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EAMの勘所:第8回 RCMの考え方と管理手法(3)

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設備階層(設備の構造・上下関係)の分析と台帳作成

EAMの勘所とは

企業資産管理を円滑に行うために「EAMの勘所」と題して定期的にコラムを掲載していきます。
第8回目は「RCMの考え方と管理手法」に関して、設備階層の分析と台帳作成についてご紹介いたします。

RCM活動を行うための組織作りが完了したら、実際のRCM活動を開始することになります。その最初の第一歩は設備階層の分析を行う作業です。通常 「大きな設備」は「小さな設備」から構成されているためにその構造を分析して管理対象を決定する必要があります。しかし通常プラントには数限りない設備が あり、これを一度にRCMの手法を使用して分析・管理することはRCM活動にあてがえる技術者の数の制限などで事実上不可能です。つまり優先順位をつけて 継続的に活動しないと企業や組織が管理する資産の全般に関してRCM活動を実施することが出来ないことを意味しています。
そのためには「RCM計画の策定フェーズ」でRCM活動の全体的な方向性、対象範囲、優先度の設定方法などを決定しておくことは非常に重要です。以下に設備の重要性に関する評価の一例を示します。

表1:設備の重要度

重要度 説明
環境に対するインパクト その設備の故障によって周辺環境に汚染を及ぼし、周辺住民の安全で快適な生活環境を脅かすような事態に発生する可能性のある設備・プロセス。この 問題が発生すると、社会的な責任を問われ経営陣や組織の長の辞任・解任などに発展する可能性があるばかりではなく、投資家からの資金調達、売上げなどに大 きな影響を与える。
安全に関するインパクト プラントや工場で作業を行っている作業員の安全を脅かすような可能性のある設備。安全装置、防火設備、遮蔽版など設備の故障によって人身事故に発展する可能性があるもの。
ミッションに対するインパクト 製造装置や物流機器など企業や組織の目的を達成するためのミッションに使用される装置。一般的に経済活動に要点を置くためにこの機器に分類されるものを最重要と考えがちですがこれは企業や組織の体質を反映するもので、注意が必要です。
経済性に関するインパクト 運転や運営の効率を向上させるために導入されている機器で、その設備が動作しなくとも組織や企業の活動を非効率ではあるが継続できるもの。

1. 設備台帳の整備

RCM 活動を行うにあたり最初に準備するもっとも重要なものが「設備台帳」です。設備台帳は通常コンピューター・システムで管理されていたり、また は部門単位・個人単位のスプレッドシートなどで管理されていたりしますが、その詳細度はまちまちです。またPI&Dなどの図面上にのみ記載されているよう な場合もあります。このバラバラで標準化されていない設備情報を一つの統一されたデータベース上に登録し標準化を行うことが必要です。この作業でもっとも 大変な作業は「設備データの洗い出しの範囲を決定し、その情報を実際に集める」ことです。一般的に人間はマスター・データを作成すると、その情報を信じ、 その情報に基づいて判断や活動を行うようになります。従ってRCM活動のマスター情報となる設備台帳に対象機器が正しく登録されることを保証することは非 常に重要で、漏れがあるとその設備や対象に対して注意が向けられなくなり、後に重大な問題の発生のつながる場合があります。この問題を防止するためには以 下の2つの分類で管理します。

表2:設備台帳の整理

台帳分類 説明
MEL Master Equipment List (Minimum Equipment List) MELはその企業や組織でRCMの活動対象になっている全ての設備情報を登録するデータベースです。RCMの活動の対象如何にかかわらず、資産管理の観点 から全ての設備データを登録します。MELではその目的が「管理対象の漏れ」を防止することにあるため設備の詳細な情報を収集する必要はありません。
OEL Optimized Equipment List OELはMELから設備の優先順位に基づいてRCMの活動の対象として選ばれた設備で、詳細な設備情報を記録するとともに、RCMの活動でその情報が管理されます。

実 際のRCM活動でMELとOELを別々のデータベースに登録する必要はなく、一般的には一つのデータベース上の分類として区別します(つまり、RCMの 対象になっているか、まだそうでないか)。右にその関係図を示します。RCMの活動は一挙に全ての機器に適用することが出来ないため、長期の活動の中で OELの対象機器をMELの対象機器に近づけていくための管理指標でもあります。
図:1 MELとOELの関係

