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EAMの勘所:第19回 企業ワイドの保全管理の仕組みづくり(3)

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EAM導入に関する構想フェーズでの重要点

EAMの勘所とは

企業資産管理を円滑に行うために「EAMの勘所」と題して定期的にコラムを掲載していきます。
第 19 回目は、「企業ワイドの保全管理の仕組みづくり(3) – 管理対象の選定 -」についてご説明いたします。

(※EAMとは、IBM Enterprise Asset Management の略です。)


 現状の調査

組織や企業全体で取り組むEnterprise Asset Managementでは、保全管理を中心とした資産管理を対象としていますが、その範囲は保全活動でとどまってはいけません。

通常企業の資産は固定資産として登録されるため、財務的な管理に関係します。
また保全活動には交換部品を使用するため在庫管理とも強く関連します。 実際の保全業務は外注企業様で実施される場合も多く、この場合は調達管理に関係しています。つまり保全管理の活動は組織の様々な部門と関連し、組織のコラボレーションによって効果的に実施されているわけです。

しかし、残念なことに通常「保全管理システムに関係するプロジェクト」では、メンテナンス活動に関する分野のみが着目されやすく、保全部門や技術部門など限定的な導入範囲にとどまる場合が多く見受けられます。

たとえば、通常工場やプラントで発生する調達件数を見ると、原材料の購入にかかわる調達件数よりも、保全活動に関係する調達件数(例:工事関連調達、交換部品関連調達など)が多い場合が多く、資産管理に関する調達管理の効率化は、保全活動を強力に支援することができます。

構造フェーズの稟議の作成のためのチーム編成では、このような全体的な最適化を促進するために社内の多くの部門の方に参加を依頼しています。各々の部門の 担当者は、以下の点を考慮して資産管理システムの効率を行う可能性に関して現状の調査を行い、非効率な作業・改善点を模索します。

表 1 現状調査の範囲と留意点

担当者 現状調査で注意すべき点
保全部門管理職
  • 設備台帳の情報問題点(情報の網羅性、情報粒度、情報の鮮度)
  • 複数の資産クラス(例:機械設備、電気計装設備など)に関連する資産台帳の標準化と統一化の可能性
  • 複数の組織で持つ、バラバラの設備台帳の統一可能性の検討
  • 保全管理プロセスの標準化
  • 在庫管理の問題点の把握
  • 調達管理の問題点の把握
製造部門担当者
  • 製造部門における資産・保全活動の問題点
  • 品質管理と保全活動の問題点
  • 生産計画と保全活動の関係
経理部門担当者
  • 固定資産管理上、保全部門とのコラボレーション方法
  • 固定資産の厳格な管理と計上
  • 在庫資産の保持数量の最適化
資材部門担当者
  • 保全管理に関する調達の効率化
  • 資材名の標準化
  • 保全管理と調達管理の融合化
  • 外注業者管理に関する問題点の検討
  • 化学物質調達に関する管理
人事部門担当者
  • 保全管理に必要な免許・資格管理
  • 作業員の作業員の教育管理
安全管理担当者
  • 安全管理に関する情報の標準化
  • 安全管理プロセスの標準化
  • 化学物質の管理体制の検討
  • 環境管理に関する問題点の検討
情報部門担当者
  • 社内情報システム標準
  • 情報セキュリティー標準
  • 現行システムとの連携の検討

現状の調査フェーズでは、資産・保全管理に関する様々な問題点に関して広範囲に検討を行います。通常保全管理は、その管理対象が複雑で多岐にわたるため、社内の様々な部門に関連します。
したがって企業全体で取り組む資産管理システムの導入では、真に価値あるシステムを構築するためには、社内の多くの部門との調和をはかり、全体的な効率改善を行うことが望まれます。

構想フェーズの現状分析では、現状の問題を分析し、これから取り組む新しい管理体系のあるべき方向性を見出します。


 手本となるベスト・プラクティスの参照

構造フェーズでは、今後5年から10年にわたる長期的な資産・保全管理の仕組みを検討します。
従って社内の現状改善にとどまらす、業界全体またはグローバルで大きな成果を挙げている事例、国際標準などを参考にし、新たに導入する仕組みの「あるべき姿」を検討します。

通常、現状分析を行う場合、その問題点は過去に発生した問題点の解決であり、長期的に考えるとその問題点は根本的な問題を解決する手段で無い場合がありま す。従って検討フェーズでは現状の問題のみにとらわれず、様々な知見を参照して、新しい仕組みを検討する必要があります。現状に問題のみの検討では、「新 しい仕組み」を導入後、その問題は解決されても新たな問題が表面化し、また別の対策をとる必要性が出てくる可能性があるからです。

発見された問題を逐次解決する方法では、問題解決のためのシステムがその都度誕生し、システムの数を増やし硬直性を助長し、問題解決のたびに、効率を落とす結果となる場合があります。 現状のシステムを分析し、過去どのような経緯で個別システムを構築しているかを調査すると、その状況を的確に把握することができます。

