S
Smarter Business

IBMが共創する、デジタル時代の金融機関に求められる人材育成と組織環境とは

post_thumb

酒井 大輔

酒井 大輔
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
金融サービス事業部
アソシエイト・パートナー

国内大手金融機関、外資系コンサルティング・ファームを経てIBM入社。IBMでは、「金融×デジタル」をテーマとした戦略コンサルティング組織および金融イノベーションラボを立ち上げ、リーダーとして全社ビジョン・成長戦略策定、全社デジタル・トランスフォーメーション戦略策定、次期中期経営計画策定、先端技術活用戦略策定、新規事業・サービス創成、コンセプトムービーコンテンツ制作、DX人材育成などのプロジェクトに従事。また、IBMビジネスシンクタンク(IBM Institute for Business Value)に所属し、IBMの金融業界Thought Leaderとして、講演などを通じて次世代金融ビジネスのあり方を提言している。加えて、プロジェクト外での人材育成にも力を入れている。IBM社内ではCxOアジェンダの問題解決思考力を開発する全社研修プログラムを企画・リードしている。社外では早稲田大学非常勤講師(2021年プロフェッショナルズ・ワークショップ「デザイン思考・テクノロジーを活用した新規事業・サービス創生」)を担当。

 
コロナ禍が叫ばれて久しい中、DXに関する金融機関からの相談内容が、従来の「Why(なぜDXが必要なのか)」「What(目指す姿は何か)」から、「How(どうやって実現するのか)」に大きくシフトチェンジしてきている。

多くの金融機関がDXに向けて走り出し、デジタル時代の「人材育成」と「組織環境」における課題が浮き彫りになってきた。当連載では、この2つの重要課題に対するDXの「How」を、IBMおよび金融機関の最新事例を交えて全3回で解説する。第1回となる今回は、IBMの取り組みにフォーカスして解説したい。

「ビジネス・テクノロジー・デザイン」のスキルを持つBTD越境人材が求められる

第4次産業革命と言われるデジタル時代では、「破壊的なテクノロジーの実用化」「企業と消費者のつながり方」といった劇的な変化により、伝統的なMBA取得を通じて得られるような経営戦略や財務会計、戦略思考など、いわゆる「ビジネス」のスキルや知見だけではビジネス環境に適応できなくなってきている。

これからは、「ビジネス」だけではなく「ビジネス・テクノロジー・デザイン」の3領域のスキルや知見を有機的に結合させる「BTD越境人材」が求められるのだ。

BTD越境人材が求められる背景や理由の詳細は、筆者の過去連載「IBM金融イノベーションラボが共創する、銀行に求められるDXケイパビリティ」やデジタル時代の人材像に関する多くの書籍に解説を譲りたい(参考書籍は記事末に記載)。


出典:IBM

BTD越境人材をもう少し具体的に言うと、以下のような人材像と定義される。

  • テクノロジーでできること」と、相反する概念である「テクノロジーでは代替えが難しい人間の感性や感覚(デザイン)」の分断・対立した部分を橋渡しできる
  • 上記を踏まえ、競争優位性を確保した、手触り感のあるビジネススキームを作って実現できる

ただし、これは非常にハードルが高く、個々人で実現するのは極めて難しいため、組織で実現させることが求められる。

その参考となる取り組みとして、筆者が立ち上げリードしている、BTD越境人材を組織で具現化するための組織横断コミュニティ「金融イノベーションラボ」と、金融DX人材ハブを目指す「デジタル・リインベンション・コンサルティング」を紹介する。


「金融イノベーションラボ」「デジタル・リインベンション・コンサルティング」「社外」の関係性マップ(出典:IBM)

金融イノベーションラボ

筆者の過去連載「IBM金融イノベーションラボが共創する、銀行に求められるDXケイパビリティ」にてお伝えした通り、金融イノベーションラボは「デジタル技術やデータを活用した体験重視の新しいビジネス価値の創出」を目的とした組織横断型コミュニティである。

コンサルタント、研究者、データサイエンティスト、デザイナー、クリエイターなど組織をまたがったメンバーで構成されており、「ビジネス・テクノロジー・デザイン」のスキルや知見を補完し合い、越境しながら高め合って、顧客にIBMの総力を結集したバリューを提供している。

一般的には、組織をまたがった多様な人材でプロジェクトを進めようとする場合、「担当役員が違う」「組織的な壁があって上手くいかない」ということはよくある話だが、なぜ、IBMの金融イノベーションラボでは組織を横断した活動が実現できているのだろうか。

要因は、外発的な動機である「全社イニシアチブの枠組み活用」「エコシステムを形成しやすい仕組み」と、内発的な動機である「コアメンバーの強い想い」ではないかと考えている。それぞれについて解説する。