 

 

 

図:1 MELとOELの関係


 2: 機能(Function)の定義と分析

設備台帳(一般的にはOELに分類される機器を対象として)設備の階層や上下関係の分析をおこないます。ここでの考慮点は「物理的なコンポーネント」という 見方で見るのではなく「機能(Function)」という見方で設備の階層構造を分析していきます。分析の手順は図2の通りです。

図:2 設備台帳の作成と構造の分析

 

 

 

 

 

図:2 設備台帳の作成と構造の分析(クリックして拡大)

たとえば航空機であれば、航空機を構成するシステム、機能を下記のようにマッピングを行い最終的に設備、機器、部品レベルまで機能階層を分析します(実際の 航空機では下記のようにシンプルなものではありません)。最終的にツリーのもっとも下位の階層にある設備や機器、部品を特定して管理を行います。

図:3 機能階層の例

 

 

 

 

図:3 機能階層の例(クリックして拡大)

RCM 活動では設備階層を機能レベルで出来るだけ詳細に分析し、階層化して整理することでRCM活動の対象とすべき故障モードを漏れの内容に識別することが重要 です。このためにはファンクション・ツリーやフォールト・ツリーなど信頼性工学で説明されているような手法を対象分野によっては用いる必要があります。こ こでは信頼性工学の詳細には触れません。詳しくは信頼性工学の教科書や参考書を参考にしてください。


 3. RCMの基本的考え方の復習

ここで、設備台帳を作成する前にもう一度RCM活動とは何かについて復習しておきましょう。

【RCMは機能(ファンクション)を基本とした活動】
RCMはシステム(系)及びその機能に対して活動を行うもので、単に設備やその運転の目的に対して行う活動ではありません。複数機器の利用による機能の冗 長性など、機能に関する信頼性の改善という目的ではなく、設備のライフサイクルを伸ばし、調達及び運用上コストを低減することを目的として活動するもので す。信頼性中心保全は「信頼性」という言葉が使われていますが「信頼性」を向上するための活動ではありません。

【RCMはシステムにフォーカスします】
RCM活動では個別の設備や機器の機能よりも、システムの“機能”により着目して活動します。

【RCMは信頼性を中心として考慮して行きます】
RCMでは実際の状況に準じて故障を統計学的に扱います。設備の運用期間と故障との関係は非常に重要です。RCMは単に設備の故障率のみに着目して分析を行うのではなく、設備の運用期間や条件など様々な状態における確率を考慮に入れます。

【RCMは設計限界を認識させます】
RCMでは設備の設計段階から起因する信頼性を管理することを行い、信頼性の変化は保全よりもむしろ設計から大きな影響を受けていることを認識させます。 保全活動はあくまでもその設備が本来持つ設計段階で作りこまれた信頼性レベルを保つことを行うのみです。しかしRCMの保全活動ではメンテナンス活動を通 して設計に情報をフィードバックしオリジナルの設計基準を改善させます。また感覚的に分かっている設備の寿命と、本質的または実際の寿命に相違があること を認識させます(カタログに記述された設備の寿命と実際は異なるものです)。これにより設備寿命全体を理解できるようになります。

【RCMは安全と経済性を基本として活動します】
環境や安全には“それが脅かされたときの大きなコスト”が含まれます。従って経済性を正確にきちんと考慮することは全てのRCM活動の尺度になります。

【RCMでは全ての故障を定義します】
機能の喪失、運転の中断、品質の低下など、全体に着目して設備を分析することで、起こりうる全ての故障を識別します。

【RCMは論理的なツリー分析手法を用いて保全活動を規定します】
全ての対象機器・故障モードに対して一貫性のあるアプローチで保全の活動内容を定義します。すなわち担当者や部門の違いによる濃淡を防止し、リスクを低減します。

【RCMの活動は実現可能でなければなりません】
RCMの設備階層、故障モードの詳細度、保全活動内容は現実に実行できる範囲で設定されなければなりません。また活動内容は各故障モードの性格にあったものにしなければなりません。

