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齋地 禎昭: CASEは本領発揮のとき。できうる限りの全てをやりきりたい | #4 Unlock

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社会は今、これまでの構造を見直し、機能不全となってしまった要素を再構築していく時期にあるのではないでしょうか。そしてそこで必要とされるのは、従来の枠組みを超えた共創であり、それを歓迎しスピードアップさせるために後押しをする新しいリーダーシップではないでしょうか。

シリーズ「Unlock(アンロック)」は、こうした考えやそれにまつわる事象について、IBMのシニアリーダーたちの声をお届けしています。

ぜひご一読いただき、皆さまの率直なご感想を頂戴いたしたく、どうぞよろしくお願いいたします。

日本アイ・ビー・エム 執行役員 テクノロジー事業本部 クライアント・エンジニアリング担当 村澤 賢一

 

(左上: 村澤 賢一(むらさわ けんいち)、右: 齋地 禎昭(さいち よしあき) 執行役員 ホンダ事業部.営業本部長.)

 

1980年代終盤からの数年間、少年だった私は「F1サーカス」とも呼ばれる「F1世界選手権」に夢中で、レース毎に繰り広げられる「セナプロ」 ―― アイルトン・セナとアラン・プロストという同チームに所属するライバル同士 ―― の争いを、熱を入れて追っていました。

時は流れ、運転免許を手にした私が最初に所有した車は、ホンダ・シティでした。

シリーズ「Unlock」第4弾は、「The Power of Dreams(夢を力に)」をスローガンに、日本経済の一翼を担うホンダさまをご担当される齋地さんとの対談をお届けします。(村澤)

 

もくじ | 齋地 禎昭 Unlock

日本の自動車業界は電気産業の轍を踏んでしまうのか!?
誰もが先駆者になれる時代の新入社員が羨ましい
入社直後の3年間、僕はふてくされたダメ社員だった。でも、あるとき…
CASE時代はクルマ作りご支援の本領発揮のとき。できうる限りの全てをやりきりたい
家族と一緒に時間を過ごし、写真を自分のお土産にするのがウェルビーイングの秘訣


 

日本の自動車業界は電気産業の轍を踏んでしまうのか!?

 

村澤: 齋地さん、今日はよろしくお願いします。さっそくですが、まずは日本の自動車業界の現況を齋地さんはどのように捉えられていますか?

 

齋地: トヨタ自動車の豊田章男社長がいうように「100年に一度の大変革期」をまさに迎えているのが自動車業界の今だと思っています。

そして「日本の」という視点で話せば、これは少々キツメの言い回しかとは思うけれど「電気産業の轍を踏んでしまうのか」。今がその瀬戸際の、非常に重大な局面にいるんじゃないでしょうか。

村澤さん、僕は日本経済の大黒柱となっている自動車業界がもしも衰退してしまったら、それはそのまま日本社会の衰退や弱体化を意味してしまう大ごとではないかと捉えています。

 

村澤: おっしゃる通りだと思います。そんな中、困難に挑戦し続けるブランドイメージを纏う「ホンダ」さまの果たす役割はとても大きなものであると感じています。

 

齋地: CASE(ケース: Connected、Autonomous、Shared & Services、Electricの頭文字。次世代自動車の主流と考えられている)が言われて久しいけれど、とりわけ日本の自動車業界においては、Eの部分のEV(電気自動車: Electric Vehicle)が本当に重要です。

なぜなら、日本の自動車には良いところがたくさんあるけれど、突出して一番なのがエンジン特性なのは間違いないですよね。燃費や排気ガス排出量など、世界に勝ち続けてきた内燃機関が、失くなってしまうのがEVなわけですから。

今後、一体何をコアコンピテンス(中核となる強み。競争優位の源泉)としてビジネスを進めていくのか。これが本当に問われているし、待ったなしで改革を進めなければならないのだと思います。

 

村澤: ホンダさまご担当の齋地さんとしては、そのあたりをどう考えていますか? 先日、モビリティ領域におけるソニーさまとの戦略的提携に関するニュースも出ていました。

 

