読書メモ

『住宅幸福論』に見る、家と街と一緒に幸せをつくる方法

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先日、LIFULL HOME’S総研の「住宅幸福論 Episode.2 幸福の国の住まい方 ー日本・デンマーク住生活比較調査ー」記者説明会に参加してきました。

HOME’S総研の島原所長の説明はおよそ90分間で、そのあと、いただいてきた約250ページの本を読んでいるのですが…深過ぎ!「住まい」という切り口から、ここまで深くデンマークという国とそこに暮らす人びとにメスが入るとは。読みどころと考察どころに溢れまくってます。

 

本当にポイントがたくさんあって、おそらくは読む人によって山場は異なることでしょう。ここではいくつか私にとって気になるところを紹介します。

と、その前に。この本は「住まい」をど真ん中に置いて調査・分析し、デンマークと日本を対比していますが、その前提となる文化や歴史までしっかりと踏まえて書籍内に取り込んでいます。デンマーク研究家として「デンマークという国の特徴と本質が分かる一冊」としてオススメします。

 

PDFダウンロードはこちら。郵送の申し込みも受け付けているそうです。

住宅幸福論 Episode2 幸福の国の住まい方 

 

■ データから見るデンマークと日本の違い

・ 自分にとって住居とは? (本文p76より)

16の項目(複数選択可)に対して50%以上の人がYESと答えたものがデンマークは6個あるのに対して日本は1つだけ。そして日本の方が割合が上回っているのは1項目だけ。

 


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デンマークの人たちは、積極的に住居がなんであるかを定義し、自分がそこに求めているものやことを自覚しているということでしょう。本から一部引用します:

「自分の趣味や好きなものを揃える場所」「自分の個性やライフスタイルを他人に伝えるもの」など、自分のスタイルを培い、発信するメディアとして考える人がデンマークには多いということ、「家はそれ自体が趣味」など、住むこと自体の楽しみを見出す人も多い

 

・ あなたにとって理想の住まい像とは? (本文p82より)

この設問でも19の項目から圧倒的にYESと「選択している」デンマークに対し、日本の答えは「薄い」感じです。こんな表現ができると思います:

  • 日本: 最新設備や大手企業による、雑誌に載っているようなオシャレな出来合いの家を求めている。
  • デンマーク: 家より内装。植物やインテリア、DIYなどで創造性を刺激する家を作り上げていく。

 


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さらに、こういう表現もできるのではないでしょうか:

  • 日本: 自身の住まいに「世間一般の理想像」を求め、関与し合わない。
  • デンマーク: 自分と住まいの間で刺激を与え合いフィードバックループが回る、インタラクティブな関係。

 

・ 「街」について気に入っている点 (本文p116より)

前2問以上に、回答の「濃さ/薄さ」が顕著で、日本とデンマークの乖離が大きいものがほとんどです。そんな中でも特に目を引くのが「道路・交通機関などのインフラ整備」「自然に触れられる機会」「通勤・通学のしやすさ」「自分らしくいられる」という項目。

これは市民の1/3以上が自転車通勤で、自転車に優しい道作り街づくりをしているコペンハーゲン市の施策の成功の現れと言ってもよさそうな気がします。

 

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他にもこの表に現れていると思われる点を、一部本から引用します。

注目すべきは、基層となる「安全」「快適」に関する項目におけるデンマークのスコアが高めであること、それだけでなく、「自己実現」という上層のカテゴリーでもデンマークのスコアが日本を大きく上回っていることである。

自己実現という、“精神的な”領域だけでなく、生存に関わる領域についても、デンマーク人の自身の評価は高い。

 

・ 「家」の満足度: あなたは、「いま住んでいる家」について、どの程度満足していますか。 (本文p233より)

 

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島原所長が説明会で語っていた言葉が、この図を実に適切に言い表していると思います。

「お金がなくても不幸にならない(住まいへの満足度が下がらない)が、お金があればもっと幸せになるのがデンマーク。お金があっても幸せにならない(住まいへの満足度が上がらない)が、お金がないと不幸になるのが日本。」

 

こちらは本文からの引用です。

少し想像してみて欲しい。あなたがいくら自分で努力した結果で手に入れた経済力で、最高に贅沢で美味しい料理を食べられるとしても、隣のテーブルに飢餓に苦しむ貧しい 子供がいたとすれば、そのひもじい視線の中であなたはその料理を美味しく食べることができるだろうか。その子供をハエのように追い払って、何食わぬ顔で食事を楽しむことができるだろうか。少なくとも、不運は誰にでも起こりうる。一つ歯車が狂えば自分もあちら側に座っていたかもしれない、という私たちの幸福の脆さには自覚的であるほうがいい。

 

デンマークには、いろいろなタイプの住居があるのだが、いわゆる公共住宅に近いものではある程度恣意的的にさまざまなタイプの住民が同じ地区・建物内で暮らすようにデザインされています。このあたりは、p151から始まる菊地マリエさんの「幸福度No.1の国の「幸せ」と「家」」でも解説されているので、ぜひ読んでみてください。

そして、こちらは『リュッケ 人生を豊かにする「6つの宝物」』という別の本からですが、バーニー・サンダースの「デンマークの自由という言葉の意味」を引用します:

