ダイバーシティー&インクルージョン

行動変容の最初の一歩。呼称を「肩書き」から「さん」に変えてみませんか?

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2022年3月、『ジェンダー・インクルージョン施策の危機 善意は必要だが十分ではない(日本版)』と題するIBV Reportが公開されました。『ジェンダー・インクルージョン施策の危機 善意は必要だが十分ではない(日本版)』は、2021年に米国でリリースされたIBV Reportに、日本のデータ、インサイト、事例などを追加した「日本版」です。本レポートの制作に携わった男性社員たちは「このレポートの存在を世の多くの男性たちにも伝えたい」と考えました。

女性視点のダイバーシティー&インクルージョンやジェンダー平等に関する記事が溢れるいま、なぜ彼らはそうした思いを持つに至ったのでしょうか。

日本IBM社長直属の諮問委員会である「Japan Women’s Council(以下、JWCと記述)」の一員である筆者が、対話形式で制作担当者たちに話を伺い、彼らの視点のまま記事にまとめました。

加藤 典子
インタビュアー:加藤 典子
日本IBM テクノロジー事業本部 カスタマー・サクセス・マネージャー
IBV
インタビュイー:大岡 俊之
IBV Japan, IBM Future Design Lab., IBM Consulting Japan
IBV
インタビュイー:横山 勝巳
IBV Japan, IBM Future Design Lab., IBM Consulting Japan

はじめに

Q: IBV Report とは何ですか?
IBV Reportの「IBV」は、IBMのビジネス・シンクタンクである「IBM Institute for Business Value」の略称です。 IBM Institute for Business Valueは、業界固有の重要な問題や全業界に共通する企業経営の課題に関する「事実に基づく戦略的見識」を、経営者の方々に提供しています。

Q:なぜ、『ジェンダー・インクルージョン施策の危機 善意は必要だが十分ではない(日本版)』を日本語で展開しようと思われたのですか?
日本のジェンダー・ギャップ指数が低迷する中、新型コロナウィルス感染症(以下、コロナ)が重なったことで、Black Lives Matter に代表される、グローバルなレベルでの人種にまつわる問題やLGBTQ +など多様な方々への理解と関心が、日本でも高まっているように感じています。

ビジネスの観点でも、ダイバーシティー&インクルージョン(以下 D&I)に取り組むことで得られる戦略的効果やその根拠となる情報が求められるようになりました。そのような背景から私たちは昨年D&Iに関連するIBV Reportを5本発行しています。

D&Iのレポートはシンクタンク各社からも提供されていますが、性別や人種にまで踏み込んだ情報はまだ少なく、弊社のビジネス領域をベースに、このテーマを日本の読者に届けることに意義を感じました。特に、経営に関わる方には、一読いただき、そして考えていただきたい内容ばかりです。

パンデミックとダイバーシティー

Q:2021年の調査がもとになっていますが、パンデミックによる影響はあるのでしょうか?
今回のレポートが制作された経緯には、新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)による世界的なパンデミックが大きく影響しています。米国では500万人を超える女性が失業し、女性の就業率が1998年以来の低水準となりました。日本でも、同様のニュースを連日耳にしました。これは、もはや、対岸の火事ではありません。

Q:確かに、女性特有の雇用形態にダメージが大きかったですね。それが、どのようにダイバーシティーに関連するのですか?
昨今、日本においても女性の長期的なキャリア形成に伴う数々の障壁の有無は、社会課題として認知されてきました。その結果、ダイバーシティー・エクイティーを目標に掲げる企業も多くなり、女性の雇用を積極的に底上げしてきました。そして、このような雇用施策に比例する形で、上級管理職になる一歩手前の層にいる女性も順調に増加していたのです。

しかしながら、想像以上に長期化するパンデミックの影響も受けてか、この「上級管理職になる一歩手前の層にいる女性」の人数が唐突に減少してしまったのです(図1参照)。これは、前回調査した2019年以来、微増で推移してきた女性上級管理職が、このままでは候補者不足に陥ることを意味します。

経営層を担う女性管理職のパイプラインの縮小を示すグラフ

(図1)パイプラインの縮小:日本では、経営層を担う女性管理職のパイプラインは2019年以降、縮小し続けている

Q:パンデミックが解消すれば回復する、という見通しではないのでしょうか?
女性管理職の強化に関する企業からの回答は、2019年に比べると曖昧なものが増加しています(図2参照)。調査結果から、今後の施策について、企業側に迷いが生じていることが読み取れます。

