「日本の産業をテクノロジーによって変革」というテーマで募集が始まっている、IBM BlueHub第4期インキュベーションプログラム。
変革者へのインタビュー企画として、2回目の今回は、超小型衛星の開発など宇宙を舞台にビジネスを手掛ける (株)アクセルスペース CEO 中村氏にインタビューを行いました。
中村氏が宇宙ビジネスに取り組もうとしたきっかけ、現在の取り組み、また今後のビジョンはどの様なものなのか、以下インタビュー記事をお楽しみください。


小型衛星の開発を続けたいという想いから起業を決意

―初めに人工衛星の分野に携わろうと思ったきっかけを教えてください。

私は元々宇宙が好きという訳ではなかったのですが、大学2年生の時、航空宇宙工学科の先生が研究室紹介の中で手作りの人工衛星プロジェクトを今やっているという事を話しておられて、それに凄く衝撃を受けました。
宇宙は自分の手の届かないところと思っていましたが、先生から具体的なプロジェクトの話を聞き、研究室なども見せて貰ったことで、これは面白そうだ、やってみたいという気持ちが出てきたのでそこの研究室を志望しました。 それ以降、4年生~卒業するまでその研究室で開発プロジェクトに携わり、合計3機の人工衛星の開発をやりました。

―卒業後すぐに起業されたとの事ですが、就職という考えはなかったのですか?

当初、起業するというアイデアすらなくて、どの企業に行けば超小型衛星の開発に携われるかと考えていました。しかし、世界中探してもその様な開発を行っている企業はありませんでした。

3機の衛星を作る中で、もう少し頑張れば学生の教育という範疇ではなく、もっと社会の役に立つ実用的な物が作れるという確信があったので、どうしても続けたいという気持ちがありました。

そのような時、研究室で科学技術振興機構(JST)の大学発ベンチャー創出事業の助成金をいただいている事を知りました。自分の希望をかなえるためには、起業して超小型衛星を自分たちの力で世の中に出していくしかないと決意を固め、2007年から3名で起業準備を始めました。


成果に結びつかず苦しんだ営業活動から“WNISAT-1”打ち上げへ

―起業してから1機目を打ち上げるまでに苦労したこと。またその中で特に印象に残っていることは何ですか?

大学発ベンチャーが陥りやすい罠は、技術が良ければ売れるだろうと勘違いしてしまうことです。まさに我々がこの典型で、我々の衛星技術はきっと役に立つということで、営業ノウハウもなく、顧客候補企業のビジネスについて深く調べもせずに中で押し売り的な営業活動を始めてしまいました。

幸いなことに多くの企業様が面白いと言って会ってはくださり、話は聞いてくれるのですが、どうやって実際のビジネスに結びつければ良いかを双方ともイメージ出来ず、考えておきますねと言われ、次のミーティングがないというのが何十件も続きました。営業とはこんなに難しいのかという思いに打ちのめされ、ほとんど挫折しかけでした。

助成金を貰える期間が残り1年となった頃、大学時代の教授の紹介でウェザーニューズさんと出会いました。幸運なことにウェザーニューズさんは、自社で人工衛星を持ちたいという考えを少し前から持たれており、その前提でいろいろなディスカッションが出来ました。それで我々としても、この案件に賭けるしかないと考え、お互いに納得いく解を求めてああでもないこうでもないと試行錯誤しながらやり取りをし、最終的にはプロジェクト開始の合意を得ました。

―ウェザーニューズさんはどの様に小型衛星を利用しようと考えられたのですか?

ウェザーニューズさんは、船会社に対して北極海を通る最適な航路の情報を提供しようとしていました。当時、温暖化の進行で夏の間北極海の氷が溶けてきているという事で、そこが新航路として注目されていたのです。しかし、想定していた航路には大きな氷もたくさん漂流していますので、安全情報なしには航行が難しいのです。

2007年からウェザーニューズさんは、北極海航路の情報提供サービスの実現に取り組まれていたのですが、既存の衛星から画像を買うとコストがかかりすぎる為、ビジネス的に実現に至っていませんでした。画像1枚で100万円近くも掛かってしまいますが、北極海航路全体の状況を知るためには何十枚という画像が頻繁に必要になるため、これではまったく採算が合わないわけです。

これに対して、小型衛星を自前で持てば、初期費用こそ掛かるものの画像1枚ごとにコストがかからず、採算が取れる可能性があるという事で、ウェザーニューズさんに採用頂くことになり2013年“WNISAT-1”の打ち上げに成功しました。


新時代の地球観測インフラを!

