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日本の食品ロスを減らしたい!――「もったいない事業」で在庫食品を新しい販路へ

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今年4月に公表された農林水産省の推計*1によると、日本国内では年間2,550万トンの食品廃棄物等が報告されている。そのうち、まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」は612万トン。推計を取り始めた平成24年以降では最小値となるものの、この数字は世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた食糧援助量*2の約1.6倍に相当する。
そうした中、食品ロスを少しでも減らそうとメーカーや輸入業者が抱える賞味期限が迫った余剰在庫を、小売店など販売先に紹介しマッチングさせる「もったいない事業」に奔走する企業がある。東京都北区のアイムライズ株式会社という、社長以下5名の元気な会社だ。もともとは食品や飲料から雑貨まで取り扱う総合卸売業が主であったが、現在は「もったいない事業」がビジネスの8割を超えるまでになった。
同社代表取締役 佐藤亮一氏に、もったいない事業と食品ロスの現状や課題、解決策等についてお話を伺った。

*1:農林水産省プレスリリース 食品ロス量(平成29年度推計値)の公表について
*2:平成30年で年間約390万トン

佐藤亮一
佐藤亮一
(さとう・りょういち)

アイムライズ株式会社 代表取締役
1962年、山形県酒田市生まれ。
埼玉県立朝霞高校卒、工業系専門学校を卒業後、航空機製造関連業に約3年従事。
その後石油業界、通信システム販売業、通信サービス業、インターネット広告業とさまざまな業界を経て2009年アイムライズ株式会社を創業。
2013年代表取締役就任、同年「もったいない事業」をスタート。「日本の食品ロスを限りなくゼロへ!」を目指し、あくなき挑戦を続けている。

食品業界の新たな流通販路を目指す「もったいない事業」とは

――「もったいない事業」を始められたきっかけを教えてください。

佐藤 仕入先の食品メーカーから、「賞味期限が迫っている食品の在庫が大量に残っていて、このままでは廃棄しなければならない。なんとかならないだろうか」と相談されたことがきっかけです。賞味期限間近のものは、既存の販路では流通できません。また現金問屋に出すと値段はとことんたたかれるし、メーカーとしてはどんなルートでどこへ販売されるか分からないという不安があります。
さらに複数の食品メーカーや卸業者に聞き取りをしたところ、各社とも多くの賞味期限切れ間近の在庫を抱えていることが分かりました。調べれば調べるほどその量の多さに驚くとともに、ほとんどが廃棄されてしまうという現実に大変ショックを受けました。せっかくおいしい食品を食べてもらおうと丹精込めてお金もかけて作ったのに、それをさらにお金をかけて廃棄しなければならないのです。この業界ではそういったジレンマを感じながら働いている人が実に多いことを知り、少しでもお役に立ちたいと考えました。賞味期限が迫っていたり少し過ぎていたりしても十分おいしく食べられるのですから、廃棄するぐらいなら安価で販売するルートができれば、消費者にも喜んでもらえるのではないか。そう思ってこの事業を手掛けることにしました。

私は、山形県酒田市、米どころとして有名な庄内平野の生まれです。米農家の出身で昭和1桁生まれの母に、いつも「農家の方が大切に育てたお米だから、ご飯は1粒残さず食べなさい」と育てられました。食べ物を大事にしなければならないという思いは、子どもの頃から身に染みていたのだと思います。

ワケあり食品専門店「エコマル(エコロ★マルシェ)」の商品棚

ワケあり食品専門店「エコマル(エコロ★マルシェ)」の商品棚

ワケあり食品専門店「エコマル(エコロ★マルシェ)」の商品棚

ワケあり食品専門店「エコマル(エコロ★マルシェ)」の商品棚
アイムライズのお得意様の1つ、ワケあり食品専門店「エコマル(エコロ★マルシェ)」の商品棚には、今日も庶民に嬉しい お買い得商品が集まってきては、次々と売れていく。