齋地: そうですね。そうは言ってもクルマはクルマで、自分でどれくらいアクセルを踏み、どれくらいハンドルを切り、どれくらいブレーキを強く踏み込むか。すなわち「運転することの味わい」自体は変わらないのだろうと思うし、この部分は長年クルマを作り続けてきた「自動車屋」に一日の長があるだろうし、少なくとも一朝一夕に追いつかれるものではないだろうと僕は思っています。

たとえば、Appleのようなエンターテイメント業界の巨人が参入してきても、そことは一線を画せるのだろうと思います。逆の言い方をすると、そこで戦ってはいけないのでしょうね。

 

村澤: お話を聞いていて、イタリアのカロッツェリア文化(*)が頭に浮かびました。モビリティを新たな体験提供の場ととらえた場合、そのプラットフォームとしての次世代の車両と、その上で提供・展開される新たなサービスを組み合わせる、まさに現代版のカロッツェリア文化が生まれてくるのかもしれませんね。

* カロッツェリアは車体工場を意味するイタリア語で、貴族文化華やかし頃は、馬車の動力機構を作る機械職人と、馬車の車体設計や製造、デザインを行う工房(コーチビルダー)が共同作業を行っていた。

 

誰もが先駆者になれる時代の新入社員が羨ましい

齋地: 先日、村澤さん率いるクライアント・エンジニアリングのチームメンバーとも自由に意見を交換する「ラウンドテーブル」をさせてもらい、みんなにも話したけど、今、本当にものすごく大きな変化の最中にいますよね。

僕がIBMに入社したのは1990年のバブル時代で、「24時間戦えますか」なんて言葉が流行って、猛烈に働くことが良しとされていた時代でした。IBMでも今となっては考えられないような働き方をみんなしていて、夜9時に帰ろうとしたら「まだ先輩が働いているだろ!」って怒られたり、深夜1時過ぎになっても部門社員が全員オフィスにいて「それならこれから部門ミーティングをやろう」なんてことがあったりした若手時代でした。

そういう先輩たちの姿を見て、僕は「これから30年間これが続くのか…」という諦めというか絶望感というか、そういうものを感じたことが記憶に刻まれています。

 

村澤: 現在からは本当に考えられないですね。でも、時代がそういう働き方を要請していたとも言えるのかもしれません。

 

齋地: それが今では、言われたことを黙々とやるのではなく、自分の特技を持ち寄り新しいチャレンジをしよう、新しい提案をみんなで考えようとなっている。昔はピラミッド階層の一番下にペタッとくっつけられて、決められたことを言われた通りにやらざるをえなかったのが、今では目の前の視界がパーっと開いた道に立たされ、どんどん発言したり新しいことにチャレンジしたりすることが歓迎されるようになっています。

IBMはじめ、こういう働き方が社会にどんどん増えてきているのは、社会全体が従来の枠組みを変化させようとしているからでしょう。これを楽しんで、希望にできる人には、たくさんのチャンスがある時代へと向かっているんじゃないでしょうか。

 

村澤: 私も先日の入社式で少し新入社員に向けて話す機会があったのですが、そこで彼らに伝えたのは「第一人者になるチャンスが山ほどある時代だ」ということでした。

「誰もが先駆者になれる変革の時代に入社できる皆さんが羨ましいです」と。

 

齋地: 「羨ましい」ですか…。たしかにそうですね。でも、同時に新入社員にとっては大変な時代でもありますよ。

昔のように先輩社員にくっついていればそのうち一人前になれるというものではなくなったわけですから。自身のプロフェッショナリティに対する高い意識が必要でしょう。

 

入社直後の3年間、僕はふてくされたダメ社員だった…でも、あるとき

 

村澤: 齋地さんの新人時代についても聞かせてもらえますか。この季節、新社会人となった人も多く、齋地さんの話を参考にしたいという人も多いと思います。

 

齋地: 自分でも自覚していたけど、入社直後の3年間、僕は相当なダメ社員だったんです。ふてくされながら営業の仕事をしていました。僕はSEになりたくてIBMに入社したのに、「君は営業向きだから」って説得されてそのまま営業職となりました。でもね、やっぱりSEがやりたかったんです。

