量子コンピューター

Qiskit Runtimeのプリミティブでアルゴリズム開発をより簡単に

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量子と古典のハイブリッドなプログラムのコンテナ型実行環境としてQiskit Runtimeを発表してから約1年、Qiskit Runtimeのプリミティブによって、よりシンプルな量子プログラミング体験を可能にする概念を徐々に展開しています。同時に、IBM Cloudの従量課金モデルによって、どなたでもより大規模なIBM Quantum Falconプロセッサーにアクセスすることが可能です。

量子コンピューティングが成熟するにつれて、開発者は最高の量子ハードウェア以上のものを必要とするでしょう。具体的には、量子プログラムのプログラミングと実行モデルが必要になるでしょう。それは、高速で、効率的で、使いやすく、拡張性が備わっている必要があります。私たちは、このニーズを満たすために、Qiskit Runtimeのプリミティブを構築しています。

2021年に初めてQiskit Runtime[1]を限定的にリリースした時、私たちの関心事は量子コンピューティング・ワークロードの速度と効率を向上させることでした。最初の取り組みは、IBM Quantumシステムと連携した古典的な計算インフラストラクチャー上でユーザーが量子と古典のプログラムを束ねて実行できるようにすることに重点を置きました。実行モデルを、回路を実行するサービスからプログラムを実行するサービスに変更することで、ワークロード性能を左右する最大のボトルネックのいくつかを解消できました。

特に、ユーザーのコンピューターと量子システム間の長い通信の往復をなくしました。その結果、Qiskit Runtimeで実行されるプログラムはより効率的に実行され、ユーザーがキューで待つ時間を減らし、1日に多くの回路を実行し、より早く結果を得られるようになりました。これらの変更により、量子化学アルゴリズムの例では、最大120倍のスピードアップ[2]を実現し、他のユーザーからも性能向上の報告[3]がありました。

この同じインフラストラクチャーを活用して、開発体験をさらに簡素化すると同時に、性能を向上させるための基礎を築く機会を見出しました。Qiskit Runtimeプリミティブによってこれらを実現しています。

量子コンピューターが古典コンピューターと異なる点は、出力に非古典的な確率分布を生成できることです。確率分布に対して行える操作は、確率分布からのサンプリングと確率分布に基づく量の推定です。そのため、サンプリングや推定という操作は、量子アルゴリズム開発の基本的な構成要素となっています。

最初の2つのQiskit Runtimeのプリミティブは、SamplerとEstimatorを介し、量子システムのコア・インターフェースとして、これらのサンプリング操作と推定操作を直接公開します。

Sampler

Samplerは、量子回路の出力からサンプリングすることで、その出力における準確率分布全体を推定します。Groverのような探索アルゴリズムに有効です。

Estimator

Estimatorは回路の出力におけるobservable(観測値)の期待値を計算します。このような値には、分子の電子構造、最適化問題のコスト関数、機械学習問題のカーネルなど、実に様々なものが含まれています。

開発者がこれらのプリミティブを使用する場合、運用上の必要性を、同時に表現したいと考えます。例えば、開発者は特定の目標精度や最大実行時間での期待値を知る必要があるかもしれません。これらは、繰り返し実行する回数(「ショット」)や、目標精度を達成するために使用する特定のエラー緩和方法といった低レベルの詳細を制御しようとするのとは異なる目標です。

これらの操作を、IBM Quantumハードウェアのコア・インターフェースに位置付けることで、ユーザーがユースケースに関連したニーズを明確に表現するための基礎も据えています。

強力な量子システムでプログラムを実行する新しい方法

IBMは、2016年にIBM Cloudが提供するIBM Quantumプラットフォームで、初めて量子プロセッサーを利用できるようにして以来、クラウドベース[4]の量子コンピューティングをリードしてきました。現在では、世界最大の高性能量子システム群へのアクセスを提供しており、今後も先進的な探索システムおよびコア・システムを継続的に更新していく予定です。しかし、現在、最先端のシステムにアクセスするには、プレミアム・オファリングで専用の容量を購入する契約が必要です。そして、今後は、より多くの開発者が最先端のシステムにアクセスできるようにしたいと考えています。

従量課金プランのユーザーは、2つの27量子ビット・システムを、ランタイム秒あたり1.60ドルの料金で利用できるようになります。

IBM Cloudの新しい従量課金プラン[5]では、本日よりベータ版を開始し、IBM Cloudアカウントをお持ちの方ならどなたでも、27量子ビットのFalconプロセッサー2台へのアクセスが可能です。ユーザーは、Qiskit Runtimeプリミティブを使用して、より要求の厳しい量子プログラムであっても、最先端のシステムでシームレスに実行できます。必要なリソースのみをクレジットカードまたは IBM Cloud クレジット(サブスクリプション不要)で支払い、ランタイム秒あたり 1.60 ドルで提供します。IBM Cloudでサービスを利用できるようになったことで、Qiskit Runtime API上に構築したり、IBM Cloudのユーザー管理、課金、その他パートナー向けのインフラを利用するエコシステムパートナーへの道が開かれたことも、さらなる利点です。

今後の展開

次フェーズの量子コンピューティングのプログラミングと実行モデルは、高速性、効率性、利便性、拡張性が求められます。

Qiskit Runtimeプリミティブは、類似するどの量子サービスよりも、高速で効率的かつアルゴリズム開発者のニーズに適した体験を、既に提供しています。統合されたIBM Cloudアクセスの提供開始により、IBMが提供する最も先進的なシステムを、これまで以上に幅広い開発者グループが利用できるようになります。Qiskit RuntimeプリミティブをIBM Cloudに統合することで得られる最終的で重要なメリットは、スケーラビリティーです。

Qiskit Runtimeの効率とスピードの向上は、それ自体がスケーラブルです。このプラットフォームに新しい最適化技術を取り入れることで、開発者はより少ない労力でプログラムを高速に実行できるようになります。また、誤り抑制や緩和などのツールも取り入れることで、さらにパワーアップしていく予定です。

クラウド上で利用できる多種多様な従来の計算リソースを活用し、柔軟かつ量子と古典のハイブリッドインフラストラクチャー構成を可能にするサーバーレス開発モデル[6]によって、将来的に大きな利益が得られると見込んでいます。開発者がインフラストラクチャーの専門家になる必要なく量子サーバーレスを実現するためのツールの開発に、私たちは取り組んでいます。

脚注

  1. Qiskit Runtimeに関する詳細はこちら。︎
  2. 2021年5月、IBM QuantumはQiskit Runtimeで量子ワークロードの120倍のスピードアップを実現。詳細はこちら
  3. Beaulieu, D., Pham, A. Max-cut Clustering Utilizing Warm-Start QAOA and IBM Runtime. arXiv. (2021年8月31日投稿)
  4. 量子の従量課金クラウド・サービスについては、IBM Cloud Blogの記事をご覧ください。
  5. Strangeworksは、Qiskit Runtimeの従量課金モデルを通じて、一部のIBM Quantumシステムに対して使用量に基づく価格でのアクセスを提供する最初のIBMビジネスパートナーであることを発表。詳細はこちら
  6. 2021年、IBMは量子および従来のリソースを活用するための新しいプログラミング・モデルであるQuantum Serverlessを発表しました。詳細はこちら

本記事は「Qiskit Runtime primitives make algorithm development easier than ever」を抄訳したものです。

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