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クライアント・エンジニアリング対談 #12(野中秀明×平山毅) | 新時代の社会デザインと共創

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幅広い技術・経験・バックグラウンドを持つスペシャリストたちが集結し、お客様と共に新しいサービスやビジネスを共創していく事業部門——それがIBM Client Engineering(CE: クライアント・エンジニアリング)です。本シリーズでは、CEメンバーが対談形式で、各自の専門分野に関するトピックを中心に語っていきます。

第12回目となる今回は、金融新規事業企画のお客様との共創を進めているチームのリーダー平山毅と、海外経験豊富で米国公認会計士試験合格者でもあり、金融領域を中心に新規事業立ち上げから既存業務の変革まで、さまざまな課題の解決策をお客様と共に創出するビジネス・テクノロジー・リーダー(BTL)の野中秀明が、日本社会の未来を共創で変えていく社会デザインについて語ります。

<もくじ>

  1.  ロシアと中国でのキャリアと、独立〜IBM入社経緯
  2.  「叩かれ台」を出し続けること | 社会デザインの必要性
  3.  生成AI(Generative AI)がブレークスルーしたものとは?
  4.  「失われた30年」を地方から共創で打破するための社会デザイン

左: 平山 毅(ひらやま つよし)
日本アイ・ビー・エム株式会社 
テクノロジー事業本部 クライアントエンジニアリング本部
新事業推進クライアントエンジニアリング部長
プリンシパル・エンジニアリングマネージャー、ソートリーダー
東京理科大学理工学部卒業。早稲田大学大学院経営管理研究科ファイナンス専攻修了(MBA)。東京証券取引所、野村総合研究所、アマゾンウェブサービスを経て、2016年2月日本IBM入社。クラウド事業、Red Hatアライアンス事業、Data AI事業、ガレージ事業、の立ち上げを経て、2021年10月より現職。約35名の最大規模の精鋭部隊をアジャイルに率い、2023年より新規事業も兼務。IBM TEC-J Steering Committee メンバー
 
右: 野中 秀明(のなか ひであき)
日本アイ・ビー・エム株式会社 
テクノロジー事業本部 クライアントエンジニアリング本部 ビジネス・テクノロジー・リーダー
東京外国語大学ロシア語学科卒業。大和総研に19年間勤務し、ロシア、中国での勤務を経験。その後、独立しコンサルティング事業を展開。三菱UFJリサーチ&コンサルティングなどを経て、2022年1月日本IBM入社。一貫してビジネスコンサルタントと海外ビジネスの道を歩み、戦略、経営企画、事業再生、業務改善、マーケティング、営業改革、新規事業、管理会計、海外進出支援など多岐にわたるテーマに携わる。2001年に米国公認会計士合格。

平山: CEでエンジニアリングマネジャーをしている平山です。CEのBTLには戦略コンサルタント出身で起業経験者が多く、人生経験が豊富でとても多彩なタレントが揃っているのですが、今回はその代表格であり、海外経験も豊富なBTLの野中さんと、グローバルな視点から「新時代の社会デザインと共創」というテーマで対談したいと思います。

CE内では、その独特な語り方と知見から「教授」というあだ名がすっかり浸透しており、野中さんの洞察力から会話が盛り上がることがとても多いですよね。同じく戦略コンサル出身で独立経験を持つという共通点がある第7回「イノベーションを起こすマインドセット」の西野さん、第10回「価値創造するための幸福とテクノロジー」の山本さんと共に金融保険のビジネスをリード頂いており、日本社会の未来を会話できることを楽しみにしていました。

今日はよろしくお願いします。

 

野中: どうぞお願いします。「失われた30年」と、日本経済低迷を指す言葉もありますが、私も社会人となって30年となります。苦しい日本社会を立ち直らせることもできず、むしろ私たち世代がその長年の低迷の元凶かもしれないと思うと少々心苦しいですが、どうぞよろしくお願いします。

 

平山: それでは、自己紹介を兼ねてこれまでの経歴など少しお話いただけますか。

 

野中: はい。私は長年コンサルティング業界、それから海外ビジネス分野で仕事をしてきましたが、キャリア的な大きなポイントは1995年から97年の3年間のロシア・ウラジオストク勤務と、2009年から2011年の中国・上海駐在ですね。

両国共に、大変革を迎えていた時期で、かなり数多くの対照的な体験をしました。

 

平山: ロシアと中国という、日本とは社会デザインが顕著に異なる両国での勤務経験がある方は貴重だと思うのですが、仕事自体はどんな内容だったんですか? そして「対照的」とはどういうことでしょう?

