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身近な疑問をヒモトク#08-担当者泣かせの突発的な設備故障。蓄積したデータから予測できるのでは?

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みなさま、こんにちは。日本アイ・ビー・エムのコンサルティング部門で、IBM Maximo Application Suiteを用いた設備管理のソリューションと担当しております清野 聡(せいの さとし)と申します。

今回は設備保全管理と統計の関係についてご紹介をさせていただきます。

小職の個人的な経験を踏まえてではありますが、皆様の中には学生時代に「サイコロを袋から取り出して・・・」のような統計を学んで「何に役立つのだろう」と疑問に思われた方も多いのではないでしょうか?私も同じですが特に工業系の教育を受けたかたは、設計や性能など計算モデルがわかっているものへの興味が中心で、「事象が発生するか否かの確率についてはあまり興味がわかない」などと言うことはよく耳にしました。

また設備保全管理をしていて統計問題に出会うのもまれですし、実際統計の知識がなくても設備の修理や部品の交換はうまく作業を完了することができます。

 

では、なぜ今「設備保全管理と統計を結びつけましょう」という考え方が必要なのでしょうか?そのことについてこれからこのブログで紐解いて行きたいと思います。

 

 バスタブカーブの幻想

みなさんの中にはすでに「バスタブカーブ」について知識をお持ちの方も多いのではないでしょうか。設備の老朽化管理を行う上で、設備は“導入時の初期流動、安定稼働期を経て老朽化の次期”を迎えるというものです。

 

図-1 バスタブカーブによる故障確率

 

この故障の発生確率の推移を見ると、始めに新しく導入した設備は「まだスムーズに稼働した経験もなく、設置のセットアップに不備がある可能性もあり、導入初期にはよく故障する(初期流動の時代)」といった挙動を取ります。

その後、こなれて来たのか、また保全担当者も設備に詳しくなり安定に稼働する安定稼働期を迎えます。

この期間は長く続き、設備担当者にとって安心して過ごすことができます。

しかし設備を長く使っていると「あちこちがすり減り、だんだん故障が発生しがちとなり、最後には設備が破損する」という老朽期を迎えます。

これが設備の劣化モデルの典型である!と習われた方がいらっしゃるかもしれません。ですが、このような挙動をとる設備は実際には非常の少ないのです。

確かに配管の減肉の問題のような、配管に流れる流体の物質特性、流量、粘性、配管の曲がり具合などから乱流が発生し、配管内部を削り配管の金属が薄くなるなど、すでに流体解析や構造解析からその劣化メカニズムがわかっているものも存在します。しかしこのようなケースは設備全体から見るとまだまだ数が少ないのが現状です。

米国海軍、NASA及び米国の航空機メーカーが1960年代後半に航空機のメンテナンスの効率向上を行うための研究(現在では信頼性中心保全:Reliability Centered Maintenance:RCMと呼ばれています)ではバスタブカーブで劣化する設備は航空機全部品のわずか3〜4%しかないことがわかっています。

 

図-2 RCM分析による故障モード別での設備の占める割合

 

 設備監視の重要性

最近の設備は航空機の組付け部品のようにシンプルなものは少なく、1つの構成部品に問題が発生しても、冗長化や機能を補うような設計により直ぐに故障するわけではない設備も登場しています。

また設備自身が自分の健全性に関する情報を外部へ提供するものもあります。

 

すなわち、設備の状態を監視しながら故障発生の前に部品の交換などを行う「状態監視」保全が一般的になっています。

 

設備や部品の故障モードはバスタブカーブに従うものは非常に少なく、突然故障で破損を引き起こすものがほとんどです。従ってその前兆を見逃さず、故障発生を回避するため部品交換などの対応を取ることが重要です。

このように設備の状態を監視し、状態に応じて保全計画を管理する方式を状態監視保全(Condition Based Maintenance:CBM)と呼びます。

 

状態監視保全は最も理想的で有効な方法に思えますが、実際は設備の状態を管理するためのコストが問題になります。作業員による検査作業での状態の確認では、人件費が高い一方、先ほどの故障モードでもわかりますが、正しい維持管理作業を行っている設備はほとんど劣化せず、突然故障することが一般的です。従って状態監視への投資と、その結果の効果のバランスがわるく、高頻度での状態確認の検査を行うことは現実的ではありません。

