製造

2008年の調査『2020年 自動車業界の将来展望』を振り返る

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2008年の調査にヒントがあった、テスラの時価総額1,000億ドル突破の衝撃

「衝撃」という言葉で語られることが多い電気自動車メーカーのテスラが、2020年1月22日午前の米株式市場で買われて上場来高値を更新。時価総額は1,050億ドル(11兆5500億円)を超え、フォルクスワーゲンを抜き、自動車メーカーでトヨタに次ぐ世界2位に浮上したことは記憶に新しいと思います。

電気自動車が普及するためには、エンジン車と競争できる価格になる必要があり、その鍵を握るのはバッテリーの調達コストです。Bloombergの”Electric Car Price Tag Shrinks Along With Battery Cost”によると、バッテリー調達コストは劇的に下がりつつあり、2022年には電気自動車がエンジン車と競争できる価格になるそうです。

逆の見方をすれば、2019年は、電気自動車はエンジン車よりも高額であるにも関わらず、テスラの量産車「モデル3」の販売は好調だったわけです。(参考:EVテスラの赤字が縮小、モデル3 好調で売上高は14.5%増 2019年通期決算

2020年 自動車業界の将来展望の表紙

2020年 自動車業界の将来展望 (廃刊)

それは、なぜか。

IBMが2008年の8月に発表した、自動車業界の経営層への調査結果である『2020年 自動車業界の将来展望(IBM Automotive 2020 Global Study)』に、そのヒントが記されていました。

実は、『2020年 自動車業界の将来展望』によると、2020年には車両購入の基準が「燃料効率(Fuel efficiency)」と「環境負荷の少なさ(Eco-friendly)」の評価へと変化する、という回答が大半だったのです。

一方、「ブランド」や「価格」は、車両購入の基準としては限定的になる、という回答でした。つまり、車両購入の基準として、「ブランド」や「価格」ではなく「燃料効率」と「環境負荷の少なさ」を考慮する自動車ユーザーが増えたことによって、テスラの量産車の販売が好調であるという解釈が成り立つのです。

車両購入の基準に関するグラフ

車両購入基準の調査結果(2020年 自動車業界の将来展望より)

2008年に予測した「2020年」の正確度

経済要因と回答した割合の2019年と2020年(2008年調査)の比較2008年8月に『2020年 自動車業界の将来展望』を発表した時点の、自動車業界の経営層による「2020年」の予測は他にも記されています。

とはいえ、調査が実施された時点では、「2008年9月のリーマンショック」や「2010年代前半の欧州債務危機」による経済の混迷を経験していませんので、全ての内容が記載されている通りになっているわけではありません。

事実、「自動車業界に影響を与える要因」における「経済要因」については、2019年と2020年(2008年調査)の回答率に大きな差が生じています。

それでも、「自動車業界に影響を与える要因」における「政府の規制」「パーソナル・モビリティ」「持続可能性」については、2019年と2020年(2008年調査)で同等の回答率でした。これらの結果から、自動車業界の経営層による予測は正確であったことがわかります。

政府の規制、パーソナル・モビリティー、持続可能性と回答した割合の2019年と2020年(2008年調査)の比較

また、「自動車業界が取り組むべき課題」についても、正確だったものがあります。

『2020年 自動車業界の将来展望』に記された提言の1つである「広範な提携」は、他の業界とのパートナーシップの締結や、新たなエコシステムの構築を意図するものでした。2020年を迎えた現在、自動車業界は半導体業界を筆頭とする様々な業界と密接に連携。さらに、5Gが自動運転に重要な役割を果たすことから通信業界とも連携しています。

そして、製造工程をグローバルに最適化して、コストと近接性のバランスを取ることを意図した「グローバルな実行」も、部品の国際水平分業が進んでいることから、正確な提言であったと言えます。

日本のMaaS元年だった令和元年に発表された『2030年 自動車業界の将来展望』

『2020年 自動車業界の将来展望』が展望した2020年となり、日本では「日本版MaaS」が注視されています。

国土交通省が「先行モデル」として19事業を認定するなど、「MaaS元年」と称された令和元年(2019年)後半からMaaS(Mobility as a Service)の実証実験が積極的に実施されています。

「 出発地から目的地まで、利用者にとっての最適経路を提示するとともに、複数の交通手段やその他のサービスを含め、一括して提供するサービス」と国土交通省が定義しているように、MaaSとは、様々な交通機関をデータで結びつけて、移動のためのチケット手配や決済を簡単に行えるようにするサービスです。そして、ここまで述べた内容からお気づきになった方も多いと思いますが、MaaS は自動車の所有者向けのサービスではありませんし、MaaSの利用者にとって、自動車は「移動」のために「使用」する手段の1つなのです。

そして、テクノロジーの進歩によって、レベル3やそれ以上の自動運転技術が市場に投入されるようになると、自動車業界は新たな課題に直面します。それは、移動中の車内でのデジタル体験です。

自動運転技術が導入されれば、自動車の所有者は「運転していない時間」の活用を欲するでしょう。これは自動車を「使用」するMaaSの利用者にとっても同様です。つまり、運転席を含む車内で、どのようなデジタル体験を提供できるかが重要になってくるのです。ここに、数ある電気自動車の中でテスラが特に好調な理由も隠されています。さらには、それこそ、パーソナライズ化されたデジタル体験も期待されるようになるでしょう。

「自動車業界に影響を与える要因」の1つに挙げられている「消費者の期待」は、2019年と2020年(2008年調査)とで、回答率が大きく異なります。「100年に一度の大変革の時代」に入ったと言われる自動車業界は、『2020年 自動車業界の将来展望』が公開された2008年の時点で予測できなかった局面を迎えている、と言えるのではないでしょうか。

『2030年自動車業界の将来展望』の表紙技術の進歩と消費者(自動車の所有者および利用者)の期待が、今後10年間の変革を後押しする要因となることを踏まえ、IBMは2019年に『2030年 自動車業界の将来展望』を発表しました。『2030年 自動車業界の将来展望』は、自動車業界の経営層向けの調査と消費者向けの調査に基づいています。

2008年に発表した『2020年 自動車業界の将来展望』の正確度は上述してきた通りです。デジタルの未来へ突き進むことになる今後の10年を、『2030年 自動車業界の将来展望』でご確認ください。


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