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プログラミング教室だけじゃない!IBMが進めるSTEM教育

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米国を中心に先進国でテクノロジーに精通した人材を育てるための教育として注目を集めるS(Science)T(Technology)E(Engineering)M(Mathematic)教育。その一環として新しいテクノロジーをテーマにした授業が東京都立高島高校で2016年12月に行われました。それが「キミのアイデアで社会が変わる!? あらゆるモノがインターネットにつながる、IoTって?」の授業です。

内容は以下の3つ。

  1. IoTを体験する
  2. IoTを活用したアプリの開発を体験する
  3. IoTを活用したアイデアを考える

IoTは現在の社会で注目を集めているキーワードですが、この言葉の意味だけを解説しても学生には本質が伝わらないかもしれません。そこでNPO法人企業教育研究会の古林さんが先生役となって、IoTの専門家として日本IBMの富田氏、金氏が講師役として参加しました。彼らは、Japan Technical Council(JTC)というIBMの若手技術者コミュニティーのメンバーです。 今回のIoTの授業の講師を社内で募ったところ、積極的に参加をしてくれたとのことです。

「IoTはインターネット・オブ・シングス(Internet of Things)の略で、日本語ではモノのインターネットと訳します。身の回りのあらゆるものをインターネットにつなぐことで、データを拾い上げたりモノの制御をしたりする技術のことをいいます」と富田さん。「スマートフォンもIoTの一部なんですよ。知らず知らずのうちにIoTは世の中に浸透しつつあるんです。使い方によってもっと世の中を便利に、豊かにできるのではないかということで、今日はIoTでどういったことができるのか、勉強していきましょう」

IoTって何?黒板消しの中に秘密が…。

授業ではデジタル・キャラクター、アイコ、マイク、加速度センサーを組み込んだ黒板消し、気圧センサーを入れたポンプなどを用意。最初は画面内でしゃべっているだけと思われたアイコですが、現在位置の気温を調べてスクリーンに表示したり、マイクに向かって話しかけると声の大きさに応じて返事をしてきました。

生徒が黒板消しを振ると手を振り返してきます。

「なぜ画面内のキャラクターが反応したのか」。そう問いかけると、黒板消しを持った生徒が「色素?」と答えます。顔認識技術のように、カメラで黒板消しを持った人物を認識、黒板消しの動きを検出する……という意味でしょうか。いいセン、いってますね。

実際には黒板消し内に入れた加速度センサーによって動きを数値化して検出していたのですが、そのセンサーの存在が明らかになると、ある生徒が「中に仕込んであるのかよ」とつっこみ、教室内に笑いが広がります。

スクリーンにはセンサーの動きを数値で表示し、アイコが動いているか、動いていないかを判断できるようになっています。このセンサーの数値情報によって、アイコがしゃべるという出力につながるわけですね。

先生が出した問題はこのあと。「ではセンサーの動きを判断する処理はどこで行われているのでしょうか」。

  1. 別の教室に人が送ったデータを元に画面を操作している
  2. 前方の机に置いてあるコンピューターに直接データを送って処理している
  3. インターネットを経由して、学校以外の場所にあるコンピューターにデータを送って処理している

この三択問題は、気圧センサーを入れたポンプを使いました。適切な位置までポンプを引くと、それぞれの選択肢がスクリーンに出てくる仕組みになっています。

全員に挙手をしてもらって、どの選択肢が正解なのかを当てます。−−答えは3番目の「インターネットを経由して、学校以外の場所にあるコンピューターにデータを送って処理している」。大半の生徒は2番の「前方の机に置いてあるコンピューターに直接データを送って処理している」挙手。3番目に手を上げた人はごく少数でしたね。

興味をそそられたのでしょうか。気がつくと生徒はみんな、先生や講師の説明に聴き入っています。目には見えない、見えづらいものが組み込まれた新しい技術が目の前にあることに気がついたのでしょう。

