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コパカバーナにコグニティブ・カーをもたらすフォルクスワーゲンのAI搭載車

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コグニティブ・マニュアルが利用できるフォルクスワーゲンの新しいセダンであるVirtusは、ドライビング体験の向上だけでなく売上の急増も実現しました。

ブラジル最大の自動車メーカーであるフォルクスワーゲン・ド・ブラジルは、昨年、ラテン・アメリカ向けに特別に設計されたVirtusという新しいセダンを発売しました。

フォルクスワーゲン・ド・ブラジルの新型セダン「Virtus」の画像

コグニティブ・マニュアルは、車のオーナーの顧客体験の向上を実現(Photo: Volkswagen Group)

Virtusの最大の変更点の1つは、エンジン、トランク、塗装のいずれでもなく、助手席のグローブボックスです。もっとも、グローブボックスと言うよりも「本棚」と説明したほうがブラジルでは通じるかもしれません。実は、ブラジルの法律では、全ての乗用車は機能、メンテナンス、セキュリティーを含む6つ以上のマニュアルの携帯を義務付けられています。複数のマニュアルを保管しているグローブボックスは、まさに「本棚」という表現が相応しい状況だったのです。

フォルクスワーゲン・ド・ブラジルのデザイナーは、自社製品をあらゆる観点から再考した際に、多数のマニュアルを携帯することに疑問を感じました。そして、オーナー・マニュアルを「場所をとらない控え目な存在」にする方法がないかを考えました。その答えが、コグニティブ・マニュアルのアプリケーションです。コグニティブ・マニュアルは、多数のマニュアルに困惑している状況からドライバーを救うことが可能なのです。

IBM Watsonを活用するスマートフォンのプラットフォーム上に構築されたコグニティブ・マニュアルは、8,000以上の音声コマンドに対応しており、150の異なる車両状況をカバーします。ドライバーは22種類のダッシュボード・アラートを写真に撮ることもできますし、コグニティブ・マニュアルのアプリケーションは問題が何であるかを正確に説明できます。そして、アプリケーションに組み込まれているAIのおかげで、コグニティブ・マニュアルのシステムは時間をかけて学習するとともに適応できます。

コグニティブ・マニュアルのアプリケーションによって、不可解な「チェック・エンジン」の警告を受ける日々や、グローブボックスにマニュアルを保管する日々は終わりを迎えるのです。

IBM BrazilのAndréa Crespoは、次のように述べています。
「Virtusはガレージに駐車しているのか、高速道路を走行中なのか、山道で立ち往生しているのか。どのような状況にあっても、コグニティブ・マニュアルは信頼性が高い音声認識を実現する必要がありました。そして、IBM iXでIBM Watsonを担当しているチームは、この課題に対応する準備ができていました」

フォルクスワーゲン・ド・ブラジルのFabio Rabelo氏は、次のように語ります。
「私たちは、ブラジルにおけるイノベーション・リーダーシップ戦略において、AIが最も重要な要素であると考えています」

ファビオラベロ氏のチームが、電話ベースのアプリケーションとしてコグニティブ・マニュアルを開発した結果、車のオーナーは自分の車に乗車していない時にも、問題に対処したり、質問への回答が得られます。コグニティブ・マニュアルのアプリケーションは、Apple Carplay、Android Auto、MirrorLinkを介して自動車と統合します。

「タイヤの空気圧を確認する方法を教えて?」や「双子が後ろで昼寝をしているのでステレオを前面にフェードするにはどうすればいい?」のような問いかけへの対応を可能に作成することは、アプリケーションがコマンドを理解できる、というレベルを超えていました。また、車のオーナーの名前と声、車のモデル、塗装、ホイールパッケージなどの細部までを認識して、車のオーナーにあわせてパーソナライズできる必要もありました。さらに、ラテンアメリカ全域のフォルクスワーゲンの車に対応するために、コグニティブ・マニュアルはスペイン語やブラジルの様々な方言を理解する必要がありました。

コグニティブ・マニュアルの画面

コグニティブ・マニュアル(Photo: Volkswagen Group)

最大の課題は、作業のペースでした。Virtusは新しい車種だったので、Virtusの特徴や詳細は、可能な限り最後の瞬間まで秘密にされなければなりませんでした。その結果、IBMチームには、テスト用の期間である1ヶ月を含め、プログラムの開発期間は4ヶ月しか与えられませんでした。何よりも、音声認識用に構築されたAIと会話によるトレーニングが行えないのは非常に厳しい状況となります。

IBM BrazilのAndréa Crespoは次のように語ります。
「フィードバックを得ることが重要です。私たちは、話す人々と、人々の行動を、必要としていました。これが人工知能をよりスマートにするものです」

厳しい状況にありつつも、IBM Watsonを用いて構築したシステムは、テスト・フェーズで89%の音声精度を達成し、ビジュアル・プロンプトでも90%の音声精度を達成しました。

IBMのInstitute for Business Valueに所属するBen Stanleyは、「コグニティブ・マニュアルは、製造業からサービス提供者へと自動車メーカーがシフトする潜在的な段階を表している」と述べ、次のように続けます。
「自動車メーカーは、経験に基づくプラットフォームに移行する必要があります。今後、10年以内に自動運転が実現しているのであれば、パフォーマンスを気にする必要はなくなります。気にするべきは、車内と車外での経験になるでしょう」

そして、Virtusを南米で人気がある車の1つとし、納車台数の増加を実現することで、コグニティブ・マニュアルは、技術投資の価値を実証しました。2018年のフォルクスワーゲン・グループの自動車販売台数は約12%増加しました。この実績には、フォルクスワーゲン・ド・ブラジルの28%が含まれており、コグニティブ・マニュアルに対応するVirtusの貢献が大きかったことがわかります。

フォルクスワーゲン・ド・ブラジルの新型セダン「Virtus」の別アングルの画像

Virtusはフォルクスワーゲン・グループの自動車販売台数増に貢献(Photo: Volkswagen Group)

Virtusが成功した要因の1つは、コグニティブ・マニュアルが既存の3つのモデル(Tiguan、T-Cross、Jetta)にも展開されたことです。そして、コグニティブ・マニュアルが実現したAI機能は、フォルクスワーゲン・ド・ブラジルがブラジルにおける最先端の自動車メーカーとしての地位の再確認にも役立ちました。さらに、コグニティブ・マニュアルは、フォルクスワーゲン・グループが長期的な顧客として獲得を切望しているミレニアル世代とZ世代のバイヤーの強い関心を呼び起こすことにも成功しました。

消費者の課題と関心を推進力に開発したコグニティブ・マニュアルは、別のメリットも提供しました。実は、フォルクスワーゲンのコールセンターへの顧客からの連絡や問い合わせは減少しており、コグニティブ・マニュアルはコールセンターのスタッフの負荷軽減と顧客対応の品質向上につながっています。

革新も終わっていません。 フォルクスワーゲン・ド・ブラジルとIBMは、1年半分の顧客の問い合わせについて精査しています。これは、コグニティブ・マニュアルとフォルクスワーゲンの車に新たな機能をもたらすことでしょう。

*本記事は、VW’s AI-powered Virtus sedan brings the cognitivo car to Copacabanaの抄訳です。


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