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データ・サイエンティストが語る新たなビジネス価値

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ビジネスの現場でもデータを活用した変革が当たり前のものとなったいま、データ・サイエンティストやそれに準じるスキルを有する人材の重要性が高まっている。そんな背景を踏まえ、企業のデータ・アナリティクスの現状や課題、将来の展望について、日本IBMの山田敦と武田智和に話を聞いた。

武田 智和
日本アイ・ビー・エム株式会社 グローバル・ビジネス・サービス ビジネス・コンサルティング デジタル・コンサルティング アナリティクス&コグニティブリーダー パートナー


外資系コンサルティング会社を経て現職。コンサルティング経歴は25年を超え、事業戦略コンサルティング、戦略コンサルティング、CRMコンサルティング、SCMコンサルティングなど幅広い経験を持つ。経営コンサルティングだけでなく、システム構築、アウトソーシングの領域の経験も有する。


山田 敦
日本アイ・ビー・エム株式会社 Distinguished Engineer (技術理事)


1995年日本アイ・ビー・エム(株)入社。東京基礎研究所にて、主に3次元形状処理の研究に貢献。コンサルティング部門に異動後、2009年に新設された「先進的アナリティクストと最適化」チームのリーダーとして現在に至る。併せてデータ・サイエンティストとして、アナリティクスによるお客様の変革を多数支援。主な出版物は、『IBMを強くした「アナリティクス」-ビッグデータ31の実践例』(監訳、日経BP社、2014年)、データサイエンティスト・ハンドブック(近代科学社、2015年)。IBM Academy of Technologyメンバー、工学博士。

 

コグニティブ・アナリティクスの重要性は認識されている一方、データ活用を阻む課題も

──まずはお二人のプロフィールや役割ついてお聞かせください。

武田 コンサルタント歴は今年で28年目になります。もともと、アナリティクスのチームを率いていましたが、現在は「IBM Watson」を含むコグニティブとアナリティクス両方を担当しています。コンサルタントという立場から、お客様のビジネスの中で、どのようにデータを分析し、活用していくのかを提案する役割です。

山田 私もコンサルタントとして、データ分析を使ってお客様の業務を変革するための提案と、提案後のプロジェクトリードを担当しています。キャリアとしては、IBMの東京基礎研究所に約10年在籍した後、コンサルタントとしてデータ・サイエンティストの仕事を約10年担当しています。

──昨今のデータ活用の現状についてお伺いします。現在、ビジネス分野においてコグニティブやアナリティクスが注目を集める背景をどのように捉えていますか?

武田 以前から、分析そのものに取り組む会社はありましたが、昨今、データを扱うことで人が気づかないことや、人が直感で捉えていることを補完し、形式知化することに大きな価値が見出されているように思えます。

その背景には、テクノロジーの進化があります。テキスト、音声、画像などの非構造データから意味のある情報を抽出することが、これまでと比べて容易になりました。機械学習分野のソフトウェア技術の進化と、GPUプロセッサーを中心としたハードウエア技術の進化が挙げられます。構造データと併せて、これら非構造データを併せて扱うことで、より大きな価値を生み出せます。

山田 加えて、これまでは前述のような分析環境を一から全て購入して整備することに、大変な労力と負担がありました。それがクラウドの登場により、使いたいときに、使いたいだけ機能と計算資源を利用することができるようになりました。

──企業におけるデータ活用の現状についてはどう見ていますか?