【RCMの活動は効率的でなければなりません】
RCMの活動内容は実際コストを伴うために、経済性や効率を考慮にいれて検討しなければなりません。そもそもRCM活動は経済性を全体的な評価に基準として活動する仕組みだからです。

【RCMでは3つの保全活動に分類されます】
時間や利用度を基本とする予防保全(Preventive Maintenance)、状態監視を中心とする予知保全(Predictive Maintenance)及び故障検知の3つにRCM活動で行う内容は分類されます。時間や利用度基準の予防保全ではその周期を最適に保つことが必要で す、状態監視では管理する状態を的確に選定し、また見逃さないようにするセンシティブが必要です。故障検知は内在する隠れた故障を外的な事象が発生する前 に発見することが重要です。

【RCMはLiving Programです】
RCMの活動を通して設備の状態情報を把握し、保全プログラムを最適化し、将来の設計にフィードバックを行います。従って日々のメンテナンス活動が即 RCM活動になっていなければなりません。この情報のフィードバックは最も重要で設備の寿命に起因して保全プログラムを変更して維持することが必要なるか らです。Living Programとは人間にたとえるならば人生そのもので、設備の導入から廃棄までのライフサイクル全般に関して“ゆるぎなく”適用される日々の活動です。


 4. RCMで用いる設備台帳の項目サンプル

RCM 活動で作成する設備台帳の項目サンプルを示します。RCM活動を行う場合はこのような設備台帳を準備し、RCMの対象となっている設備の機能を分析し、故 障モードを割当てて保全活動の内容を決定してゆきます。以下の例ではシステム→サブシステム→設備と3階層で記述していますが、対象となる機器の規模や性 格によりこの階層はフレキシブルに設定することが求められます。

表3:RCMで用いる設備台帳の項目一覧

台帳項目 説明
システム名 システムの名称を記述します。
システムID システムのIDを記述します。設備台帳を作成する場合、システム、サブシステム、機器などのIDは名称付けの標準(Naming Convention)を定義し、それに基づいて作成することが望ましい方法です。
システム機能説明 システムの機能を文章で説明します。
サブシステム名 サブシステムの名称を記述します。
サブシステムID サブシステムのID
サブシステム機能説明 サブシステムの機能を文章で説明します。
設備管理番号 設備の識別番号を記述します。
設備機能説明 設備の機能を詳細に記述します。
ロケーション 設備が設置されている場所を定義します。
保全管理部門 当該機器の保全を所管する部門を定義します。
保全管理者 当該機器の保全を担当する管理者を定義します。
設備重要度 各故障モード単位の優先度をもとに設備全体の重要度を決定します。
故障クラス 故障の分類の大項目
故障モード 故障が発生する詳細なモードを定義します。通常設備や機器、部品では様々なモードで故障や劣化が発生しますので、その全てを記録します。
重要度 故障が発生したときの重要度を定義します。
影響度 故障が発生したときの影響の広さに従った影響度を定義します。
頻度 故障の発生頻度を定義します。
優先度 重要度・影響度・発生頻度をもとに当該故障モードの優先度を定義します。
保全活動 故障モードに対応した保全活動を定義(例:定期検査、部品交換、試験、故障時の交換など)を定義します。
保全活動内容詳細 保全活動に内容を文章で記述します。
保全標準 保全活動を行うために作業標準(作業標準番号)を記述します。
保全周期 保全内容が周期的に実行できる場合(時間ベース、利用度ベース)その周期を定義します。
検査・測定方式 検査や試験など状態監視を中心に保全を行う場合はその方式、検査ツールなどの内容を記述します。

このほかにも故障時の修理や交換、または故障や事故が発生した際の経済的な損失を定義することでRCMの活動の優先度を決める手助けとします。


 5. RCM活動の方向性を決定するフロー

設備を分類しRCMの活動を決定するには以下のようなフローを用いて保全活動の方向性を決定します。このような決定フローはRCMの活動を行う場合、そのプロジェクトの中で決定していきます。

図:4 RCM活動の方向性を決定するフロー

図:4 RCM活動の方向性を決定するフロー(クリックして拡大)

 

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