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Smarter Business

あらゆるビジネスのデジタル化を加速する“次世代ITサービス”。 変革へ導くIBMのDynamic Deliveryとは

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黒田 恭司氏

黒田 恭司氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
クラウド・アプリケーション・サービス担当
理事

クラウド・アプリケーション・サービス部門の責任者。エンタープライズ・オートメーション部門の責任者を経て現職。
また、グローバル・ビジネス・サービス事業本部全体のプロジェクト・マネジメント・プロフェッションの責任者として、4年に渡りコンプレックス・プロジェクト・マネジメントのイニチアチブを立ち上げ、プロジェクト・マネージャーのコミュニティ活動を通じて、プロジェクト・マネージャーの育成に携わっている。

太田 圭子氏

太田 圭子氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業本部
プロジェクト品質技術推進・標準化推進担当
部長

プロジェクト品質技術推進・標準化推進部の責任者。
グローバル・ビジネス・サービス事業本部のプロジェクト開発・管理手法、ツール、品質保証レビューの展開・実施に責任を持っている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下、新型コロナウイルス)の影響を受け、多くの企業があらゆる分野で変化を余儀なくされた。その状況はITの現場も例外ではない。もともとデジタルがベースであるように感じられる分野だが、これまでは対面やオンサイトが前提であり、リモート体制の整備や自動化などのテクノロジーを取り込んだ変革が、他の産業と同様に求められている。

こうしたITシステム開発・運用の状況に対応するものとして、日本IBMはこのたび「Dynamic Delivery」なるフレームワークを打ち出した。IBM自身のノウハウや知見が詰まった次世代ITサービス実現のための取り組みとなる。

本サービスの取り組みをリードする黒田恭司氏と太田圭子氏に、今後目指すべき次世代ITサービスの姿と実現のためのステップ、その変革がもたらすビジネスの変化について聞いた。

ITシステム開発・運用も例外ではない、デジタル改革の必要性

――世界的にあらゆるものが大きく変化した2020年ですが、ビジネスを取り巻く環境と日本企業の対応についてお聞かせください。

黒田 世界中で新型コロナウイルスの感染拡大による影響が見られます。社会全体がこれまで経験したことのないようなインパクトを受け、企業は社員の安全を確保しながら事業を継続するという難しい課題に直面したことは周知の通りです。

日本では新型コロナウイルスの前から働き方改革の必要性が言われてきましたが、なかなか進捗しないという状況でした。ところがコロナ禍で人が動けない状況になり、これまでのやり方では立ち行かないことが露呈したと言えます。

さまざまな理由で進んでこなかった働き方改革、デジタルトランスフォーメーション(DX)への機運が高まったと感じています。

――バックオフィス業務のペーパーレス化など、もともと紙への依存度合いの高かった領域の変革はイメージしやすいのですが、そもそもデジタルをベースとしていた開発・運用などのITサービスもDXが進んでいる、もしくは必要ということでしょうか。

黒田 これまでのITサービスのデリバリー(※1)は、プロジェクトとしてお客様の環境でお客様と一緒に進める、もしくはお客様と物理的に離れてベンダーだけで作るというやり方がほとんどです。

(※1)ITデリバリー:
自社のITサービスを顧客に導入する(設計・開発・移行・保守運用する)フェーズを指す。サービスを売る「セル」と呼ばれる担当と区別されるケースが多い

今回の新型コロナウイルスでは、感染防止の観点からお客様の拠点での作業やヒアリングが制限されたり、新規プロジェクトの延期や遅延があったりました。業務上重要な案件なのにサービスインができない、中断を余儀なくされる、というケースが発生しました。

一方で、以前から日常的にリモートワークが取り入れられていた地域や企業ではすぐにリモート体制に切り替えることができました。IBMはほぼ100%リモートワークを実現しており、インドでサービスをデリバリーすることが当たり前のように行われています。

