テクノロジー・イノベーション

デジタル・トランスフォーメーションを成功に導くには――【後編】企業が取り組むべきテーマと課題解決の方向性

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デジタル・トランスフォーメーションを成功に導くには(前編)では、DXにおけるCTOの役割についての紹介しましたが、後半の記事では「全社のDXを推進するうえで企業が取り組むべきテクノロジーとは何か、そして、課題解決の方向性について」語ります。

 

Part1:DXで求められるデジタル・プラットフォーム

解説:日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 CTO クラウド・アプリケーション開発 技術理事 二上 哲也

解説:日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 CTO クラウド・アプリケーション開発 技術理事 二上 哲也

イノベーティブなデジタル・トランスフォーメーション(DX)を目指す企業が増えています。具体的にどのようなテクノロジーによって、イノベーションを起こすことができるのでしょうか。

1つの例として、スマートグラスを用いた遠隔作業支援を取り上げます。顧客先で稼働している設備やプラントなどのメンテナンスにあたっているフィールド・エンジニアの作業をハンズフリーでサポートするものです。

フィールド・エンジニアがスマートグラスを通して見ている映像や撮影した写真が遠隔地のセンターに送られ、製品を特定します。さらにフィールド・エンジニアの会話を自動的に分析し、バックオフィスのオペレーターは、画面に表示された関連資料をもとにフィールド・エンジニアに的確な指示を出します。また、この一連の作業の履歴を報告として保存することができます。

従来、こうした遠隔作業支援のシステムを構築するには巨額の投資が必要でしたが、今日クラウドを利用することで、低コストかつ短期間で構築することができるようになりました。AIの機能もすぐに立ち上げ、簡単に利用できるようになったのです。

IBM Watson(以下、Watson)には、音声をテキスト文章に変換するSpeech to Text、テキスト文章を音声に変換するText to Speech、画像コンテンツに含まれる物体を検出するVisual Recognition、先進的な洞察エンジンを利用してデータの隠れた洞察やパターンを明らかにするDiscoveryやExplorer、テキストに意味付けを行うNatural Language Understanding、アプリケーションに自然言語インターフェースを追加してエンドユーザーとのやり取りを自動化するWatson Assistantなどコグニティブ/AIのAPI群が用意されています。これらを柔軟に組み合わせることで、最適なソリューションを構築することができます。

IBM CloudとWatsonを活用したソリューション

オープンなハイブリッド・マルチクラウド環境を実現

先の取り組みは一例にすぎません。このようにクラウドがDXを加速させていきます。そしてIBMは、その取り組みをオープンなデジタル・プラットフォームでサポートしていきたいと考えています。

2019年7月に完了したRed Hat社の買収もそのあらわれです。IBMは従来からもJavaなどの開発環境であるEclipseやブロックチェーン・プラットフォームのHyperledger Fabricなどのコミュニティーに参加し、オープンソース・ソフトウェア(OSS)への貢献を強化することでイノベーションを推進してきました。これに加え、Red Hat社の独立性とオープンソースへの投資を維持することで、お客様の選択肢をさらに広げていきます。

IBMが世界の113社のお客様に対して行ったヒアリング調査によると、プライベート・クラウドやSaaSを含めた複数のクラウド環境を使用している企業は94%、複数のパブリック・クラウド・プロバイダーを使用している企業は67%に達しています。一方、そうした中で、クラウド間の移行を重要な懸念事項とする企業が73%、管理の一貫性を懸念事項とする企業も67%となっています。まさにこの課題を解決するために、オープンなハイブリッド・マルチクラウド環境が求められています。

そこでの中核となるのが、コンテナおよびその運用を自動化するKubernetesといったテクノロジーです。IBMは、Red Hatが商用化したエンタープライズ向けのKubernetes&コンテナ基盤であるOpenShiftを活用することで、多様なミドルウェアやアプリケーションを、オンプレミスはもとより複数のパブリック・クラウドのどこでも、適材適所で稼働させることが可能なオープンなハイブリッド・マルチクラウド環境を実現します。これにより管理の一貫性を担保し、投資を保護することも可能となります。

合わせて、イノベーティブなDXを推進していくためには、多岐にわたるスキルを持った人材、実験をする場、実験を進めるための手法が必要となります。IBMでは、「お客様に不足している要素をIBMの専門家により補完し、DX推進体制の迅速な立上げを支援するためのIBM Garageを推進しています。

たとえば人材については、お客様に足りない人材を補強し、アジャイルなイノベーションチームを組織化します。手法については、デジタル戦略や顧客体験、MVPを迅速に作り上げるためのデジタル戦略からデザイン思考、アジャイル開発、DevOpsまで一貫して支援します。また、実験を行う場についてもリアルなワーキング・スペースであるGINZA SIXにあるIBM Garage拠点のほか、デジタルの実験場としてのクラウドサービスや多種多様なAPIを用意しています。