 

野中: あまり細かく説明できないところもあるのですが、ロシアでの仕事は、有望な地元中小企業やベンチャー企業を見出して、投資を行なったり日本から人材を送り込んだりする、ファンドマネージャーのような役割でした。

ウラジオストクでの3年は…本当に、辛酸を舐め続けた日々でした。1989年の冷戦終結から3年後の92年1月、ソビエト連邦の消滅、いわゆる「ソ連崩壊」があり、その3年後に現地に赴任したのですが、これから良い社会に生まれ変われるのだという希望はハイパーインフレに打ち消されていきました。

市場経済への転換や民主化への希望も、生活の困窮に上書きされていく…。そんな時期でしたね。今思い出しても、辛い日々でした。

 

平山: なるほど。それはなかなか現代の日本人には想像がつかない社会ですね。

「対照的だった」ということですので、2009年からの中国駐在は…

 

野中: これは本当に天国でしたね。できることなら日本に帰りたくないなと当時は強く思っていました。

仕事内容は日系企業の中国進出支援です。あの頃の上海は文字通り急伸の時代でした。

リーマンショックの影響で世界が軒並み低成長あるいはマイナス成長を記録する中、中国はその影響をほとんど受けず、2010年には上海EXPOが開催され、自由市場政策が実を結び、世界の経済大国への道を猛スピードで駆け上がっていた時代でした。

 

平山: まさしく激動の時ですね。その後、日本に戻られて独立されたんですよね?

 

野中: はい。独立してフリーランスのコンサルタントになりました。海外生活を通じて日本とは「活気」の点で雲泥の違いがあることを感じていました。言葉を選ばずに言えば、日本には活気が圧倒的に足りていない。生ぬるさや意識の足りなさが何をするにもついて回っていると感じていました。

そんな状況において、自分が海外で身につけた商談に対する「物怖じしないスタイル」や、はっきりと意思を前面に押し出すやり方が、日本企業のお役に立てると思ったんです。

ただその後、家族の介護の問題が重くなり、生活を安定させる必要から、会社勤めに戻りました。そして、昨年1月縁あってIBMに入社することとなりました。

 

平山:なるほど、野中さん独自のスタイルは、そういった過程で形成されていったんですね。

 

平山: 活気と意思——野中さんの考える日本企業に足りていないもの2つが提示されましたが、もう少しこの辺り、詳しくお話いただけますか?

 

野中: はい。その前にまず、ここ30年日本社会の傾向として続いてきた問題について言及させていただきますね。

日本はずっと、「モグラ叩き」をしてきたのではないでしょうか。表出化した問題の対処療法だけを行い、「木を見て森を見ず」を続けてきてしまった結果が、この失われた30年だと思います。そして国も行政も企業も、このままこれを続けていたら、「失われた40年」となってしまうかもしれません。

とりわけ企業は、社会というジグソーパズルにおいて、「埋めやすいピース」にばかり群がっており、誰も手を付けない空白部分がそのまま残ってしまっている…。それらが高齢者問題、地域空洞化など現在の日本の社会課題ではないでしょうか。

 

平山: そうした状況を変化させるには何が必要だとお考えですか? ——今、この質問を口に出し、野中さんと面談したときのことを思い出しました。

 

野中: 入社前の、事業部長の村澤さんと平山さんとの面談のときのことですよね。あのとき、村澤さんに「野中さん、日本社会に足りないのはなんだと思いますか?」と聞かれ、それに答えると「それじゃあ、野中さんが日本の総理大臣なら何をしますか?」と質問されました。

…「こんな大きなビジョンを持っている人と一緒に働きたい」「CEというチームに加わりたい」と強く感じた瞬間でした。

参考 | 日本経済と社会の景色を変えるために- 共創実践からの学びシェア

 

——それで、なんと答えられたんですか?