そのせいもあって、あまりやる気もない。仕事も遅いし、そもそもできないことばかりでした。

当時、忘れられない強烈な出来事がありました。あるお客様の担当から別のお客様担当へと変わることとなって、「お世話になりました」と退任のご挨拶に行ったんです。そうしたら「そうですかー。ご苦労様でした」って言ってくださったお客様のお顔がね、まったく笑顔を隠しきれていないんですよ。

やっぱりショックでしたよ。自覚はしていたものの「やっぱりそうか。自分はこれほどまでにあてにされていなかったのか。価値を提供できていなかったのか」って。

 

村澤: それはなかなか強烈なエピソードですね。それがきっかけで気持ちを入れ替えられたのですか?

 

齋地: それもありますけど、もっと違う理由がありました。入社から3年後に「スペシャリスト制度」というのが社内でスタートしました。今の職種に関係なく、自分で自身の専門分野を決めて、その専門性のレベルを試験を受けて証明する必要がありました。

そのとき、僕は「自分は本当にSEになりたいのか?」と、改めて深く自問したんです。同期入社のSEの仲間からは3年遅れています。その遅れは頑張れば取り戻せる遅れかもしれない、けれど、自分も曲がりなりにも3年間営業をやってきたわけです。

 

村澤: ふてくされながら、ではあったけれど(笑)。

 

齋地: そうそう(笑)。そこでじっくり考えて「よし! ひとかどの営業マンに自分はなってやる」と腹が決まりました。SEとしての遅れを取り戻すよりも、自分がやってきた営業というものに、正面から向き合おうと決めたんです。

そこからは「では、良い営業とはどんな人物か?」「ひとかどの営業マンとなるのにはどんなスキルが必要か。お客様の期待値マネージメント、プレゼン能力、傾聴…それから?」と、何を身に付けるべきかを常に考え、先に先にと自分から動くようになりました。それから数年してマネージャーになる道が見えてきたタイミングでは、「良いチーム作りに必要なものはなんだろう?」ってやっぱり考えて、自分から学び実践していくスタイルを取っていました。

 

村澤: まさか齋地さんにもそんな時代があったとは。人に歴史ありですね。先輩として新社会人たちにメッセージをお願いできますか。

 

齋地: 偉そうなことは言えないけれど、自分の過去の体験からお伝えできるのは、プロフェッショナルとしてのコンピテンスを常に見つめて欲しいということですね。つまり、「自分は何に対してお金を頂いているのか」ということ。

お客様から見て、マネージャーから見て、自分は相手の期待に応えられているのか、それを少し超えることができているのか。できていないのであれば、何が足りていなくて何を学んで何を身につければよいのか。自分に対して常にそれを問いただすようにするのが良いのではないでしょうか。

 

村澤: それはとても腹落ちする言葉ですね。そうやって積極性と工夫を繰り返し、少しずつ自分自身を高めていくこと。まさにそれこそが成長ですね。
そういう挫折しながらも乗り越えて進んでいく経験がなければ、いつまで経っても自分自身に対する不安は消えることなくずっとついて回ってしまうでしょうから。

 

CASE時代はクルマ作りご支援の本領発揮のとき。できうる限りの全てをやりきりたい

 

村澤: 先ほど話に出たCASEやMaaS(マース: さまざまな移動手段をデジタル技術でシームレスにつなぎ利用者の利便性を高めるサービスの総称)など、社会の在り方や環境要因が大きく変化する中で、IBMに求められる役割も当然変化してきています。改めて、ホンダさまをご担当される齋地さんのお考えを聞かせてください。

 

齋地: EVへの変化の話をしましたが、それ以外にもデジタル技術がクルマの中枢となってきています。「モノづくりからコトづくり」とも言われて久しいですが、日本の自動車業界においては、DXという言葉でようやくそれが本当に加速されてきた感があります。

言い方は少々乱暴かもしれませんが、これまでクルマ作りにおいては、電気・電子系は機械・機構系よりも下に見られていました。「そこはどうにかしておいて」と力業でどうにかすることが求められるようなところもありました。でも、CASEが中心となるクルマ作りではもうそうはいかないでしょう。