――「もったいない事業」について詳しく教えていただけますか。

佐藤 賞味期限切れ間近の商品を抱えた大小メーカー・輸入業者・卸売業者と、商品を安く購入したい小売店の要望とをマッチングさせる事業です。賞味期限が迫った食品や販売計画通りにいかず売れ残った食品、化粧品、雑貨などの詳細な商品データをいただきます。その際に希望価格や希望販路も聞き取りし、弊社の仕入れ価格に利益を少しのせて販売卸売価格を決定します。マッチングで双方の価格が見合った商品のみ買い付けを行います。商品はメーカーから直接小売店へ搬送されるので、当社は在庫を抱えるリスクがありません。(図1)
賞味期限が迫っている商品は、1日遅れると販売できる日数が更に少なくなってしまいます。そのため、いかに早く販売できるかも私たちがこだわるポイントです。商品に関する情報が揃い、売れる条件が合致した場合は、販売を開始し数十分で完売してしまうこともあります。

「もったいない事業」のビジネスの流れ
図1:「もったいない事業」のビジネスの流れ

――在庫を現金で買い取る現金問屋と御社の違いは、どこにあるのでしょうか。

佐藤 現金問屋は、即キャッシュで支払ってもらえるというメリットはありますが、1山いくらとか倉庫の商品を全部まとめていくらなど、買いたたかれる場合があります。
もちろん、私どもとの取引でも売り手と買い手に大きな希望価格のギャップがある場合は、契約が成立しないこともあります。ただ売り手としては、販売ルートや販売先が明確ということが安心感につながっているようです。自社のブランドである商品がどんな価格で、どこで売られているか分からないのは不安ですよね。販売価格によっては自社のブランドを傷つけてしまうことにもなりかねませんから。有名スーパーなど通常の販路に、賞味期限間近の品物が流れるとメーカーも困ります。当社のマッチング・ビジネスは、販売先となる小売店が明確で、しかも通常の販路でないという点に大きなメリットを感じていただけていると思います。

――販売先には、小売店以外もありますね。

佐藤 メーカーからすれば、既存の販路以外であればOKしやすくなります。会員制クローズドECサイト、ケームセンターやパチンコ店の景品、イベント企業やカーディーラーのノベルティー、福袋など価格が表示されない方が、ブランド・イメージが崩れなくていいということですね。そうしたさまざまな販路があることで、多種多様なマッチングが可能になっています。販路ではありませんが、メーカーや輸入業者とご相談して、子ども食堂やフードパントリーへの寄贈をすることもあります。
また、仕入れの多くはメーカーと直接取り引きしていますので、商品の保管はメーカー側で管理されています。よって保管状態が悪い商品は取り扱われません。輸入商社や卸売業者などで、外箱潰れや缶詰めが少し潰れているなど、商品の中身に問題がない、いわゆるB級品の場合などは、その状態を詳しく確認し、販売先にはその詳しい情報をお伝えした上で取引させていただいております。食品だけではなく、化粧品、雑貨なども保存状態をきちんと見極め、その情報を詳しくお伝えします。それが大きな信頼に結びついています。

子ども食堂への寄贈
子ども食堂への寄贈。今回の寄贈品は、輸入商社からの輸入加工食品(チョコレート、パスタ、クッキーなど)。

――今年はコロナの影響で、そもそも余るはずのないものまで余剰在庫になってしまい、さまざまな業種の企業に影響が出ていると聞きます。御社のビジネス環境にも変化がありましたか。

佐藤 当社ホームページには「食品在庫を買い取ります」と掲載しているのですが、緊急事態宣言が発令された頃からは、これまで販路先だった小売店や飲食店から「うちの在庫をなんとかしてくれないか」と問い合わせをいただいています。給食を作っている会社からも、「仕入れた食材の在庫が何トンもあるのだが」という相談がありました。こうした問題の解決はなかなか難しく、課題として解決方法を考えていかねばならないと感じています。

