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はじめに

2022年4月、不妊に悩む方への特定治療支援事業(厚生労働省ホームページ『不妊に悩む夫婦への支援について』を参照)が始まります。妊活や不妊治療は、プライベートな事でもあり、当事者にとっても、同僚の立場であっても、職場で話題にして良いのか判断が難しいと感じる、心理的ハードルが高い話題ではないでしょうか。

厚生労働省の2017年の調査によると、5.5組に1組、約18%の夫婦が不妊の治療や検査を受けたことがあるという結果が示されています。(情報ソース:厚生労働省『不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック』(PDF)

職場で話題にしにくい望妊活動について、働く女性たちはどのように向き合い、キャリアの継続を目指し、どのように工夫し、日々のワークロードと両立してきたのでしょうか。

日本IBM社長直属の諮問委員会である「Japan Women’s Council(以下、JWCと記述)」の一員である筆者が、対話形式で3人の望妊活動経験者から話を伺い、彼女らの視点のまま記事にまとめました。

パネラー

  • Aさん 新卒で入社以来ずっと営業職に従事、主に金融機関様を担当。2児の母、二人とも顕微受精で授かる。
  • Bさん 社内公募や上長と相談しながら自身のキャリアを模索し、現在、コンサルタント職として、SaaSソリューションのプリセールス活動に従事。約5年間治療し第一子を顕微受精で授かり、第二子は自然妊娠。
  • Cさん 入社以来デリバリーに従事、主に金融・保険業界のお客様を担当。夜勤・休日勤務多め。10年間治療、体外受精までの治療法を経験したが授からず。今は夫婦2人の生活を満喫中。

 

加藤 典子
インタビュアー:加藤 典子
日本IBM テクノロジー事業本部 カスタマー・サクセス・マネージャー

治療をはじめたきっかけ

みなさんが治療を開始したきっかけを教えてください

Aさん 婦人科系が弱いと感じていて、生理不順を抱えていました。結婚して2年経過しても自然妊娠せず、病院に行くことにしました。

Bさん 同じく結婚2年で自然妊娠せず、夫婦とも健康体に見えて原因が特定できなかったので、興味から治療を開始することにしました。

Cさん 結婚した頃、仕事が忙しくて生理が止まり、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群:polycystic ovarian syndrome)と診断を受けました。生理を起こすには、ホルモン治療が必要と診断されました。

一同 生理不順、卵巣や婦人科系のトラブルを抱えた女性は珍しくないですね、職場で話題にしないだけで、何もトラブルがない方は案外少ないのかもしれません。

治療のステップと負担

具体的には、どのような治療方法があるのですか? そして、皆さんはどの治療に取り組まれたのですか?

一同 一般的には4段階の治療法があります。タイミング法、人工受精(ここまでは保険適用外でも比較的安価)、そして体外受精、顕微受精の選択肢があります。

不妊治療の流れ図表。厚生労働省『不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック』より、筆者が抜粋加工

出典:厚生労働省ホームページ 不妊治療と仕事の両立サポートハンドブック(PDF) より、不妊治療の流れ図表を筆者が抜粋加工

 

Aさん タイミング法から順に辿る人もいますが、私は早い段階で顕微受精に舵を切りました。家族の状況や年齢、家計によって、どの治療法を選ぶかはそれぞれだと思います。

Bさん 私は順を追って全て経験しました。当初は、結果的に子どもを持てなくても良いと考えていました。人工授精までは、働きながらの治療もそれほど負担ではありませんでした。でも、人工授精の負担が少ないからと回数を重ねて時間を使うなら、若いうちに体外受精をチャレンジして数回で授かる方が確率が高いのではないかという友人のアドバイスがあり、チャレンジしようと思いました。体外受精で結果が得られず、医師のアドバイスで顕微受精となりました。

Cさん 私はタイミング法から体外受精までを経験しました。顕微受精は医療が介在し過ぎているように感じたため、体外受精まで、と治療開始時に夫婦で決めていました。


治療の回数や期間をあらかじめ決めていましたか?

Aさん 顕微受精に取り組むことになり、一回40万円という治療費の相場を知りました。顕微受精3回までは一律料金で治療ができる、成功報酬制度を取り入れている病院を選びました。顕微受精をしても卵が育たない、子宮内に戻しても育たないケースもあります。着床して10週目を迎えると治療は卒業になります。私は3回で卒業をすることができました。

Cさん 私は成功報酬制度ではない病院に行っていました。子どもができない将来も予測し、その後2人でどう生きていきたいかをイメージしたうえで、費用の高い体外受精については何回まで取り組むかを予め夫婦で決めていました。


治療を始める上で生活面の変化はありましたか?

一同 まずは、良い卵子を育てる土壌である身体づくりから取り組む方がほとんどです!!

Aさん 私は卵子の品質を向上するところからスタート。ホルモン治療を始めて優良な卵子が採取できるようになるまで時間がかかりました。

Bさん ホルモン治療も投薬を推奨する病院と、なるべく投薬しない方針の病院と、それぞれクリニックの方針により特色がありますよね。一般に公開されているブログなどの様々な情報で、東洋医学の鍼灸や漢方にトライもしました。当時は国内、海外出張と飛び回っていましたが、無意識に身体に負担がかかることを日々の基礎体温の測定でわかるようになり、体の疲れを溜めない工夫を心がけました。

Cさん まずは、自分の身体がどんな状態で、どの治療法で身体を整えていきたいのかをお医者様と相談していく必要があります。

一同 それぞれの治療に選択肢があり、病院によって方針が異なること事前に知っておくことが大切です。

Aさん 私は治療を始めてから、卵子が育つ環境を整えるために鍼灸院に通いました。当初は、身体が冷えているから、ちゃんとした食事をとって運動もするよう勧められました。根菜を食べたり会社まで徒歩通勤をすることで、徐々に改善していきました。

Cさん 私は望妊活動の途中で、PCOSの手術を受けました。原因も対処法も人それぞれなので、きちんと診察を受け、自分たちはどうしていきたいのかを、じっくり考えると良いと思います。


仕事をしながら治療を続けるのは大変ですか?

