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2020年は保険会社にとって異例の1年でした。 そのような環境の中でテクノロジーが保険会社をどのように支援したかをご紹介

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原口昭則

日本語訳監修

原口昭則
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
保険・郵政グループ サービス事業部
アソシエイト・パートナー

保険・郵政グループ サービス事業部にて、お客様のデジタル変革に向けたサービスビジネスを推進。これまで18年以上にわたり、ITスペシャリスト、Client representative、営業部長として保険業界をご支援。社長補佐を経て、2020年より現職。

異常気象への対応から、在宅で行う保険金請求査定まで、保険会社には激動する世界に対応する新しいソリューションが必要な転機を迎えています。

この1年間、この記録的な山火事は保険会社が対応を求められる課題に追加されました。

2020年半ば頃、保険会社は最悪の事態に備えていました。 新型コロナウイルスによるパンデミックと、その結果生じた経済的な混乱から、複数の産業は瀬戸際に立たされました。 世界各地で山火事が発生し、大西洋では史上最多のハリケーンが発生しました。

それでも、年末の業績は、ほとんどの保険会社が想定よりもよかったと言えます。 むしろ、保険事業の一部のセグメントは、とてもよい業績だったとも言えます。

例えば、春には、ステイホームの環境にいるドライバーが増えたため、自動車の保険金請求が急減しました。夏になると、ソーシャルディスタンスを考慮した新しいライフスタイルに適した保険契約を求める顧客が増加しました。

「人々は今までとは違う何か新しいことを求めていました。。ボートを買い、RV車を買い、セカンドハウスを購入するなどです。」と、IBMの マネージング・ディレクターでState Farmを担当しているCrystal Johnson氏は、インタビューで語りました。 「業界全体で、保険契約数が増加しました。」

ボラティリティ、つまりリスクを予測し、それに対する保証、安心を提供すること、それが保険会社の仕事です。 しかし、近年の中で最も予測不可能で、保険会社含めて誰もが予想しなかったようなことが起こった一年の中でも、成功した企業にはいくつかの共通する特徴がありました。 多くの場合、世界が混乱する前から、準備をしていたということです。

予想しないことを予期する保険ソリューションを発見すること(英語)。

成長した保険会社は、事業構成と事業展開地域の両面において分散化が進んでいました。 そして、こうした保険会社は革新なアプローチをとっていました。 テクノロジーをうまく取り入れ、ますます複雑化する保険契約だけでなく、在宅勤務など分散した労働力も管理するのです。

IBMの保険担当グローバルゼネラルマネージャーBea Elbertは、「保険会社は、顧客のニーズを懸命に再考し、透明性が高く、シンプルなサービスを提供し、他社でも取り扱っているような一般的な保険商品ではなく、オリジナリティのある商品を開発しようとしている」と語ります。 「パンデミックを通じ、保険の意義は様変わりしました。」

 

デジタル化を急ぐ保険会社

パンデミック以前でも、大手保険会社はAIやオートメーション化を導入し、保険金請求処理の効率化と精度の改善を進めていました。 このような会社はパンデミック以前より、迅速な処理ができる環境があり、パンデミックの変化にも対応ができました。

保険調査員はパンデミックがもたらす環境の変化に適応できる

「例えば、画像解析をつかった保険金請求システムが既に導入されている場合、車両や家屋の損傷をリモートで迅速に評価できる会社は、そうでない保険会社よりもはるかに好調です」と北米の保険業界を担当するIBMのアプリケーション ・イノベーション・ チーム(英語)を率いる Girish Ratnamは説明しています。

Ratnamは、ドローンを導入して、災害地域の迅速な検査に役立てている(英語)保険会社もあるといいます。 また、保険会社のアプリやサイトには、消費者自身が写真や動画を送信できるように機能拡張がされています。これはパンデミックのような異常事態では被保険者の安心を支え、平時でも申請時間の短縮に繋がります。

このような自動化された技術は、特に携帯端末やアプリに事前に情報がアップロードされている場合、現場の保険調査員の仕事をよりサポートすることができます。 保険調査員は、災害現場の訪問や、日常的な保険金請求の精査の際、数分で顧客に返答を戻すことができます。

「保険調査員はすべてを携帯端末でできるようになりました」とアリアンツを担当するIBM マネージング・ディレクターであるEddie Gaehwilerは説明します。 「保険調査員は手元の端末を見て、必要とする情報を見つけ、 『私がオファーできることはこれです』と保険金請求を現場で解決することができます。オフィスさらで時間と費用をかけたり、さらには報告の結果を待つ必要もありません。」

パンデミックの間、賢明な保険会社は、保険の申し込みと保険金請求の両方をできるだけシームレスかつシンプルにする(英語)方法を追求しました。 鍵となるのは、デジタルでモバイルフレンドリーなプラットフォームの拡大でした。

新型コロナウイルスのパンデミック中に、デジタル環境におけるセルフ・サービスが今までよりも求められるようになりました。

「私たちは保険会社の顧客のデジタル体験を改善し、5回のクリックではなく1回のクリックで取引を完了できるようにするため、保険会社と協力しています」とRatnamは述べました。

