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「未来の考古学」より〜IBM Selectric Typewriter

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額縁に収められているのは、500年以上美しい状態で保たれる写真「プラチナプリント」。

そして、「プラチナプリント」で印画されているのは、「タイプボール」と呼ばれるものです。

「タイプボール」の表面には、実は、文字が並んでいます。

文字が並んでいるのであれば、文書作成に使われていたものであろう、と想像できた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

この「タイプボール」は、「タイプライター」と呼ばれる機械で使われているものです。

「ワープロ」こと「ワードプロセッサー」と呼ばれる機械を目にしたことがない世代が多いであろう2022年において、「タイプライター」と聞いても何のことかわからない方が多数であろうとは思いますが。

タイプボールの写真

カタカナ用のタイプボール


「タイプライター」とは…を述べる前に、冒頭の写真にあるプラチナプリントが、どのような展示の場に設置されているかを紹介します。

3Dファントムを用いた空間映像とIBM製タイプライター

3Dファントムを用いた空間映像とIBM製タイプライター「IBM Selectric II Typewriter」(CEC Online「未来の考古学」より)

日没後、色彩がモノトーンになる空間。

展示物の上方に映し出される、3Dファントムを用いた空間映像。

この展示は、メディアアーティスト 落合陽一氏の監修によるもので、「未来の考古学」と命名されています。(本展示は、日本IBM本社事業所内にあります)

そして、本記事の冒頭で紹介したプラチナプリントは、展示物の傍らに設置されています。

3Dファントムを用いた空間映像がオフの状態の「未来の考古学」展示風景の一部

3Dファントムを用いた空間映像がオフの状態の「未来の考古学」展示風景の一部

本展示が「未来の考古学」と命名された経緯と主旨について、本展示を紹介するWebページに記載されている以上のことを知る立場に私はありません。

個人的な解釈は、「未来の考古学」とは、「未来の時点における『現在』を形作る技術的・学術的な礎となるもの」です。

現在の私たちは、「未来の考古学」たりうるかもしれないものを、たぶん、「特別なもの」としてではなく「当たり前のもの」として扱っていると思います。あるいは、2020年代の「礎」となった数十年前のものを、「大きな意味を持つ」とは思わないまま、「過去のもの」として扱っていると思います。

でも、本当は、現在においても存在感を放つ機械たちには、それぞれの機械が誕生した背景に、その時点の最先端の着想があります。

そう考えると、現在における「当たり前のもの」の原点が誕生した際の着想に思いを馳せることは、意義深いと言えるのではないでしょうか。

そして、それぞれの機械が実現したテクノロジーの進化を再認識することは、もしかしたら、新たなテクノロジーを生み出す発想の起点になるのかもしれません。


さて、「タイプライター」とは…に戻りましょう。

タイプライターとは、「キーボードの文字を押すと、文字が刻まれたタイプバーと呼ばれる金属のアームが動き、インクをしみこませた帯の上からアームに刻まれた文字を紙に打ち付けて、紙に文字を印字する機械」です。

IBM Selecric I Typewriter

IBM Innovation Studio所蔵のIBM Selecric I Typewriter(1961年発表)

そして、IBMが1961年7月31日に発表したタイプライター「IBM Selectric Typewriter」は、上述した「タイプバー」ではなく、ゴルフボール型の「タイプボール」を印字の仕組みとして採用したことが革新的でした。

初代機のIBM Selectric Typewriterは、後継機と区別する観点で「IBM Selectric I 」とも呼ばれています。

ちなみに、IBM Selectric I は映画やドラマに登場することがあるので、赤い筐体の写真をご覧になって、「見たことがある」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。

IBM Selectric II Typewriter

「未来の考古学」で展示されているIBM Selectric II Typewriter(1971年発表)

そして、初代機から赤、青、緑、薄茶など複数色の筐体で提供されているIBM Selectric Typewriterではありますが、「未来の考古学」の展示では、丸みを帯びた筐体が特徴的な第1世代のIBM Selectric Iではなく、第2世代のIBM Selectric IIが採用されています。

「未来の考古学」は、展示空間の色彩がモノトーンとなるため、IBM Innovation Studio所蔵のタイプライターの中では、グレー筐体のIBM Selectric IIが展示に適していると判断されたのでしょう。

なお、IBM Selecric Typewriterそのものは、IBM Selectric III(1980年代に登場)まで発表されました。


IBM Selectric II にセットされている「タイプボール」

IBM Selectric II にセットされている「タイプボール」(写真中央)

ところで、ゴルフボール型の「タイプボール」を印字の仕組みとして採用したIBMのタイプライター「IBM Selectric Typewriter」は、何が革新的だったのでしょうか。

実は、「タイプバー」と異なり、「タイプボール」は交換が可能です。

つまり、文書を印字している途中で「タイプボール」を交換することで、文章の途中から異なる書体や言語を印字できるのです。

現在、私達は、文書作成にワープロソフトを用いています。

ワープロソフトは、パソコンでも、スマートフォンでも、それこそ、Webブラウザー・アプリケーションとしても利用可能であり、文字フォントは必要なときに必要な場所で変更できて当然、と私達は思っています。

しかし、上述したように、「タイプボール」を用いるIBM Selectric Typewriterが登場するまでは、文章の途中で文字フォントを変えることは不可能だったのです。

まさに、現在は「当たり前」である文字フォント変更の原点が、IBM Selectric Typewriterであり、「タイプボール」が実現したことなのです。


*これは、IBM Plex 公式サイトの「03 Plexness」に掲載されているIBM Selectric typewriterとタイプボールの映像です。


もしかしたら、「未来の考古学」の展示で「タイプボール」を目にすることで、新たなテクノロジーを生み出す発想の起点とする人が現れるかもしれませんね。

なぜなら、「未来の考古学」の最適な展示の時間帯は日没後です。明かりは3Dファントムを用いた空間映像のみで、展示エリアは消灯されています。つまり、思考に没入するには最適な空間だからです。
日本IBMアカウントのTwitterにおける動画投稿も参照ください。

本記事の執筆時点では、残念ながら「未来の考古学」は一般公開されていません。
セミナー受講や商談などで、日本IBM本社事業所を訪れる機会がある方は、ぜひ、事前に、応対する日本IBM社員に「未来の考古学」の展示見学について相談なさってください。

 

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