 

状態監視の自動化

この問題を解決するためには設備状態を電子的に自動で監視する仕組みが必要になります。産業分野にもよりますがプラントを制御する制御システム(SCADA: Supervisory Control And Data Acquisition)や品質管理システムなどがプラント制御や品質管理の視点で、すでに多くのデータを取得している可能性があります。

以下、それらを用いた異常検知について説明します。

 

(1) 設備の現状の把握

プラントや製造設備を自動的に制御し、運転を行うためには現在の状態をSCADAやPLC(Programable Logic Controller)が制御のために多くの情報を取得しています。例えばこの中には電圧、電流、温度、位置など様々な情報が含まれているはずです。

通常設備状態が劣化などで変化すると、制御するモーターなどに負荷がかかり電圧や電流に変化が発生する場合があります。また設備の温度が異常に上昇したりする事象をとらえることができる場合があります。

このような情報は定常状態の計測値と比較することで「いつもと違う」というアノマリー(定常状態からの逸脱)を検出できる場合があります。

このアノマリーの発生頻度などを統計学的に監視することで設備の状態を把握できる場合があります。

 

(2) 品質は設備の鏡

製造業などでは製造物の寸法や重量、構成成分、など基本的な値を品質管理値として管理します。一般的に品質管理値は規格や製品の仕様として定められているため、全数検査やサンプリングによる測定を行っています。

製造物を製造するのは製造設備であるためこの品質を監視することで設備の劣化や異常状態を検出できる場合があります。通常品質の責任は品質管理部門が行う場合もあり、必ずしも設備管理部門が監視しているわけではないため品質管理と設備管理の協力は設備管理上重要です。

 

品質管理の情報は正規分布に従う値も多く統計学的にはすでに多くの品質異常を検知するアルゴリズムを利用することができます。

その代表例としては「管理図(例:XBar-R管理図)」が挙げられます。管理図は品質管理値の平均と偏在により異常を管理する方式で、品質管理値が平均の上下にどれくらい存在するか?また標準偏差の外側に出ていないか?などを管理する手法です。

 

この管理図で異常を検知するアルゴリズムとして最も有名なものはJIS Z9020-2にも採用されているシューハート検定(Shewhart Test)です。

 

シューハート検定は非常にシンプルなアルゴリズムで品質異常を判定します。例えば品質管理値が平均よりも上に存在した場合の確率は1/2 = 0.5 になります。

更に次の測定値が同じく平均よりも上になった場合は1/2 * 1/2 = 0.25となります。

では平均より上になるケーズが8回連続で発生した場合は(1/2)の8乗となり、この事象が発生する確率は0.39%と評価でき、「これはめったに発生しない事象と考え異常と判定する」というようなものです。従って平均値よりも上に測定値が来ることを監視すれば何等かの異常を判定できるという具合です。分かりやいですね!

 

図-3 XBar管理図の例

シューハート検定はそのほか様々な異常判定の方式が定義されていますので参考書などで確認してみてください。

 

(3) Internet of Things(IoT)技術の利用

SCADAはPLCなどの制御システムは設備メーカーがその情報を保護し、エンドユーザに全面的には解放していないのが一般的です。これは、制御はその設備メーカーの知的財産であるため、制御システムが取得している様々な情報すべてを見ることが難しいためです。

 

この問題はInternet of Things(IoT)の技術を用いて解決できる部分もあります。例えばモーターの温度や振動を測定することは小さなセンサーとマイクロコントローラーがあれば可能です。最近のマイクロコントローラーはRaspberry Pi(Raspberry PiはRaspberry Pi Foundationの登録商標です)やESP-32など数百円から数千円で購入できるシングルボードコンピュータです。シングルボードコンピュータに用いられているマイクロコントローラーにはADC(Analog to Digital Converter)が搭載されており、最近では12bitの分解能を持ち、4096区分でのデータ取得が可能です。

 

