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Future of Insurers#2 〜保険営業「生きる価値への挑戦」

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日本IBM藤田通紀

藤田 通紀
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
保険・郵政グループサービス事業部パートナー保険サービス部長

金融機関及びコンサルティング業界でのプロフェッショナルとして20年以上の経験を有し、経営戦略、セールス・マーケティング、教育・研修からオペレーション、またアートとデジタル等の幅広い分野での専門性を有す。トランスフォーメーションに関わる実務と理論に基づいたアドバイザリサービスを提供。著作・講演多数。MSc(英ウォーリック大)MBA(英ウェールズ大)PgDip(英エクセター大)修了

 

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ヒトが「生きる価値」とは

「生きる価値」について考えたことはあるだろうか?
ある人は「家族を養い子孫を残す生活である」と考え、またある人は「社会的名声を得る」こと、そしてある人は「天下布武」かもしれない。しかし何にせよ生物としての「種の保存」や「生存競争」はその砦となり、ヒトの「生きる原動力」になるだろう。原動力を生きる源と捉えるならば、それを価値と見做す事は容易い。

保険会社にとって人生のリスクマネジメントを商品・サービスとして提供する際に、「生きる」ことに目標を置いた一律の人生の価値観やスタイルを持つ顧客は、保険営業提案(ニーズ喚起・商品選定)におけるさほどの違いは無い。保険顧客のペルソナをデザインする際にも、「生きる」をベースにしたライフイベントは、言わば不可逆的なタイムラインの中での限られた選択肢の連続(的な判断)的な一里塚でしか無い。つまりは、どの人生の岐路(選択肢)、一里塚(ライフイベント)に対する「ヒストリカルデータに基づくリスク回避策」を顧客に商品やサービスを持って明示すること可能だからである。

しかし、テクノロジーの加速的進化は生活環境を一変させ(続け)、産まれ来る世代毎に技術的ジェネレーションは異なってくる。そこには絵に描いたような大家族(お爺さん、お婆さん、父、母、長男、長女、次男、犬)は霞の向こうに消えゆき(沈黙)、「種の保存」や「生存競争」に参加しないマイノリティがテクノロジープラットフォーム上で新たなネットワークの組成及びコミュニケーションを開始(始動)する。

テクノロジーの加速的進化は、マイノリティでライブリーなネットワークの構成を高速で促し、その構築されたネットワークは刹那的なマジョリティと化す。(デモやメッセージの表現に大きな変化があるのも一例)
プラットフォーム上で始動可能な多様化する価値観やスタイルを持つヒトは、取り巻くテクノロジー環境の加速度的進化を波乗りし、より「生きる価値」も多様化させていくだろう。

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ペルソナ別のロールプレイング研修の罪

保険の営業研修において、顧客設定別の商品提案トレーニングが存在するのはどの会社にも共通している。例えば生命保険であれば、「新社会人」「新婚夫婦」「夫婦・子供」「リタイア夫婦」等のライフステージをペルソナとするケースが多いだろう。また、ロールプレイングは、人生の岐路や一里塚における判断と、その実現とリスク回避の為の商品・サービス提案模擬である。

しかし、「社会人にならない」「結婚しない」「子供を持たない」「熟年離婚」は現在においても珍しいことではなく、また未来においてはマジョリティとなる可能性が高い(独身世帯の増加予測)。この現在想定されるペルソナと相反する生き方は、現在の商品やサービスの位置付けと正反対な立場を取る為、保険営業における顧客アプローチも大きく変わってくるだろう。

多様化する価値観・スタイルの中でも、「種の保存」や「生存競争」の螺旋から離脱したヒトは「生きる」をベースにしたライフスタイルではなく、「生きている(生かされている)」をベースにライフスタイルをデザインしていくかもしれない。つまりは価値観やスタイルが個々で異なるペルソナなき世代に突入する事への慟哭である。ペルソナ別のロールプレイングの紋切り型の決め台詞は、空虚な空間に虚無感をもたらす「シュールなコント」のような舞台を演出するだろう。

多様な価値観やスタイル分岐に立ち向かう勇者イメージ写真

多様な価値観やスタイル分岐に立ち向かう勇者

テクノロジーの加速的進化による顧客の価値観やスタイルの多様化に如何にして保険営業は対峙すべきなのか。
まず一つ目は、旧来の価値観である「生きる」ヒトも多様な価値観を持つと考えられる「生きている(生かされている)」ヒトも「死(終焉)」は当価値である事であることへの(再)認識だ。「死」を以て「生」を考えるのであればライフタイムは「有期」であることが理解できる。「有期」であるならばどの様なゴールを迎えたいのかが、共通のニーズになる。言い換えれば「生き方」を顧客の問答するのではなく、どのように終焉を迎えたいかの「死に方」から顧客と対峙する「勇気」を持つ事である。(この死生観的アプローチは顧客の考え方、哲学、宗教観を否定・肯定する事ではない)