一同 そうですね、まず、月経周期に合わせて、投薬や通院のスケジュールが決まります。なので、会議や出張の調整が必要になります。

Aさん 私の、当時の通院、投薬カレンダーをお見せしますね。月経周期に合わせて、服薬時間が指定されていました。朝7時、午後3時、夜11時だったので、それに合わせた生活スタイルになりました。ホルモン治療で自己注射もしていたので、指定時間に会社のトイレに駆け込んで注射を打っていました。たまに間に合わず時間がずれてしまうこともありましたが、病院には申告できませんでしたね。

Aさんの通院、投薬カレンダー(本人提供)

Aさんの通院、投薬カレンダー(本人提供)

 

Bさん 採卵も月経周期を目安に通院し、排卵の状況をエコーで確認して育っていれば、具体的な処置の案内に進みます。排卵状況の診察の結果、翌日に再診を薦められる場合もあります。処置を受ける場合、採卵は30分くらいの早朝の手術になります。採卵は針の痛みや精神的な負担もあり、正直、術後はそのまま休暇をとりたいと感じていました。

Aさん 上司や同僚に治療を開示しておらず、業務の調整ができず、会社に戻らなければならない時はつらかったです。

職場での情報開示

治療していることは上司や同僚に開示したほうが良いのでしょうか?

Bさん 私は開示していました。当時、米国IBMから来日しているエグゼクティブのサポート業務をしておりました。採卵の手術は日時指定のため、どうしても休む必要がありますが、理由は特に伝えなくても、「あなたにとって大切なことだから優先してください」と言葉をかけてくれました。仕事上も年齢的に責任を持つ時期で、複雑困難なプロジェクトを打診されることがありましたが、業務の調整や(結果的にアサインを受けない)自身の希望の伝え方など、治療を大切にしたい自身の状況の理解やアドバイスをもらえました。キャリアを諦めるわけではなく、今はプライベートを優先する「Family First」の時期と良い距離感で上司が支えてくれました。周囲に迷惑をかけない程度に、自身がそれで一杯一杯にならないように、自分の状況を開示して働きやすい環境を自分で整えていくことも大切だと考えています。

Cさん 私は、ホルモン治療の期間は誰とも共有せず、体外受精の期間だけ周囲に伝えました。多忙なプロジェクトに在籍していて、体外受精がうまくいなかいときは仕事をこのまま続けるべきか悩むときもありました。でも上司から、「この仕事は他の人に任せられないから、通院しながら調整しつつ続けてほしい」と言われて、両立をしていく気持ちになれました。夜勤や出張を調整して、プロジェクトは担当し続けることができました。

Aさん 私は望妊活動はプライベートなことですし、パートナーが同じ会社にいることもあり、開示しないことを選びました。

一同 開示するメリットも確かにあると思いますが、周囲に伝えるかどうかは、それぞれが決めれば良いことだと思います。


仕事との両立のコツなど、これから治療に取り組まれる方にメッセージをお願いします。

Cさん 夜勤など身体的負担は軽減する必要がありますが、責任を持つ仕事を回避する必要はないと思います。

Aさん 先の見えない活動、周囲にも話しにくいし、精神面でも負担が大きいことは間違いないです。経験してきたことを活かして、NPO法人Fine認定の不妊ピア・カウンセラーとして、これから望妊活動をする方を支えていきたいです。

Bさん 治療中、思うような結果にならず、原因を仕事に寄せて辞めようかと悩んだときもありました。私のように一人で悩まず、友人に相談したり、相談に乗ってくれる専門窓口を活用して欲しいです。

Cさん 働く時間・場所の柔軟度がより高まり新しい働き方ができる時代です。モバイル一つあればメールのやりとりなど、通院していても進められる仕事もあります。

一同 振り返ってみると、妊活中も仕事を続けた結果、業務や同僚との会話という「いつもと変わらない日常」を過ごすことで、気持ちが楽になる効果がありましたね。

Cさん 結果的には、治療と仕事が両立できたことで、時間やタスク管理の観点でも「私ならやっていける」と自信がつきました。

Aさん 最近の待合室は、仕事用のデスクが整っているところもあり、仕事をしながら通院するスタイルは一般的になってきているようです。

一同 「働く場所は自分で作っていく」「妊活しているから仕事はひと休み」ではなく、パフォーマンスを出すために必要なサポートを周りに求めて、自分のキャリアも輝かせましょう。

まとめ

日本IBMでは、妊活経験者による「人生すごろく」の妊活編を使った座談会や、専門講師による定期的な妊活セミナーや個別相談会を開催しています。そこで見えてくるのは、まだまだ妊活を周りに相談できず悩んでいる社員の多さです。たとえ、同じチームに妊活経験者はいなくても、組織を超えて見渡すと経験者はたくさんいます。それも、現在進行中の後輩を助けたいと思っている先輩方です。こうして、助け合いの輪が広がり、妊活とキャリアを両立し、安心して働ける環境や相談できる文化を醸成していきたいです。

不妊治療はパートナーと取り組むことですが、今回は女性たちの視点でまとめました。

働き方のスタイルを見直すことが必要な場合もあるかもしれません、でも、必要なのは、体力面や身体的な保護であり、責任を持つ役割の回避ではありません。治療をしながらキャリアを磨いていくことは可能です。パネラーのリアルな経験談が、これから治療を始める方やパートナー、上司や同僚として見守る方の参考になれば幸いです。

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