つまり、パンデミックによって、従来型のD&I推進に限界が来たのではないかと感じています。

曖昧な意見が増加していることを示すグラフ

(図2)曖昧な意見の増加:女性の昇進を支援するための慣行に対する日本企業の見方は楽観的である

Q:従来型アプローチの限界、どんな変化が必要ですか?
制度やプログラムが充実してきた一方で、「現状にあった活用ができていない」「形骸化してしまっている」ことが課題です。制度は必要ですが、権利の保証だけでは現状は変えられません。制度の中身を具体的にどのようにしていくのか、という考え方が大切です。

このことを、私たちはよく、活用する人の背中を押せるよう「魂を入れていく」と表現しています。具体的な行動基準について、5つの提言をしていますので、ぜひ、ご一読ください。(『ジェンダー・インクルージョン施策の危機 善意は必要だが十分ではない(日本版)』内の「ジェンダー・エクイティー実現のための5つのステップ」

慣習とキャリアの壁

D&Iの壁を紹介する図

D&Iの壁:D&Iを阻む壁は何なのか、壁の背景や真因は何か、 ではどのようにして乗り越えるか?

Q:女性の活躍を阻む壁、私は、図にあるいくつものコマに共感します。男性のお二人も共感するコマはありますか?
改めて見ると、我々も共感する部分はあるものの、壁と感じることはなかったですね。

周りに同様の経験をしている同僚がたくさんいるし、心理的にも越えられないとは思わないです。新たなミッションに取り組むとき、プレッシャーを感じるけど、壁とまでは思わないので、そのような雰囲気に気づきにくいのかもしれません。

Q:「社会の壁」とありますが、日本の慣習は変わってきていますか?
日本では、家事、子育ては女性の役割とみなす根強い風習があります。働いていると、ここに追加で仕事、北欧のように家事を平等に分担する習慣がまだ根付いていないと感じます。

この状況が続くと、女性は管理職に手を挙げにくいですよね。

Q:確かにそうですよね。女性は、プライベートでも家事育児や仕事(キャリア)について話しますが、男性はどうですか?
どうでしょうか…。基本的に、調理家電とか家事や育児グッズの話は、まず出ないです。

仕事の話は普通にします。ただ、男性は、自分の進路やキャリア形成について、個人で考える傾向がある気がします。オープン・ディスカッションを求める人は、少数派かもしれません。このレポートをきっかけに、ディスカッションをしてもらえるようになると、新しい一歩を踏み出せそうな気がします。

役職呼称からの解放〜肩書きで呼ぶことから解放されてみませんか

Q:IBV Reportの活用方法について教えてください
IBV Report は企業戦略を支援するための提言ですが、今回の『ジェンダー・インクルージョン施策の危機 善意は必要だが十分ではない(日本版)』は、企業内のD&Iにも活用していただきたいです。

  • 本音が出やすい人数(〜6人)で、このレポートをベースに、ざっくばらんなディスカッションを実施してみてください。ジェンダー平等が、これまでよりも我が事として身近に感じられ、真の施策価値の理解に役立つはずです。
  • 慣習は、一度の研修受講では変わりません。属性で他者を分類し決めつけていないか、自身を見つめ直すツールとしてもご活用ください。アンコンシャス・バイアスを理解して、意識的にインクルーシブな言動に変えていくことにも役立つでしょう。日々の小さな行動を積み重ねることが大切です。

Q:具体的な行動変容の提案はありますか?
初めの一歩として、肩書きで呼び合う慣習から解放された「オープンな感覚」を経験してほしいです。昇進していくと肩書きがついて、呼称が肩書きになる企業も多いと思いますが、属性で相手を型にはめ、個人の特性を理解するチャンスを失いがちです。

IBMは、社長も入社1年目の社員も、全員「〇〇さん」と呼びます。この文化はとても大切です。

責任範囲や役割が違っていても、同じ企業で共通の目標を持った仲間同士、「役職」や「役割」以上の結果を残すために、個人をより良く理解し、成長し合える良い文化が生まれると思います。

『ジェンダー・インクルージョン施策の危機 善意は必要だが十分ではない(日本版)』でも、「男女格差を解消する」という善意ではあるが抽象的な概念から脱却すべき目標は、単なるノルマではなく、「親しみやすく温かいインクルーシブな文化の醸成に必要な文化的・行動的な変化を、包括的に評価できる項目も加えるべきだろう」と述べています。

呼称を「さん」に変えてみる、たった、これだけのことです。ぜひ、試してみてください。

最後に

今回、インタビューを受けてくださったお二人は、かつて、「24時間戦えますか?」というフレーズが一世を風靡したころ、「24時間戦えない男はダメなのか」と居心地の悪さを覚えた過去があるそうです。

性別や世代による決めつけや同調圧力は、誰にとっても制約になり、自由で創造的な発想を妨げます。『ジェンダー・インクルージョン施策の危機 善意は必要だが十分ではない(日本版)』が、皆様にとって、「属性で捉えずに個人に向き合う」立ち位置へ戻るためのベースになることを願います。

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