今後も新型コロナウイルスの脅威は続くと予想され、ITに関わる人がリモートでも仕事ができる体制を継続していく必要があります。つまり、ITサービスもデジタル変革が求められていると考えます。

そして、デジタル変革において多くの領域で言われていることですが、ポイントは「柔軟性」にあると考えています。リソースモデル、開発拠点などの進め方はもちろん、より広義に働き方改革の流れも考えながら進める必要があります。

――リモートが進んでいない日本の状況を考慮すると、ITサービスのデジタル変革をどのように進めていくことができるのでしょうか。

黒田 一部の方々の間ではもはや当たり前のように使用され、浸透したと思われているWeb会議などのツールですが、日本全体で見るとそれほど普及しているとは言えません。また、ITサービスの現場でやっと活発になってきたアジャイル開発についても、リモートでどうやるのか、本当にできるのか、と課題が出てきました。

このような課題を解決するため、IBMはシステム開発のリモート化をサポートし、“次世代ITサービス”へとお客様のITデリバリーを導くべく「Dynamic Delivery」というサービスを2021年より展開します。

実際、DXとITサービスのデジタル変革には密接な関係があります。DXを実現するITサービスをアジャイルで開発してどんどんリリースすることができれば、DXの効果や進捗に直接のインパクトを与えることができるからです。

太田 IBMは新規ビジネスや既存業務の高度化に対して、IBM Garageという手法を提供しています。これは新しいビジネスの創出を支援するもので、ここでのアイデアを形にしてデリバリーしていくことができます。

9つのケーパビリティーと5つの取り組みで企業の状況に合わせた最適解を導く

――「Dynamic Delivery」の具体的なサービス内容についてお聞かせいただけますでしょうか。

太田 さきほども申し上げた通り、Dynamic Deliveryの最大の目的は、ビジネスの継続性を支援してデジタル変革を促進することです。

働き方がリモートあるいはバーチャル上をベースとしたものに変革しているなか、Dynamic Deliveryはその上でより安全に事業継続を可能にするモデルになります。ポイントは、既存のシステムを活かしつつクラウドの適用を加速させハイブリッド/マルチクラウドの環境を整備すること、それを土台としてAIを活用した新たな競争力と事業継続力を併せ持つ企業への変革をサポートする、ということになります。

Dynamic Delivery は弊社が世界中で展開している取り組みで、フレームワークには「非対面のサービス提供」「人」「インフラ整備」の3つのカテゴリーがあります。

1つ目は「コンタクトレス・デリバリー (Contactless Delivery)」で、非対面のサービス提供”になります。バーチャル・コラボレーションへシフトするためのチーム開発を考慮したメソッド、デジタルで完結する契約処理や、プロセスを横断した透明性の高いガバナンスといった機能の提供などを含みます。

2つ目は「ヒューマン・イン・ザ・ネットワーク (Human in the Network)」。リモートチームを率いるリーダーシップ、迅速かつ柔軟な活用を目的とした専門知識を有する人材の雇用と管理、また、相互に接続されたデジタル・ナレッジ・プラットフォームなど、“人”に関連する部分です。

3つ目は、クラウド環境へシフトするための“インフラ整備”を指す「デリバリー・ファウンデーション (Delivery Foundation)」です。事業継続性や拡張性があるインフラやツール、それらに対するセキュリティーとプライバシーに関連するプラクティスの組み込みなどを含みます。

3カテゴリーに対して3つのコンポーネントがあるため、9つのケーパビリティーになります。このモデルを“問診票”のようにして、お客様がDynamic Deliveryを実現するに当たり、達成されていない領域を明確にしていきます。その課題に対して対策を取るのか、取らないのか、課題が複数ある場合にどこから補っていくのかなどを考えながら進めることができます。

弊社のグローバル・チームでは、この9つのケーパビリティーに対応させて評価ができる「アセスメントシート」も用意しています。さらに日本固有の状況に対応できるよう、下記の 5つの取り組みを実施しています。