僕は、これがIBMにとってはとても大きなチャンスだと思っています。これまでもクルマ作りをご支援してきたとは言え、それはある意味「周縁部」だけだったと思うんです。ここからが本領発揮です。

 

村澤: CADとか、PLM・ALM連携などはありましたが、そこまでしかありませんでした。

 

齋地: その通りです。でもこれからは自動車業界の今後の方向性であるCASEのあらゆる局面の鍵をデジタル技術が握るようになります。

IBMは、古くは野洲工場を持っていた時代から「組み込みソフトウェア」の技術を磨いてきた企業です。これからは我われが培ってきた経験を活かして、クルマ作りのど真ん中をご支援させていただくことができるわけです。我われが一緒にチャレンジできるエリアが大きく広がり、もっと大切な役割を果たすことができるようになりました。

日本経済の中枢を支援する役割の一端を担わせていただけるチャンスですから、できうる限りの全てをやりきりたいですよね。

 

村澤: 具体的にすでにお客さまにご提案されているものもあるのでしょうか。

 

齋地: もちろんたくさんあります。

たとえばOTA(Over The Air: 無線経由)と呼ばれるソフトウェア更新システムが一般的になれば、お客様の声に合わせて「乗り心地」を後付けで変更できるようになります。「今日はキビキビした走り中心モードで」とか「家族一緒にのんびりリラックスムードで」とか、テイストというか運転心地を、ドライバーの好みやその日の気分に合わせて変えていくことも可能なわけです。

こういう五感に訴える要素はとても重要になるでしょうね。そして運転者の好みを記憶し学習していくことも、クルマに求められる重要な要素となるでしょう。

 

村澤: そうなると、製品ライフサイクルの中で、いわば「UXライフサイクル」とでも呼ぶべきものの重要性が高まりそうです。そのためには、従来以上にお客様の声や市場の声を丁寧に掬い上げるような仕組みが必要かと思いますが…。

 

齋地: その通りです。これも自動車業界の最重要DX要素の一つであろうと思っていまして、そういった提案をしているところです。もっとその意味や意義を深くお伝えしていかなくてはと思っています。

そしてそういうアイデアを持っていて、お客さまと一緒にしっかり考えたいと思っているIBM社員がいたら、私のところに来てどんどん声をかけて欲しいですね。

 

家族と一緒に時間を過ごし、写真を自分のお土産にするのがウェルビーイングの秘訣

 

村澤: 最後の質問です。シニアリーダーとして忙しい日々をお過ごしかと思いますが、齋地さんがご自身のウェルビーイングの維持や向上について実践されていることを教えてください。

 

齋地: カッコつけてると思われちゃいそうで少し心配ですが、僕は家族と一緒に時間を過ごしたり、旅行に行ったりするのが好きなんですね。それで時間を見つけては山登りに行ったり小旅行に行ったりしています。そうだな、日帰りや1泊を入れれば年に10回以上は行っているかな。

 

村澤: ご家族との時間が楽しみというのは、とても素敵なことですよ!

 

齋地: そして旅先でちょっとした贅沢をして、そんな様子をたくさん写真に残しているんです。多分、iPhoneには1万枚以上の写真が入っていると思いますよ。

そして帰ってきてからも、ちょくちょくそれを眺めては思い出すんです。そうやって旅行後も2週間は楽しんでいますね。自分へのお土産です。

それから、僕、実はランナーなんですよ。年に2回はフルマラソンを走っていますし、東京マラソンもこれまで7回走っています。

ときどき「趣味は?」と聞かれることがあって、そのときは「マラソン」と答えていました。でも、改めてよく考えてみると、これは趣味というよりも、大好きなお酒をこれからも美味しく飲めるようにと、健康維持のために、あるいは自分を戒めるために走っているようなものかもしれません(笑)。

 


 

最後までお読みいただきありがとうございました。

対談の中では、日本社会をより共創社会へと転換するための大胆な提案で齋地さんと盛り上がった時間もあったのですが、そちらはもう少し練り上げてから、別途皆さんにご覧いただく機会を作れれば良いなと考えております。どうぞご期待ください。(村澤)

 

TEXT 八木橋パチ

 

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