イノベーション

インフラ運用現場におけるモダナイゼーションの今

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デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みは、アプリケーションを中心とした目に見える部分を中心に、様々な取り組みが先行しています。お客さまにITサービスをお届けする我々日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社(IJDS)は、このDX時代においても引き続きお客さまの真のパートナーとなるべく、お客さまの業務改革につながるDXプロジェクトでの取り組みはもちろんのこと、縁の下の力持ちであるインフラ運用も含めたトータルな取り組みがDXであると考え幅広い取り組みを進めています。[*1]

様々なDXへの取り組みの中で、インフラ運用におけるモダナイゼーションをどのように進めていけば良いのか、具体的な進め方がわからないケースが多いのではないでしょうか。特に継続的なインフラ運用のモダナイゼーションを実現するには、現状のスキルに加えてどのようなスキルを身に付ける必要があるか、継続的な活動とするための組織全体のスキルの底上げをどのように進めれば良いのか、現場では多くの課題があがっています。

本ブログでは、日本全国のお客さまの現場で活動するインフラ運用を担当するメンバーが新しい働き方も加わり、地域の枠を超えて運用モダナイゼーションにどのよう取り組んでいくかについて、これまでの取り組み事例と具体的な工夫ポイントについてご紹介したいと思います。

運用モダナイゼーションの目指す方向性

安定した運用モダナイゼーションの推進へ向けて

運用モダナイゼーションの目指すべき方向性は、テクノロジーを活用したインフラ運用における人的作業の徹底的な自動化であることは間違いありません。また、スクリプト作成やツール導入など単機能を自動化して満足するのではなく、運用プロセス全体を高度化する自動化を目指すべきです。具体的には、以下のような流れでモダナイゼーションを推進してくことを目指しています。

  1. システム基盤の構築作業や運用作業は、手順書を作って人に引き継ぐのではなく、引継ぎ内容を標準化・コード化してツールにインプットするという流れに変化していく。
  2. システムから日々生成されるデータを可視化することで、個々のデータの流れを一連のプロセスとして把握し、プロセス自体もコード化して自動化エンジンを活用したシステム連携による自動化を進める。
  3. コード化された既知事例のみならず、新たに発生する事例もAIを活用して解決策を導き出し実装していくことで運用を高度化していく。

これらを実践していくことで、作業の省力化・迅速化に加え、これまで人為的な作業ミスが原因で発生していた障害を回避し、確実性や正確性も確保することで、より安定した運用へのモダナイゼーションを推進することができます。

どのようなスキルが求められるのか

運用モダナイゼーションを進めていく中で、インフラ運用を請け負うエンジニアに求められるスキルは、ハードウェア・ソフトウェアや各種ツールなど単体の製品知識だけではありません。複数の知識や手法を組み合わせて目の前の状況を把握する分析スキル、また、それらを統合的に判断し、迅速な障害回復や、継続的な自動化を推進・改善していくエンジニアリングのスキルが必要となってきます。

IJDSでは、このエンジニアリングスキルを組織全体で蓄積していくため、運用モダナイゼーションの推進にあたって阻害要因と成りうる現場の課題を整理しつつ、日々、多くの勉強会を開催しています。また、複数のプロジェクトの担当者が自らタスクを立ち上げ自由に利用可能なPoC(Proof of Concept:概念実証)環境を構築し、そこでのノウハウを蓄積することで研鑚を積んでいます。

IJDSが考えるDX [*1] のステージに照らし合わせると、インフラ運用についても「デジタライゼーション」のフェーズに多くの現場で入っています。お客さまの現場で働くメンバー全員がモダナイゼーションの本質を理解し、現場毎に異なる課題へチャレンジし、インフラ運用におけるコスト削減だけでなく、そこへ新たな価値を生み出し続けることが、お客さまと共にインフラ運用のDXを実現することであると考えます。

運用現場のモダナイゼーションを進める上での課題を追求

これまでの自動化は、個々の作業のスクリプト化や、システム監視など一部の運用業務のツール化など、部分的な取り組みに留まっている状況です。

しかし、運用現場の多くの場面で発生するレビューや判断などの作業を繋ぐステップでは人に頼る運用が大半であり、それ以上のモダナイゼーションを進めることについての要求が発生せず、そのまま放置もしくはモダナイゼーションを回避することが選択されてきました。そこで、様々な業界の現場でインフラ運用を担当するマネージャーに、運用モダナイゼーションを進める上での阻害要因はなんであるかを追求するためアンケートを実施し、運用現場でモダナイゼーションを推進するための施策検討を行いました。

「運用モダナイゼーション阻害要因」アンケート調査の概要

▼対象
IJDSシステム基盤担当マネージャー 約40名

▼担当業界
金融、製造その他、複数の業界のお客さまのアウントソーシングサービス

▼調査結果のグラフ

上位の阻害要因は、「効果」「ワークロード」「現行運用を維持する方針」でした。運用モダナイゼーションを進める判断に至るだけの効果がわからず、更には現行の運用のワークロードに加えて運用モダナイゼーションを進めるというワークロードが懸念と感じられる点があがりました。現行運用を維持する方針から、変革する方向へとお客さまの合意に繋げることができるような効果をまだ現場が実感できていないという観点もあります。