かの国では、経済不安からくる人々の不安を解消するために、多大な努力をしてきた。少数の者が巨大な富をにぎれるような制度を推し進めるのではなく、子どもからお年寄り、障害者も含めて、すべての人に安定した最低生活水準を保証する制度をつくったのだ

 

■ 本の中の気になる言葉たち

 

われわれ取材チームの現地取材を案内してくれた、デンマーク生まれでデンマーク育ちの日本人、岡村 彩さんによれば、ヒュッゲは日本人の女の子が使う「かわいい」くらいに活用範囲が広く、またその明確な定義は困難なのだという。(本文p17)

 

デンマークでは「個人と社会が地続きである」ということだ。その根底には民主主義教育がある。といっても、そもそもの民主主義の捉え方が日本と少し違っている。デンマークにおける民主主義とは、徹底的に自分にとって何が心地よい状態なのかを中心に物事を考え議論し、みんなでベストな解をつくりだすプロセスだ。A、B、C から多数決で選ぶのではなく、全部を議論し比較して、新たなDをつくる。平等とは、丸いピザを均等に割るのではなく、とてもお腹が減っているAさんが大きなピース、食が細いBさんは小さなピースと必要な分を議論しながら公平なポイントを見つけるのがデンマーク流。なんだかとても人間的な民主主義なのだ。グループワークを多用し、教育の場でその精神が養われるという。「心地よさ」を追求する個人の総体が、そのまま社会になっている (本文p151)

 

家と幸福度の関係について尋ねると、まっさきに「暖かさ」をあげた。蒔田さんの視点で面白かったのが、断熱性能が高いデンマークの家の方が、より「自由」になれる、という言葉だった。誰でも経験があると思う。寒くて布団から出られない朝、ぬくぬくのコタツから出るのに必要な勇気、試練のような脱衣場…。蒔田さんは言う、「暖かいと活動的になるんですよね。何にも縛られず。可動域が制限されないというか」。 (本文p157)

 

私は住宅がどのように幸福度に「影響を与えているのか」を探っていた。しかし、デンマークでは、住宅 や住宅政策が市民の生活に影響するのではない。その逆で、先に人間がいる。各々が心 地よく幸せであるために、住宅を使っている。そういう順番なのだ。彼らにとっては、社会と同じく、住まいも所与のものではない。自らが関わることで、望むように「つくりだせるものだ」と考えている。私の問い方自体が、 住宅に対して受動的な日本人的想定だったことを思い知らされた。 (本文p170)

 

■ 私個人の「住まい」に関する考えと現状

私は昔から「絶対に賃貸」主義です。それは、家を持つということが自分のフットワークを重くしてしまうだろうと思っているから。

例えば「来週からコペンハーゲンで1年暮らせます」ってチャンスがなんかの弾みで突然やってきたとき、家を所有していたり支払いのローンを持っていたらきっと決断スピードは遅くなり、やるべきことの多さに少し躊躇してしまうでしょう。そういう自分でいたくない。

 

そんなわけで、現在も賃貸のUR物件で暮らしています。なお、URなのは引っ越したいと思ったらすぐに引っ越せるから。「2カ月前までに申告すること」とか「2年ごとの更新料」とか、そういうこと気にしたくありません。

細かいデータは忘れてしまいましたが、たしかこのマンモスUR団地は住人の4割ほどが高齢者(年金)世帯で、3割ほどが外国人です。引っ越してきてそろそろ1年半ですが、去年は中心にある公園で夏祭りが開かれ、インド、中国・台湾、韓国、ベトナムなどのさまざまな料理の屋台が出ていました。

 

そしてそんな団地の中、私は近所の人とほとんど何もやりとりをしません。廊下やエレベーターで顔を合わせれば挨拶をする程度で、誰かを訪ねることはおろか、話をするために足を止めることもほぼゼロです。

でも、数カ月前から少しだけ意識していることがあって。それは、できるだけ、近所の公園やベンチなどの公共スペースを使っている人たちに笑顔を向けることです。

「ウェルカム。ポジティブな気持ちで同じ場所にいますよ」というサインをひっそりと送ること。

 

公共スペースって、それが活用されていないときっとどんどん廃れてしまいますよね。そんなことがないように、そこを使っている人たちが気持ちよく使い続けられるように、そして誰もがホッとできる場所が身近にあり続けるように、消極的だけど私なりの公共スペースとそれを活かしてくれている人びとへの賛同を示しているつもりです。

…と、これは半年ほど前に『マイパブリックとグランドレベル 今日からはじめるまちづくり』というグランドレベル代表の田中元子さんの本を読み、感銘を受けてから意識していることだったりします。こちらも少し引用します:

笑顔や会話も大事だけれど、ひとりで物思いに耽るひとも、悲しい気持ちのひとも、金持ちも貧乏人も、老いも若きも、すべてのひとのすべての状態を受け止められる場所こそが、本来の公園の姿なのだ。

 

偶然にも今度の月曜日には、田中元子さんがお話しされるイベントに参加予定。なんとステキなタイミング!

Happy Collaboration!

コラボレーション・エナジャイザー

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