量子コンピューター

量子プログラミング・コンテスト開催

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IBM Quantum Challenge Fall 2021(開催期間:10月27日〜11月5日)

量子コンピューターの将来の産業応用にむけて

量子コンピューターを使うと何ができるのでしょうか?産業界で活躍するITエンジニアやAIエンジニア、データサイエンティストの方々の中には、まだ量子という新しいテクノロジーを実際のビジネスでどうやって活用していくのか実感のない方がいるかもしれません。

しかし、すでにIBMの量子コンピューターが世界で初めてクラウド経由で誰でもアクセスできるようになってから5年経ち、今年は、アメリカ以外の国、ドイツと日本で「IBM Quantum System One」が稼働を開始しました。それぞれの地域で、企業・学術・研究機関が一体となり、量子コンピューターを用いた適用事例の研究を進めています。

2021年10月27日〜11月5日に世界規模で開催される、「IBM Quantum Challenge Fall 2021」では、この「実際に何に使えるのか?」という問いに対する答えのヒントとなるような具体的な産業応用の問題をテーマとしています。

オープンソースの量子コンピューターSDKである、Qiskitのアプリケーションモジュールが今年、大きく再編され、Finance/Nature/Machine Learning/Optimizationの4つの専用モジュールに分割されました。それぞれ、金融、量子化学・物理、量子機械学習、最適化と、近い将来に量子コンピューターの適用が期待されている重要な産業応用分野です。今回のチャレンジでは、この4つの分野を具体的に学びながら問題に挑戦する形式となっています。

IBM Quantum System Oneは現在、かわさき新産業創造センターで稼働しており、産業および科学研究において成長を続ける日本の量子コミュニティにサービスを提供しています。

IBM Quantum Challenge Fall 2021における4つのチャレンジ

1. 金融

どの会社の株をどれくらいの比率で持てば、ベストな資産運用ができるでしょうか?金融の専門家は、現代ポートフォリオ理論(MPT)などを基に、理想的なポートフォリオを決定しますが、多くの銘柄数を考慮すると、この計算は巨大な行列計算となり、大量のコンピューターリソースが必要となります。行列計算における、量子コンピューターの優位性としては、HHLアルゴリズムによる逆行列計算が知られていますが、今回のチャレンジでは、近い将来に有用なアプローチである、量子コンピューターと古典コンピューターを共に使うハイブリッドな計算手法で、この最適化計算を効率的に求めます。

その他、取引のリスク計算やオプション値付けの予測など、量子コンピューターを利用した金融関連のアルゴリズムについて、Qiskit Finance documentationチュートリアルで学ぶことができます。

2. 化学

新材料開発や創薬などにおいては、分子のシミュレーションができることは大きなメリットとなりますが、化学反応を正確に計算するためにも、金融業務と同様に大量のコンピューターリソースが必要となります。量子コンピューターでは、分子のエネルギーを効率良く求められる手法があり、水素、水素化リチウム、水素化ベリリウムの分子を実際の量子コンピューターを用いてシミュレーションした研究がよく知られていますが、最近では、有機EL発光材料の励起状態を、高い精度で計算する成果も発表され、量子コンピューターによる分子モデリングの効率化が期待されています。

量子コンピューターを使った分子のシミュレーションについては、Qiskitテキストブックの4.1.2章、またQiskit Global Summer SchoolのLecture22〜27に紹介されています。また、Qiskit Nature documentationチュートリアルでも学ぶことができます。

3. 機械学習

機械学習は、近年その性能と汎用性の高さから大きな注目を集めている技術です。実際、アルゴリズムの発展や計算リソースの増加に伴って、多くの産業において実用化が可能となりました。最近では、量子計算の機械学習への応用についても研究が進められており、IBMの調査によると、そうした量子機械学習が古典的な手法に対して、計算量や表現力などの観点で優位性を示すようなケースが存在することが分かっています。今回のチャレンジでは、機械学習において最も基本的な枠組みである分類問題を、量子カーネル法を用いて解くアルゴリズムについて学習します。

量子機械学習については、Coding with Qiskit season 2のエピソード6を入門編としてご参照ください。Qiskit Machine Learning documentationチュートリアルでも学ぶことができます。