そこで現場で運用を担当するメンバーが、机上での運用モダナイゼーションについての検討をするのではなく、実際に手を動かし自動化にチャレンジすることで、ワークロードへの影響や実際の効果についてを体験することにしました。

運用現場のモダナイゼーション取り組み事例

今回ご紹介する事例では、異なるお客さまの現場で活動するメンバーが、有志でチームを組み、自動化のPoCで手を動かしながら、新しい分野へ学びを深め効果の実証に取り組みました。現行業務を遂行しながら、どのように検証に継続的に取り組んだのか、チーム活動の事例を解説します。

1. Automation推進チームの立ち上げ

IBMグループでは組織の枠を超えたメンバーが参加するコミュニティ活動が活発です。メンバーが知恵と経験を共有し、共創することで、新しい分野への挑戦を続けます。またその活動を継続的に実施しやすい風土があります。今回のチームの立ち上げにおいても、担当する現場や地域の枠を超えたメンバーが共創し、新たな運用の価値を生み出す機会を得たいと考えているメンバーが集まりました。

我々IJDSの強みは「日々、目の前のお客さまの運用に通じていることから、現場の課題を熟知していること」です。そのメンバーが、スキルアップのみならず、その強みを活かし「お客さまと一緒に運用モダナイゼーションに取り組むIJDS」として更に進化しています。お客さまにとって「より価値ある運用」を創り続けるため、運用モダナイゼーションのベースとなるAutomation PoCチームを編成しました。

集まったメンバーの担当業務領域は、「分散系インフラ構築運用」「エンド・ユーザー・サポート運用」に分かれており、業務領域に分けたチームを編成しました。

2. PoCスタート

初対面のメンバーが多い中でのスタートでしたので、まずはそれぞれの運用現場の環境や使用するツール、そして現場での課題を紹介し合うことから始めました。運用環境の違いはあるものの、現場での課題や悩みは共通することも多く、これを機会に新しいスキルへもチャレンジしたいとの思いが共通しPoCに取り組むテーマは自ずと決まりました。

分散系インフラ構築運用チームは、構成管理ツールとして主流となっている、Ansible(アンシブル)を題材に、IBM CloudにPoC環境を構築しました。自動でインフラ環境を構築するだけでなく、更に踏み込み環境定義書(パラメータシート)からプログラムを創るAnsibleで扱うPlaybookを自動生成する、お手製のプログラムの作成にも取り組みました。

エンド・ユーザー・サポート運用チームは、お客さま接点における汎用的な業務である「申請の受付」と「問い合わせへの応答」を、Watson AI機能を用いて自動化に取り組みました。

3. 取り組みの成果

これから自動化に着手する現場では、PoCで検証したPlaybookがユースケースとして活用していく取り組みが始まっています。今後、実際の運用現場への適用については、今回検証したツールに加え、他にも様々な技術を取り入れていく必要がありますが、運用モダナイゼーションの検証に取り組んだアセットやナレッジは、幅広い現場でのチームとお客さまにとってヒントとなります。

こういった取り組み事例は、社内の学びの場で発信され、現場が抱える課題解決に先進技術の活用で改善そして変革に取り組むKAIZENnovation活動でも、生かされています。社外に向けても、I magazineにて『Ansible を題材としたAutomationスキルアップへの取り組み~Infrastructure as Codeを体感する』[*2]としてご紹介していますので、ぜひご覧ください。

PoCで終わらせないために

IJDSでは、多くのメンバーがデジタル人財として学び続けるため、インフラ運用の自動化などの新しいスキル習得と検証に取り組み運用モダナイゼーションを進めています。自ら取り組む組織風土の醸成が重要と考え、継続してPoCへチャレンジする機会を広げています。そのままPoCで終わることなく、検証されたユースケースを元に、それぞれの運用現場に合わせた自動化の検証や導入を進めています。

インフラ運用におけるモダナイゼーションは、システムやプロセスの標準化と、システムから日々生成されるデータの可視化を前提とした運用全体の高度化に取り組む自動化が重要であると考えます。

インフラ運用を担当されているみなさんも、ぜひ自動化ソリューションに挑戦してみてはいかがでしょうか。我々も、お客さまにとって「より価値ある運用」を創り続けられるよう、継続してスキルのアップデートに努め、運用モダナイゼーションに取り組みます。そして、デジタル人財とデジタル変革の裾野を広げる活動を継続していきます。

注釈/参考文献

[*1] 日本アイ・ビー・エム デジタルサービス(IJDS)が考えるDX
[*2] I magazine『Ansible を題材としたAutomationスキルアップへの取り組み~Infrastructure as Codeを体感する』



筆者:西野 裕治(左)
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社
インフラサービス事業部 社会・産業統括本部 社会・産業第一本部 本部長 / 執行役員
入社以来一貫して製造業のお客さまのインフラ運用に従事。お客さま現場におけるインフラ運用のモダナイゼーションを推進するチームをリードしている。

筆者:黒澤 智彦(右)
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社
インフラサービス事業部 システムサービス統括本部 プロジェクトサービス本部 本部長
2000年に日本アイ・ビー・エム株式会社入社。入社以来、アウトソーシング事業においてインフラ運用業務に従事。本年よりIJDSプロジェクトサービス本部を担当。引き続き運用DXの推進をサポートしている。

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