このようにIBMは、企業のデジタル・トランスフォーメーションをIBMはデジタル・トランスフォーメーションをオープンなプラットフォームと仕組みでサポートしています。

Part 2:エンタープライズAIを考えるのは、いま

デジタル変革は第2章の入口に立った

解説:日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 Analytics CTO、技術理事 山田 敦

解説:日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業本部 Analytics CTO、技術理事 山田 敦

これまでのコンピューティングの歴史を俯瞰すると、第1世代の集計機の時代から第2世代のプログラム可能なシステムの時代を経て、現在は第3世代の学習するシステム(コグニティブ・コンピューティング)の時代にあります。第3世代のアプローチが複雑な問題で有効に機能することが、画像解析や音声解析、テキスト解析、音響解析など、さまざまなケースで実証され始めました。

この第3世代のアプローチに基づいたデジタル変革は、第1章から第2章、さらにその先へと進みつつあります。簡単に述べると、第1章は部門単位の変革、第2章は企業単位の変革、第3章は社会全体のあり方の変革で、現在は第2章の入口に立った段階にあります。

そしてIBMでは、第2章の道しるべとして「コグニティブ・エンタープライズ」と呼ぶビジネス・アーキテクチャーを提示しています。セキュアなハイブリッド・クラウド基盤の構築から次世代アプリケーションの活用、最大限のデータ活用、指数的に発展する技術の活用、コグニティブ技術を活用した業務フロー、ビジネスプラットフォームのエコシステム活用、アジャイル・イノベーションの企業文化の醸成まで、企業が取り組むべき項目をレイヤーごとにまとめたものです。

第2章の道しるべ コグニティブエンタープライズ

第2章の道しるべ コグニティブエンタープライズ

エンタープライズAIを推進する3つの重要ポイント

いかにして第2章のデジタル変革に臨むべきなのか。今こそエンタープライズAIのあり方、つまり企業のあらゆる業務でAIを活用するための仕組みを考える時ではないでしょうか。そして、そこで推進すべきテーマとして、「企業ワイドにデータとAIを活用できる仕組みづくり」「デジタル人材の育成」「フェアネス(公平性)と説明性への配慮」の3つがあります。

まず「データとAI」について、ある製造業におけるデジタル変革の取り組みを例にご説明します。研究開発から始まり、製造、販売、人事、財務などバリューチェーン全体をまたいだAI機能、それを支えるデータを整備していくことが重要です。社内から次々に生まれてくるアイデアを実現し、ビジネスを変革していく“正のスパイラル”を築くことが、そこでの核心です。また、そのための基盤として、ナレッジの全社共有を促す共通辞書を整備することも重要な要件となります。

次の「人材」ですが、そもそもデジタル時代に求められ、育成すべき能力とはいかなるものでしょうか。特に重要と考えるのは「新たなビジネスを、顧客と共にデザインする力」です。これからは研究者、エンジニアであろうと、ラボに閉じこもって研究・開発だけを行うのではなく、顧客のもとに積極的に出てニーズをキャッチしていくことが求められるようになります。その上で「AIを中心としたデジタル技術に精通し、データを新しい顧客価値に変換する設計力」「変革をアジャイルに推進していく実行力」などを育成していくことが、最重要のテーマとなります。

実際、IBMでもデータサイエンティストの社内認定制度をスタートさせました。知識や技能のみならずプロジェクト経験や講演、出版物などの実績も審査基準とするもので、レベル1~3の認定者は、自動的に第三者機関(The Open Group)による認定も受ける仕組みとなっています。この制度の狙いの一つは、特に若い世代のデジタル人材に対して、明確なキャリアパスを示すことでした。

そして「フェアネスと説明性」は、今後のデジタル変革に向けて、ますます重要度を高めていきます。これまでのAIは「とにかく予測結果が当たればよい」と予測性能の向上に目が向けられてきました。しかし、数多くのAIが社会で実運用される状況において、「差別的判断がされていた過去のデータを正解として学習してしまう」「悪意を持って差別を学習させる」など、社会正義に逸脱したシステムが作られてしまうことへの懸念が高まっています。

フェアネスは、AIの出力が社会正義から逸脱(偏見や差別など)していない度合いを示すもの。一方の説明性は、AIの出力が「なぜそうなったのか」を人間が解釈できる度合いを示すもので、アルゴリズムと学習データの両方が説明対象となります。そして山田は「これからのAIは『予測性能』『フェアネス』『説明性』の3つの性能のトレードオフで評価しなければなりません」と強調します。

先に述べたように、現在の多くの企業は第2章にあたる全社規模のデジタル変革への入口に立っており、エンタープライズAIを推進し、活用していくために何をすべきか、今がそれを考える時です。

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