野中: …自分が普段、そのスケールで考えていなかったのでどれだけちゃんと伝えられたかは怪しいものですが、「足りないのはピースを埋めに行こうとする姿勢やマインドセット。それを踏まえた社会デザインの設計を念頭に、総理として指揮を取るだろう」と、そんなことをお話しさせていただいたと記憶しています。

やはり、ピースを埋める人を育てなければなりません。たとえば、まるっきりトンチンカンなピースを提示して受け入れられずに失敗した人がいるとして、その人がくさされる社会と、2回目、3回目と復活戦の場が与えられる社会だったら、どちらがイノベーションが生まれやすいか。自明ですよね。

チャンスを活かせる可能性が高いのは、「トンチンカンなピースを作ってしまった」という貴重な経験を持っている人の方でしょう。ビジョンや想いを持ちチャレンジしようとする人を支援する、制度の社会デザインが必要です。

 

平山: その復活戦の社会デザインという考えは、とても共感します。創造性やイノベーションの母は失敗です。失敗が受け入れられない場所では大きな変革は起こらないし、物事を従来の延長線上だけで捉えているばかりでは、成功もどんどん些少なものとなってしまいますよね。

大きなイノベーションを生みだそうと考えれば、従来型に固執し過ぎてはいられません。その点、既存の仕組みに組み込まれない体制を意識的に作っているCEは、イノベーション共創パートナーとして相応しいと思います。

さて、それでは企業人はまずどこから手を付ければいいでしょうか?

 

野中: 臆せずコンセプトを出し続けること、言い換えると「叩かれ台」として新奇なものを提示し続けていくことではないでしょうか。それが原型を無くすまでどんどん叩かれようと、結果的に良いものが生まれることにつながればそれで良いわけですから。

 

——最近提示した「叩かれ台」の中からお気に入りを教えてください。

野中: そうですね、最近議論しているのは「生成AI(Generative AI)」がもたらす最大の影響の1つは、ブルー・カラーとホワイト・カラーの垣根がなくなることではないか」というものです。

これまで「頭脳系の仕事」と言われていたホワイトカラーの仕事もAIに取って変われるようになった後、じゃあホワイトカラーと分類されていた人間は、いったい何をするのか?

私は、生成AIによってホワイトカラーの労働時間に余剰が発生したら、ホワイトカラーは労働者不足が叫ばれているブルーカラーの仕事の一部を代替してもよいと考えています。

 

平山: それは大変おもしろい叩き台ですし、人と仕事の本質に迫るものだと思います。

コロナ禍において、従来「ブルーカラーの仕事」と見られていた仕事——介護や医療従事、運送・運搬や食品販売など——が、実体社会に欠かせないエッセンシャルワークだと適切に認識されるようになりました。また、リモートワークでもできてしまうホワイトカラーの仕事こそが、AIに置き変えられるという逆転現象が起こるかもしれません。

 

野中: コンサルティング業務ばかりをやっていた自分が親の介護を通じて気づいたことは、「介護は過酷」と感じる一方で、ときに肉体的な疲労感の心地よさもあるということです。

少々唐突にお感じになられるかと思いますが、最近、私は改めてトルストイの『アンナ・カレーニナ』について考えることがあるんです。「あの小説の弱点は農業活動の描写に多くを費やし過ぎている点だ」と語る識者は少なくありません。でもそこにこそ、トルストイのメッセージがあるような気もするんです。つまり、人の営みの喜びの根幹は、肉体を用いて何かを世話することにあるのかもしれないと。

肉体的な労働なしに、頭脳ばかりを酷使していて本当に人間的な価値を実感することは可能なのか? ——こうした問いが、実感を持って考えられる時代になったのではないでしょうか。