――対応するべき課題を、自社とパートナーが同じ基準で共有できるわけですね。解決に向けた取り組み内容はどのようなものになるのでしょうか。

黒田 次世代IT開発に向けて、日本 IBMでは次の5つの取り組みで進めていきます。

1)リモートプロジェクト管理とコミュニケーションツール
2)クラウド開発・運用環境と、セキュアな基盤利用
3)開発ツールとアセット活用
4)AIを活用したITサービスの高度化
5)企業文化とワークスタイルの変革

1)、2)、4)のステップを経ることで「とにかくリモート環境を整える」段階から、AIを活用した「よりインテリジェンスな業務」が可能になる高度化実現ステージへ進めることができます。3)と5)は、全体を通じた土台となります。

企業としてデジタル変革を進める際、どうしてもテクノロジーの導入を第一に考えてしまいがちですが、上記のうち5)企業文化とワークスタイルの変革こそが、最も重要な取り組みであると考えます。企業文化がボトルネックになって変革がうまくいかないという例は、デジタル変革だけでなくさまざまな分野で聞かれます。

IBMはサービス部門の一つとしてタレントチームを擁しています。人事コンサル的なことをサービスとして請け負っており、このチームもDynamic Deliveryの一部に含まれています。

たとえば、紙の伝票や捺印などの物理的な阻害要因に対して電子署名とペーパーレス化を進めるといったことだけでなく、リモート体制においては人事評価の考え方も変える必要があります。オフィスに集まって働いた時間を評価するという考え方から、従業員が自発的に結果を「見せる化」する意識を持つことや、管理する側も成果に基づく評価を行うようにするなどといったことです。

日本IBMでは、こうした変革後の企業のあり方をまとめた「プレイブック」を作成しました。リモートワークが当たり前になった環境での働き方の全体像を示すもので、さきほど申し上げたペーパーレス化や人事評価などの変化について実践方法にまで踏み込んだものです。

次世代ITサービスへの変革が、他分野のデジタル変革を後押しするベースに

――実際に解決に向けて取り組んでいく場合、どのような流れになるのでしょうか。

黒田 4つのステージで進めることができると考えています。

第1ステージが「情報連携・コラボレーションのデジタル化」。これまで主軸となってきた人のコミュニケーションを円滑かつ効率的、効果的に行うことを目指します。Web会議やチャット形式のコミュニケーションをするためのツール導入に始まり、使用上のルールやガイドライン策定などが、この段階に当たります。

第2ステージは「セキュアなクラウド開発環境の提供」です。さまざまなベンダーが提供しているDaaS(デスクトップ・アズ・ア・サービス)(※2)などを使いながら、リモートで開発環境や本番環境にアクセスして作業ができるようにします。

長期的にリモート開発を続けていく上でセキュリティーの問題は不可避ですが、そちらについても万全のサポート体制を整えています。

(※2)DaaS(デスクトップ・アズ・ア・サービス):
クラウドサービスを利用した仮想デスクトップを指す。通常、デスクトップは個人のPC上に存在し、データは個人のPC内に保存されるが、DaaSにおいては個人のデスクトップがクラウド上に構築され、ネットワークを通じてデスクトップを呼び出して利用する形となる

第3ステージは「業務開発・基盤構築の自動化」として、高度化の取り組みとなります。クラウド環境で開発を行うのであれば、DevOps(※3)にセキュリティーも組み込んだDevSecOpsの導入や、ベンダーロックイン(※4)対策としてオープンな環境を導入するといったことについても検討が可能です。

(※3)DevOps:
ソフトウェア開発(Dev)と運用(Ops)を組み合わせた開発手法で、システム開発のライフサイクルを短縮し、ソフトウェア品質の高い継続的デリバリーを実現することを目的としたもの

(※4)ベンダーロックイン:
特定ベンダー(メーカー)の独自技術に大きく依存した製品やシステムなどを導入した際に、他のベンダーの同種の製品やシステムなどへの乗り換えが困難になってしまうこと。

