イノベーション

DX時代におけるシステム保守・運用現場の人財育成への取り組み

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多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の必要性を認識し、様々な取り組みを始めています。お客様にITサービスをお届けする我々日本アイ・ビー・エム デジタルサービス(以下、IJDS)も、このDX時代においても引き続きお客様の真のパートナーとして、DXに対する取り組みを進めています。

IJDSが考えるDX(*1) では、お客様の業務改革につながるDXプロジェクトを推進するのはもちろんのこと、我々自身の仕事の進め方や方法を変革する「開発のDX」「運用のDX」をテーマとした取り組みも進めています。

このような様々なDXへの取り組みの中で、新しいデジタル技術のスキルをいかに習得していくかということは、多くの現場のみなさんが直面する課題ではないでしょうか。

特にシステム保守・運用(以下デリバリー)現場において、どのように人財を育成していくことができるかについて、我々が行った取り組み事例と工夫した点についてご紹介します。

DX時代に求められるスキルとは

DX時代に求められるスキルには、デジタル技術の活用スキルのみならず、業務の観点で変革を考えるスキルや、データ活用を推進するスキル、またDX全体を推進するスキルなど、実に多岐に渡ります。DX推進のためにはこれら様々なスキルを持つ人財がチームとなって進めていくことが重要になります。
様々な必要スキルがありますが、今回はITサービス事業のマネジメントの強い関心事の一つである、主にシステムの保守・運用を行っているメンバーに求められるスキルとその育成方法についてお話ししようと思います。

システムのデリバリーを主に行うメンバーには、まずデジタル技術の活用スキルの取得が欠かせません。しかしながら、様々なデジタル技術を組み合わせてお客様の課題を解決していく上で、必要となるスキルは、テクノロジー視点だけでは決められません。お客様の課題解決のために、現時点のシステムで必要とされているスキルを超えて、業務変革に必要なデジタル技術を選定し、そのスキルをつけていくことを考えることが、とても大切なのです。

デリバリー現場メンバーのスキルアップに対する課題

デリバリー現場をマクロに見てみると、現行の業務システムの保守・運用が継続的に実施されており、そのために多くの人的リソースを割く必要があります。この既存システムへの人的リソースの利用に関しては、経済産業省のDXレポート(*2)でも大きな課題として捉えられています。

そのような環境でデリバリーを担当しているメンバーは、”保守の現場で必要とされている技術が固定化している”という状況を感じています。基幹システムのライフサイクルは平均14年(*3)と言われており、1つのシステムを10年以上担当するということもあります。そのため、仕事の中では特定の技術に触れる時間が長くなり、新技術を身につける機会が少ない、という課題があります。

IJDSにおいても、様々な業種のお客様環境でデリバリー活動に従事していますので、このような状況に直面しているチームが少なからずありますが、この課題を解くための継続的な取り組みを実施しています。変化に強い人財となるために、新しいことを前向きにどう身につけていくかを検討した、IJDSのあるチームで実際に行った取り組みをご紹介させていただきます。

お客様業務変革に取り組む現場でのスキル習得事例

今回ご紹介する事例は、あるお客様の担当として、数百名でおよそ100個のシステムに対して日々の改善・保守・運用業務を実施しているチームでの取り組みです。現行業務を実施しながら、新しい技術をどのように身につけていったのか、チームとしての活動の事例をご紹介します。

1.スキルアップ活動の立ち上げ

このチームでは、前述の課題認識からDXスキルを身につける方法を模索していました。IBMグループでは人財育成に力を入れているため、多くのメンバーが社内の技術研修を活用し、基礎的なスキルは身につけることができます。これをさらに実践で活かせるスキルにするためには、さらなる施策が必要と考え、試行錯誤の末、以下の方針のもと挑戦することにしました。

「我々の強みは、日々のデリバリーの中でお客様の現場課題を熟知していること。お客様の現場課題を解決するDX提案を実施し、その実践的ユースケースの中でDXの実践力を習得する。」

この方針のポイントは、メンバーのスキルアップだけではなく、「ITシステムをしっかり守ってくれるIJDS」と思われていたお客様に、新たな価値として「IJDSと一緒にDXを進めて価値を共創しましょう」というメッセージをお伝えできるところにあります。お客様にとってもこれまで気づかなかった価値を見出す活動となり、またIJDSにとっても、さらに成長できる機会であるととらえ、現場メンバーとマネジメントもワンチームとなって取り組みをスタートしました。

2.スキルアップ活動の推進

まずは、お客様の現場課題を持ち寄って、どんな提案をするか検討を行いました。その中で、お客様が1ヶ月で数万枚の画像を目視でチェックするという作業があり、これを画像認識で解決できないかやってみよう、ということになりました。

