Client Engineering
クライアント・エンジニアリング対談 #1(前壮一郎×平山毅)|ビジネスとカーボンデザインシステム
2022年12月29日
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さまざまな業界から集結したデザイナー、エンジニア、データ・サイエンティスト、データ・エンジニア、ソリューション・アーキテクト、ビジネステクノロジーリーダーがチームを作り、お客様と共に新しいサービスやビジネスを共創していく事業部門 −− それがIBM Client Engineering(CE: クライアント・エンジニアリング)です。本連載は、CEメンバーが各自の専門分野をテーマに、リーダーと対談するシリーズです。
初回はCEの中で、主に金融保険領域や新規事業企画のお客様との共創を進めている総勢約35名のチームを率いる平山 毅と、そのチーム内6名のデザイナーの中心的役割を担う前 壮一郎の2人の対話をお届けします。
もくじ
- 1. デザインとの出会いとエンタープライズ領域でのデザイナーの活躍が進むわけ
- 2. カーボンデザインシステム(CDS)がビジネスにもたらすメリット
- 3. デザイナーの役割とカーボンデザインシステム(CDS)の進化
- 4. 今後のデザインシステムについて
平山: まず、簡単に自己紹介をさせていただくと、私はクライアントエンジニアリングの組織の立ち上げから関わっており、メンバーが多く揃った2022年に入ってからは約35名の最大規模の精鋭部隊のマネージャーをしています。
クライアントには、銀行、証券、生保、損保を中心にIBMにとっても最大手の企業からFintechやInsurtechの領域までカバーし、アジャイルに多数のプロジェクトを同時並行に率いています。体制は、金融系、保険系でそれぞれ既存と戦略の4つの領域で、それぞれのロールがスクワッドを構成しており、デザイナーも必ず配置しています。
前さんには戦略の保険領域を中心に異業種シナジーも含めて、幅広く対応して頂いています。
私のチームで色々な企画があると、第1号には前さんが担うことが多く、チームでは「前のめり」な前さんということになっています(笑)。ということで、前さんも簡単な自己紹介をお願いします。
前: いや、その紹介は(笑)。私は、美大卒業後に複数社での経験を経て、IBMに入社しました。チームに入ってからは、デザイナー、ファシリテーター、含めて、様々なロールの専門家と一緒に、幅広く活動させて頂いています。今回は、その内容をお伝えできたらと思っています。
1. デザインとの出会いとエンタープライズ領域でのデザイナーの活躍が進むわけ
平山: 前さん、今日は私たちClient Engineering(CE)とそこでのデザイン活動について、そしてその中心となっているカーボンデザインシステム(CDS)についてカジュアルに語っていきましょう。
前さんはビジネス全般においてかなり幅広い領域のバックグラウンドと経験をお持ちですが、その中心となっているのはデザインで、そこからビジネスの別領域に広げていった感じですよね。
そもそもデザインに惹かれたきっかけはなんだったんでしょうか?
前: この話、デザイナーっぽくないんで本当はあまり言いたく無いんですけど…まあ、今日はぶっちゃけで。
中学生のとき、シルクスクリーン印刷でオリジナルの…と言ってもほとんどコピーに近いものでしたが…Tシャツを作ってオークションに出したら、結構いい値段が付いたんです。それで「こんな簡単にデザインがお金に変わるのか!」って。
もちろん、お金だけではなく人に喜んでもらえるってことも大きな魅力でしたけどね。
平山: すごいなぁ、その頃からすでにビジネスセンスを持ってデザインを見ていたってことじゃないですか。さすがです。
僕はシステム開発がメインの領域でしたが、2000年代後半にシステムデザインが流行して、その流れの中でUXデザインなどに興味を持ち深掘りしていきました。前さんとは逆の形ですね。
ところで、最近はいわゆる「エンタープライズ領域」でのデザイナーの採用や活躍が進んでいますが、前さんはどうしてだと思われていますか?
