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JALカードにおける分析の高度化・自動化への取組み ――株式会社JALカード事例

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JALカードにおける分析の自動化・高度化への取り組み ――株式会社JALカード事例 辻井万里子

株式会社JALカード
営業・マーケティング本部データマーケティング推進室
辻井万里子 氏

フロントオフィスであってもバックオフィスであっても、日々のデスクワークにおいて欠かせないのが表計算ソフトやBIツールだ。継続して高い成果を上げていくためには、これまでに集積したデータから現在の顧客傾向を見定め、移り変わる需要に対して適切な対策を決めていくことが求められる。

しかし、数多のデータが飛び交う現在のビジネスシーンにおいて、既存のBIツールでは対応できない部分がある。また、何のデータをどう整理して活用するのか、データアナリストでなければ見極めが難しくなっている。

そこで、使いやすく、出力されたデータが見やすく、データ・ドリブン・マーケティングに効果的だとして注目されているのがSPSSソフトウェアだ。IBMが提供しているIBM SPSSは統計解析ソフトウェアのパイオニアであり、正確な予測モデルを構築するIBM SPSS Modelerや分析の自動化や業務展開を行うIBM SPSS Collaboration and Deployment Services(以下CADS)などが用意されている。

実際にIBM SPSSを使うことで、どのような効果が期待できるのか。2014年8月にIBM SPSS Modelerを導入し、IBM SPSS CADSとともに現場で活用している株式会社JALカードの辻井万里子氏に話を聞いた。

有償サービス入会率が大幅にアップ

日本航空のグループ企業である株式会社JALカードは2010年12月に営業部門・システム部門の混成メンバーによるデータベース・マーケティングプロジェクトを発足。データベースやBIツールの整備を行うと同時に、データ分析人材の育成に力を注いできた。その後、2013年1月に営業部メンバーのみのチーム体制で運営、現在では独立した組織のデータマーケティング推進室となり、データ分析と活用に注力する。

JALカード会員340万人は一人当たりの利用額が非常に高く、年間取扱高は3兆円を超えている。そんなJALカードで効率良くマイルをためるために提供しているサービスが、「JALカードショッピングマイル・プレミアム」だ。カード年会費とは別に会費が必要となる有償サービスだが、ショッピングマイルが2倍たまるという大きなメリットがある。

「BIツールで統集計を繰り返したところ、お客さまのご利用額とJALカードショッピングマイル・プレミアムの入会率に高い相関が見られました。そのため、当初は該当するお客さまにDMを発送していましたが、送付を繰り返すうちに、徐々に入会率が下がり、DM送付対象者の選定に頭を悩ませていました。それ以外の販促でも、BIツールでの統集計結果を用いていましたが、ツールとしての限界を感じ、2014年8月にIBM SPSS Modelerを導入することにしました」(辻井氏)

IBM SPSS Modelerを導入し、会員の利用額以外にもこれまで無関係と考えていたデータ項目との相関を発見することにもつながり、新しいモデルを作成した。結果、ショッピングマイル・プレミアムの入会販促効率が大きく向上した。

「重要だったのは、会員の利用額を押し上げている要因でした。その要因が理解できたことから訴求ポイントを変更し、お客さまによりメリットを感じていただくことができました」(辻井氏)

「重要だったのは、会員の利用額を押し上げている要因でした。その要因が理解できたことから訴求ポイントを変更し、お客さまによりメリットを感じていただくことができました」(辻井氏)

もちろん、どのようなデータも有効となるわけではない。分析した結果、効果が出ないと感じるデータもあった。

「業務を進める上で、データから導き出された結果が納得できるものなのかということに日々、注視しています。納得できない場合は再度取り込むデータを見直すこと、またデータ加工に工夫を加え、モデルを作り直しています。アップデートは非常に重要だと考えています」(辻井氏)

現在、株式会社JALカードでは従来のBIツールも並行して活用している。活用するツールやサービスを使い分けることで、業務効率化と売上向上を図る狙いだ。その上で、IBM SPSS Modelerを扱う際に注意していることはあるだろうか。

「2点あります。まず、ビジネス課題を明確にすること。そして、施策担当者と密な連携をとることです」(辻井氏)

データ分析はあくまで手段であって、目的ではない。これは、先ほどのモデルのアップデートと関係することだろう。分析結果を鵜呑みにせず、施策にとって役立つものなのかという見極めが重要になる。その見極めの精度を高めるため、施策担当者とのコミュニケーションを繰り返す必要がある。チームとして抱えている課題が何かを明確にして共有することで、IBM SPSS Modelerの分析内容が施策効果の改善に繋がるかのイメージをつくっていく。