とはいえ、この活動をスタートしたメンバーの中には、画像認識の実務経験者がおらず、何から手を付けたらいいかわかりませんでした。またメンバーはこの時点では活動に有志で参加しているため、楽しく続けるための工夫が必要でした。

そこで、画像認識を各自が学び、特定の画像を正しく認識できるか精度を競い合う画像認識大会を開催することにしました。かつての人気アニメでの命名に準え遊び心を入れながら取り組みました。(図1)

図1:画像認識大会「天下一VR(Visual Recognition)大会」
図1:画像認識大会「天下一VR(Visual Recognition)大会」

この大会では、全員が初心者であるがゆえに様々なアプローチでの画像認識が行われました。全く認識されない人や、処理が重すぎて時間内に認識されず失格になる人が出るなどアクシデントもありましたが、いくつかの画像認識精度向上のノウハウを得ることができました。

また、ただ単に技術的にできる/できないで終わることなく、業務として使える/使えないを意識して取り組んだため、研修で得た基本スキルを高め、業務として活用できる実践的なスキルとして学ぶことができました。

こうして得た知見を組み合わせてデモアプリを作成し、お客様にご提案するに至りました。その後も同様なアプローチで「紙の保証書から品番を特定する文字認識」や、「数百個ある文書を自動要約し情報探索時間を短縮する」など、日々のデリバリー業務で利用する技術とは違ったものを使ったご提案を、お客様へ行うことができました。

3. 活動の効果

この形で提案を積極的に実施した結果、お客様にその価値を認めていただき、ソリューション構築に至った案件がいくつかありました。お客様からは「IJDSさんはDX推進のパートナーだ」という嬉しい評価や感謝の声をいただきました。

また、メンバーからも「お客様の現場課題を見出して、DXに向けた相談を解決することができ、自信を持ってこれらも提案を続けたい」という意欲や、「日々の業務とは違ったに技術に触れられ楽しかった。スキルをアップデートし続ける大切さを感じた」など前向きなコメントが得られました。

また、あるマネージャーからは、「メンバーがスキルアップ活動を継続的に実施するために、時間の使い方をより一層意識して、効率性を重んじるようになった」という報告があり、既存のデリバリー業務にも良い影響をもたらすという、副次的な効果も生まれています。

DX人財には、テクニカルスキルだけでなく、現状からの変革を継続的に実施していこうとする振る舞いが重要です。前向きに楽しみながらできる取り組みとなっていることが、この活動を継続的に進められたポイントだと考えています。

現場への展開

ご紹介した取り組み自体は、決して特別でも、難しいものでもありません。「似たようなアプローチならできるかも」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。前向きに始められるDXの一歩目になるのではと思います。

また、この取り組みを行ったメンバーからは、「DXとは、AIや機械学習など経験のない高い技術を駆使しなければならないものと思っていたが、お客様の課題の声を聞いてみて、少し背伸びをした技術の活用により解決できる課題がたくさんあると分かり、これもDXなのではと改めて思った」との声がありました。
現在の保守からはハードルが高いと感じている方も、お客様の課題を変革することをベースにデジタル技術を試してみることで、解決できることが見つかるはずです。

さらに、一つのDX課題解決が、お客様内の別の課題解決や、別部門への展開、ヒントにもなり、枠を超えて変革をつないでいく効果もありました。継続的な活動を続けることで効果がますます高まることになることでしょう。

DXの推進の重要性は理解しつつも、どのようなスキルを、どのようにつけていったらいいのか悩んでいる方にとって、一度試してみようとご検討を始められる一助となれば幸いです。我々も、お客様の現場において日々のお客様の課題を改革し、スキルのアップデートにつとめ、新たな課題解決を見出していきたいと思います。

注釈/参考文献

[*1] 日本アイ・ビー・エム デジタルサービス(IJDS)が考えるDX
[*2] 出典:経済産業省ウェブサイト DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~
[*3] 出典:TECH+ 基幹業務システムのライフサイクルは平均14年 – JUAS調査


林 誠
著者:林 誠
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社 クロスインダストリー事業部長 執行役員

おもに製造業や医療業界のお客様システムを中心に、アーキテクトとしてシステム設計/開発に従事。現在は、幅広い業界のお客様のアプリケーション構築/保守を担当するチームをリードしている。

藤崎 聡
著者:藤崎 聡
日本アイ・ビー・エム デジタルサービス株式会社 産業事業部 産業第一サービス本部 テクニカルコンピテンシー部長

入社以来一貫して製造業のお客様のアプリケーション保守に従事。保守の現場からDXを推進するためのテクニカルチームをリードしている。

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