次に多様な価値観やスタイルを持つ顧客のライフスタイルにおける、それぞれのリスクファクタや感応度をデータ化していく事だ。かなり大きなデータ対象となる様に感じるが、その最大数は人口総数でしかなく(例え一人一人異なったとしても最大70億(人)パターン)、分類・分析はデジタルワークフォースにデータ&アナリティクス(営業科学)の役割を持たせ、ヒューマンワークフォース(ヒト)分担すれば良い。テクノロジーの活用による未来の営業スタイルの確立であり、デジタルワークフォースとヒューマンワークフォース(営業)と共存共栄の戦略でもある。

最後に多様化に対応できるアジリティの高い商品デザインのシーズを、営業(ヒューアンワークフォース)が自らデータ変換し入力・共有(インプット)し、デジタルワークフォースの分類・分析結果に正しく反映させる事だ。活きたデータのデジタルワークフォースへの営業的インプット及び潜在的ニーズが確認される商品デザインへのインプットとして活用が期待される。

尚、営業はその顧客ニーズを精緻化するために、「有期」の観点を制約条件とすることで、「発散」した顧客の声を「体系化」させ「収束」させる必要がある。

未来の営業(ヒューマンワークフォース)に求められる顧客ニーズ「収束」プロセス

  1. 幾つまで生きていたいかの確認(人生の終焉の想定)
  2. 「有期」の期間内に何を実現したいか(「生きている(生かされている)」間の活動項目整理)
  3. 活動項目を達成する上のギャップ・ジレンマはあるか(理想と現実のギャップ分析)
  4. ギャップ・ジレンマを解消するために獲得すべき「モノ・コト」を棚卸し(課題特定)
  5. 獲得すべき「モノ・コト」を阻害する要因を特定(リスクファクタ発見)
  6. 阻害要因へ対応するリスクマネジメントのデザイン(保険サービスの活用)

上記は「種の保存」や「生存競争」を目的としない多様な価値観・スタイルを持つ顧客に対して、活動限界までに行うべき最低限の取組を「死に方(終焉)」の観点から考える上でのクライテリア(収束プロセス)の一例である。表現を変えると「人生の疑似ゴール設定とバックキャスティングによるアクションの洗出し」に当たる。

この考え方は多様化する顧客人生のプロジェクト・デザイン化である。プロジェクトは顧客の多様なニーズからゴール設定しタスクをリスクマネジメントしながら実行していく。多種多様な顧客ニーズとゴールに対して「体系化されたプロジェクトマネジメント」の方法論を活用しながら対峙することは、将来の保険営業に求められるスキルに近しい。

未来の保険営業の必須能力に「個人型プロジェクトマネジメント」「P M B O K(人生版)」が付加され、多様化する顧客の価値観やスタイルに立ち向かう為の「体系化されたプロジェクトマネジメント型メソドロジ」は、今後の保険営業における「勇者の剣」となり得るかもしれない。

デジタルワークフォースとの二個一営業

保険業界においても長らく営業科学のアプローチが検討されてきた。殊にデータ&アナリリティクスの観点を中心に、営業の生産性向上(売上/費用)が主たる目的だ。今までの営業科学の発想は「生きる」目的をペルソナ別に分けた営業提案に対する、デジタルワークフォースの後方支援が多かった。其の為、「電子化」「ペーパレス化」「顧客情報のデジタル化」「ライフイベントへのお勧め商品」等に留まり、ヒューマンワークフォース(ヒト)の演算処理能力+αの限定的な支援に留まっていた。しかし、多様化・複雑化されていく将来の顧客に対峙するにはヒトの分析・演算処理能力ではスペック不足である。
保険営業におけるデジタルワークフォース開発への「ビジネス要求」は、来る未来の顧客アプローチへ提案(顧客意思決定)機能であることを示している。今までの保険営業の延長線上にはない非連続な発想(「有期の概念」「プロジェクトスタイルのライフデザイン」)は、情報・知識・知恵をテクノロジーに対し求めていくだろう。

テクノロジー活用への発想起点

  • デジタルワークフォースのオープン化(新しい情報・知識を更新)
  • 新たな価値観とスタイルの継続的収集と分析(人生のゴール設定への活用)
  • 「終焉」に向けたアクションのリスク・イシュー分析(回避すべきリスク予測)
  • 変化・再分化し易い将来価値観・スタイルに対する予測モデルとその(顧客への)提示
  • 営業のデジタルリテラシー教育(デジタルワークフォースへのインプット精緻化へのコミュニケーション技術とテクノロジーの活用スキル)
  • 市場で必要とされる商品・サービスの推奨機能と費用対効果予測

顧客の多様化した価値観やスタイルからリスクファクタを引出し体系化するヒューマンワークフォース(ヒト)のコミュニケーション能力と多様化・複雑化したデジタルワークフォースの演算処理能力は、まさに未来の二個一型営業モデルとなる。

本稿ではデジタルの加速度的進化からもたらされる顧客の価値観・スタイル多様化に対峙できる保険営業(ヒューマンワークフォース+デジタルワークフォース)について論じてきた。保険の伝統的な「生きる」ニーズに対応するだけでなく、未来は「生きている(生かされている)」潜在的ニーズの重要性を捕まえることが、未来の営業のあり方に繋がる。では、その営業はどの様な商品・サービスを提供すべきであろうか。
次回は「未来の商品とサービス」について更なる論考を深めていきたい。

 

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