その様な泥臭いフィードバックとデータドリブンでしっかりとしたフィードバックを得られる環境を作っています。

倉林氏:

凄く良いですね。プロダクトをユーザーがどの機能をどの程度使っているのか、追えるようにされていますか?ログイン数だけじゃなく、この機能まで使っていると解約されないという様な事が、SaaSをやっていると見えてくると思うのですが。

横路氏:

そうですね。データサイエンスチームがオンボーディングスコアというのを作っていまして、ここまでやっていたらユーザーがプロダクトを使えていると分かるようにしています。ユーザーの離脱率を下げるというのはSaaSビジネスの肝ですので、これを見てどの様なオペレーションを行うかを戦略的に決めています。


併用を許さない

倉林氏:

なるほど。吉田さんはいかがでしょうか?

吉田氏:

トレタの場合、セールス&マーケティング部に社員が30数名いて、実際にフィールドに出ている営業メンバーが13名います。オンラインでの問い合わせがくる事は少ないので、セールスがどの様にお客様にアプローチするか、というところに密着している部分は大きいです。

成約して終わりではなく、紙の予約台帳を捨てて貰うところまでをセールスのゴールとしています。

飲食店の方々は、新しいことに取り組むのが怖いという事で、しばらくは紙の予約台帳と併用させてくれというのですが、併用すると事故になる確率が無茶苦茶上がります。
それで事故が起こると元の紙の予約台帳のみの利用に戻ってしまいます。

清水の舞台から飛び降りるじゃないですが、大丈夫なのでと言いながら後ろから後押しし、思い切って踏み込んで頂かないといけない、まずはそこがポイントですね。

その後は、日常どのくらい使って貰っているのかというのをデータで見ていき、予約の入力数が増えない店舗には電話で状況確認します。またiPadのアプリで提供しているのですが、OSの状況によりアプリのクラッシュが、我々の範疇外で発生してしまうリスクがあります。クラッシュのログも毎日とっていまして、1日にクラッシュが複数回続いたというお店には、電話での状況確認や現場確認なども行っていますね。


スピードをお金で買う

倉林氏:

SaaSに興味がある人には、非常に面白い話ですけど、どんどんSaaSのマニアックな話に行きそうですので。(笑)
最後にパートナーシップであったり、ファイナンスであったりアーリーステージの方に役に立つような示唆がございますか?

横路氏:

やっぱり会社が小さくても大きくても、採用が一番大事だと思っています。資金調達は成長のスピードをお金で買うという事なので、勇気を持って、調達した資金を使い切り、同じミッションを追う仲間と急成長のコミットを果たすことが重要ですね。
特にSaaSは、お金を燃やして時間をかけて爆発的に成長して行くというモデルなのでそこをしっかりやったらいいのではと思いますね。

倉林氏:

トレタさんの場合いかがでしょうか?

吉田氏:

はい、トレタがシードの段階で投資をして頂いたのが、磯崎哲也さんというベンチャー界隈では有名な方なのですが、なにもプロダクトが出来てない段階で信用して頂き投資して頂きました。磯崎さん含めその他投資家の方々との信頼関係により、安心して事業に打ち込めることが出来ましたね。


以上。