―御社では新しい時代の地球観測インフラとしてAxelGlobeを発表されていますが、このプロジェクト発想の経緯など教えて頂けますか?

実績を作れば他の企業様からも契約が取れると思っていたのですが、1度目の打ち上げに成功してからも、自社で衛星を持つことに興味を持つところはなかなか現れませんでした。われわれは、企業が自社衛星を持つことのリスクが大きすぎるのだと判断し、これからビジネスを拡大していくためにはビジネスモデルを変えていく必要があると考えました。そこで始めたのがAxelGlobeというプロジェクトです。

2022年までに衛星50機を打ち上げ、地球上で人間が経済活動を行っているほぼすべての地域を毎日撮影することが出来るようにします。毎日撮りますから、変化に気づくことができます。その変化が、いろいろなビジネスにとっては重要な情報になります。様々な業界での利用の実例が多く生まれることで、新しいインフラとなる事を期待しています。

―小型衛星の普及により思い描くインフラの姿について詳しく教えてください。

インフラというのは、例えばGPSを思い浮かべて頂ければわかるのですが、グーグルマップを見て自分の位置が表示される時、誰も衛星そのものを意識してないですよね。でもあれは衛星からの信号を受信しなければ実現できないものです。

我々の衛星を使ったサービスというのもユーザーが衛星を使っていることを意識しないで、ごく自然に暮らしの中で使われているという状況を実現したいと思っています。最初の目標は、政府のみがユーザーであるBtoGオンリーの時代から抜け出し、BtoBの新しいビジネスを作っていくこと。そのために現在様々な企業様と話をさせて頂いており、ビジネス利用の事例が少しずつ出始めています。

近い将来にはBtoCにも領域を広げ、個人にベネフィットがあるよう、人々が当たり前の様に我々の衛星からの情報を使うことが出来る社会を構築出来ればと思います。

―現状抱えている課題はどの様なことでしょうか?

我々がコントロールできない衛星の打ち上げ、つまりロケットの課題が大きいです。
打ち上げ手段が、衛星ビジネスのスピードに追い付いていないというのが現状です。我々が2022年までに50機打ち上げるといった時に、どこの会社がそれを実現できるかがまだ不透明です。

ただし、世界を見渡せば超小型衛星専用の打ち上げ手段を提供する企業も出てきていますし、またそれに対抗して既存の企業も超小型衛星向けの打ち上げサービスを拡充しつつありますので、楽観視はしています。その他に関しては、資金・人をもっと増やし実現を早めたいというところはありますが、実現を阻むような何か超えられない壁があるとは思っていません。


リスク覚悟で次のビジネスの主流に挑む

―今後日本がイノベーションを主導していくために必要な事は何だと思われますか?

プラットフォームの部分を取りに行こうという姿勢ではないでしょうか。
我々自身そこを抑えられるかが大事だと思っていて、そのプラットフォームの上で様々なビジネスが生まれてくるという状況にしていきたいです。次のビジネスの主流は何だろうと考え、一番主要なところを抑えに行くというのは、やはり大事だと思います。

宇宙産業というのはまさに次の主流で、次のビジネスの大きなフィールドになるのは間違いなく、インフラをどこが取るかという競争の真っただ中にあります。もちろん非常にリスクが大きいのは間違いなく、それがビジネスになるか不透明な部分もあります。

そのうえで様々な人がそのプラットフォームを使ってビジネスをしてくれるようにするには、我々がこういう風に使えばいいんだよという実例を見せて行かないといけないと思っています。大変な事ではありますが、1度上手く回り出すと非常に大きなビジネスになっていきますので、そういうところを日本としていくつか抑えないといけないと思いますね。

―最後にAxelGlobeの後の目標等あればお願いします。

まずAxelGlobeについては、インフラですので終わりなく継続していきます。
プロジェクト自体が、生き物ですのでマーケットがどう動くかを見て、需要があればもう50機作って1日2回見られるようにという風に動くかもしれません。

また今ですとイーロン・マスクが火星に人を送ろうとしていますが、本当に人が住むようになれば火星向けのサービスも検討していかなければいけないと思います。我々は宇宙産業のプロフェッショナルと自負していますので、我々の知識・技術を使いアドバンテージがあるところにはどんどん進出していきたいです。

とにかくAxelGlobeを使えるインフラにするというのが当面の目標ですね。