前: これまでIBMが長年お付き合いさせていただいている大企業のお客様の間では、デザイン性はあまり重要視されないという傾向が強かったと思うんです。
でも、DXやビジネス変革が加速する中で、今までのやり方では難しいというのを大企業の方たちもみな実感されるようになったんだと思います。
お客様、あるいはユーザーのニーズに合う体験を描きながら同時にデザインしていく −− とりわけソフトウェアやシステムにおいては、そういうアジャイルな開発が当然となってきているからじゃないでしょうか。
2. カーボンデザインシステム(CDS)がビジネスにもたらすメリット
平山: CDSについてですが、今や私たちのチームに欠かせないとても大切なツールとなっていますよね。実は、IBM CloudやIBM Cloud PaksなどのIBMの中核となる製品技術にも採用されています。まず簡単にどんなものか説明してもらえますか。
前: はい。一言で言うと、IBMのオープンソース・デザインシステムです。IBM Design Languageを基盤としていて、製品およびデジタルエクスペリエンスのための作業コード、設計ツールとリソース、ヒューマン・インターフェース・ガイドライン、貢献者のコミュニティで構成されています。
こちらのページですべて公開されているので、それを見ながら説明を聞いていただいた方がわかりやすいかと思います。
前: このデザインシステムがもたらす一番大きなメリットは、作成するウェブサイトやシステムのデザインや挙動に統一性をもたらすことです。それがユーザー体験から「不便さ」や「不要な迷い」を取り除いてくれます。
そしてカーボンデザインはIBMの考える「ここは外すべきではない」というデザイン原則が組み込まれているので、さまざまな意見や立場の異なる人たちであってもすばやくコンセンサスが得られます。
そして再利用可能な資産としてコンポーネントやパターン、ガイダンスやコードがコレクションとして用意されているので、開発チームは設計と構築に費やす時間を最小限に抑えてMVP(検証可能な必要最低限の機能を備えた製品)を作成できます。その分の時間もコストも、お客様のユースケースに対応したカスタマイズに費やすことができるんです。
平山: チームが立ち上がったばかりの頃は、私たちもデザインをどうチームの共創モデルに活かしていくのが良いのか、まだ迷いや試行錯誤がありました。もっと活用しやすいデザインシステムはないだろうかと探していたんです。
そんなときに前さんが、あるプロジェクトのMVP作成を通じて、CDSの活用こそが、従来のパワーポイントを使った重厚長大で無駄に時間のかかるやり方から脱却して、よりスピーディーに、そして後工程に活かせるものだということを証明してくれたんです。アジャイルな開発にピタリとはまることを、チームに見せてくれました。それで、チームの活動がガラリと変わりましたね。デザイナーのプロジェクトでの価値も分かりましたし、どうやってエンベデッドしていくかについても大きなヒントを得ました。
--そのプロジェクトについて、少し具体的にお話しいただくことはできますか?
平山: 残念ながら秘匿性が非常に高いプロジェクトで、具体的に「それがなにか」はお伝えできないんですが、ただ、誰もが知っている大変有名なものです。そして慎重なことで知られているクライアント側のキーパーソンが、一発で満足してゴーサインを出してくれました。
前: 実際にやったことは、カーボンデザインでデモシステムを作り、動画にして担当者にお見せしました。それがそのまま室長へ、そしてCIOへと渡って、ゴーサインをいただきました。
今までであれば提案依頼からネゴシエーションを重ねて毎回のやり取りを反映し…と時間のかかるものだったはずです。そうですね、通常であれば3カ月はかかるプロセスだったと思いますが、それがわずか6週間で終わりました。
平山: これの何がすばらしいかと言うと、まず、お客様のお時間を大幅に短縮することができたということ。そして次に、私たちCEの稼働が無償でCDS自体もオープンソースで無償なので、お客様がその分の費用を本番システムの開発に充てることができるということです。
CDSが共創にとても向いていることを実感しました。
前: このようにすべてが上手くいったのも、CDSがユーザーのニーズと要望に関する厳密な調査を重ねて作成されているからこそです。
そしてCDSで作成すると、MVPのコードがそのまま開発のためのコードとして同時に作成されるんです。だから開発者もすぐに作業に入れると喜びます。
また、CDSはモジュール式で、実行の柔軟性が最大化されているので、一貫性がありまとまりのあるユーザーエクスペリエンスを保証します。いろんなツールの寄せ集めで作ったものとはまったく異なりますね。
平山: 昨今の予測不可能な時代に対して、MVPを作成してマーケットインし、アジャイルに市場に適応させていくという進め方にCDSは非常にマッチしているんです。
とはいえ、私が長年携わっているエンタープライズシステムの領域においてはバックエンドの基幹システムは変えにくいので、アジャイルが合うのは、フロントエンドのデザイン部分が中心になります。そしてそこに前さんと私たちCEが加わることで、プロジェクト推進速度はさらに加速します!!