「どんなに優れた分析結果でも、施策に展開できず、お客さまに対してお届けすることができなければ意味はありません」(辻井氏)

業務のシンプル化と効率化を同時に実現

株式会社JALカードの業務の中には、BIツールが出力した入会実績を集計・加工し、月次の実績ファイルとして作成する業務も存在した。しかし、数百にもなる入会パターンの詳細版と抜粋版を人手で作成する作業は、担当者の大きな負担となっていた。

「以前は、数百の入会パターンを目的別に数種類のパターンに分けて集計を行っていました。その上、毎月増減する入会パターンのメンテナンスも加わり、大きな負担となっていきました。単純な作業ですが、時間の制約のある中で正確性を求められる業務だったため、残業が必要になることも多かったんです」(辻井氏)

参照データが増え、作成する実績ファイルも増えた結果、その業務は多くの経験値が必要となるものとなっていた。負担の増加に伴い、数値の入力ミスを防ぐためのダブルチェックの時間なども増加していったという。この悩みを解決したのも、IBM SPSS CADSだった。

「現在はIBM SPSS CADSを用いて、前日のデータを目的別にまとめて自動出力しています。それを始業前に行っているので、担当者が出社して自分の席についたらすぐにデータを参照できるようになっています。また、実績ファイルも、IBM SPSS CADSが出力したデータをコピー&ペーストするだけで作成できるようにしています」(辻井氏)

IBM SPSS CADSを使うことによって、手作業での入力ミスの心配もなくなり、生産性の高い業務に割く時間も多く取れるようになった。また、日次で詳細なデータが自動的に出力されることで、必要なデータへのアクセス時間や作業も減り、効率的な営業活動にも貢献している。人的リソースに頼っていた作業が軽減したことで、残業の削減にも繋がり、大幅な業務改善が実現できた。

ITリテラシーが高くなくても使いこなせるIBM SPSS

2014年に新卒として入社し、2015年からデータベース・マーケティングを担当している辻井氏。株式会社JALカードがIBM SPSS Modelerを導入したのは2014年だが、新たなシステムに触れた際の戸惑いはあまりなかったと振り返る。

「私は文系出身で、データ分析やITに関する知識はほとんどありませんでした。現在の業務に携わってから初めてIBM SPSSを使いましたが、とてもわかりやすく、扱いやすいと感じました。どのデータをピックアップして、どういう集計をさせるかが直感的に分かるUIなんです。多少のITリテラシーがあれば使いこなせると思います」(辻井氏)

「私は文系出身で、データ分析やITに関する知識はほとんどありませんでした。現在の業務に携わってから初めてIBM SPSSを使いましたが、とてもわかりやすく、扱いやすいと感じました。どのデータをピックアップして、どういう集計をさせるかが直感的に分かるUIなんです。多少のITリテラシーがあれば使いこなせると思います」(辻井氏)

むしろ難しかったのは、「データの扱い方」だという。これまで眠っていたデータの中から、どんなデータに価値があるのかを見出す作業だ。というのも、JALカードにはVisaやJCBなどの複数の国際ブランドがあること、またプラチナやゴールドカード、学生専用JALカードnaviなど多くの種類のカードが存在することで、それぞれに紐付いて蓄積されていたデータの種類や位置関係を正確に把握し、データを客観的に観察し理解することが難しかった。

しかし、IBM SPSSならばテーブルの並びが異なるデータベースからも、目的のデータを即座に取り出せ、そのデータを用いて分析・予測データを作成することができる。分析結果を利活用して会員への理解を深めていくサービスとして、今後もIBM SPSSは株式会社JALカードで欠かせない存在となるだろう。

「これからもお客さまの理解を一層深めることで、お客さまのご要望に合った最適なご提案を実現したいと考えています。JALカードを通じて“旅の感動”をお届けしていきたいです」(辻井氏)

 

株式会社JALカード 営業・マーケティング本部データマーケティング推進室 辻井万里子 氏

2014年新卒としてJALカードに入社。営業部・営業第一グループに属し、新規入会施策の企画を担当。2015年にはデータベース・マーケティングチームに着任。現在はデータマーケティング推進室に所属し、3年にわたってデータベース・マーケティングを担当している。

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