武田 ビジネスの可視化や原因分析のため、データ活用に取り組む企業が増えています。しかし、そうした企業が最初に直面する課題の一つが「現状を可視化する」作業です。たとえば、これまで企業の基幹システムに保存されているデータは、取引先への受発注や請求に関するデータや会計処理のためのデータというように、そもそも分析で使われるようなフォーマットになっていませんでした。

あるいは、営業やWeb、コールセンターというように、チャネル間で顧客データのコードが統一されていないというケースもあります。また、データやシステムのサイロ化という問題もあります。具体的には、お客様の声をサービス改善に活用したい、チャネル間で統合された顧客対応をしたいというとき、コールセンターとリアル店舗で顧客に関する情報が分断されているというようなケースがありました。

日本IBM 武田智和

山田 また、企業にはまだまだ「紙の文化」というものが根強く残っています。たとえば、製造工程の中で、次の工程への申し送り書や、金融業における申込み帳票など、データ化されていない業務というのも、可視化が進まない一つの要因になっています。

 

データ・サイエンティストには、課題解決の道筋を立てることが求められる

──データ活用の領域には、どんな業種、ビジネス領域がありますか?

山田 一般的にアナリティクスというと、Web解析やマーケティング、コールセンターの顧客応対を最適化するというような、フロント業務のイメージが強いかもしれませんが、基本的には全ての業務領域で適用可能性があります。

たとえば、バックオフィス領域で、社員のパフォーマンス分析に活用したケースがあります。社員が高いパフォーマンスで仕事をするために、何がボトルネックになっているかを分析、改善する取り組みです。また、財務・会計分野では、売上予測の高度化が挙げられます。四半期の売上予測を、3週目などの早い段階で見通すことができれば、その後の対策を立てる時間的な余裕が生まれます。

武田 製造領域でも、データ活用は広がっています。IoT(モノのインターネット)により、さまざまなデバイスから自動的にセンサーデータを収集、分析することで、生産ラインの効率化や予兆分析によるメンテナンスの最適化などを実現する取り組みなどが進んでいます。

──実際、ユースケースを基にして、企業へアナリティクスを提案することはありますか?

武田 たとえば、お客様から「コールセンターにこれだけデータがあるのですが、これをどうやって分析、活用したらいいですか」と相談、問い合わせを受けることはあります。ここで大事なことは、たとえば「営業力強化」という課題解決には、マーケティング、営業力など、データだけでなく、さまざまな側面からアプローチ方法があるということです。

山田 「営業力強化」のために人に着目する場合は、売れる営業マンをロールモデルに、どれだけ顧客を抱え、どんなタイミングでアプローチをするのか、というような動き方、ノウハウを形式知化し、他の営業マンが最大のパフォーマンスが出せるように効果的な動き方を営業マンにアドバイスするということが考えられます。あるいは、組織に着目して、パフォーマンスを最大化できる人員配置を考えるというデータの使い方もあります。

──さまざまな選択肢の中から、アプローチ方法やデータの活用方法を提案するのもデータ・サイエンティストの役割だと思いますが、必要なスキルや素養についてはどうお考えですか?

山田 私はデータ・サイエンティストに求められるスキルとして、「コンサルティングスキル」「テクニカルなスキル」「リーダーシップ」の3つがあると考えています。

コンサルティングスキルは、解く問題を理解する力です。聞く力、整理する力といってもいいでしょう。データだけを見ていても答えにたどり着かないので、問題を理解し、解き方の仮説を立てることが重要です。そして問題の解き方を構造化し、そこからキーとなるメッセージを探し当て、お客様に伝えていくことが求められます。

テクニカルスキルというのは、統計や数理科学という知識を引き出しとして持ちながら、目の前にある問題を、どうやったら解けるのかを設計し、また大きなデータを扱うスキルを持ちながら、設計したロジックを実装する力です。特に設計は経験を要する領域で、解くべき問題とデータの特性をきちんと理解した上で、知識と経験を活用し、ベストな解き方を導出することが求められます。

最後のリーダーシップスキルは、チームをリードしていくために人を育成すること、あるいはテクノロジーの方向を見極め、評価し、メッセージを外部に発信することなど、自分一人の作業というより、チーム全体をリードしていく力です。

日本IBM 山田敦

 

データから導く洞察によって意識を変え、パートナーとして変革に伴走する

──一般的なプロジェクトの進め方について教えてください。

山田 沢山のアイデアを集め、それらの実証・評価を、短サイクルで繰り返す進め方を、お勧めしています。これはIBM独自の方法で、コグニティブ・ガレージと呼んでいます。ガレージと呼ぶスペースに、業務の専門家であるお客様と、アナリティクスの専門家である私達が集まり、沢山のアイデアを出し、構想を整理します。

