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クレディセゾンに聞く─デジタルシフトを加速させるIT変革のプランと実践

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「サービス先端企業」を経営理念とするファイナンスカンパニーとして、顧客の利便性を徹底的に追求した革新的なサービスを生み出し続けてきた株式会社クレディセゾン(以下、クレディセゾン)様。2020年11月に提供を開始したデジタルなクレジットカードによるスマホ完結型決済サービスでも話題を集める同社は現在、全社的なデジタル変革の一環としてITシステムとIT組織、そしてIT人材のデジタルシフトを進めています。その取り組みを主導されたCIOの重政 啓太郎様(取材当時)に、具体的な計画と実践の内容をお聞きしました。
 

デジタル社会の企業ITは機動力で勝負

重政 啓太郎 氏

クレディセゾン 常務執行役員 CIO重政
啓太郎 氏 (取材当時)

当社は約3,700万人の会員を擁し、約8兆3,000億円を取り扱うクレジットカード事業を中心に、住宅ローンなどのファイナンス事業(債権残高は約2.3兆円)、約5万社にご利用いただいているコーポレートカード/法人カードのソリューション事業、デジタルマーケティング事業、資産運用サービスなどを展開するほか、アジア地域を中心に海外9カ国にも事業を広げています。学生や新社会人の皆様とクレジットカードサービスでお付き合いをスタートし、その後はファイナンスなど各種サービスを通じてお客様とともに歩みながら生涯のライフステージ、ライフイベントに寄り添い続けることをビジョンに事業を展開しています

クレジットカードビジネスは装置産業の側面が強く、当社も相応の規模のシステムを運用しています。2018年には基幹システムの大刷新も行いました。そんな当社がデジタルシフトが進むビジネスにどう対応しながらシステムを発展させていこうとしているのかをお話しします。

新型コロナウイルスの流行に伴い、我が国でもデジタルシフト、デジタル変革(DX)が一気に加速しました。これにより、企業におけるシステムの持ち方や使い方、言い換えれば戦い方も大きく変わっていくのではないでしょうか。

私はこの状況の変化を“船”のイメージで捉えています。以前は基幹システムという巨大な戦艦を作り、それを中心に船隊を組んで戦っていました。しかし、それではデジタル社会のスピードに付いていけず、これからはジェットボートのような機動力の高い小型艇を多数用意して編隊を組み、変化に応じて機動的に戦うというイメージです。実際、まさにそんな時代になってきたと感じています。

システム環境を基幹、コア業務、デジタルサービスの3つに整理

当社は現在、システム環境を大きく「基幹システム」「コア業務アプリ」「デジタルサービス」の3つに分けて考えています。

システムの状況

このうち、基幹システムでは事業の根幹となる顧客情報や決済承認プロセス(オーソリゼーション)、入出金や残高などを管理しています。これを大刷新するプロジェクトをIBMとともに行い、悪戦苦闘と紆余曲折を経てようやく2年前にプロジェクトを終え、現在は安定稼働のための体制と仕組み作りを進めているところです。

2つ目のコア業務アプリとは、入会審査や与信管理、不正トランザクション検知、債権回収などクレジット事業のコア業務で利用するアプリケーションです。基幹システムの刷新に集中するためにこれらのシステムのアップデートを抑制していた期間もあり、現在は最新テクノロジーをキャッチアップしながらモダナイズを進めています。

3つ目のデジタルサービスに関しては、スマートフォン向けアプリ、スコアリングサービス、マーケティングオートメーションなどの分野にこれまでも試行錯誤しながら取り組んできましたが、基幹システムが一段落したこともあり、これからグッとアクセルを踏み込んで取り組みを加速/拡大していこうとしています。

 

基幹機能のAPI化でシステム全体の開発スピードを向上

このように「安定させるもの」「モダナイズするもの」「フル加速するもの」という3種のシステムを全体としてうまく調和させながら進化させようと思案を続けていますが、現状、各システムはそれぞれに課題を抱えています。