全社イニシアチブの枠組み活用
IBMは、2020年6月に「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」という、「デジタル変革に向けた経営レベルの課題解決を、金融業界の顧客と共に推進するための包括的な枠組み」を発表した。金融イノベーションラボは、当該枠組みの一部である「新しい働き方の実践と人材育成のためのコミュニティー」となる。

「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」は、日本IBM社長の山口明夫が記者会見なども行った、社長肝煎りの全社イニシアチブであるため、事業部が違っても担当役員の理解を得やすい。筆者の過去掲載のとおり、変革が推進できている企業は、金融機関のみならず、トップがコミットメントした明確なメッセージを発信している。つまり、「トップのコミットメント」というのは社内の組織を動かすにはとても有効と言えるだろう。

エコシステムを形成しやすい仕組み
IBMも一般的な事業会社同様、組織毎に売上目標設定がされている。ただし、「他組織への貢献が評価される」「管理会計上、売上実績をダブルカウントできる」といった協業を促進するKPIが設定されているため、組織を超えた貢献へのインセンティブが働く仕組みとなっている。

コアメンバーの強い想い
バックグラウンドや考え方などが全く違う職種のメンバーと協業していくのは、当然ストレスのかかることで、自組織内だけで個別最適で動いていた方が楽であろう。つまり、上記のような仕組みは外発的な動機付けとして極めて有効だが、必要条件であって、十分条件ではない。

やはり、「IBMの総力を結集して、顧客のビジネスを真に変革したい」という内発的な動機付け、強い想いがあり、それを共有しなければ、組織を横断した協業はそもそも始まらないし、長続きもしないのである。

さらに、これらの仕組みを担保するため、内発的な動機のあるメンバーを採用する、現状メンバーを啓蒙するといった継続的な取り組みも欠かせないだろう。

デジタル・リインベンション・コンサルティング

デジタル・リインベンション・コンサルティングでは、「越境による能力開発を意識したアサイン」「社内外の人材交流」によって、社内外におけるBTD越境人材の育成に力を入れている。それぞれについて解説する。

越境による能力開発を意識したアサイン
メンバーは戦略コンサルタントであるため、「ビジネス」を軸にキャリア形成している。そのうえで、「ビジネス」を越境し、専門家と協業しながら「テクノロジー・デザイン」といった領域にも一定程度関わるべく、メンバーのアサインを以下のように工夫している。各メンバーの得意領域で安全ゾーンを守りながら、新しい領域にチャレンジすることで、安全ゾーンを守りながら、新しい領域にチャレンジする機会を促しているのだ。

  • 先端技術を活用した市場ビジネス変革のプロジェクトの場合
    市場ビジネスの知見・経験はあるが、Broad AIや量子コンピューターといった先端技術の知見は十分ではないメンバーをアサイン
  • 新規サービスUI/UX構想プロジェクトの場合
    新規サービス構想の知見・経験はあるが、サービスのUI/UXのコンサルティングは未経験なメンバーをアサイン

社内外の人材交流
社内外の人材交流を積極的に行っており、多様な視点を養うとともに、人材ハブ機能の発揮を目指している。

社外

  • メガバンク・地方銀行などから研修出向トレーニーとして銀行員を受入れ、DXを推進するコンサルタントとして育成
  • 第三者のコンサルタントとしてではなく、出向という形態で、メンバーを銀行員として地方銀行へ派遣し、DX推進を現場でドライブ

社内

  • IBM東京基礎研究所と当チームの連携強化およびスキルや知見のシェアを目的とした研究者の受入れ

また、妄想レベルのステータスだが、将来的には、当チームにデザイナーも受け入れる、あるいは当チームからもIBMの研究所やデザイナー専門部署にメンバーを派遣していくことで、より多様な視点を養うことも考えている。

このようにIBMでは、中長期的な視点に立ち「ビジネス・テクノロジー・デザイン」のスキルや知見の向上、「BTD越境人材」の育成と実現に向けて、社内外を巻き込みながら組織的に取り組んでいる。さらに、このような自社の取り組みを通じた学びを、金融機関のご支援にも活かしている。

次回は、IBMによる金融機関の伴走型ご支援事例について解説する。

 
デジタル時代に求められる人材像についての参考書籍
『イノベーション・スキルセット~世界が求めるBTC型人材とその手引き』(大和書房)田川欣哉著
『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』(ダイヤモンド社)佐宗邦威著
『感性思考 デザインスクールで学ぶMBAより論理思考より大切なスキル』(SBクリエイティブ)佐々木康裕著