これを読んだDX事業企画のクライアントにはぜひお声かけいただきたいですね。
前: 平山さん、ちょっと宣伝感が強すぎるかも…(笑)。でも、本当のことなので、お声かけいただけたら嬉しいです。
3. デザイナーの役割とカーボンデザインシステム(CDS)の進化
-- 先ほど「アジャイルな開発がソフトウェアやシステムにおいては当然となってきている」という話が出ていましたが、お2人は、ビジネスにおけるデザイナーの役割は今後どうなっていくとお考えですか?
平山: デザイナーの活躍シーンは増え続けるでしょうね。僕はデザインの本質は「コンセプトを分かりやすく形にする」というところにあると思っています。
そして美術や芸術家とは違い、ビジネスにおいては、関係者みんなに理解してもらうためのコミュニケーションの手法としてデザイナーがそれを用いて、方向性を示しリードしていくという流れが増していくのだろうと思います。
前: 平山さんの見方と似ているところありますが、僕はもう少しその先の領域の拡がりに注目しています。
最近は「CX」、つまり「顧客体験」という言葉がビジネス文脈で非常によく用いられるようになりましたよね。これはたしかに重要ですが、エンタープライズ領域では「一人ひとりのユーザー」としての体験として捉えるだけではなく、今後は部署やプロセスをつなぐ「BX」、すなわち「ビジネス体験」をデザインしていくことがますます重要になっていくと思います。
デザイナーの力が最も求められ、最も活きる領域も、そちらにシフトしていくんじゃないでしょうか。
平山: なるほど。BX視点はおもしろいですね。
いずれにしても、システムデザインにおいて、クライアント自身が「まずは動くもの」を求める傾向はこれからも高まり続けていくでしょうし、CDSは今後も時代性にピッタリと寄り添うものであり続けるでしょうね。
前: 答えを持っているのはユーザーやユーザー部門、つまり、実際にそのシステムやサイトを使用する人たちです。
それを考えると、デザインは間違いなく重要ではあるものの、時間をかけ過ぎることなく、お客様と一緒に走りながら作っていくのが正解だという認識は今後もどんどん広がっていくことでしょう。
そうした流れの中で、ブランドが複数あって統一が難しいときなどでも、複数プロダクトのストーリーやエクスペリエンスをシームレスに連携させるCDSは、メッセージや価値を伝えやすくする、言い換えると「より売れるものを作るシステム」として活躍すると思います。
平山: つまり、CDSはデザイナーと開発者だけではなく、マーケターやオファリングマネージャーなどの、クロスファンクショナルチームの全メンバーのためのものとして活躍するということです。
ですから、チームの多様性を活かすための「共通言語」としてもCDSを採用いただきたいですね。それが、イノベーションや新しいソリューションの革新に費やすための貴重な時間を捻りだすことを可能とするので。
4. 今後のデザインシステムについて
前: あ、最後に1つ付け加えさせてください。
カーボンデザインは今もまだ進化の途中で、グローバルでは「ビジュアルデザイン・ギルド」と呼ばれるチームがデザインパターンを作成し、常時アップデートを行なっています。そしてここ日本でも、CEのデザイナーが中心となったクロスファンクショナルチームが、「CE UX DAY!」と呼ばれているデザインイベントを月に1回開催しています。
今後、日本からも日本独自の新しいアセットをカーボンデザインに提供していく予定ですので、ぜひ注目・期待していただきたいです。
平山: そうですね、またクライアントエンジニアリングのチームでは、IBMの業界知識を生かしたデザインシステムも考えており、その内容は今後の対談で紹介していきたいと思います。他のテーマに関しても、当チームには、多数な精鋭メンバーがおり、順番に対談で紹介していきたいと思いますし、より実践的な開発技術も触れていきたいと企画しています。
今回の第1回の対談が、年末というところからも、チームの駆け込み具合が読み取れますが、2023年は新しい先進的なイニシアティブと共にチームや活動のアップデートもありますので、その内容も随時紹介していきたいと思います。
クライアントエンジニアリングでは、さまざまなデザインプロジェクトを支援しています。Carbon Design System については、当対談の2名が、「デザイナー、データサイエンティスト、 クラウドエンジニア、で実現する共創の世界」という題目でCloudfesta 2021というイベントで講演でも説明していますのでぜひご覧ください。
また、当記事にて触れられている内容や業務について興味・ご関心がございましたらぜひ下記よりお気軽にお問い合わせください。
TEXT 八木橋パチ
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