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【AIの力で価値を創造するには?】前編

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2023年5月、IBMはビジネスのための次世代基盤モデルを支える「watsonxプラットフォーム」を発表しました。

watsonxのテーマは、「AI User から AI Value Creatorへ」

つまり他社が作ったAIを使うのではなく、AIを自ら作り、活用して、価値を創造していくことを目的にしています。

 

言うまでもなく、ビジネスの目的は価値創造です。

価値とは、ビジネスの文脈においては、お客様がお金を払ってでも欲しいと思えるもの、お客様が他社(他者)ではなくあなたから買う理由、です。

価値を創造できなければ、誰かから奪って、誰かの犠牲のもとに利益を得ることになりますが、そのようなビジネスは持続可能ではありません。

価値を創造するからこそ、その対価として利益を得ることができ、ステイクホルダーすべてが幸せになるビジネスを実現できます。

 

ではどうすればAIの力で価値を創造できるでしょうか?

生成AIを始めとしてかつてないほどAIが脚光を浴びていますが、いま検討・実施されているユースケースの多くは業務効率化や自動化による生産性向上であり、価値創造のためにAIが使われている事例は多くありません。

もちろん業務効率化による生産性向上も大きな価値ではありますが、ここではエンドユーザーにとっての価値創造、つまり我々のクライアントである企業にとってのお客さまが、対価を支払いたいと思える価値を創造するにはどうしたらいいかについて考えたいと思います。

 

筆者はIBMに入社してまだ日が浅いですが、IBM入社前は自ら会社を経営し、クライアントの新規事業開発支援や、業績の悪化した企業の立て直しなどをしていました。

今回の内容は、そうした筆者個人の経験に基づくものであり、IBMの正式見解ではないことを予めお断りしておきます。

 

まず今回の前編では、AIに限らず、ビジネスの現場で創造性を発揮するにはどうしたらいいか?について考察します。

その上で後編では、AIを活用してどうしたら価値を創造できるかについて考えていきます。

 

では、どうすればビジネスの現場で価値を創造できるでしょうか?

これはビジネスにおける永遠のテーマのひとつであり、もちろん答えはひとつではありませんが、いくつか重要と思われるポイントがあると考えています。それは、

  • 心理的安全性
  • 多様性
  • 脱学習

です。

 

■ 心理的安全性

人間は本来、誰もが無限の創造性を持っています。

にもかかわらず、様々な思い込みやとらわれによって、その無限の創造性を発揮できなくなっている方が非常に多いのが現実です。

特にビジネスの現場ではそれが顕著で、日常生活では創造的な人でも、仕事の現場ではその創造性が発揮できていないケースが少なくありません。

なぜかというと、仕事を楽しんでいないからです。

 

人は、楽しんでいるときにもっとも創造性を発揮します。

お金のために、嫌々ながら、我慢して仕事をしている人が、創造性を豊かに発揮することは、まず不可能です。

 

ではどうすれば、ビジネスの現場で仕事を楽しみ、無限の創造性を解放できるでしょうか?

ひとつの答えが、心理的安全性です。

自分がジャッジされることなく、いのちとして尊重される、という安心感。

その安心感がなければ、例えば自分の発言が否定されたり、人事評価に響いたり、存在を蔑ろにされている場では、人は仕事を楽しみ、創造性を存分に発揮することはできません。

 

ではどうすれば心理的安全性を確保できるのでしょうか?

大切なのは、リーダーがメンバーを無条件に信頼していることです。

条件付きの信頼ではなく、無条件の信頼。

成果を出せる人、期待に応えてくれる人だけ信頼するのではなく、目の前の相手の無限の可能性を信じる。

これは特にプレッシャーの大きい仕事の現場では、非常に難しいです。

 

しかし条件付きの信頼しかない場においては、メンバーは上司の期待に応える行動しかせず、リスクを取らなくなり、言われたことしかしなくなります。

アイディアを自由に出せ、と言われても、どうせダメ出しされるだろうと思えば、あるいはくだらないことを言ったら人事評価に響くだろうと思えば、自由な発想は抑制されます。

そのような組織に創造性を期待するのは無理でしょう。

 

ただそうは言ってもリーダーがメンバーを無条件に信頼するのは一朝一夕にはできないので、第三者のファシリテーターに入ってもらうことも有効です。

利害関係のない、人事評価する側・される側という関係にない、第三者のファシリテーターが入ることで、心理的安全性の保たれた場を創ることが可能になります。

もちろん第三者なら誰でもいいわけではなく、ジャッジしない、自分の価値観を押し付けない、防衛的で感情的な反応をしない、ニュートラルかつ、場のエネルギーを読み取り必要に応じて場を動かせる、訓練を積んだファシリテーターを選ぶ必要があります。

 

■ 多様性

創造性を発揮するには、多様な価値観に触れ刺激を受けることも大切です。

ひとつの会社でしか働いたことがない、同じような価値観を持つ人たちと、毎日朝から晩までオフィスに缶詰になって過ごしている中で、新しい発想を得ることは難しいでしょう。

逆に異文化に触れたり世代の異なる人たちと触れることで、新たな発想が湧いたという経験は、多くの人が持っているのではないでしょうか。

 

そうは言っても、いきなり中途採用を増やして多様性ある組織を作るのは、現実的には難しいと想います。

そこでまず自分一人でもできることとして、意識的に新しい体験を求め、自分がいる世界とは違う世界の人たちと触れ合うようにすることです。

 

例えばオフィスから家に帰るまでの経路を変えてみて、ふと目に入ったお店に入ってみる。

自分がこれまで興味を持たなかったジャンルのイベントに参加してみる。

できれば実際にその場に参加してそこにいる人たちと話してみることを勧めますが、それが難しければ、まずは自分がこれまで興味を持たなかったジャンルの書籍やYouTubeを見てみるのもいいでしょう。