いまはIoT、昔は電子ブロック

アイコの動きも開発アプリを使って設定しています。「IoTを活用したコミュニケーション開発が手軽にできるようになりました」(富田氏)。少し前までのプログラミングは多くの専門知識を必要とするものでしたが、今はビジュアル・プログラミング言語を用いることでカンタンに作れるようになりました。

大人の皆さんのなかには「電子ブロック」を覚えている方もいるかもしれません。電子部品のブロックを組み合わせることでラジオを作ったり、無線機を作ったりできる知育教材です。ビジュアル・プログラミング言語も概念としては同じ。入力の種類、処理の種類、出力の種類の各オブジェクトを並べていくことでプログラムを組んだり、アプリを作ったりできるのです。

ここからはグループごとの実作業。Windowsタブレットで温度、揺れ、傾き、光、圧力、ボタンのセンサーを用いて、IoTのアプリの開発に取り組んでもらいました。

用意した設計図(フローチャート)を基に、ビジュアル・プログラミング言語(IBM Bluemix のNode-RED)で開発を進めます。各班の開発中はIBMの社員が操作を教えるために教室を回っていましたが、直感的な操作性に学生たちはすぐ慣れた様子。プログラミング言語を覚えなくても開発はできるという事実を好意的に受け止めていました。

「妄想センサーが反応して、好きな芸能人が自分をほめてくれる」IoTガジェットできるかな?

授業の後半はIoTを活用した新しいサービスを考えて、班ごとにアイデアをブラッシュアップする時間として使われました。

「コード(プログラム)自体はとてもシンプルですが、どういうシチュエーションで使うかとか、アイデア次第で生活を豊かにできるかどうか、そういうことが大事になっています。だからこそ我々IBMは、どういったアイデアでIoTを生かせるか、斬新な発想を求めています」(富田氏)

センサーへの理解と、どんなサービスなら何の問題点を解決できるかといったことに思考をめぐらせるアイデアソン。テクノロジーを前提としながらの発想力、応用力が求められる授業内容は確かに新しいものでした。

「鏡の前に人がくると妄想センサーが反応して、好きな芸能人が出てきて自分をほめてくれる」「寝室への入室を感知すると、布団を冬は暖かく、夏は涼しくしてくれるもの」「自転車が盗難に合わないように指紋センサーを搭載。自分以外の人が乗れないようにする。GPS情報も発信する」などなど。

各班からさまざまなアイデアが出てきます。センサーの機能にとらわれすぎると思いつかない発想もあり、アイデアの数々には講師も「実現できるかどうかはさておいて、なるほど」と感じていたようです。

STEM 教育に遅れをとる日本は第4次産業革命の波に乗れるのか

そもそもこうした授業をなぜ行うのか。話はずっとさかのぼります。

「インダストリー4.0」という言葉をご存知でしょうか。これはドイツ政府が推進しているプロジェクトで、生産業の進化をうながすもの。従来は人の手が介在していた分野をデジタル化し、様々な機器をインターネットに接続し、AIやビッグデータ、クラウドを活用することで、製造現場のさらなる最適化を目指す戦略です。そしてこのインダストリー4.0は、第4次産業革命を意味する言葉でもあります。

産業の歴史をひも解くと、第1次産業革命が起きたのは18世紀後半から。蒸気機関や水力機関により、繊維業をはじめとした製造業の生産率が飛躍的に伸びました。第2次産業革命は20世紀初頭に起きた化学、電気、石油、鉄鋼の技術革新により食料や飲料製造の機械化、輸送力の向上につながります。第3次産業革命は1970年代からはじまったコンピューターによる自動化、産業用ロボットの台頭、およびインターネットの開発によって生産効率の向上および情報流通速度が高まりました。

それぞれの産業革命のタイミングにおいて、世界は一変しました。仕事の現場に新しい価値観が生まれ、その波に乗ることのできる人は新たなビジネスを生み出していきました。

ゆえに現在、今後のITビジネスにおける戦力を育て、国際競争力を高めようと、各国で科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)領域を総合したSTEM教育に力が注がれています。これは個々の学問を一元的に学ぶのではなく関連づけて学ぶという教育システムです。