食品ロスを減らすため、1人1人ができることを

――日本には昔から「もったいない」の精神があると言われていましたが、年間の食品廃棄量は世界トップクラスです。この理由は何だとお考えですか。

佐藤 原因は複数あり、複雑に絡み合っていると思います。いくつか例を挙げるとすると、まずは、「賞味期限」と「消費期限」の違いを消費者に正しく理解されていないということがあります。
「賞味期限」は、インスタントラーメンやレトルト食品、缶詰などの加工食品に多く表示されていて、未開封で保存状態が適切であればおいしく食べられるという期間です。
これに対し「消費期限」は、サンドイッチや納豆、ケーキなど傷みやすい食品に表示されており、この日までは安全に食べられる期限なので、それまでに食べてくださいというものです。
もったいないの精神がある日本人ですが、一方で厳格に記述や期限を守るという側面も持っていて、賞味期限が1日過ぎただけでゴミとして捨ててしまうというケースが少なからずあります。「賞味期限が切れても、まだ食べられるよね」という漠然とした知識があっても、実際いつまでは食べられるのかという判断基準を持っていない人が多いと思います。
また、小売店で商品を選ぶ際、消費者は賞味期限が長いものを棚の奥から選んで購入する人が多く、短いものが残り続け結局廃棄されてしまうという悪循環も起きています。
こうした消費者の行動心理の影響はかなり大きな原因の1つです。

――流通の仕組みにも課題はありますか。

佐藤 業界には、1/3ルールという商慣習があって、賞味期限までの期間のうち1/3を過ぎてしまうとメーカーや卸業者は、小売店に卸すことができません。また契約にもよるのですが、店頭の商品も賞味期限までの期間のうち2/3を過ぎてしまうと、メーカーや卸業者に返品することができます。例えば、6カ月間の賞味期限が設定されている商品は、製造して2カ月が過ぎると卸すことができず、4カ月過ぎて売れ残っていると値引きまたは返品されたり廃棄されたりしてしまいます。(図2)

商慣習「2分の1ルール」と「3分の1ルール」
図2:商慣習「2分の1ルール」と「3分の1ルール」

現在、大手スーパー、メーカー、卸問屋が中心となり1/2ルールに変え、納期期限の緩和を食品業界全体に波及するよう取り組んでいます。
これは良い流れだとは思いますが、それでもやはり、賞味期限の1/2を過ぎてしまうとその商品は売り場を失ってしまうことには変わりません。返品された商品は、返却途中で箱が傷んだりすると、再販できなくなり廃棄に回ります。こうした流通の形態も背景にあると思います。

もう1つ、大ブームとなった輸入食品も、ブームが過ぎ去ると食品ロスになりがちです。過去にもココナッツオイル、チアシード、タピオカなどがありました。マスコミなどで紹介されブームになると、輸入業者がこぞって大量に輸入します。大量に輸入しないとコストが合わないからです。ブームの間は飛ぶように売れるので、店頭で欠品しないようどんどん輸入します。購入元が1社でも、声をかける輸入業者は数社となるとそれぞれが大量に輸入します。末端市場の規模は未知数のため、競争原理が働き、どんどん在庫は増えていきます。ブームが下火になると、それが大量廃棄に回るのです。

野性の五感を取り戻そう!

――食品ロスの短期間で抜本的な解決は難しいですが、私たち消費者がまず始められる行動はありますか。

佐藤 加工食品だけでなく、野菜・果物・肉・魚などの生鮮食料品にも課題があります。加工食品ほど賞味期限が明確になっていませんが、そもそも形や色が悪かったり、豊作のため生産過多となったりすると、価格維持のため廃棄され、肥料や飼料になったりします。そういった物は、そもそも農水省の食品ロスにカウントされていません。出荷前のロスもあるのです。
バナナを例にとってみましょう。黒い斑点は熟して甘い証しでもあるのです。ところが斑点が増え過ぎると、消費者は手に取らなくなります。消費者が手に取らないものは、規格外となり店頭に並ばなくなり、廃棄されてしまいます。でも黒い斑点が多い方が甘くて、今すぐ食べるには最高のタイミングだと消費者が理解して買うようになれば、そうした規格も変わり食品ロスも減ってくるのではと思います。