プロジェクトの進め方

武田 その構想を、クイックにプロトタイプし、動くイメージを確認します。究極的には、今日マジックで紙に書いた絵が、明日動き始めている感じです。併せて、データの意味をきちんと理解し、アナリティクスのロジックを作り、順次実装レベルを高めてきます。

山田 一定のレベルに達すると、ある地域、部門に展開を始めます。「テストマーケティング」「パイロット導入」と呼ばれるものです。効果が確認できたら、適用エリアを広げるための仕組みづくりを進めていきます。

──企業はアナリティクス導入、推進のために、こういう準備があると進めやすいというのはありますか?

山田 最初から、すべてのデータが揃っているケースは少ないのが現状です。ですから、まずは今あるデータで、どれくらいの予測精度が出るかを検証してみることが大事です。その中で、こんなデータがさらに必要というような課題が見えてくるはずです。

武田 できるところから始めるというのが、企業側としては大事なポイントです。アナリティクスをベースに企業活動を変えていくのは、時間のかかる取り組みです。データ分析の当事者にとっては「当たり前」なことでも、受け入れる側の人にとって「当たり前」とは限りません。データから導くファクトによって業務を変えていくには、少しずつ会社の意識、文化を変えていくことが必要なのです。

 

圧倒的な経験量が、IBMの強み

──データ・アナリティクスにおけるIBMならではの価値についてお聞かせください。

武田 他社にはない、圧倒的な経験量が強みだと考えています。最新のテクノロジーに関しても、多くの経験を繰り返し、知見を積み重ねています。もちろん、その中には失敗もありましたが、だからこそ有効な回避策が用意できます。また、自社でテクノロジーを持っていることも優位な点です。テクノロジーを自社に持っているがゆえに、深く課題にアプローチできる点はアドバンテージだといえるでしょう。

山田 またIBM自身が変革に取り組んでいます。IBMには「Chief Analytics Officer」「Chief Data Officer」という役職、チームがあり、会社全体でデータを活用する文化が浸透しており、この経験を持っているというのは重要なポイントだと思います。

──データ活用に関して、具体的な自社事例はありますか?

武田 お客様の人事部がさまざまなデータを解析して、退職の兆候がある社員を見つけ、その上長に「待遇を改善した方がよい」というアラートをメールで通知する仕組みを作ることができます。これは社員のモチベーションアップや離反防止のための取り組みの一つですが、データを分析していくと、社員の退職の兆候というのが傾向値として現れる瞬間があるんです。

山田 ほかにも、先ほどお話した四半期末の売上予測、営業力強化のために人員の最適な配置などにデータを活用することも、自社事例として取り組んでいるケースです。

プロジェクトの進め方

──これからデータはさらに増え続け、非構造化データなど、データの種類も増えていきます。最後に、コグニティブとアナリティクス技術が、どう世の中を変えるかについて聞かせてください。

山田 全ての業務で、コグニティブとアナリティクス技術が使われるようにしていきます。非構造化データと構造化データを活用して得られる洞察によって、お客様の仕事がますます効率良く効果的にかわっていくでしょう。

武田 今まさに、さまざまな領域・分野で自然言語や写真などの非構造化データを、企業変革、業務の高度化や効率化という目的で使われ始めています。それは、これまでは職人の知識やノウハウとして暗黙知であったもの形式知化したり、これまでは大量の記録文書として保存されて企業に埋没していたものを、業務高度化のために瞬時に取り出すことができるようにしたりといった形での活用が始まっています。


ツールとしてのコグニティブ・テクノロジーは、APIを通じて誰でも簡単に利用できるようになり、データ分析はさらにスピードアップしていくでしょう。そのために必要なアナリティクス・ソリューションの詳細は、下記よりご覧ください。