1990年代にアメリカで発祥したSTEM教育は、オバマ大統領の就任後に本格化。数十億ドル/年の予算を用いて、プログラミングや教育・研究用ロボットの授業が加えられるようになりました。またヨーロッパ、東南アジア、インドといった地域においてもSTEM教育は活発化しており、いずれの地域でも10代未満から学べる教育機関が存在します。そして次世代のスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグを育てつつあります。

対して、日本はどうでしょうか。STEM教育に取り組んでいる地方自治体や、STEM教育の開発を手がけている大学はあるものの、すでに国策としてIT時代のトップリーダーを作り上げようとしている各国と比べると、この分野で遅れをとっているのが現状です。

文部科学省は2020年から小学校でのプログラミング教育の必修化する方針を掲げています。これは2016年に政府が公開した「日本再興戦略2016」にも記しています。

これからの時代に即した学びがなくしては、きたる第4次産業革命全盛時代に日本は取り残されてしまうかもしれません。そのために、新しい学び、体験が必要と考えます。

民間企業が先行するSTEM教育

こうした状況を背景に、民間企業によるSTEMエリアの教育支援プログラムが注目を浴びており、IBMも取り組みを進めています。

IBMは、初代社長のトーマス・J・ワトソンが残した「良き企業市民たれ」(Be a good corporate citizen.)という理念を受け継いで、CSR活動を行なってきています。現在は自らのリソースを用いて、様々な社会貢献活動を行っています。教育分野の支援もIBMが注力している貢献活動の一環です。

特にSTEM教育、グローバル人材育成、キャリア教育に重点を置き、「トライサイエンス実験教室」(小学1~4年生対象)、「ROBOLABプログラミング教室」(小学5~6年生、中学1~3年生対象)、「統計授業」(中学1~3年生、高校1年生対象)、「グローバル・キャリア授業」(高校1~3年生対象)などの授業を開催してきました。2016年には小中学校・高校、科学館など全国で100回以上実施。2010年には経済産業省の「キャリア教育アワード」優秀賞を受賞しています。

IBMとNPOが進めるSTEM教育の取り組み

2014年、学校教育機関、教育委員会、企業が連携するシーンへの期待を込め、IBMはNPO法人 企業教育研究会と共同で新たな教育支援プログラムの開発に取り組みました。

企業教育研究会は千葉大学教育学部、静岡大学教育学部、兵庫県立大学を基盤として活動する「企業と連携した授業づくり」を専門とするNPO。子どもたちの学びと実社会をつなげる、企業の次世代育成を応援、そして教育学部の大学生に学校や企業と一緒に活動することで、豊かな社会経験を身につけてもらうことを目的とした団体です。

IBMと企業教育研究会はまず、中学生を対象としたの「数学が分かると未来が見える!? プロに学ぶデータ分析とデータに関わる仕事の今」という統計授業プログラムを開発します。これはビッグデータ、データ分析の概念を学び、データの活用や分析の方法についての体験をもとに、未来のデータサイエンティスト育成を推進しようというものでした。

授業にはテクノロジーの価値を深く知るIBMの社員と、企業教育研究会のスタッフが講師ボランティアとして参加。学生は技術の概念を知ることで自分の未来設計図が描けるようになり、講師は学生との交流を行い、若い世代の新しい発想力に触れる経験を得ることができました。

そして2015年9月より新たな教育支援プログラムの開発に着手。2016年9月14日に中高生向けIoT授業プログラムを学校教育機関に提供するとの発表を行いました。冒頭の授業がまさにこの内容だったのです。

センシングの技術を知り、どのように使いこなすことで世界にイノベーションを起こせるのか、生徒に実体験してもらうための授業です。こうした授業から、未来のマーク・ザッカーバーグが出てくるかもしれません。

 

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