4. 最適化

最適化技術も、データ活用のための技術として、あらゆる業界において様々な場面で活用されてきました。ものづくりの分野では、製品の高性能化、コスト削減、製造における効率化、また、サプライチェーン・マネージメントでは、発注計画、物流ルートなどがあり、また金融分野での最適な資産ポートフォリオもこの問題に含まれます。この最適化問題の中で、従来のコンピューターでは問題の大きさに対して計算時間が多項式時間で解くことができない、いわゆるNP困難な問題として知られているものに、巡回セールスマン問題、最大カット問題、ナップサック問題などがあり、これらの問題のいくつかにおいて、量子コンピューターで効率的に解が求められるものが知られています。最終問題では、このNP困難問題のうちの一つに取り組みます。

最適化についての量子コンピューターの適用については、Qiskitテキストブックの「QAOA を利用して、組合せ最適化問題を解く」、また、Qiskit Optimization documentationチュートリアルをご覧ください。

これらの将来有望な4つの分野において、それぞれ実問題に基づいた設問に10日間でチャレンジしていただきます。

さて、IBM Quantum Challengeの開催も3年目に入り、これまで様々なストーリーが生まれてきました。

2019年秋に行われた、Qiskitを初めての使った量子プログラミングコンテストでは、コンビニの出店場所の最適化問題に多くの人が取り組みました。多くの参加者が、この大会で初めて量子プログラミングを体験し、優勝した学生も当時は別の分野を専攻していましたが、その後、量子情報に専門を変え、研究を続けています。

2020年5月には、コロナの流行により世の中が急速に変わっていく中、約1700人もの参加者が自宅からクラウド経由でIBMの量子コンピューター(当時18台)にアクセスし、4日間の開催期間中に、1日に1億回以上もの量子回路計算が実行されるという記録を残しました。1年前のコンテストでは、Dr. Ryokoと共にパズルゲームを解き進めることで近い将来の量子アルゴリズムの可能性を探求しました。

今年5月には、世界初のクラウド型量子コンピューターであるIBM Quantum Systemの5周年を祝い、これまでの量子アルゴリズムの歴史を振り返りました。そのほか、IndiaやAfricaなどの地域で行われた大会も大変盛況で、どの大会でも、参加者同士が助け、励まし合い、切磋琢磨しながら量子プログラミングのスキルを成長させる大きな機会となっています。また、全ての大会で出題者の予想を上回る素晴らしい解法が参加者から提出され、新しい発見に驚かされるとともに、その優れた解法が世界中に共有されることで、参加者はさらに知見を深めることができました。


産業界や社会課題に沿った設問作成にあたり、東京大学、慶應義塾大学の両大学学生の協力のもと問題の開発を行っています。東京大学が中心となって、2020年に設立された量子イノベーションイニシアティブ協議会では、金融・材料・自動車などの産業界とアカデミアからのメンバーが連携することで量子コンピューターの社会実装の実現の研究をすすめています。

この協議会には、学校法人慶應義塾、株式会社東芝、株式会社日立製作所、株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ、JSR株式会社、DIC株式会社、トヨタ自動車株式会社、三菱ケミカル株式会社、ソニーグループ株式会社、三井住友トラスト・ホールディングス株式会社、横河電機株式会社、日本アイ・ビー・エム株式会社が参画しています。

また今年7月に「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」で稼働を開始した量子コンピューター「IBM® Quantum System One」は、東京大学が中心となり、量子イノベーションイニシアティブ協議会の参加メンバーが使用し、研究開発を行っています。

慶應義塾大学は、2018年にアジア初のIBM Quantum Network Hubとなり、JSR株式会社、株式会社みずほフィナンシャルグループ、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱ケミカル株式会社と共に、量子コンピューターの産業応用における研究を進めてきました。金融や化学の分野において、大変優れた研究成果を上げており、今回のチャレンジにおいても慶應義塾大学の研究結果を基にした設問を含めています。


沼田祈史
筆者:沼田祈史

IBM Quantum & Qiskit Community

小林 有里
筆者:小林 有里

IBM Quantum & Qiskit Community

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