では、「手本となるベスト・プラクティス」にはどのようなものがあるのか、以下にその例をご紹介します。

表 2 資産・保全管理に関するベスト・プラクティス

参照すべき教科書 説明
保全管理の教科書 様々な保全管理に関する教科書が出版されています。そのもっとも代表的な著作に“Uptime” Strategies for Excellence in Maintenance Management(John Dixon Campbell 著、ISBN 1-56327-053-6)があります。英文ではありますが、広範囲に資産・保全管理を捕らえた名著です。現在、この著作は「アップタイムマネジメント 戦略的保守のすすめ」(ISBN 978-4-7981-1960-1)として翻訳本として出版されています。国内でも保全管理に関する出版物は様々ありますが、個別設備分野に特化したもの、または技術的な要素を重視したものが多く、管理システムとして全体的な資産・保全管理に言及したものは多くはありません。
「図解入門ビジネス 最新EAMの基本と仕組みがよーくわかる本―製造業の設備保全を最適化する実践ツール」表紙
「図解入門ビジネス 最新EAMの基本と仕組みがよーくわかる本―製造業の設備保全を最適化する実践ツール」(EAM研究会著、ISBN 978-4-7980-2423-3)※こちらの著作は筆者も共同執筆者です。参考になれば幸いです。
業界標準 業界の中には資産・保全管理が企業の経営にとって非常に重要な分野があります。このような業界では独自に資産・保全管理の業界標準を策定している場合があります。業界に標準がある場合はその標準を参照します。
国際標準・規格 現在ISOでは資産・リスク管理の標準としてISO-55000の国際標準化を進めています。この標準は2014年に国際標準化される予定です。ISO-55000では資産・リスク管理のマネージメントシステムの標準であり、活動の指針を与えます。またISO-55000ではリスク管理についてはISO-13000を採用することを仮定しているため、この国際標準も参照する必要があります。また具体的な活動内容に関してはISO-55000の国際標準のきっかけとなったBSI PAS 55は知られています。PAS 55は社会的なインフラや企業の設備など一般的な資産を想定した管理規格で、多くの企業が導入可能な規格です。
お客様事例 お客様の事例は、他社で実際に活動を行った内容を参照することです。一般的に他社事例は直接的導入の内容に寄与することはまれです。これは各々の組織には各々の管理戦略・プロセス・環境があり、他社事例を参照しても、これから実施する「新しい管理体系」に有効に利用できるかはわからないためです。しかし、プロジェクトの進め方、導入プロジェクトの範囲、戦略的な管理手法、意識改革など様々な一般的な項目については、多くの企業で共通的な問題として認識されることが多く、導入プロジェクトの共通の課題となる場合があります。

図 1 BSI PAS 55の活動範囲 拡大図
図 1 BSI PAS 55の活動範囲 拡大図

しかし、これだけではベスト・プラクティスにはなりません。
ベスト・プラクティスとは証明された効果的な標準、規格及びプロセスなどを自分の組織の管理体系と比較し、独自の最適な管理体系を構築しなければならないからです。 ここで検討の範囲を決定する上で参考となるBSI PAS 55の活動範囲を以下にご紹介します。


 Return of Investment (ROI) の算定

いかなる場合でも投資を行うためにはその対費用効果を算定し、効果を予測する必要があります。
これは「新しい取り組み」を実施した場合、どれくらいの効果があり、またどれくらいの投資を行うかを決定する際に参考にするためです。

しかし、資産・保全管理の分野で、この導入効果を求めることは簡単ではありません。その理由は「新しい取り組み」を行う以前でも、工場やプラントは正しく運用されているためです。 通常保全管理はコストとみなされることが多く、現在費用としている保全管理費用だけでは、大きな効果を期待できない可能性が高いためです。また資産・保全管理を厳格に・最適に行っても、その時点では売り上げや経営指標が大きく改善されるわけではないためです。

しかし、資産・保全管理は正しい財務管理を行うばかりではなく、将来発生する可能性のある事故を未然に予防し、安全・安定な工場運営を支える重要な活動です。従って、単にコスト削減のみならず、リスク管理の立場からも導入効果を算定する必要があります。

ROIの算定では、期待される効果を仮定して計算を行うため、本当のその効果を得ることができるか否かは実行稟議を作成する段階では確認することができま せん。従ってプロジェクトのスポンサーを含めて、現状調査に参加する様々な部門の担当者及び管理職との確認と合意が必要です。このプロセスを正しく経るこ とで、正しい投資を承認してもらうことに寄与します。

導入効果の算定は、コンサルティング企業が中立的な立場から効果を算定するサービス(有償サービスの場合あり)を行っているので、このようなコンサルティング企業の協力を得ることもひとつの方法です。

 

 

問い合わせ情報

お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 にご連絡ください。

 

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