まず中核となる基幹システムは頑強に構築しており、さまざまなシステムと連携します。必要に応じて連携の追加や機能改修を繰り返してきたことから全体として設計が複雑化しており、改修に多くの期間とコストがかかります。

この課題に対するアプローチはAPI化です。まず基幹システムに残すべき普遍的な機能を絞り込み、それらを石棺で固めるようにして固定化/安定化。その外側に基幹機能を整理した内部APIの層を設け、さらに外側に外部API層を設けて、外部に開放する基幹機能をAPI化していきます。今後、基幹システムにはどうしても必要なときにだけ手を加え、APIを使った開発に多くの資源を投じていく方針です。

API基盤の活用による開発スピード向上

 

コア業務アプリのマイクロサービス化による高機動化

コア業務アプリは過去何十年にもわたり、それぞれの時代のニーズに応じて構築してきましたが、1つ1つはモノリシック(一枚岩型)な構造で部分最適に作られています。システム間の連携なども必要に応じて追加してきたため、やはり改修にコストと期間がかかり、市場の変化に俊敏に対応するのが難しくなってきたことが大きな課題です。

戦略システムの高機動化

現在は各システムを吟味して可能なものはリタイアさせ、残さざるをえないものは最小限の大きさにリサイズしました。また、今後より重要になるシステムはリアーキテクトを進めています。具体的には、細かく機能分解してマイクロサービス化したうえで当社の共通プラットフォーム(Saison Platform)上でコンテナ基盤に載せて動作させます。

例えば、コールセンターの各部署が使用するアプリケーションの場合、同じアプリケーションでも業務によってニーズが異なります。そこで、全体を包含した1つのアプリケーションを提供するのではなく、マイクロサービス化した機能を柔軟に組み合わせることにより、部署単位で必要とする機能を的確かつ機動的に提供できるようにしていきたいと考えています。

 

IBM Zとパブリッククラウドのインフラ上でデジタルシフトを加速

3つ目の課題は、基幹システムとコア業務アプリが抱える課題を解決しながら、高い機動力でデジタルサービスを展開していけるアーキテクチャーを実現することです。目指しているアーキテクチャーは次のようなものです。

デジタルシフトを加速する全社アーキテクチャー

基盤部分については時間をかけて社内で議論を重ね、オンプレミスとパブリッククラウドで構成することを基本方針としました。

オンプレミスのインフラはIBM Zです。当社の基幹システムはz/OSで稼働していますが、Zは現在Linuxにも対応しています。そこで、今後はz/Linuxを導入し、基幹システムと密接に連携するコア業務アプリについてはその上で動かします。

それ以外のアプリケーションは極力パブリッククラウドに移行し、プライベートクラウドは原則として廃止します。また、オンプレミスとパブリッククラウドの間でアプリケーションの可搬性を担保したハイブリッドクラウドを実現するために、コンテナ基盤として「Red Hat OpenShift」を活用します。

これらのインフラの上で運用する各システムは、全てAPIを介して連携させることで、基幹システムをコア業務アプリやデジタルサービスとダイナミックに組み合わせて、従業員向けやお客様向け、パートナー向けの機能をスピーディーに実現していきます。

 

IT組織とデジタル組織を連続的につなげてダイナミズムを生み出す

システムについて以上のように方針を定める一方、それを推進する組織についても試行錯誤を繰り返してきました。

従来からのIT部門だけで最新のデジタルな取り組みを進めるのは難しいため、デジタル部門を立ち上げましたが、IT部門とデジタル部門の役割を綺麗に整理したり、うまく連携させたりするのは難しく、さまざまな工夫を重ねて全体としてうまく調和させようとしています。

予算や資産、人員をどう配分/管理するかも悩ましい問題です。「IT資産はどちらが持つべきか」「Web系の資産は全てデジタル部門に寄せるべきか」「両部門の間で人事異動を行うべきか」「セキュリティーなどの共通機能にはどう対処するか」といったことについて侃々諤々の議論を重ねている状況です。