敢えて自分の中に多様性を持ち込み、そこで生まれる理解できない感覚、これまでの常識を壊される感覚を楽しむことです。

 

そこで大切なのは、自分の知識や経験や常識やルールを相対化する勇気です。

これまで正しいと思っていた自分の価値観を他人に押し付けるのをやめ、自分の価値観にしがみつくのをやめ、それも一つの考え方に過ぎない、と相対化することです。

自分の考えと全く違う、これまでだったら即否定していたようなことも、決めつけずに、判断をいったん保留して、一面の真理があるかもしれない、と思って見てみることです。

 

これは勇気の要ることですが、これができることが本当の自信です。

自分自身を信じているからこそ、異なる考え方も許容できます。

そのように自分の中に多様性をもたらしつつ、少しずつ組織の中にも多様性を加えていけると尚良いでしょう。

 

組織の中に多様性を加えるためには、人材の流動化を進め、中途採用を増やすことが有効です。

中途採用も、同じ業界からの採用が中心になると思いますが、敢えて全く違う業界の人や、起業経験者など、異なる経験を持つ人たちを受け容れると尚良いでしょう。

筆者が所属するクライアント・エンジニアリング部は、実に80%が中途採用者で占められており、IT業界だけでなくコンサルタントや商社、メーカー、起業経験者など、多様なバックグラウンドを持つ人材を意図的に揃えています。

 

そして大切なのは、多様な人材を多様なまま活かすことです。

そのためには、既存のルールや文化に無理に適応させるのではなく、異質なものは異質なまま尊重し、異質さを楽しむ余裕が必要です。

だからこそ、自分自身の中にまず多様性を加えていくことが大切です。

 

■ 脱学習

あなたがこれまでの人生で創造性を発揮したときのことを思い出して見てください。

つまらないなと思いながら、言われたことを黙々とこなしていたときでしょうか?

それとも、楽しみながら、遊びながら、笑いながら、何かに没頭していたときでしょうか?

人間が創造性を発揮するのは楽しんでいるとき、というのは明らかです。

 

にもかかわらず、ほとんどの人たちが「これは仕事だ!遊びじゃないんだぞ!」「もっと真面目にやれ!仕事と関係ないことはするな!」というプレッシャーに晒されています。

仕事と遊びは別物である、という思い込みは非常に根強いですが、仕事を楽しむ余裕がなくなり、創造性はどんどん抑圧されていきます。

短期の結果ばかりを追い求めれば、余裕を失い、失敗を恐れ、チャレンジしなくなり、創造性は発揮できなくなります。

まず仕事と遊びは別だ、仕事は真面目に黙々とやるものだ、という常識を疑いましょう。

 

高度成長期のように経営環境が大きく変化しない社会、AI以前の社会では、新しいことにチャレンジするよりも過去の成功体験を踏襲して、真面目に黙々と、効率を上げコストを下げ、短期の結果を重視することが、利益につながりました。

しかしこれだけ変化の激しい経済環境、そしてAIが当たり前の社会では、そうした過去の知識や成功体験は、むしろ邪魔にしかなりません。

過去の知識や経験を、積極的に脱学習(アンラーニング)していく必要があります。

 

これまで学習というと、新しい知識を増やしていくこと、加えていくこと、が重視されてきましたが、それを手放していくことが求められるのです。

積極的に過去の知識や成功体験を捨て、身軽に自由になるからこそ、上述の多様性を受け容れる余裕と謙虚さが生まれます。

 

ではどうすれば脱学習できるでしょうか?

脱学習が難しいのは、過去の自分の努力を否定しなければならないと感じるからです。

これまで長年積み重ねてきた知識や経験が、もはや時代に適合しない、むしろ邪魔にすらなってしまっている、ということを認めなければなりません。

そうすると、まるで自分のこれまでの人生が否定されたかのような、自分の存在さえも否定されたかのような感覚になり、意識的・無意識的に抵抗してしまうのです。

 

しかし冷静に考えれば、これまでの知識や経験を捨てたとしても、自分自身の価値は何も変わりません。

自分の価値と、知識や経験の価値を同一視すると辛くなりますが、それは全くの誤解です。

知識や経験は、必ず陳腐化します。

しかし人としての価値は、決して陳腐化しません。

 

先ほど、多様性を受け容れることが本当の意味での自信と書きましたが、脱学習にも同じことが言えます。

逆に多様性に触れることで、これまでの常識を疑うことができ、脱学習できるとも言えます。

また多様性を受け容れ脱学習するためには、自分と違う人を尊重しても自分の素晴らしさは変わらない、過去の知識や経験を手放しても自分の価値が減ることはないという安心感、心理的安全性が不可欠です。

このように心理的安全性、多様性、脱学習、はそれぞれ相互に連関していると言えるでしょう。

 

以上、AIに限定せず、価値を創造するために大切なことをお伝えしました。

お気づきかもしれませんが、これら3つは具体的なノウハウというよりも、内面的なもの、在り方に関わるものです。

共通するのは、ある種の緩さ、余裕、遊び、楽しさです。

人としてより自然な状態、と言ってもいいかもしれません。

 

繰り返しますが、人間は誰もが無限の創造性を持っています。

その創造性を阻害するものを減らし、より自然な状態に近づけていくことが、創造性を発揮する鍵になるのではないでしょうか。

こうした仮説をベースにしながら、具体的にAIを活用してどのように価値を創造していくかについて、後編でお伝えしていきたいと想います。

 


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