しかし、特にカスタマー・サービスや複雑な保険金請求に関しては、直接的な顧客接点がまだ重要な役割を果たしています。 だからこそ、パンデミックによる変化の中で、リモートからでも対応できる新しい働き方を確立することは、保険会社にとって非常に重要だったといえます。

「保険を購入する時、時には人との接触によって確認したいことがある」とJohnsonは指摘します。

多様な商品とビッグデータ

2020年は、保険種目によって経営指標への結果は大きな違いがありました。

S&P Globalは(英語)、厳格なロックダウン対応は、自動車保険と医療保険の保険金請求に対して、いずれも損害率に「好影響」を与えたといいます。 車の運転と緊急性の低い手術が減少したことで、車両も人身も共に事故(保険/給付金請求)が減少しました。

一方、比較的低調だったセグメントの中に、不動産/火災保険があります。 米国では人々が家で過ごす時間が増えたことで、火災やハリケーンによる家屋のダメージに気が付いたり、気に掛けることが増えたためと考えられます。 パンデミックによって、サプライチェーンの大規模な混乱が生じる中、建築資材に対する需要が急増したため、顧客が建物の修理をすることは一時的に難しいケースもありました。

新型コロナウイルスのため、運転する機会が減り、自動車保険の保険金請求は減少しました。

先に述べたカスタマー・サービスと同様に、適切なテクノロジーの活用は、事業部門の業績が揺らぐ中でも保険会社の成功を支援することができます。 そのため、ポートフォリオの分散がこれまで以上に重要になっています。

保険会社は、リスクを分散するため、かねてから取り扱う保険のタイプや地域の拡大を目指してきました。 規模の経済を発揮できることは、データ活用における重要な強みにもなります。 顧客基盤が大きくなればなるほど、保険会社が顧客情報を保存し、分析するために作成するデータレイクが深化します。 この分析は、ダイナミックプライシングや営業活動など、意思決定につながるインサイトを提供することができます。

最終的には、保険会社は顧客だけでなく、建築資材の供給業者や自動車メーカーなどの新しいエンタープライズのパートナーとの連携にもデータを使用することで、新しい需要や思いがけない混乱にそれに備えることができるとRatnamは予想しています。

「保険業界でサプライチェーンが話題になることは稀でした」とRatnamは言います。 「今年はそれを検討し始める年になるでしょう。」

家で過ごす時間が増えたことによって、住宅関連の保険金請求が増加しました。

また、保険会社はデータアナリティクスも活用し、サイバーセキュリティから走った分だけの自動車保険、高齢者の在宅介護まで、新しい商品やサービスの展開を判断することもできます。 大手保険会社が新鋭のスタートアップ企業のようなやり方で、現在の保険業界の状況を変えていくことは極めて重要であるといえます。

「2020年の混乱後、保険が単なる受動的な業界に戻ることは決してないだろう」とElbertは語りました。 「保険会社は、顧客のためにもっと能動的に動くようになります。」

 

資金を節約し、機動力を維持

この1年間に混乱した要素の一つに金融市場もありました。 これも適切にテクノロジーを活用することで、保険会社に与えうる影響を軽減することができます。

今後1年間、2つの問題によって無視できないダメージが生じます。  1つは金利の低下(場合によってはマイナス金利)によって、資産運用面でのリターンが低下し続けていることです。もう1つは、パンデミックに関連して予算が厳しくなった保険顧客は2021年に保険を購入する余裕がなくなり、既存の保険契約を解約せざるを得なくなったり、新規保険契約を手控えたりする可能性があります。

したがって、利益の増加と株価の回復を目指す保険会社にとって、コスト削減は2021年の最優先事項となります。 ここでも、プロセスの自動化は経費のかかる手作業の削減に貢献します。 人工知能による分析は、将来のニーズや課題の予測を支援し、保険会社が事前に計画し、コストのかかる間違いや誤算を回避するのに役立ちます。 また、AIや大規模パートナー契約を通じ、IBMのような会社にプロセスをアウトソーシングすることも有望な対応策です。

「当社には世界中の数百の保険会社のお客様との、規模の経済と、コスト効率の高いインテリジェント・ワークフローを提供するテクノロジーがある」と、Gaehwilerは説明しました。

多くの保険調査員は、デジタル・ ツールを使用して、保険請求をリモートで検討しています。

このような効率化よって、保険会社は目先の経済的な混乱を乗り切るだけでなく、顧客経験の向上、さらには継続的なデジタル・トランスフォーメーションの実現に向けて経営資源を投資することができます。

「優れた顧客経験を維持しながらコストを削減することは、保険会社が機動力を維持し、競争力を維持するために、極めて重要なことである」とJohnsonは語りました。 「その両方を支えるのは、データとAIです。」

2021年は少し状況が改善していくかもしれませんが、保険会社が過去1年間に何かを学んだとすれば、当たり前のことなどないということです。それでもテクノロジーが、不測の事態に備えることを支援したということは確実といえるでしょう。

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