最後の第4ステージは「開発・運用のインテリジェント化」です。第3ステージと少し重なりますが、AIをいかに活用するかが大きなポイントとなります。IBMではIBM Watsonを活用したプロジェクト状況の可視化/レポートなどの機能を持つ「Cognitive PMO(Project Management Office)」、AIを活用したIT運用のための「IBM Watson AIOps」などのソリューションを持っています。

これらの取り組みの段階において、我々とお客様、そしてお客様の社内において共通認識を構築するに当たって一助となるのが、先述の「プレイブック」です。もともとIBM社員向けに作ったもので、ある一人の社員の“ペルソナ”を用意して、その人がリモートワークをするに当たって問題になりそうなところをヒントとして示唆しています。

たとえば、これまで職場で人に直接聞くことで解決していたようなことも、チャットボットに質問すれば解決できるとか、自宅でも業務時間を分割して中抜け時間を活用しましょうとか、そういったことが並んでいます。

――ITサービス開発・運用の領域でデジタル変革が完了することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。

黒田 まずは、Dynamic Deliveryのコンセプトである「企業の事業継続性の担保」が挙げられます。

このほかに、ITサービスの生産性向上、柔軟性のある業務運営、ITスキル人財マネジメントと、大きく3つの領域でメリットがあると考えています。

働き方改革によりオフィスのコストや交通費の削減が見込めますし、全員がDevOps環境になるのでスピードが改善するでしょう。また、遠隔にいる優秀な開発者が、プロジェクトに参加できるようになるといったことも考えられます。それは社員だけでなく、ビジネスパートナーについても同様です。人月ではなく時間単位でのアサインということも可能になるかもしれません。

もう少し視点を広げると、ダイバーシティの向上につながり、最終的には従業員満足度の改善につながると期待されます。

一気通貫のサービスをエンドツーエンドで。IBMのアセットを集結し最適解へ導く

――ITサービスにおけるデジタル変革のサポートについて、IBMならではの強みはどこにあるとお考えでしょうか。

黒田 IBMはハードウェア、ソフトウェア、サービス、研究機関と全て備えています。また、IBMのサービスはエンドツーエンドです。たとえば、コンサルティングから実際のITのもの作りやデリバリーが一気通貫で可能ですし、BPO (ビジネス・プロセス・アウトソーシング)などのソリューションも提供できます。今回のDynamic Deliveryは、我々の全サービスをエンドツーエンドで届けるというコンセプトです。このようなコンセプトを出すことができるのは、IBMしかないと自負しています。

Dynamic Deliveryの提供に当たり、IBMではジャーニーマップを作成いたしました。新型コロナウイルスによるダメージに対応する「クライシス・カオス」からスタートし、全従業員がリモート体制になった段階の「安定化」、リモートとオフィスのハイブリッドモードをサポートするツールやトレーニングが整い、生産性の再構築が始まった「オペレーショナル」、変化する状況に柔軟に対応でき、チームがハイブリッドな環境で協業できる「レジリエント」を経て、これまで説明させていただいた「Dynamic Delivery」へと導きます。

幅広い業態だからこそ得られる知見やナレッジを生かしてエンドツーエンドでお客様のIT開発・運用のデジタル変革をサポートできます。その知見やナレッジはグローバルで共有しているため、日本でもユースケースとして展開できます。

これに付け加えるなら、IBM自身が長く変革を遂げてきたという事実があります。我々自身もDynamic Deliveryを進めており、だからこそお客様の文化やチェンジマネジメントの部分をしっかり理解して、現実的な変革のロードマップを描くことができます。

日本企業のデジタル変革は遅れていると言われています。企業により差はあるかもしれませんが、やる余地もあるし必要性も感じているというお客様は、どこから手をつけていいのかわからない、どう進めていけば良いのかわからないという状況かもしれません。

企業ごとに異なる課題について最適な解を導き出し、寄り添いながらゴールを目指していく。我々だからこそできることであると同時に、我々がやらなければならないことだと思って取り組んで参ります。

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