――子どもの頃、母親が前日のお惣菜の残り物などの匂いを嗅いだり、ちょっと口に含んだりして、まだ食べられるかどうか確かめていたのを思い出します。

佐藤 そうなんですよ。視覚、嗅覚、味覚、触覚、聴覚など人間の五感をフル活用していましたよね。調理の際は、人間の野性の五感を取り戻してほしいです。その頃よりずっと冷蔵や冷凍の技術は進化しているので、食材は長持ちしていると思います。私も大きなブロック肉を買ってきて、ローストビーフを作ったりしますが、1度に全部食べ切れないので、冷凍して少しずつ使います。
生野菜などは、消費期限が明確に表示されていませんが、保存期間を長く保てる包装材や真空容器を活用すると鮮度が長く保てますのでおすすめです。消費期限前に加熱調理して、真空容器、冷凍保存で消費期限を伸ばすこともよくやります。

――消費者としては、賞味期限が切れてから実際いつまで食べられるのか、その尺度が分かるとなお安心ですよね。

佐藤 賞味期限というのは、おいしく食べられる期間ですから、仮に過ぎてしまっても食べられないことはありません。もちろん未開封で保存状態が適切であることが前提です。おおむね食品メーカーは、「おいしく食べられる期間」の7割から8割を賞味期限と設定し表示しているケースが多いです。消費者は、その賞味期間の設定が3カ月なのか、1年なのか、3年なのか分かりません。
仮に3カ月の場合、0.8で割ると約3.75カ月となり112日。1年であれば15カ月まで、3年だと45カ月まで延びます。
しかし、加工食品の多くは賞味期限の記載はありますが、製造日は明示してありません。その場合は、食品メーカーの相談窓口に連絡してみてください。当該商品の賞味期限は製造日から何カ月で設定されているか教えてもらえると思います。だいたい賞味期限の1.2倍の期間は、おいしく食べられると考えていいのではないでしょうか。
こうしたことを気にかけて食品選びをしていると、いつまで食べられるかの感覚が身に付いていきます。
何より大切なのは、家庭で日頃から食べ残しをしない、あまり買い過ぎない、捨てないなど食べ物を大切にするという意識を育んでいただくことです。そうすれば食品ロスは減っていくはずです。

アイムライズ株式会社 代表取締役 佐藤亮一氏
取材は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からオンラインで実施されました

「もったいない事業」が世の中から無くなることが究極の目標

――買い手と売り手のデータのマッチングにAIなどを活用するなどのお考えはありませんか。

佐藤 それ、ぜひやりたいんですよ。大規模案件のマッチングに多くのワークロードが割かれていますので、小口のものはAIで自動マッチングできると大変助かりますね。過去のデータからの適正価格の算出や、個別対応が多い業務フローの標準化などに活用できたらと思います。取扱い量が増えてきたら、ぜひ考えねばならないと思っています。

――今後の「もったいない事業」の展望について教えてください。

佐藤 究極のところ「もったいない事業」が無くなることを目指します。
もったいない事業は、食品ロスの削減を目指しています。食品業界の企業努力、消費者の行動変化が進み、世の中から食品ロスが減り続けると、この事業は無くなるはずです。しかし、無くなるのであれば、それはそれで良いと思っています。その時は、当社の事業も社会の役にたち役目を終えたと捉えます。ただ、私が生きている間にその日が訪れるかは、分からないですね。その日を目指して目の前の課題を1つずつ解決していきたいと思います。

それから、賞味期限切れが間近だったり、切れてしまっても食べられるものは、大手を振って販売・寄贈できる社会システムが作れるといいなと思います。
最近は賞味期限切れ間近の商品や、色・形が悪い野菜・果物などを専門に扱うお店も増えてきました。大手のスーパーなどで、そうした商品を取り扱うコーナーの設置も増えています。こういう売り場が増え、商品を購入してくれる消費者が増えていくといいですね。

今年公開されたドキュメンタリー映画「もったいないキッチン」にも協賛しました。映画では食品ロスのさまざまな課題に向き合い、余剰食材を使ってアイデアあふれる料理を提供しました。多くの人にこの映画を見ていただくことで、食品ロスへの関心も深まると思います。

TEXT:栗原 進、写真および図表提供:アイムライズ株式会社

※日本IBM社外からの寄稿や発言内容は、必ずしも同社の見解を表明しているわけではありません。

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