 

平山: そういう本質的な議論は重要性ですし、今のお話はそれを誘発する重要な叩かれ台ですね。コロナを通して、そういったことを感じた方も多いのではないでしょうか。

生成AIについては、先日、IBM Thinkという大型イベントで、IBM watsonxの製品群のひとつであるwatsonx.aiの発表がありました。

センセーショナルな側面で語られがちな生成AIですが、AIが一般化していく点から大変革だと私は思っています。そう考えると、現在のビジネスをどう変えるかだけではなく、社会がどう変わるのか、それをどうデザインするのかが、もっと議論されるべきではないでしょうか。

参考 | IBMのエンタープライズ向けAIとデータのプラットフォーム「watsonx.ai」を支える技術のご紹介

 

野中: そうですよね。もっと大胆な想定の元に議論が進められて然りではないかと思います。

例えば、「銀行の未来」を考える際には、「今、この世に銀行というものが存在しなかったら、人は、あなたは、何を求めるのか?」という問いから始めるべきだと思います。

なぜなら、それをやらなければ、結局「モグラ叩き」に陥ってしまう可能性が高いからです。

 

平山: 今日は野中さんらしい、刺激的で哲学的な話をいろいろと聞かせていただきました。最後に改めて、この「失われた30年」をここから打破するために私たちCEは何をすべきか、一言いただけますか。

 

野中: 新たな価値を生みだし社会に提示すること、それが私たちに期待されていることだと思います。

制約の多い日本社会ではありますが、いわゆる「ゼロイチ」が生まれるところに着目し、そのエッセンスを社会や企業に注入すべく議論をリードしていくこと。そして価値創出の手段へとしっかり結びつけていくこと——。それが、共創で解決策を創出する私たちCEのBTLの役割です。

「日本では無理」「現況ではできない」ではなく、何があれば可能となるのかをお客様と一緒に探求していきます。

 

平山: とても力強いメッセージです。ありがとうございます。

私は最近出張が多く、日本各地に行かせていただいているのですが、そこで感じるのは東京とは違う手触り感です。地方に行くと、東京以上に過疎化、仕事、電力エネルギーなどの社会課題を身近に感じられるんですね。

そこで思うのは、地方の方が、それこそ限界集落などのほうが、ひょっとしたら制約が少ない分だけチャレンジをしやすい環境なのではないか、ということです。

 

野中: 本当にその通りかもしれません。大きな変革に向かうモチベーションが高く、逆に制約が少ないのは、日本では東名阪などではなく地方かもしれませんね。

たとえば、アジアやアフリカ諸国の貧困地帯での利用が期待されている「3Dプリンター住宅」。これも都市部ではなく、日本では地方で先に展開が進むかもしれません。

「日本のイノベーションの起点は地方にある。」そんな言葉がこれからもっと聞かれるようにしていきたいですね。

 

平山: はい。ロールリーダーとの新事業推進の座談会でも触れたのですが、我われCEが起爆剤となり、IBM地域DXセンターと共に地方発のイノベーションを起こしていきたいですね。

そのためには、大胆な例としては、地域の企業やNPOなどとジョイントベンチャーを立ち上げたり、コンソーシアムを設立したりといったことも視野に入れた「共創の枠組み」が大事だと思います。

「アクション・スピークス・ラウダー」(行動は、言葉よりも声高で効果的)という言葉もあります。私たちCEの「クイックにつくる!!」の精神に則り、小さくてもいいからまずは共創で進めていくことが大事ですね。利害関係者が少なく、課題も明確な地域の方が、意思決定は早く進めやすいという点もあるでしょうし。これこそが、まさに日本で求められている社会デザインとも言えるのではないでしょうか。

野中さん、今日は、深い視点と未来への示唆をありがとうございました。有意義な時間でした。

 

野中: こちらこそ、貴重な機会、ありがとうございました。やっぱり、平山さんと会話できると楽しいですね。未来のために頑張っていきましょう。

 

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TEXT 八木橋パチ

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