IBM Research

爪装着型センサーとAIで、患者の健康や病気の進行状況のモニタリングを可能に

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IBM Thomas J. Watson Research Center Stephen Heisig/佐久間克幸(共著)

著者:IBM Thomas J. Watson Research Center
Stephen Heisig/佐久間克幸(共著)

ヒトの握力は、驚くほど幅広い健康問題を判断できる有効な指標となります。これまでも、パーキンソン病患者に対する治療薬の効果や、統合失調症患者の認知機能のレベル、患者の心臓血管の健康状態、そして高齢者の全死因死亡率との関連性が指摘されてきました。

IBM Researchでは目下の課題の1つとして、患者の健康全般におけるさまざまな病気の影響についてより深く理解するとともに、AIがどのように臨床医を支援し、自然な環境の中で患者をモニタリングしながら病状の進行を示す兆候や手掛かりを指摘するようにできるか、という課題に取り組んでいます。12月21日に「Scientific Reports」で発表した最新の研究論文で、当チームはヒトの健康のモニタリングに役立つ、初の「爪装着型センサー」のプロトタイプについて詳述しています。このウェアラブル無線装置は、ヒトの手の爪の歪みや動きを絶えず測定し、それが握力を測る重要な指標となります。

ヒトの動作や健康をモニターする爪装着型センサー。ニューヨーク州ヨークタウンハイツの研究所で撮影(Feature Photo Service)

ヒトの動作や健康をモニターする爪装着型センサー。ニューヨーク州ヨークタウンハイツの研究所で撮影 (Feature Photo Service)

 
本プロジェクトでは、まずパーキンソン病患者の薬物治療の状況を把握することから始めました。新しい治療法に対する承認を得るには、治療を受けている患者の状況を対照群との関係で定量化する必要があります。パーキンソン病患者の大半は高齢者で、皮膚が次第に脆弱になる年齢層です。

ヒトの身体のほとんどは、皮膚、爪、髪で構成される外皮系で覆われています。外皮系の主な目的は、ヒトの内部組織を病原体や毒、紫外線、乾燥、気温の変化などから守ることです。また、全身を走るニューロンから成る体性感覚系の感覚受容器を構成します。

病気の進行を測る方法の1つとして、皮膚にセンサーを取り付け、動作のほか、筋肉や神経細胞の健康状態、あるいは感情の強度を表し得る汗腺活動の変化といったデータを収集する方法があります。しかし高齢の患者の場合、このような皮膚装着型のセンサーによって感染症などの問題が起こることも少なくありません。

そういった場合に活躍が期待されるのが、爪装着型センサーです。私たちは1日中、圧力や温度、表面の手触りといった接触感覚などに基づき、手でモノを扱います。当チームは、人間が1日の流れの中で周囲の環境と相互作業する際に爪の歪みを測定して興味深いシグナルを見つけ、AIや機械学習を利用してそのデータを分析すれば、有益な洞察が得られる可能性があることに気付きました。

ヒトの爪には、操作するモノに指の腹を集中させるという機能があります。指でモノを掴んだり、握ったりすることはもちろん、指を曲げたり伸ばしたりしても爪は一定のパターンで変形(歪んだり、動いたり)することがわかります。その変形は10ミクロンに満たないことがほとんどで、裸眼で捉えることはできませんが、ひずみゲージ・センサーを使えば簡単に検知できます。ご参考までに、一般的に人間の毛髪の直径は50~100ミクロン、赤血球の直径は10ミクロン未満です。

爪はとても固いので、センサー・システムを爪に貼り付けることにしました。肌に装着することで起こる問題を一切心配せずに済むためです。握力計を使って実験を行った結果、握り方を変えても握力を正確に予測できる十分なシグナルが爪から得られることを実証しました。

また、爪の変形から繊細な指の動きを解析し得ることもわかりました。鍵を回す、取っ手を回してドアを開ける、スクリュードライバーを使うなど、回内運動や回外運動を伴う典型的な日常の動作を判別することが可能になりました。さらに繊細な動作として指で文字を書くことが挙げられますが、当チームはニューラル・ネットワークのトレーニングを繰り返し、センサーを装着した指で書かれた数字の検出において極めて高い精度(94%)を達成しています。

指の爪に装着する複数のひずみゲージと、ひずみの値をサンプリングする小型コンピューターから成る当チームのシステムは、加速度計のデータを収集し、スマート・ウォッチと通信します。また、このスマート・ウォッチでは機械学習モデルが実行され、パーキンソン病の症状である運動緩慢、震え、運動障害の評価が行われます。

指先にコンピューターを置くという発想から、爪の繊細な動きを検知して特徴づけることができるようになり、爪の新たな活用法を見いだしました。このセンサーによって、健康状態に関する洞察を引き出し、新たな種類のユーザー・インターフェースを実現できます。また、この研究から将来、四肢まひ患者のコミュニケーションに役立つことが期待される、指先の構造をモデルにした新たなデバイスへの着想も得られました。

研究論文はこちらをご参照ください。

Katsuyuki Sakuma, Avner Abrami, Gaddi Blumrosen, Stanislav Lukashov, Rajeev Narayanan, Joseph W. Ligman, Vittorio Caggiano & Stephen J. Heisig. Wearable Nail Deformation Sensing for Behavioral and Biomechanical Monitoring and Human-Computer Interaction. Scientific Reports 8, Article number:18031 (2018)

 
※この記事は米国時間2018年12月21日に掲載した ブログ(英語)の抄訳です。

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