まだ明確な答えは出ていませんが、私自身が至った結論の1つは、ITとデジタルを2軸で捉えることには限界があり、最終的にはこれらを連続的につなげていくべきだということです。現在はその考えに基づいて組織や人の配置を進めています。

社内IT/デジタル組織

システムができることとデジタルでやりたいことは必ずしも一致しておらず、これらが健全なかたちでぶつかり合うことでダイナミズムが生まれ、新たな知恵も湧いてくるのだと思います。デジタル技術を活用してビジネスを生み出そうとする人たちと既存のものも含めたITを駆使して実際のシステムを構築する人たちが良いかたちでぶつかり合えるような環境を作りたいというのが私の切なる思いです。

 

今後は“ビジネス×システム”なハイブリッド人材の価値が高まる

デジタルシフトを実現するには人材のシフトも進めなければなりません。従来型のITの世界では「ビジネス要件を考える人」「システム要件を考える人」「開発する人」「保守する人」といった具合にウォーターフォール開発の工程に沿って人材を配置してきましたが、これらの人たちをデジタル時代に必要とされるデザイン思考やDevOpsの世界にシフトするといったことを進めています。

これに関して私が感じるのは、これまでビジネス要件を担当していた人は、年齢にかかわらず比較的デジタルでもやっていけるということです。これらの上流領域における頭の使い方は本質的に同じなのかもしれません。

一方、中流の領域については、開発手法へのこだわりがある人などもいてまちまちです。本人の意識次第でうまくフィットする人もいれば、苦労する人もいるかもしれません。

運用の人材は最も転換が難しいところだと思いますが、RPAのような新しい技術にすぐに適応し、従来と異なるオペレーションもうまくこなしてシフトできたりする人もいて驚かされます。

これらを進める中で私が強く感じているのは、ビジネスをやる人とシステムをやる人の境目が曖昧になってきており、今後は両方の素養を持ったハイブリッドな人材の価値がどんどん高まっていくだろうということです。工程の視点で見ても、特定のフェーズに特化した人材よりも各フェーズ間をプロデューサーとしてつないでいけるような人材のニーズが高まり、社内での価値も高まっていくと思います。

IT人材のシフト

 

IT投資も守り偏重から攻めの配分へ

IT投資の配分も変えていかなくてはなりません。企業のIT予算の8割はSoR(Systems of Record)を中心とした既存システムの保守運用で使われ、攻めに回せているのは2割程度だという話をよく聞きます。私も当社の予算配分を計算してみましたが、確かにそれに近い割合でした。それを今後は守りを減らし、攻めを増やして5対5の配分にまで持って行くことが目標です。

守りがSoRだとしたら、攻めとはSoE(Systems of Engagement)だとよく言われます。加えて、当面はデータ分析やAIなどSoI(Systems of Insight)の領域も大事だと思っており、これらにしっかりと資源を配分していきたいですね。また、いろいろと試行錯誤することにも効用がありますので、わずかですがR&Dにも投資していきます。

戦略的なIT投資配分

予算の組み方についても、各組織の要求をそのまま積み上げて編成するのではなく、経営レベルの判断も加えて意識的に増減させながら、デジタルシフトを促進していきたいと思っています。

 

DXとは企業全体をデジタルシフトすること

このようにデジタルシフトを進める中で強く思うのは、DXとはITに閉じた話ではなく、事業そのものを転換する取り組みであり、成功させるためには会社全体が変わる必要があるということです。その中でIT部門の役割も大きく変え、ビジネス部門のパートナー的な存在になっていくべきでしょう。

また、古いものをそのまま放置して新たにデジタルな取り組みだけを進めるのは無理です。従来からあるもの全てを引き連れながらシステムも会社も全体として方向転換していかなければなりません。

そして最後は人であり、デジタル時代に求められる役割に応じて既存の人材をシフトしていくとともに、足りない人材は外部から取り入れて組織を活性化していくことが私たちCIOの最大の務めだと考えています。

 

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