これらのシングルボードコンピュータはネットワーク機能をもつため、設備の状態データをオンラインで数理統計処理サーバーへ転送・蓄積することができます。

この情報を統計ツールで分析し、異常があれば保全管理の仕組みへ情報を転送し、検査・点検指示を自動で作成することができるようになります。

 

図-4 IoTを用いた異常検知の方式例

故障の情報が蓄積できたら初めて故障予測が可能になる

設備保全において誰しも「将来の故障が予測でき、その原因を追究できればいいな!」と思うものです。しかし、その道のりは決して平坦ではありません。航空機の部品の劣化モードの評価でも紹介した通り、設備を構成する部品の多くは「突然」壊れるものが大半です。

このような場合は設備の状態監視で得られた情報と故障発生時の状態を丹念に紐付け、「こういう状態の時に、こんな故障が発生した!」という知見を見出す必要があります。

このような活動を支援するのが「決定木」というアルゴリズムです。決定木は故障発生時の現象、その時の設備状態情報を故障と状態データから自動的に分析し、状態が故障にどのような寄与をしているかを自動的に探索するものです。

この解析により、「ある故障が発生したとき、設備の状態はどうであったか」また「設備状態がどのようになった場合に、どのような故障が発生しているか」を知ることができます。

 

図-5 決定木の分析イメージ

 

統計解析ツールは難しくない

統計解析というと、様々な数式が出てきて、多くの計算を行わないとその結果が得られないという印象ですが、近代的な統計解析ツールはエンドユーザに「やさしい」ユーザインタフェースを提供しています。

図-6 IBM SPSS Modelerにおける解析手順の設定

 

IBM SPSS Modelerではデータの「入力」「加工」「分析モデルの適用」「出力」、「グラフ作成」までを必要はアイコンを接続し、データの流れをイメージして解析の自動化を設定することができます。

従って統計の初心者でも様々な高度な統計解析を用い、データの分析を行うことができるようになります。

 

まとめ

プラントや製造工場を支える設備はますます複雑・高度化が促進され、いままで「勘・経験・度胸」で保全活動を行うことはできなくなっています。大きな設備トラブルが発生すると「怒られておしまい」ではなく、データに基づき「なぜ、このトラブルが発生したのか!」をきちんと説明し、再発を防止する必要があります。

トラブルの原因のなかには「予算がないので、部品交換を遅らせた」「来年までは持つだろう」など根拠のない理由も多く見られます。しかし現状を正確に把握し、経営者にありのままの情報を伝え、正しい判断を仰ぐことは必要です。

このためには設備の状態を定量的に把握・分析し、「誰が見ても明らかな事実として伝える」必要があります。

この時、科学的な思考や手法が必要で、数理統計学は重要な指針を与えます。現在の人工知能(AI)としてもてはやされている「予測分析」や「先手分析」などを実現している技術のほとんどが数理統計のアルゴリズムを用いたものなのです。

 

読者の皆様におかれましても、設備の状態監視や故障予測にご興味があれば、弊社の専門家にご相談ください。

図-7 製造業様における保全情報分析の高度化のステップ

 

 

参考文献:

RELIABILITY CENTERED MAINTENANCE GUIDE FOR FACILITIES AND COLLATERAL EQUIPMENT, NASA Management Manual, Guidelines for the Naval Aviation Reliability-Centered Maintenance Process (NAVAIR 00-25-403)

日本工業規格Z 9020-2:2016 (ISO 7870-2:2013)  管理図−第2部:シューハート管理図

 

次回の身近な疑問をヒモトクはIBMの藤岡さんのAutoAIによる「新規感染者数予測のような時系列データ予測を最速で実現する!」です。また並行連載中の「ブログで学ぶSPSS Modeler」は同じくIBMの西澤さんが「分析のキホン、分割表を制覇する!」を執筆。お楽しみに。

 

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これまでのSPSS Modeler ブログ連載のバックナンバーはこちらから

 

 

清野 聡

日本アイ・ビー・エム株式会社

コンサルティング事業本部
ビジネス・トランスフォーメーション・サービス

アソシエイト・パートナー

 

 

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