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重金属を含まない新しい電池設計により環境問題の軽減に寄与

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著者:ヤンヘイ・ナ(Young-Hye Na)博士
IBM Research-Almaden、次世代電池用素材イノベーション担当マネージャー

 
IBM Researchは、長い歴史を持つ材料科学のイノベーションに基づき、新しいタイプの電池の開発に取り組んでいます。この新しい研究は、電池製造における重金属の使用を不要とし、エネルギー・インフラストラクチャーのさまざまな構成要素を長期的に持続可能にできるかもしれません。

自動車からスマート・エネルギー・グリッドに至るあらゆる物において電池駆動への利活用が検討されるなかで、電池テクノロジーの持続可能性(サスティナビリティ)は重大な懸念事項です。

ニッケルやコバルトといった重金属を含む電池素材の多くは、環境や人体に大きな影響を及ぼす危険性をもたらします。特に、その多くが中央アフリカで産出されるコバルトは、枯渇を顧みない採掘が批判の対象となっています。(参照:フィナンシャル・タイムズ

IBM Researchでは、これまでに電池に一度も適用されたことのない複数種の新しい独自の素材を使用し、重金属など将来的な供給の問題が懸念される物質を含まない、新しい電池用の化学作用を発見しました。

この電池の素材は海水からの抽出が可能で、現在の鉱山採掘よりも環境影響の低い資源調達技術の基盤となるでしょう。

新電池の材料構成と同様に期待されているのが、その潜在的性能です。初期テストにおいて、最適化すればコストの低減や充電時間の短縮、出力密度やエネルギー密度の向上、エネルギー効率の向上と発火性の低下など、多くのカテゴリーでリチウムイオン電池の性能をしのぐ可能性があることが実証されました。

新しい電池設計には複数の持続可能な技術でリチウムイオンの能力を上回る可能性がある

IBM Researchのバッテリー・ラボで発見されたこの設計では、コバルトやニッケルを含まないカソード材のほか、引火点の高い安全な液体電解質を採用しています。この新しいカソードと電解質の独自の組み合わせは充電中のリチウム金属デンドライドを抑制でき、それによって発火性が低減されることが実証されています。これについては、アノード材料としてリチウム金属を採用した場合の大きな問題点と広く知られています。

この発見は、発火性やコスト、充電時間等の問題がある電気自動車用電池について大きな可能性を秘めています。最新のテストでは、高出力に対応した構成のこの電池を80%充電するのに要する時間は5分未満であることが判明しています。この充電の高速性と、材料の供給コストの安さにより、急速充電が可能な低コストの電気自動車を実現することができます。

空飛ぶ車や電動航空機という急速に進化する分野では、大きな電力負荷の変動に瞬時に追従可能な出力密度の非常に高い電池を利用できるかどうかが重要です。この要求に合わせて最適化した場合、この新しい電池の出力密度は10,000 W/Lを超え、今日利用可能な最も強力なリチウムイオン電池を上回ります。さらに、私たちが実施したテストでは、この電池は長寿命化の仕様に向けた設計も可能であり、長寿命や安定性が鍵であるスマート電力グリッドや新しいエネルギー・インフラストラクチャー向けにも応用可能であることが判明しました。

よって、この電池は先に挙げた用途において既存のリチウムイオン電池を上回るだけでなく、最適化することにより、以下の技術要素において明らかな優位性が得られることがわかっています。

  • 低コスト:活性カソード材料は、コバルトやニッケルなどの重金属を使用していないため、コストが抑えられる傾向があります。これらの重金属は非常に供給量依存性が強く、また持続可能性についても懸念が提起されています。
  • 高速充電:最大充電容量の80%に到達するのに必要な充電時間は5分未満で、放電容量への影響はありません。
  • 高出力密度:10,000 W/L超(リチウムイオン電池のテクノロジーが達成できる出力レベルを超える)
  • 高エネルギー密度:800 Wh/L超。最新のリチウムイオン電池に匹敵。
  • 優れたエネルギー効率:90%超(電池の充電エネルギーに対する電池の放電エネルギーの割合から算出)
  • 電解質の低引火性

IBMの材料科学の探索とイノベーションの歴史に基づく研究開発

材料科学、分子化学、電気工学、先進的な機器、計算機シミュレーションを組み合わせた総合的なアプローチを採用するIBM Researchのバッテリー・ラボでは、先進的な材料科学に関するIBM Researchの経験を活用しています。

例えば、IBM Researchのレジスト 材料における化学増幅という発明は、ムーアの法則の発展と進歩を促し、それが現在の電子装置のバックボーンである半導体を迅速かつ安価に開発できる時代を先導しています。

今日の電池に関連した課題(と再生可能エネルギー全体の特定の障壁)に対する解決策の検討を始めた際、IBM Researchの強力なインフラストラクチャーを活用したのですが、そのインフラストラクチャーのおかげで、分子レベルや原子レベルで物がどのように作用するのかを研究することができます。この基盤こそが、多くの領域で私たちのリーダーシップを促してきたものです。

例えば、原子間力顕微鏡はIBM研究者たちが提唱、考案したものです。この方法により、新しい電池技術を構築しているわがチームを含め、数えきれないほど多くの科学者たちが、極めて正確なレベルで材料間の力と動きを調査できるのです。

材料に関するイノベーションと、プラスチック再生から半導体製造まで多岐にわたる応用のための触媒に関する専門知識、そして化学的な反応機構に関する深い理解を組み合わせることで、IBM Researchのバッテリー・ラボ内のチームは、大きな期待が寄せられるこの新しい電池テクノロジーを実現することができました。

実用化に向け、自動車メーカー、電池電解液メーカー、電池メーカーと共同開発を推進

この新しい電池を調査研究の早い段階から商業開発に移すため、IBM ResearchはMercedes-Benz Research and Development North America、世界有数の電池電解液サプライヤーであるセントラル硝子、電池メーカーのSidusと共に、次世代電池の新しい開発エコシステムの創出に取り組んできました。この電池の大規模な開発に関わる複数のプランはいまだに試験的な段階ではありますが、この走り始めたエコシステムによってこうした電池が実現されることを願っています。

AIを活用してマテリアル・ディスカバリーを加速

研究を進める中で、チームは、より安全でより性能のよい材料を特定することで電池性能をさらに高めるためにセマンティック・エンリッチメントと呼ばれる人工知能(AI)技術も活用しました。これは、複数の機械学習技術を活用して人間の研究員に各自の仮説や次のステップを知らせるために数百万のデータ・ポイントから得られる洞察へアクセスできるようにすることで、研究員はこの重要な研究分野のイノベーションのペースを加速化できます。

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